『WEB MAGAZINE 朱紺番』 2012/12
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観戦記『ラストゲーム ~歩み続けたその先に~』
投稿日時:2012/12/24(月) 02:23
夢半ば―。藤原組の戦いが幕を閉じた。チームを率いた主将と主務の、試合を終えた直後の、胸中はいかなるものだったか。
■観戦記『ラストゲーム ~歩み続けたその先に~』
思いを再認識し、高めた瞬間だった。今年の夏を迎える直前のこと。春シーズンを終え、チームの幹部たちは総会への出席そしてOBたちへ報告と挨拶を兼ねて東京へ出向いた。3日間設けられたうちの初日、藤原慎介(商4)と越智慶(人4)はその日の訪問を済まし、時間を余らしていた。ならば、と。数多くの競技場を構える神宮の杜を2人で歩いた。秩父宮ラグビー場から北へ行く。目掛けたのは、国立競技場。
時刻は16時を回っていた。あわよくばスタジアム内に入らせてもらえるかも。せっかくの機会だからと胸を躍らせ、警備員に掛け合うが時間の関係上で拒否される。
残念な気持ちに苛まれながら、2人は笑い飛ばした。「どうせ、また来んねんから!」と。
彼らが目指す頂、そこに辿りつくまでの過程で、着くべきときにその舞台は用意されている。そこに至るまでの道のりを、この日歩いた足跡に重ねて、思いを募らせた。
あれから半年が経っていた。その道のりは、長くも短くも感じられた。強化合宿のメッカ・菅平、聖地・花園でのリーグ戦、初の大会開催となった京都。幾多の試合を重ね、喜怒哀楽の感情を共有しながらチームは歩みを進めた。しかし、道は潰えた。
12月16日、全国大学選手権セカンドステージ第2戦。初戦に続き、法政大に敗北したことでブロック戦敗退が決まった。あのとき抱いた夢は、どうやっても叶えることはもう出来ない。総当り戦のため残り1試合を残して、主将・藤原は複雑な気持ちにかられた。
「今週の初めの方はですね…。どういう気持ちで臨もうか、って。
でも、自分たちのやってきたことを試せる期間を頂ける。そのことに、ありがたく思って」
結果如何ではなく、最後と決まっている試合。これまで経験してきたトーナメントとは異なる感覚。けれども、だからこそ覚悟を決めるのみだった。最後の敵は、関東大学対抗戦王者の筑波大。これ以上ない、強敵。
「せっかくもう1試合ある。思いっきり関学ラグビーを見せたくて。真っ向勝負して」
12月23日、花園ラグビー場で行なわれたのは明らかに格上との対戦。だが、そこに胸を借りるといった挑戦者の気概はなく、ただ一つのチームとして藤原組は真っ向から立ち向かっていった。
それは、火花が散った一番初めの衝撃で理解しえたのではないだろうか。試合開始のホイッスルから1分。ボールを持ったスカイブルーのジャージの選手が、速く激しく、朱紺の闘士たちの防御網を破った。
それからの80分間フィールドで繰り広げられたのはテープをリピート再生しているかのシーンだった。ステップに翻弄され、タックルも弾き飛ばされる。チームも攻め手に欠いていたわけではない。攻撃に転じた場面もあった。それでも、ブレイクダウン(ボール争奪局面)になれば、絡まれボールを奪われる。敵陣で過ごす時間は少なく、ゴールが遠かった。
「強かったです。こちらが受けてしまった。ディフェンスの枚数揃えていても、振り切られて…良いアタックしてきてると。
自分たちも組織でのディフェンスは問題なかったが、タックルが甘く入っていたりして個々が原因でやられた」
後半、チーム内で修正を施し、メンバーチェンジを交えながらテンポの良いアタックを仕掛けていく。試合も終了間際に、この日唯一ともいえる敵陣深くへと攻め込んだが、インゴールを割ることはなかった。
「点差も開いて…逆転が無理と感じるようになってからは、この1年間のことを思い出してました」
グラウンド横のベンチから常にチームを見つめてきた主務・越智はそう告白した。この1年間…スタッフとして走ってきた。試合のメンバーたちは鍛え上げたフィットネスから〝走って〟いる。やはり、プレーしたい思いがあったという。ただ、その思いを知ってくれた上で戦う仲間たちが目の前にいた。
「同期がみんな良かった。この同期やから、自分は主務をやれると言えたな、と。自分がラグビーしたい、とずっと言ってたんで…。オレのぶんまでやってくれると信じる、って試合出るメンバーたちには言いました」
主務含め、部員たちの思いを背負いプレーヤーたちは走った。最後、ノーサイドの瞬間が訪れるまで。ようやくのところ敵陣でパス回しを展開していたが、インターセプトされ、独走トライを許す。最後まで一矢報いることが出来ずに、試合終了のホイッスルが鳴り響いた。
試合後の整列。自軍のベンチ前でスタンドに向かって一礼をする。この1年で最も深く長い、お辞儀。顔を上げたときには、目から涙がこぼれていた。ベンチへ引き上げ、グラウンドへ再度一礼する。グラウンドで過ごす、最後の時間が流れる。
