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『WEB MAGAZINE 朱紺番』

金尚浩『奮いし闘走本能』

投稿日時:2013/11/26(火) 12:00

 たとえ、この身体が果てようとも。宿した闘志が、己を掻き立てる。だ円球を掴み取り、インゴールへ向かえと。最終戦にして、今リーグ初トライを挙げたWTB金尚浩(キム・サンホ=総政3=)。発揮されたパフォーマンスの背景にあった、熱き思いとは。

 

■金尚浩『奮いし闘走本能』

 


 

 後半も始まってまもない時間帯。チームで決めたテーマに従い、相手陣内へと押し上げるべく、SH徳田健太(商2)がボールを蹴り上げる。高く舞い上がったボールはやがて上昇を止め、静かに落下してくる。


 そのハイパントのシチュエーションを『自らの十八番』とするWTB金尚浩が、天に刺さるようにボールへ向かって飛び上がる。相手選手との競り合いのすえ、わずかの差でキャッチはならず。点々とボールは転がり、相手の元へ。悔しさ余ってか残念そうに、それでも金尚浩は笑みを浮かべていた。


 ハイパントキャッチなる空中戦は、それこそ彼にとって苦い記憶が伴うものでもある。主力選手としてむかえた3年目の今季、リーグ戦序盤に彼の姿はピッチに無かった。


 夏の菅平合宿での負傷離脱。悲劇は空中戦の果てに、身に降りかかったのであった。



 今年の8月27日。合宿のメッカ・菅平高原で設けられた練習試合を締めくくる一戦が、筑波大を相手に行なわれた。試合は開始早々から関東王者がトライを重ねる展開。金尚浩は、その瞬間を思い返す。


 「前半始まってすぐに3本トライを取られてチームもどんよりしているなかで、雰囲気を変えるようなプレーをしたいと。サインが出て、啓吾さん(畑中=WTB/商4=)が浅めに蹴って、自分が獲りにいくという。獲れたんですけど、空中で相手に当たった」


 ややもすれば、不安定な状態での衝突が生じる空中でのボールの奪い合い。長身を活かし、それを得意技とする金尚浩は、筑波大でのその場面で怪我を負ってしまう。立てないほどの痛みに襲われた。「今シーズンが終わった、、、」。これまで負傷したことのない箇所の怪我に、嫌な予感が脳裏をよぎったという。


 ただ、不幸中の幸いといえよう、下山してから受けた診断の結果、予感した最悪のケースは免れた。手術は不要、一ヶ月で復帰できる。そう医師から伝えられ、彼は胸をなでおろした。


 そこからはリハビリに当てる日々。一方で、チームはリーグ戦をむかえた。開幕戦に間に合うことは出来ず、チームの黒星をスタンドから眺めるしかなかった。


 「ふがいなかったです。ガンテ(金寛泰=PR/人福3=)とも外で見てて。チームはいつもの自分たちのプレーが出来てない、かといって、自分もフィールドにいないし」


 悔しさに苛まれながら、復帰へむけリハビリを続ける。リーグ戦も第2節を過ぎ、ようやく戦列へ戻る準備が整った。しかし、まだ痛みは抱えたまま。負傷した箇所をテーピングで固め、第3戦にて復帰を飾った。


 怪我の影響は確かにあった。思うように走れない。「トップギアに入らなくて。去年に比べたら、スピードは落ちている」。昨年は畑中とともに決定力十分の両WTBとして数々のトライシーンを彩った。今季は違った。以前なら振り切っていたはずが追いつかれる。パフォーマンスへのジレンマを抱きながら、それはリーグ戦のトライが0本という数字に表れていた。


 だが、このまま終わることはなかった。11月24日、関西大学Aリーグ第7節。近畿大とのリーグ最終戦で、彼は健在ぶりを見せつけたのである。



 開始8分に先制トライを挙げるなど、序盤から積極的に相手陣内へ繰り出す朱紺のジャージ。準備と集中力の賜物、守っては敵の前進を阻み、攻めては悠々とボールをつないでいく。前半13分、カウンターからBK陣を中心に押し上げ、そこからSH徳田が抜け出し一気にゲイン。最後は金尚浩へパスが渡りゴールまで到達した。


 結果的に前半だけで5本のトライを奪うなかで、金尚浩は25分にも、もう一つトライを挙げる。相手ラインの裏側へ放ったCTB鳥飼誠(人福2)のチップキックに、すばやく反応し、ボールを抑えての一本であった。


 自身にとってリーグ戦第1号を筆頭に、ポイントゲッターとしての嗅覚をうかがわせるトライシーン。BK陣と連携を取り、相手ゴールまで駆け抜け、一方でディフェンスに奔走する。これぞ金尚浩と、久しぶりの興奮を覚えた場面の連続だった。


 試合も快勝を収め(55-7)、終わりには満面の笑みを浮かべたが、やはり何よりも彼が、本来のパフォーマンスに限りなく近いそれをピッチ上で発揮できたことが大きい。そして、そこで存分に見られた、彼の闘う姿勢。


 そもそも本人が告白するに、身体の状態でいえば満身創痍そのもの。「ボロボロですね」と明かす。それでも、ピッチに立っている。身体は動く、フィールドにいる以上は、自らの役目を遂行する。表すならば、これは金尚浩が宿している闘争心に他ならない。


 リーグ戦も終わり、2週間を空いて次にやってくるは全国の舞台。ただし、金尚浩にとってはまずは身体のケアが必須。そこから試合に臨む形になる。


 けれども仮に、どんな状況であっても、彼ならば全身全霊を懸けて戦いに身を投じるだろう。恐れぬ精神、近大戦のあの場面について、こう力強く言い放ったものだ。


怪我の原因となったハイパントキャッチ。躊躇はしませんか?


 「無いです! みんなにも言われるんですけどね。びびってても、何も始まらないんで!」


 ボールのもとへ走り、飛びつき、インゴールまで駆け抜ける。WTB金尚浩の闘〝走〟本能は、とどまることを知りえない。(記事=朱紺番 坂口功将<広報担当>)



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▶金尚浩プロフィール