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『WEB MAGAZINE 朱紺番』

観戦記『これが全国の舞台』

投稿日時:2013/12/13(金) 12:00

 チームは万全の状態をもってして、その舞台に臨んだ。だが、次第に歯車は狂いだし。畑中組が歩む険しき道のり。全国大学選手権の初陣を記す。

 

■観戦記『これが全国の舞台』

 


 

 うまく歯車は回るかに見えた。それだけの確信もあった。それでも、全国という舞台で直面し受けた圧力が、歯車にひずみを生じさせる。やがて回転が止まった。


 関西大学Aリーグも終幕し、臨むは全国大学選手権。昨年からの大会方式である、ブロック戦(1ブロック4校による総当り戦)。その初戦を2日後に控え、畑中組はスコッドを問わず、部全体での練習に励んでいた。


 練習を終え、主将・畑中啓吾(商4)は意気揚々と部室に引き上げた。そこから垣間見えたのは、来る試合にむけ準備は整ったという一つの充実感。


 シーズンも深まり、Aリーグと併せて行なわれていたジュニアリーグも12月の始めに閉幕(関学は2位)。チームとしては、残すはAチームが選手権を闘うのみとなった。そこでは、トップチーム以外のメンバーが、出来る限りのことを尽くし、試合に出るメンバーたちの背中を押す。


 その貢献は、グラウンド上の雰囲気も押し上げた。主将は微笑む。


 「いま良い雰囲気で、練習もやれている。試合に出るAのメンバーは全力でやってますし。この時期はA2のメンバーが練習台になってくれるんですけど、本当に全力できてくれる。倒す気でね。

 試合がない状況なのに、メンバーの為に、チームの為に、動いてくれる。その人たちのおかげで、やれているのだと思います」


 その一方で、怪我に悩む4回生たちも、ここにきてチームに別の角度からのアプローチを行なっている。対戦相手の分析に加え、それを練習でのシュミレーションに活かすのである。この日、山口祐磨(法4)が手にしていたノートにはびっしりと初戦の相手である大東文化大のラインアウトの図が。FW陣のセットプレーの確認作業において、入念にメンバーたちとやり取りを行なっていた。


 彼らの分析によって、チームとしてはいっそうに準備を施せる。その点に関して、主将は感謝の意を込めて、こう話す。


 「4回生の怪我人とかが分析してくれてどんな特徴があるのかとかを。夜遅くまでやってくれている。それらをメンバーに落とし込んで。向こうの穴もありますし、どんな特徴があるのかも掴めている。今日の練習でもキーマンを想定したり。良い対策は出来ている」


 分析の賜物。実際に体験してみることで、分かることがあるのだ。ディフェンスの間合いなどはその好例。グラウンドではこんな場面も。


 「9番、12番が警戒されるなかで、すごく9番が動いてくる。今日、抜かれたんですね。ゲームでも実際にあるな、と。けど、気付かされて、同じことはしないと。そこで経験しているのは大きいです」(畑中)


 チーム一丸となって、対戦相手にFOCUSを当てる。プレー面でのシュミレーションは充実たるものであった。だからこそ、主将は語気を強めた。


 「絶対、勝てるという確信はあるんで。過信とかではなく、『こうしたら抜ける』『こうしたら止められる』がある」


 初戦の大東文化大は、これまでに対戦経験が無い、いわゆる未知の相手。それでも万全たる対策を踏まえ、あとは自分たちのラグビーを体現するのみであった。



 12月8日、名古屋市瑞穂公園ラグビー場。ついに大学選手権の火ぶたが切って落とされた。


 畑中組は、まずは自分たちのラグビーをしっかりと繰り出す。常に敵陣でプレーするべく、エリアマネージメントで優位に立つこと。試合開始早々にSH徳田健太(商2)がチャージされるも、こちらリーグ戦で存在感を放ったSO平山健太郎(社4)が大きく蹴り返しリカバリーに成功、エリアを挽回する。


 先制点を奪ったのは、朱紺のジャージ。前半5分、相手陣内に進入すると、FW陣が粘り強く前進しゴールを割った。直後のキックオフで不用意なミスを犯しトライを返されたが、攻勢を崩さない。11分、17分とFB高陽日(経3)が2本のトライを奪う。いずれもマイボールのスクラムからボールをBK陣へ渡らせ、流れるようなパスワークを展開させたものだった。