越智も、仲間たちに感謝の意を述べながら、手を取り抱き合った。
「同期の全員が、思いに応えてくれた。それはもう、エエんかな!?って言えるくらいにです」
「先週、試合終わって本当に悔しくて、涙も出てきた。色々と考えることもあったけど、今週があることに感謝して。支えてくれた人たちの為に、良いゲームしたいなと」
あらためて主将は、この試合に懸けた思いを語った。目標が果たせなかったことへの涙は、とうに出ていた。藤原組だけに用意されたラストゲーム。そこで実感したものは、普段から思っていることだった。
強敵・筑波大相手にも組織でのディフェンスは遺憾なく発揮された。それはシーズン通して磨いてきたもの。
「組織面で悪くて抜かれたのは、シーズン通して少なかった。ディフェンスには、自信持っていけると。点数取られてしまったですけどね…」
悔しさをにじませながらも、そしてチームを振り返る。「良い奴らばっかりで(笑)。明るく、声出て…声出してるときが、やっぱり関学らしい。元気良く、ね。それはこれから先の関学ラグビー部のなかでも変わらない部分だと思います」
悔いがないかと聞かれれば、無いとは言えない。それが正直な胸中。結果は自分たちの望んだものでなかった以上、それは消えることはないだろう。
それでも、自分たちの信じてきたラグビーが通用した手応えはある。「本当にね…慶應も法政も勝てた試合だったんです。国立、ベスト4も高い壁ではないと。この悔しさを後輩たちが結果として形にしてくれたら嬉しいですね」
次のシーズンはやってくる。そこで繰り出されるラグビーが、たとえ今のラグビーと違えても構わない。チーム最後の全体集合で、藤原組の主将はそう言い放った。
あのとき歩いた夢舞台への道のりは、12月23日のこの日、後輩たちへと託された。■(記事=朱紺番 坂口功将)
春山悠太『RIDE ON TIME』
投稿日時:2012/12/22(土) 02:14
中心的存在から、チームの真の中心に。いま春山悠太(文4)がSOに就いている。それは藤原組のラグビーを完成させる為の、最後のてこ入れ。彼こそが、『カンガクウェイ』の申し子だ。
■春山悠太『RIDE ON TIME』
その場内アナウンスに、ほんの少しだが違和感を感じた。
「安部君に代わりまして、水野君が入ります」
その試合後のインタビューで、春山はおおっぴら気に言った。
「あ、僕、SOやってるんスよ!」
なるほど、違和感の正体はこれだったか。あのとき、SO安部都兼(経4)に変わって投入されたのはCTB水野俊輝(人2)。水野がCTBのポジションに入ったならば―おのずと答えは導かれる。11月10日の京産大戦、終盤の10分間強。ピッチには新司令塔が君臨していたのである。
「キック蹴らんようになってから、僕がSOやるようになった」
きっかけは、チームとしての方向性をシフトチェンジしたことにあるだろう。実のところ、この京産大戦の2週間ほど前からSOとして試されていた。実戦は、その前節の摂南大戦で。ほんのわずかだったが10番のポジションでプレーをした。
ちょうどその時期は、リーグ戦においてチームが、自分たちのスタイルを取り戻そうとしていた時期と重なる。当初は、相手に応じる形で陣地獲得に重きを置いていたが、春先から培ってきた強みを活かした戦術へと変えた、いや戻した。実現されていく『カンガクウェイ』の黎明期に、その重要なピースとして春山のコンバートが成されたのだ。当の本人は、その狙いをこう汲んでいた。
「あくまで僕の想像なんですけど…たぶんアンガスさん(マコーミックHC)はリザーブはインパクトプレーヤーを考えていると思うんです。俊輝だったり、中野(涼=1=)だったり。アタックセンスが抜群のプレーヤーを」
磨いたフィットネスから攻守ともに走り上げるラグビー。それこそが、チームが導き出した答え。ディフェンスはシーズンを通して構築されてきた。ここに加えるはオフェンスシブなファクター。春山がSOに就けば、CTBには水野―松延泰樹(商4)の2人が並ぶことになる。
「俊輝、ノブの俊足CTBは仕掛けていくタイプ。アタック型なプレーが必要と捉えて、やらせてもらっている」
もとより攻撃力の高さを十分に備えているBK陣だ。その彼らを〝活かす〟側にとっては、これ以上にない力強き存在。むろん、それゆえのプレッシャーも伴うわけであるが。春山はポジションが変わったことで、そのことを改めて実感したという。
「バックスリーと、ノブの凄さを感じました。こいつらを活かさなあかん思いが」
CTBとして自らのレベルアップを図るために、何よりもチームへの貢献として、かねてより春山自身は、周りを〝活かす〟プレーを念頭に置いてきた。自らに足りないピースであると自覚しながら、己を磨く日々。そして、4年目で迎えた最後のリーグ戦において、おあつらえ向きの機会を得たのである。
