『WEB MAGAZINE 朱紺番』
鈴木将大『厳格たれ。主将の覚悟』
投稿日時:2014/02/19(水) 02:40
求めるものを手にするには変革が必要だ。では、そこで為すべきこととは。かねてより身に宿すキャプテンシーを発揮するは、2014年度関学ラグビー部主将・鈴木将大(商4/FL)。今年2月、彼が率いる新チームが始動した。
<※学年表記は2014年度のもの>
■鈴木将大『厳格たれ。主将の覚悟』
つんざくような寒さは、出発せんようとする航海の船出には少々厳しいものだったのでは。いや、そんなことはない。覚悟の上。そうでなければ—強くはなれない。
2014年2月11日。関学第2フィールドで新チーム「鈴木組」はそのシーズンを始動させた。監督コーチ陣も含め勢揃いし、部員たちはフィットネスにスキルトレーニングとベース造りに取り組む。そうしてチームにとって初めてとなる練習が終わってからの全体集合の場面で。主将は締めの言葉の第一声を、やや怒気を含んだ口調で発した。「まだまだミスが多い」と。
練習への姿勢、ボール一つの扱い方然り。普段から意識すべきことだとは常にどのチームも口酸っぱく説かれていたものだ。この日の練習終わり、改めて主将にその真理を語ってもらった。
「全然甘かった。もっと厳しくならないと。それも全員が、です。一人だけでなく、4回生が筆頭になってチーム全員に。
去年もノックオンだったり簡単なミスが多くて。このままじゃ勝てないと。どれだけ練習から作れるか、でないと試合では思い通りにならない」
一つのミスが決定打を欠くことになり、逆にピンチを招くこともある。これまでもフィールド上では歓声を落胆の声に変えてしまったことが幾度と見られた。
ミスに対して厳しく説くことで、チームに意識づけをさせる。この度就任した新主将がなおも、辛く口にする理由とは。その答えは先の「このままじゃ」の台詞にあった。
鈴木が新月旗の下で学生生活をスタートさせたのは2008年のこと。関学高等部でラグビーに興じる日々。その年、兄貴分である大学ラグビー部は半世紀ぶりとなる関西制覇を遂げ、一躍関西の上位校へと姿を変えた。その翌年には関西大学Aリーグ連覇を達成。タイトルを掴んだ朱紺の闘士たちに彼は羨望と憧れを抱いた。
一方で自身も高等部では3年生次に主将に就き、やがては全国ベスト4にまでチームを導く。部員全員がひたむきにプレーする環境に幸福感を覚えていた。
だが実のところ、鈴木は目の当たりにした現実と現状のギャップに、ある種の失望に似た感情を持った。自分がいる環境とは対象的に、彼の目には大学ラグビー部の、ともすればトップチームではない下のカテゴリーの選手たちの姿勢に少なからずの温度差を感じたのである。「ラグビーせんとこかな」なんて思ったこともあったと鈴木は明かす。
それは高等部の同期たちの胸中も一緒だった。だからこそ、鈴木は「そう思っている同期たちと進んだら、『変わるかな』『変えられるかな』」と心に留め大学へ進学する。
そこでは学年も関係なしに下級生次であっても声を出しメンバーを煽動した。その存在は「精神的な面でまとまる。僕らも自分のプレーに集中できた」と上級生が評したほどであった。そうして3年生次に怪我を乗り越えて、トップチーム入りを経験。最終学年を迎えるにあたって、自ら主将に立候補した。
「キャプテンにならなくても発言はするやろうけど…なった方がより響くと思って。立候補しました」
年末年始の話し合いを経て、その覚悟を同期は受け入れる。鈴木組が誕生した。
もとより周囲から「誰よりも厳しい」と称される新主将は前述のように練習中であってもミスに対して辛く説く。これまでの敗因の一つを克服するための叱咤だ。と同時に、目標として掲げた『関西リーグ全勝優勝』を果たすべく、スローガンにも通じる姿勢をチームに植え付けていく。それは、ONE=一つ、になるということ。
高等部時代に感じた大学のチーム内のギャップ。総勢100人を越す大所帯ゆえか、けれども—
「その差を埋めないと。全員を一つにするのは難しいとは思うけど、そうならないと立てた目標も口だけになってしまう。一つになれば、どこにも負けないチームになると」
目標を決める際、同期からはタイトルを獲りたいという意見が多かった。「みんなが『全勝優勝』という目標に向かって…4回生は分かってると思うけど、それをどれだけ下まで浸透できるか」
変えることは出来るだろうか—かつて芽生えた気持ちは、やがて『変えたい』そして『変わらなければならない』へと高まった。それほどまでに彼を掻き立てたものは何だったのか。その問いに鈴木はこう答えて白い歯をのぞかせた。
「関学が大好きやからです」
スローガンである『ONE』に込められた思い。「一つになったら、まわりからも応援されて、みんながチームを愛して、そうして試合に出るメンバーは死ぬ気でやる」のだと。
部員が一丸となって、成果も内容もこれまで以上のものを目指す。そのためには「同じことをやってたら…」と鈴木は話す。
新しいチームは年明け早々からアクションを起こした。新体制が公表される納会までの1月の間もウエイトトレーニングを中心に取り組んだ。一週間で合計75トンもの数値を記録した部員もいるとか。
「この点も変わりましたね。今ではウエイトトレーニングをしない奴を見つけるのが難しいくらい。みんな筋トレしています」
得意げに鈴木が語るほどの高い意識づけが成されているのは、やはりチームを率いる最上級生の存在が大きい。
「もともと僕らの代は多かったですね、まじめな奴ばっかりで。野崎(勝也=経4/WTB=)なんて毎日トレーニングに入るようなウエイト好きで。それに刺激されて周りも。恵まれた良い学年だと思います」
また、彼らの代は鈴木を筆頭に、高校生時代にそれぞれのチームでキャプテンを経験している人間が多いことも特色の一つ。「それはでかいです! でも、まだまだ出来ると。自分のことは一生懸命やる、それは当たり前で、あとはどれだけ外に発信できるかですよね」
主将として練習の場に繰り出した際に、全体に目を配らせなければならないことに鈴木は改めて気づかされた。そこでは、副将を務めるPR金寛泰(人福4)やWTB中井剛毅(経4)の存在が頼もしかったというから最上級生たちのリーダーシップは心配無用だろう。そんな信頼のおける仲間たちとともに歩み始める今シーズン。
「でも仲が良いだけで終わるのは嫌なんで、ひとり一人厳しく切磋琢磨して、グラウンドを出ると仲が良い、そういう学年にも出来ると思います」
チームを一つにまとめるという端的で、しかし一筋縄ではいかない挑戦。だが、このチームならば。一つになって闘うことで、その先にある栄光を掴むことが出来る。そう信じているから、鈴木は同期に、チーム全員に厳しさを求めるのである。
「これからが楽しみですね! けど笑って終わるためには相当辛いこと、しんどいこともしないといけない。それも勝つためには必要なことだと、部員みんなにそう思って欲しいですね」
■(記事=朱紺番 坂口功将<広報担当>)
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