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『WEB MAGAZINE 朱紺番』

観戦記『ラストゲーム ~歩み続けたその先に~』

投稿日時:2012/12/24(月) 02:23

 夢半ば。藤原組の戦いが幕を閉じた。チームを率いた主将と主務の、試合を終えた直後の、胸中はいかなるものだったか。
 

■観戦記『ラストゲーム ~歩み続けたその先に~』



 

 思いを再認識し、高めた瞬間だった。今年の夏を迎える直前のこと。春シーズンを終え、チームの幹部たちは総会への出席そしてOBたちへ報告と挨拶を兼ねて東京へ出向いた。3日間設けられたうちの初日、藤原慎介(商4)と越智慶(人4)はその日の訪問を済まし、時間を余らしていた。ならば、と。数多くの競技場を構える神宮の杜を2人で歩いた。秩父宮ラグビー場から北へ行く。目掛けたのは、国立競技場。


 時刻は16時を回っていた。あわよくばスタジアム内に入らせてもらえるかも。せっかくの機会だからと胸を躍らせ、警備員に掛け合うが時間の関係上で拒否される。


 残念な気持ちに苛まれながら、2人は笑い飛ばした。「どうせ、また来んねんから!」と。


 彼らが目指す頂、そこに辿りつくまでの過程で、着くべきときにその舞台は用意されている。そこに至るまでの道のりを、この日歩いた足跡に重ねて、思いを募らせた。


 あれから半年が経っていた。その道のりは、長くも短くも感じられた。強化合宿のメッカ・菅平、聖地・花園でのリーグ戦、初の大会開催となった京都。幾多の試合を重ね、喜怒哀楽の感情を共有しながらチームは歩みを進めた。しかし、道は潰えた。


 12月16日、全国大学選手権セカンドステージ第2戦。初戦に続き、法政大に敗北したことでブロック戦敗退が決まった。あのとき抱いた夢は、どうやっても叶えることはもう出来ない。総当り戦のため残り1試合を残して、主将・藤原は複雑な気持ちにかられた。


 「今週の初めの方はですね。どういう気持ちで臨もうか、って。

 でも、自分たちのやってきたことを試せる期間を頂ける。そのことに、ありがたく思って」


 結果如何ではなく、最後と決まっている試合。これまで経験してきたトーナメントとは異なる感覚。けれども、だからこそ覚悟を決めるのみだった。最後の敵は、関東大学対抗戦王者の筑波大。これ以上ない、強敵。


 「せっかくもう1試合ある。思いっきり関学ラグビーを見せたくて。真っ向勝負して」


 12月23日、花園ラグビー場で行なわれたのは明らかに格上との対戦。だが、そこに胸を借りるといった挑戦者の気概はなく、ただ一つのチームとして藤原組は真っ向から立ち向かっていった。



 それは、火花が散った一番初めの衝撃で理解しえたのではないだろうか。試合開始のホイッスルから1分。ボールを持ったスカイブルーのジャージの選手が、速く激しく、朱紺の闘士たちの防御網を破った。


 それからの80分間フィールドで繰り広げられたのはテープをリピート再生しているかのシーンだった。ステップに翻弄され、タックルも弾き飛ばされる。チームも攻め手に欠いていたわけではない。攻撃に転じた場面もあった。それでも、ブレイクダウン(ボール争奪局面)になれば、絡まれボールを奪われる。敵陣で過ごす時間は少なく、ゴールが遠かった。


 「強かったです。こちらが受けてしまった。ディフェンスの枚数揃えていても、振り切られて良いアタックしてきてると。

 自分たちも組織でのディフェンスは問題なかったが、タックルが甘く入っていたりして個々が原因でやられた」


 後半、チーム内で修正を施し、メンバーチェンジを交えながらテンポの良いアタックを仕掛けていく。試合も終了間際に、この日唯一ともいえる敵陣深くへと攻め込んだが、インゴールを割ることはなかった。


 「点差も開いて逆転が無理と感じるようになってからは、この1年間のことを思い出してました」


 グラウンド横のベンチから常にチームを見つめてきた主務・越智はそう告白した。この1年間スタッフとして走ってきた。試合のメンバーたちは鍛え上げたフィットネスから〝走って〟いる。やはり、プレーしたい思いがあったという。ただ、その思いを知ってくれた上で戦う仲間たちが目の前にいた。


 「同期がみんな良かった。この同期やから、自分は主務をやれると言えたな、と。自分がラグビーしたい、とずっと言ってたんで。オレのぶんまでやってくれると信じる、って試合出るメンバーたちには言いました」


 主務含め、部員たちの思いを背負いプレーヤーたちは走った。最後、ノーサイドの瞬間が訪れるまで。ようやくのところ敵陣でパス回しを展開していたが、インターセプトされ、独走トライを許す。最後まで一矢報いることが出来ずに、試合終了のホイッスルが鳴り響いた。


 試合後の整列。自軍のベンチ前でスタンドに向かって一礼をする。この1年で最も深く長い、お辞儀。顔を上げたときには、目から涙がこぼれていた。ベンチへ引き上げ、グラウンドへ再度一礼する。グラウンドで過ごす、最後の時間が流れる。


 越智も、仲間たちに感謝の意を述べながら、手を取り抱き合った。


 「同期の全員が、思いに応えてくれた。それはもう、エエんかな!?って言えるくらいにです」



 「先週、試合終わって本当に悔しくて、涙も出てきた。色々と考えることもあったけど、今週があることに感謝して。支えてくれた人たちの為に、良いゲームしたいなと」


 あらためて主将は、この試合に懸けた思いを語った。目標が果たせなかったことへの涙は、とうに出ていた。藤原組だけに用意されたラストゲーム。そこで実感したものは、普段から思っていることだった。


 強敵・筑波大相手にも組織でのディフェンスは遺憾なく発揮された。それはシーズン通して磨いてきたもの。

「組織面で悪くて抜かれたのは、シーズン通して少なかった。ディフェンスには、自信持っていけると。点数取られてしまったですけどね


 悔しさをにじませながらも、そしてチームを振り返る。「良い奴らばっかりで(笑)。明るく、声出て声出してるときが、やっぱり関学らしい。元気良く、ね。それはこれから先の関学ラグビー部のなかでも変わらない部分だと思います」


 悔いがないかと聞かれれば、無いとは言えない。それが正直な胸中。結果は自分たちの望んだものでなかった以上、それは消えることはないだろう。


 それでも、自分たちの信じてきたラグビーが通用した手応えはある。「本当にね慶應も法政も勝てた試合だったんです。国立、ベスト4も高い壁ではないと。この悔しさを後輩たちが結果として形にしてくれたら嬉しいですね」


 次のシーズンはやってくる。そこで繰り出されるラグビーが、たとえ今のラグビーと違えても構わない。チーム最後の全体集合で、藤原組の主将はそう言い放った。


 あのとき歩いた夢舞台への道のりは、12月23日のこの日、後輩たちへと託された。(記事=朱紺番 坂口功将)