3年生次の春から夏にかけて、このポジションに就いたことはあった。だが、選手人生の大半はCTBで過ごしてきており、SOは「無いに近い状態」。今回コンバートを経て、そのポジションの苦労を知った。京産大戦後に春山は語った。
「(CTBに比べて)SOの方が動かないとだめ。いまやってみてSOの気持ち分かるんで…安部に『こうしてくれ』と要求してたりしたけど、ほんまにしんどくて余裕ないんやと初めて分かった。これまで安部に負担かけてたんやなって。軽くしてあげたい、もっと助けないと、すごいそういう気持ちがいま強いです」
そのときはまだCTBだったこともあり、〝活かす〟意識はさらなる責任感へと昇華された。
そして、その1週間後の11月25日のリーグ最終戦、近大との最終戦で『10』番での出場を告げられる。
「SOでいく可能性あることは知っていたんですけど、スタートからとは知らなかった。びっくりしましたね。
攻撃的な形になる…その可能性高いかなと」
その読みどおり、チームは『カンガクウェイ』なる「走力×防御+攻撃力」のラグビーの実現を目指していく。鍛え上げたフィットネスをベースに人もボールも縦横無尽に動く。それにつれ必然的にSOとして、ボールを触る回数は格段に増えた。そうして80分間のプレーを通じて、春山のなかに司令塔としての矜持が芽生えていた。自分たちのラグビーを存分に発揮し勝利できた喜びもあってか、晴れやかな表情でプレーを振り返った。
「すごい楽しい。意識してた、まわりを活かす意識ですね…SOって人を動かして当たり前。動かしてナンボのポジションなんで。
試合は難しいとこもありますけど、僕自身はしっかり果敢に。しんどいなかでもSOとして攻めていけたと。良い点数はあげられないスけど、自分がなぜSOをやっているのか、その意識は感じられてきました」
春山のSO転身。それは彼自身にとっても、チームにとっても原点に帰る為の一手でもあった。人とボールが動くラグビー、そしてそれを実現すべく周囲を連動させることの出来るプレーヤーを、と。
リーグ戦7試合を通じて自分たちのスタイルを形作ったのと同じくして、運命の巡り合わせは成された。
「楽しいスね…。この時期に新しいチャレンジをさせてもらえる。楽しいです」
1試合とわずかながらもプレー経験を得て、SOというポジションへの理解も深まりつつあった。リーグ戦を乗り切り、春山は胸中を明かしていた。
「自信はあまりないですけど…もっと勉強して、考えて。アンガスさんの見る目は間違ってない、と。出来ないなら、やらせてもらえないと思うんです。そこは誇りを持って。
SOと周りの連携ですね。こうして欲しい、ああして欲しいと思える部分が、SOになって初めて気づいたことで。
活かされていたCTBのときの自分と重なります。(-仮にいまCTBに戻ったら?)もっともっとプレーの幅が広がると。SOでの修行を積んでからですけど」
この上ない経験値の獲得が、一人のラガーマンとしてのさらなる成長をもたらしていた。
チームの中心的存在だった男は、こうして今まさにチームの中心となってフィールドを駆け回っている。それはすなわち、良くも悪くも命運を託されていることを意味する。
けれども、部内での役割はこれまでと何ら変わりない。ゲームにおける責任感は確かに増えるが、それ以外の部分。チームのムードメーカーとしての一面。
練習終わり、試合終わり、チームが一堂に会する集合の場面では誰よりも声を張り上げ、雰囲気を明るくさせる。
こんな場面も。大逆転劇を見せた京産大戦で、試合の流れを掌握した藤原組がいけいけムードに乗るなか、春山は相手をさらに突き放すトライを最後に決めた。沸きあがる歓声とともに、応援スタンドからはキャッチーなメロディーに「春山悠太」を絡めたコールが飛んだ。当の本人は、笑顔をはじけさせる。あのメロディーは。
「MAX(沖縄出身のダンスグループ)の『Ride on time』を僕がずっと歌ってたんです(笑)去年とか、良いプレーしたら、コールやってくれて。今年あまり派手なプレーが出来てず…(コール)してないな、って話になって。CTBの後輩たちも『今週やろう』と言ってくれてた。
今シーズン、初めてですね。嬉しかったです。もっと聞けるように頑張ります!」
『Ride on time』。直訳すれば、「時の流れに乗れ」。チームを上昇気流に乗せるのは司令塔の役目、加えてムードメーカーの春山悠太だからこそ、よりいっそうチーム全体が躍動する。
この夏、「選手を活かす存在になりたい」と意気込んだラガーマンは、なるべくしてチームの心臓部となった。SOへのコンバート。そうして挑んだ全国大学選手権の舞台では思うような結果が出ず、その敗戦を一身に受けるかのように表情に影を落とした。
しかし、いまのチームはもはや彼の存在なくして、自分たちのラグビーを実現できるに至らない。そう断言できる。藤原組にとってラストゲームとなる今週末の筑波大戦。見る者は、彼にこの試合でもチームの原動力となるプレーを望む。春山悠太、その人の最上のパフォーマンスを網膜に焼き付けよ。■(記事=朱紺番 坂口功将)