 ただし、それがあまりにも悠々と成されたことが結果としてチームを盲目に至らしめることになった。


 「こっちのトライをあっさりした感じで取れたんでそんな難しいことはせずに。ゴール前でFWが一発、そのあとBKがぽんぽんと。敵陣におったら取れるなと。

 ただ前半から、つなぎの部分に関しては…フェイズを重ねるという戦術だったのに、焦って早めにボールを回してしまってミスをしてしまった。簡単にトライが取れたぶん、いけると思ってしまった」(畑中)


 一方、ピッチ上で誰の目にも明らかだった部分があった。それは大東文化大のプレッシャーもとい、コンタクトの部分での強さ。関学も組織的なディフェンスで対処するものの、捕らえども相手プレーヤーは一歩二歩と前に踏み出してくる。衝突時に生じる衝撃は着実に、防御網を突き破らんとしていた。それでも、WTB金尚浩(総政3)が外国人LO(188センチ、110キロ!)に正面からぶち当たって止めるシーンも見られたが。


 前半が終わり、17-12とリードはしていた。しかし、序盤こそスムーズに回転していたかに見えていた歯車は本来のスピード以上を求めたがゆえに磨耗を起こし、加えて外からの圧力でゆがみつつあった。


 むかえた後半。早々でナンバー8徳永祥尭(商3)が相手のノックオンを誘うタックルを見舞うなど、相手のプレッシャーを食い止める。が、ペナルティも多くなり、事態は悪くなる一方。自陣に釘付けにされ、モメンタムは大東文化大が手にしていた。


 ディフェンスが、転じて受身につながってしまった理由について主将はこう振り返った。


 「一対一のフィジカルで負けていた。身構えてしまったんですね。来るな、と思ったときに、タックルがずらされてしまって、追いタックルのような形にも。タックルミスもすごくありました」


 外国人選手のみならずフィールドプレーヤー総じて、接点の部分で上回られていた。ならばと、リアクションの速さでカバーしたいところではあったが、アタックのテンポに関して想定以上のものがそこにはあったという。タックルの精度不足による隙も、相手のペースを加速させる要因になった。「何とか止めれていた」(畑中)後半開始、しかし10分にはトライを許し逆転された。



 不運もあった。試合を通じて、プレーに関してレフェリーとの間で見解にズレがあったのも事実。ブレイクダウンの場面で、えてしてノットロールアウェイ(故意に倒れたままの状態でいるというもの)の反則が取られたのはそのため。やがて度重なるジャッジの結果、後半14分にはFL竹村俊太(人福3)がシンビン(一時退出)の対象となった。


 敵の攻撃をはね返すこともままならず、人数も減る事態。メンバーチェンジも繰り出したが、打開策を見つけることも出来ずに、そこからはコンスタントに得点を許す。歯車の動きは、完全に止まってしまっていた。


 最終的に後半で5本のトライを喫し、スコアは24-45。圧力に、屈した。


 これが大学選手権、これが畑中組の現在地である。試合後に「シンプルに実力差があった」と主将は唇を噛みしめた。ゲームに臨むにあたり、勝利への道すじは出来上がっていた。だが、事実としてピッチ上にあったのは、予想を上回る実態。コンタクト、スピード、プレーの精度。関東の大学との差を再認識させられた敗北だった。


 けれども、次なる戦いは迫っている。期するものを挙げるならば。これまでのリーグ戦でも見られたように、『気づき』を形に変えてきたという部分。大学Aリーグを総括し「学んだんで、同じことは起こらない。起きないように、僕自身もチームも日々、成長しています」と畑中は述べた。準備の重要性、そして相手の力量がいかなるものでも〝勝ちにいく〟姿勢を持つこと。


 第2戦の相手は、全国大学4連覇中の帝京大。その強敵を前に、主将は意気込んだ。


「チャレンジャーとして、何回でも何回でもタックルにいく。飛ばされたとしても、ぶつかっていく。当然、強いと思いますし…かといって『負ける』とも思わない」


 本番では練習してきたこと以上のものは発揮できない、それは悔しくも初戦で判明した一つの定理。だとすれども、どん欲なる勝利への意欲と挑戦者の気概が結合し、闘志となれば―それすらも覆せるのではないだろうか。畑中組は、一世一代のブレイクスルーに、すべてを懸ける。■(記事=朱紺番 坂口功将<広報担当>)