観戦記『非情なる黒星 ~法政大戦~』
投稿日時:2012/12/18(火) 03:03
■観戦記『非情なる黒星 ~法政大戦~』
「厳しい状況には変わりないですけど」と付け加えることは忘れなかったが。主将・藤原慎介(商4)は、大学選手権の初戦を経て、新しくなった大会形式に言及した。
「勝ってたらプール戦いらんやん、とね。次がベスト4を決める試合になるわけですから。ただ初戦で負けても次があるというのは、プール戦でも良かったのかなと。チャンスがちょっとでも増えたのはありがたい」
今年から採用されたプール戦(全4各ブロック4校による総当り戦)の恩恵。これまでのトーナメント制ならば、たった一回のノックアウトが終戦を意味していた。それが今年は、他3校との星取表の兼ね合いはもちろんのことだが、たとえ一敗してもそれで道が潰えることには、ほぼ直結はしない。そもそも3試合は決められている。初戦の慶大に黒星を喫した藤原組にとっては、限りなく苦境に立たされたものだったが、目指す頂への可能性が0になったわけではなかった。
選手権セカンドステージ第2戦を2日後に控えたグラウンド。練習を終え、主将は声を弾ませた。
「正直…今までと違って切り替えて。4回生とも話しして、4回生がしっかりせなあかん、今こそ力の見せ所かな、と。今日も良い練習出来ました。最近で一番、練習の最初から集中出来ていました」
慶大戦で露呈した課題に向き合い、気持ちを落とすことなくチームは踏ん張り、前を向いていた。課題とは「ミスを減らすこと」と「精度を上げること」。一見、表裏一体のものに捉えられるが、それぞれシチュエーションによって異なる。先の慶大戦を思い返す。ディフェンス面、「自陣でミスをしてしまい、相手にトライを取りきられてしまった」。転じてアタックでは「取りきれず。精度の高さを保っていけば良いゲーム出来ると」。負けはした、だが確かな手応えがあったのは事実である。
「ゲーム開始早々トライ取られたけど、アタックしてても負けてる雰囲気なくて。だから負けて余計に悔しかった。試合終わってみて、予想以上に通用したという実感が。ミス、精度の低さが無ければ関東の大学相手でも勝てる」
主将の胸中に芽生えた実感と確信。それがあるからこそ、この一週間、練習時には集中力を求めた。そして、チームはそれに応えた。「一つひとつのパスだったり、ミス少なくて、声を出してやってくれている。一人ひとりが集中してくれています」
関東勢にも自分たちのラグビーは通用する。第2戦の相手となる法政大に対しても「強いチームですし、けど勝てない相手だとは全く思わない」と見据えていた。必要なのは、ミスなく精度を上げること。主将は意気込んだ。
「勝てますよ、絶対。勝ちますよ!」
課題は克服されていたか。舞台は博多、レベルファイブスタジアム。選手権では実に4年ぶりとなる法政大との一戦。朱紺の闘士たちは序盤から敵陣でプレーを展開していく。だが、フィニッシュへと至ることがない。相手のプレッシャーもあれど、ノックオンでボールを献上。順目へボールを行き渡らせようとするも、選手間の呼吸が合わず、楕円球は見当違いにグラウンドを転々とする。注視するからに余計ではあるが、それでもミスは目立った。ようやく結ばれたのはゲーム自体が動いたシーン。前半16分、自陣でのターンオーバーからCTB水野俊輝(人2)が相手ディフェンスを揺さぶりながらゲイン。最後は外側で併走していたCTB松延泰樹(商4)へパスを出し、松延が悠々と独走トライを決めた。アタッキングなCTBコンビもこれで3試合目。チームが求める攻撃的要素をトライという形に仕上げる。前半24分、追加点も同じく水野が防御網を激しく破り最後は松延につなげたものだった。
攻める場面でのミスは、次第に減っていった。しかし、もう一つの課題こそが、敵につけ込ませる部分となる。先制点の直後、PGで反撃を許す。そして前半残り10分の場面、自陣でペナルティを犯すと、そこからすぐさまリスタートを切った相手に、防御の整備もままならずトライを許す。強みのディフェンスも、精度が伴わなければ、意味を成さない。そうして前半終了間際の攻防。ターンオーバー合戦で攻守が入れ替わり立ち代わる。フィニッシュへとつなげたのは、法政大だった。
最悪なタイミングで喫した逆転。しかし、それでもなお、この時点でチームに影が落ちることはなかった。ハーフタイムの様子を主将は述懐する。
「気持ち落ちる様子も無くて、後半の最初から気持ち作って、と。ハーフタイムで、まだまだ走れるという顔をチームはしてて。またギアを上げて、近大戦みたいな後半にしようと」
実のところは、自分たちの手で、己の首を絞めていた。前半40分間は、そういった展開だった。かといって、そのことで闘志が揺らぐことなどなかった。フィットネスを軸とした『カンガクウェイ』、そのウェイ=道を突き進むだけのことだ。
後半から意識したのは、ボールを奪ってからトライへ至るまでのイメージ。一度ボールを持てば、幾ら細かくても丁寧に刻んでゴールへ迫ろう、と。
後半4分、相手のパントからボールを獲ると、そこから反撃に転じる。前に出て、ポイントを作って、外へ。その反復。とにかく細かく。ラックを生じさせてでもキープし前進するもの。リスクを減らし丁寧にボールをつないでいくという意図だとすれば、これ以上に確実な方法はないだろう。そして後半の10分間で、ターンオーバーからの得点パターンで2トライを上げ、リードを奪い返したのである。
「自分たちのラグビーが出来れば、いけるということを再認識しました。フェイズを重ねてでもいいから、フェイズを重ねながら前に出て、と。理想とするラグビーが出来た」(藤原)
先の慶大戦から得た確信は、このとき果実として具現化されようとしていた。
しかし勝利の女神は目をつむるようなことはしなかった。彼女は相手よりも上手な者に惹かれ、反対に綻びある者を甘やかせることはない。
ブレイクダウンにおける反応の良さを持ってして、法政大に幾度とチャンスを奪われる。逆に、課題をカバーしきれないチームは後手に回りピンチを招く。後半15分、再度リードが入れ変わる。
自陣で過ごす時間が多くなってきた。ターンオーバーに成功すれば、それこそ自陣からじんわりと攻め上げ、ときに松延らのビックゲインでゴールへと猛進してみせたが。最後の最後で、インターセプトされ、振り出しに戻る。精度の低さが、決定力を縮減させた。
追い討ちをかけられたのは後半32分。自陣でのマイボールスクラムから、キックでの陣地挽回ではなく、ボールを回すことを選択した。SO春山悠太(文4)が周りの動きを見て、キックパスを繰り出す。頭上から舞い降りてくる楕円球を目掛けて松延が飛ぶ。が、しかしボールは相手の手に。そのまま追加点を許した。
残り時間は5分を切っている。スタンドからは、振り絞られた声援が飛ぶ。10点差、とにかく前へ、と。相手のペナルティもあって、敵陣へ。だが、ここでも自分たちのミスで自ら勢いを断つことになった。最後、HO浅井佑輝(商2)の追い上げトライもむなしく、29-34でゲームを終えた。
試合後、通常ならば記者会見の会場へそのまま足を運ぶのだが、藤原は意識なかったか。チームとともにいったんはグラウンドそばの室内練習場に戻り、ほおを濡らした。それから主務・越智慶(人4)に促されて、腰を上げた。
「全然負ける相手じゃなかった。自分たちのミスで首をしめることに。先週よりも、もったいなかった」と主将は口にした。
不甲斐なさが身に痛く染みたことだろう。勝てる試合をみすみす落としてしまったことへの自戒。けれども、それ以上に、自滅が最悪のシナリオを招いたことに気づいたときに、彼らの心は崩れた。選手権セカンドステージ、2敗目。チームが目指し続けた頂への道が完全に途絶えた瞬間だった。
記者会見、アフターマッチファンクションを終え、チームの全体集合。部員たちの前に立った主将は、ときおり言葉を詰まらせながら、思いを口にした。「勝てんくて申し訳なくて、、、ただ4年生にとって、もう一試合やらせてもらえるのが嬉しくて、、、(中略)まだお前らとラグビーしたいから。あと1週間、4年生は最後まで死ぬ気で頑張るから。1週間しかないけど、ついてきて欲しい。一緒に頑張って欲しい」
非情なる現実に打ちひしがれていた。夢が潰えたという事実。だが、もう一つの現実が確かにある。最後の戦いが残っているということ。
藤原組のラストゲーム。12月23日、筑波大戦。それは、この一年のなかで、もはや勝敗を問わない唯一の試合になる。そこで藤原組が成すべきことは、たった一つ。チーム最後の80分間で、自分たちのラグビーを出し尽くすこと。
「次で最後。それはもう分かってしまってるんで。どれだけ力を出せれるか。今週一週間、しっかり練習して臨みたい。
80分間走り切って、ターンオーバーからフェイズ重ねて、トライへつなげる。関学ラグビーを徹底したいです」
彼らのラグビーは日々、成長を遂げてきた。これまでの自分たちをさらに超える、〝OVER〟するラグビーを見せてくれると信じて。時は、終着へむけ刻まれる。■(記事=朱紺番 坂口功将)
竹村俊太/水野俊輝/中野涼『ハードワーク、ハードランニング』
投稿日時:2012/12/13(木) 22:56
■竹村俊太/水野俊輝/中野涼『ハードワーク、ハードランニング』
季節そのままのどんよりとした空の下、肌をつんざくような寒さを吹き飛ばすかのごとく、彼らは走っていた。古都で催された初の全国大学ラグビー選手権。西京極の地でも『カンガクウェイ』は健在だった。関東からの使者、黄色と黒色の縞模様。慶應義塾の虎が相手でも。
「全員走っていたと思います!」
グラウンドに立っていた者が皆、時を余すことなく動いていた。この日もスタメンで出場を果たしたCTB水野は断言した。ただ、こう続けた。
「こっちも走り込んでたんですけど、慶應も走力が落ちることがなかった」
彼自身は初めてのフル出場。80分間を戦った上で、相手を称えるしかなかった。
ゲームは早々と慶大が先制トライを上げて始まった。対する朱紺の闘士たちは、リーグ戦を経て完成されたスタイルを実践していく。ボールを持てば、屈強なFW陣は相手ディフェンスに真っ向からぶち当たっていき起点となる。一斉に動き出すBK陣は流れるようなパスワークとドライブでフィールドを駆け回る。それらはテンポの良さも相まってか、リーグ戦で見せたそれよりも磨きがかかって見えた。全国の舞台でも、確かに通用していた。
そのなかでCTB水野は、猛然と突き進んだ。BKでありながらFWのごとく。敵とのクラッシュもお構いなしにボールを運んだ。持ち味のアタック力は存分に発揮されていた。
「前の週、近大戦でスタメンで出れて。アタック面で起用されてもらっていると。ディフェンスももちろんですけど。アタック、好きですね」
今年、攻撃的なプレーヤーとして見初められた一人。春シーズン、大型バックスリー(松延泰樹、金尚浩、高陽日)に比べて、一見すれば小柄な体格だが、攻撃的プレーは引けを取らず光っていた。その台等は、不動のCTBだった春山悠太(文4)に「良いプレーしてるし、(レギュラー争いの)危機感は僕も持っている」とまで言わしめたほどだった。
シーズンは深まり、リーグ戦。CTBには春山―松延泰樹(商4)が名を連ね、水野はリザーブとしてAチーム入りを果たした。それは、やはり攻撃的なカードとしての選出。『カンガクウェイ』が構築されていくなかでSOへとコンバートした春山は、〝活かす〟側として、水野投入の意図をそう汲んでいた。果たしてスタメンとして初出場した近大戦においても春山は「俊輝は十分良いプレーしてくれた」と称えていた。
〝活かす〟側と〝活かされる〟側のコンビネーションも、チームの充実とともに高まってきている。いまやスタメンに立つ水野は話す。
「悠太さんがSOになって…けっこう自分からいくタイプなので、攻撃的なBKになっていると。悠太さんが自分でいくやろうなという場面で、裏でボールを出すシーンが。今日(慶大戦)も裏取れましたし、2枚目のサポートでゲインにつなげられたらと」
春山がボールを運ぶ。それに伴って、連なるように後ろをカバーする。「サポート、2枚目の速さをチームから言われているので」。積極的に仕掛けていくSOに乗じて、若きCTBも加速していく。
走り勝つラグビー、それが『カンガクウェイ』。リーグ最終戦で見せた爆発的なオフェンス力が目を引きがちだが、もっとも前提にあるのはフィッネスであり、そしてディフェンス力であることに変わりは無い。春からまずはディフェンス力を徹底的に強化していくなかで、そこにはまったのがLO竹村俊太(人2)だ。自らの強みを「ディフェンス」と言い切る男。攻撃に転じるまでの過程、防御において彼は奔走する。
今季、層厚き関学ラグビー部においてまさに不動、絶対的な安定感のもとシーズンを過ごしている。だが、当の本人は「周りが言うほど、自分で安定していると思ってないんです」と微笑む。ならば、トップチームで居続ける秘訣とは。「自分の強みを出そうかなと。いつもどおりに100パーセントのプレーをしようと」心がけているのみなのだという。「調子に波あるし、ミスするときはあるし」とこぼすが、常に全力プレーという姿勢の結果として今日に至っているのである。
ポジション柄もあってか、とりわけ目立つ立ち位置ではない。だが、その運動量・走力は特筆すべきだろう。やはりはディフェンス面で彼は、とにかく走る。相手が陣地挽回でボールを蹴ろうものなら、チャージを狙い、飛びかかる。ボールを運ぶ相手にはゲインを許すまいとタックルをかます。慶大相手にも、そのプレーは幾度と炸裂した。
そしてディフェンスはいつもの通りだったが、この日のハイライトを竹村は飾ることにもなった。前半も残り10分を切りリードを許していた場面。敵陣でプレーを展開しゴールへと迫る。竹村がライン際へトライ、だが直前の慶大のペナルティで無効に。マイボールのラインアウトを獲得し、FWでのトライを狙う。モールを組みインゴールへ。ゴールエリアに到達し、竹村が〝決め直し〟のトライを上げた。
「FW全員のトライ。関西リーグでモールでのトライは無くて。選手権で慶應相手に取れたのはFWにとって自信になったと思います」
前半を同点で締めた、よもやの得点。「BK陣にきれいなボールを出すのが試合での役目。僕はトライ取れなくてもいいんですけど…。今日取れたのはラッキーでした」と笑みを浮かべた。
派手なプレーでは無いかもしれない。しかしゲームの立役者、さもすれば彼が起点となっていることも少なくないだろう。
「ターンオーバー取っていきたいですね。フィットネスは春からやってきたことでもあるので強みとして。(-とにかく走って、と?)そういう感じです」
全力プレーが生み出すハードワークこそが、彼の真骨頂である。
一進一退の攻防が繰り広げられた一戦。関学がついにリードを奪ったシーンはスクラム(FWの見せ場!)から外へ展開しての、WTB畑中啓吾(商3)のフィニッシュと、理想ともいえる形だった。『カンガクウェイ』は通用していた。だが、前述の水野の台詞のとおり、相手も走力に関して衰えなかったという現実が立ちはだかった。
「後半、差が出た。後半2本目に許したトライが。19-17ならPGでも逆転できたが、取られたことで焦って。そこから関学のリズムが崩れた」
そう振り返ったのはFB中野涼(文1)。ルーキーイヤーでレギュラー入りを果たした新鋭。選手権でもスタメンに抜擢された。
リーグ戦デビューは11月3日の摂南大戦。Aチーム選出には「びっくりした」と話すが、ゲーム本番では緊張などおくびにも出さず、はつらつとしたプレーを見せた。「ボールを持ったら走ること。FBとして自分から前に」出ることを心がけ、最後方から押し迫る。
慶大戦でも、相手が蹴り上げたボールを捕球するや、前へ。ステップを刻みながら、ゲインを図る場面が見られた。その切れ味は抜群。なるほど、出身は東福岡高校。同校出身者が持つラグビーセンスの光るプレーは見る者をうならせる。しかし本人はこの日の自身のパフォーマンスには納得にいかなかった様子。敗戦の胸中もあっただろう。「全然ですね。自分はまだプレーが軽いんで。ボールのキープが出来てなかった」
FBとして後ろからチームを見渡して。「ディフェンスもアタックでも、しっかりと走れてて。良い感じでいけてるかなと。ただ自分たちのミスから取られたんで。気分的にも、次取り返さないと負けてしまうという雰囲気になった」
後半27分、慶大のターンオーバーからそのまま逆転トライを許してしまった。チーム内の焦りは、防御網にほころびを生む。それを見逃さなかった虎は追い討ちをかけるように牙をむき、試合は17-29でノーサイドを迎えた。
悔しさをにじませながら、中野は次の戦いにむけ、プレースタイルさながら前を向く。
「自分はランニング、ボールを持って走ってトライにつなげるのが持ち味。カウンターも最初から強気に仕掛けて、会場を沸かしたい。自分らしいプレーを!」
ルーキーFBが、華麗なステップと勝ちん気の走力で、これからチームを押し上げていく。
ブロックに分けられ、総当り形式となった全国大学選手権。計3試合の初陣を藤原組は落とした。竹村は初戦の勝敗を分けたものをこう語る。
「取り切る力。慶應はここってチャンスで取ってた。関学もチャンスあったが取り切れず。慶應相手に夏に比べたら全然やれることは多くて。自分たちのやれたことは出せた。ただ精度が悪くてトライにつなげれなかった」
確かな手応えは自分たちのなかにある。あとは、細かな部分。一つひとつは小さい、しかし結果を左右する大きなもの。全国の舞台で勝利を掴むために必要なものは明確になった。それを踏まえ竹村は意気込む。「残り試合、勝たないといけない。勝ちにこだわるラグビーを。自分たちのラグビーが出来たら結果は出てくると思うので。チャンスを取り切ることと、精度を上げて(次の試合に)臨みたいです」
水野はファーストジャージへの思いを胸に代表戦へ繰り出す。関学高等部の出身とあって朱紺のジャージへの思いは特別。憧れのユニフォームをまとい「残りの試合数は少ないけど、勝利目指して頑張りたいです!」
次節は福岡、レベルファイブスタジアムで法政大との対戦が決まっている。生まれも育ちも九州の中野は地元での活躍を誓った。「楽しみですね。慶應に勝てなかったぶん、次の関東勢相手にも勝っておかないといけないですし」。地元で観衆を沸かすことが出来れば、このうえない帰省になるだろう。
フィールドに立つメンバー全員が奏でる『カンガクウェイ』と、その演〝走〟家たち。ある者はオフェンスシブに、ある者はディフェンスシブに、そしてある者はテクニカルに。各々が自分たちの持ち味を発揮して、走り上げる。その先にある勝利を目指して、彼らの脚が止まることはない。■(記事=朱紺番 坂口功将)
重田翔太『臨戦態勢、完了』
投稿日時:2012/12/09(日) 03:22
今か今かと待ちわびていた。けれども、いつまでも出番は来ない。この苦悩は彼にしか分かりえないのではないだろうか。重田翔太(人4)、葛藤から解放されたいま、スタンバイは整っている。
■重田翔太『臨戦態勢、完了』
諦めに似た気持ちが、彼の胸に忍び寄っていた。実に4試合分のフラストレーション。加えるならば5試合目のほとんども。おおよその合計390分もの間、彼はピッチに立つことなくグラウンドの横で試合を眺めていた。
「チャンスあるよ、あるよ、と言われて、無い。それが4試合続いて…このまま出番無いんちゃうなか、って」
大型バックローとして存在感を放ってきた重田。3年生次からトップチーム入りを果たすようになってきたが、それでも今年はリザーブでの出場が多く。「モチベーション上げるのが、しんどくて」と漏らしながらも、そこは最終学年の意気込みがあった。「4回生として思い切りやるだけ」と心に留めていた。
むかえた最後のリーグ戦。レギュラー入りを果たす。開幕戦は「18」番、リザーブとして試合に挑んだ。だが、ここから葛藤の日々が始まる。初戦、第2戦、3戦、そして第4戦と。試合のメンバーに選ばれるも出番は一切訪れなかったのである。試合中は、それこそ「自分が出ることよりも、チームが勝って欲しいし、怪我なく良い形で勝てたら」と思ってはいたものの、プレーへの思いは募るばかり。リーグ戦も半分を経過し、周囲からは「今日こそは」と声をかけられたが、良しと思えない自身がそこにはいた。
ずばりは、腐りかけていた。本人もまわりの人間も、そのことを分かっていた。しかし腐って気持ちが切れてしまえば、それまでだ。ふつふつと、いやもう沸点に到達していたであろう闘志を発散させる為の―ただ出番が、チャンスが、欲しかった。そうしてリーグ第5戦、神戸で行なわれた摂南大との一戦。ようやく「重田翔太」の名前が、読み上げられた。
試合は残すところ10分を切っている。FL徳永祥尭(商2)に変わっての出場。それでも、ピッチに立てることが嬉しかった。
ベンチから腰を上げ、サイドラインへ向かう背番号「18」の姿に、声援が飛ぶ。みんな分かっているのだ、彼が〝初めて〟出場することを。
その興奮は、ゲームの快勝も手伝ってか、試合後も続いた。重田に声がかけられる。やっと出れたね、と。その祝福に、満面の笑みで応える重田。はちきれそうだった辛さから解放され、口元からのぞく白い歯が隠れることがない。
「とにかく出れて嬉しかった。10分間、積極的に。チームがディフェンスを中心にやっているなかで、自分はタックルをして…ボールを持ったら前に。少ない時間やったけど、やりきれました」
あふれんばかりの闘志はハッスルプレーも生んだ。それも自身を傷つけんばかりの。この試合で重田は相手に強烈タックルを見舞う際に、負傷している。痛みはあったと話すが、それらもアドレナリンと歓喜によってかき消されていたに違いない。そして、この日のゲーム後に彼は頼もしく、こう語っている。
「4回生パワーで、何とかなるっス!!」
一度のプレータイムを経て、明らかに変わっていた。続く11月10日の京産大戦、またしてもリザーブとしてのトップチーム選出。加えて、前半が終わってリードを許していたゲーム展開に「(出番)無いんやろうな…」と戦況を見つめていた。だが、この日は試合そのものへの入り方が違った。ゲーム前のアップから気合は十分、出場機会に期待を抱き準備に励んでいた。「張り切ってました」
そして後半開始してまもなく、FL竹村俊太(人2)の負傷に際して、お呼びがかかった。「次、シゲ!と呼ばれて、『よし、きたッ!』と。ホンマに嬉しかったです」
ダッシュでピッチのなかに駆け込む。意気揚々としていた。「負けてる状況で。チームが下向いているときこそ、自分が声を出して前向きに、と。そこまで下向いてなかったけど、熱くなってて。冷静になれてない部分があった。チームとして修正できたらな、と」
後半40分間、チームは京産大と打ち合いを演じる。勝利の女神を惑わす、モメンタムの往来。関学も後半10分に逆転に成功し、自らミスを犯しても取り返そうと攻め立てる。17分、ノックオンで相手のスクラムに。ここで関学が見せたのは、勢いを引き戻すこん身のスクラムホイール。途中出場のルーキー・安福明俊(教1)が、スタンドからの喝采を浴びながら、FW陣から手厚く称えられる。この場面、安福は振り返った。「自分が押したことになってるんですけど…。重田さんが後ろから押してくれたんで。スクラムで勝てたことは嬉しかったです」
ガタイを活かしたタックルやアタックは重田の持ち味。運動量の多さも、本人は得意気に話す。後半40分間の出場を果たし「走り回れて、自分のプレーが出来た」と。だが、それだけではない。セットプレーでも激しく冷静に動くことが出来るのだと、この日のワンプレーは物語っている。
辛さから解放され、重田自身の心持は変化した。初出場を果たしてからのリーグ戦後半ではスタメン獲りにも意欲的な発言を見せることもあった。悔しくも、リーグ戦が終わりそれは叶わなかったが、ピッチに立つ喜びを全身で味わった以上、それを次も求める。
全国選手権への壮行会での壇上。彼は宣言した。「次も『18』番を着れるように頑張ります」。自虐も皮肉も込められているだろう。しかし見方を変えれば、レギュラーに居続ける覚悟は出来ているということではないだろうか。
彼ならば、出場機会がどういう形でも闘志を全面に出してくれる。本人は思っているはず。監督、コーチ。戦う準備は出来ています。「重田翔太」の、オレの名を呼んでください―、と。■(記事=朱紺番 坂口功将)
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