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『WEB MAGAZINE 朱紺番』

観戦記『非情なる黒星 ~法政大戦~』

投稿日時:2012/12/18(火) 03:03

 またしても勝利の女神に突き放された。自分たちに非があることは承知している。けれども、この黒星が意味する現実はあまりにも無情だ。大学選手権セカンドステージ第2戦、藤原組へ下された裁定。

 

■観戦記『非情なる黒星 ~法政大戦~』
 

 

 「厳しい状況には変わりないですけど」と付け加えることは忘れなかったが。主将・藤原慎介(商4)は、大学選手権の初戦を経て、新しくなった大会形式に言及した。
 

 「勝ってたらプール戦いらんやん、とね。次がベスト4を決める試合になるわけですから。ただ初戦で負けても次があるというのは、プール戦でも良かったのかなと。チャンスがちょっとでも増えたのはありがたい」


 今年から採用されたプール戦(全4各ブロック4校による総当り戦)の恩恵。これまでのトーナメント制ならば、たった一回のノックアウトが終戦を意味していた。それが今年は、他3校との星取表の兼ね合いはもちろんのことだが、たとえ一敗してもそれで道が潰えることには、ほぼ直結はしない。そもそも3試合は決められている。初戦の慶大に黒星を喫した藤原組にとっては、限りなく苦境に立たされたものだったが、目指す頂への可能性が0になったわけではなかった。


 選手権セカンドステージ第2戦を2日後に控えたグラウンド。練習を終え、主将は声を弾ませた。


 「正直今までと違って切り替えて。4回生とも話しして、4回生がしっかりせなあかん、今こそ力の見せ所かな、と。今日も良い練習出来ました。最近で一番、練習の最初から集中出来ていました」


 慶大戦で露呈した課題に向き合い、気持ちを落とすことなくチームは踏ん張り、前を向いていた。課題とは「ミスを減らすこと」と「精度を上げること」。一見、表裏一体のものに捉えられるが、それぞれシチュエーションによって異なる。先の慶大戦を思い返す。ディフェンス面、「自陣でミスをしてしまい、相手にトライを取りきられてしまった」。転じてアタックでは「取りきれず。精度の高さを保っていけば良いゲーム出来ると」。負けはした、だが確かな手応えがあったのは事実である。


 「ゲーム開始早々トライ取られたけど、アタックしてても負けてる雰囲気なくて。だから負けて余計に悔しかった。試合終わってみて、予想以上に通用したという実感が。ミス、精度の低さが無ければ関東の大学相手でも勝てる」


 主将の胸中に芽生えた実感と確信。それがあるからこそ、この一週間、練習時には集中力を求めた。そして、チームはそれに応えた。「一つひとつのパスだったり、ミス少なくて、声を出してやってくれている。一人ひとりが集中してくれています」


 関東勢にも自分たちのラグビーは通用する。第2戦の相手となる法政大に対しても「強いチームですし、けど勝てない相手だとは全く思わない」と見据えていた。必要なのは、ミスなく精度を上げること。主将は意気込んだ。


 「勝てますよ、絶対。勝ちますよ!」



 課題は克服されていたか。舞台は博多、レベルファイブスタジアム。選手権では実に4年ぶりとなる法政大との一戦。朱紺の闘士たちは序盤から敵陣でプレーを展開していく。だが、フィニッシュへと至ることがない。相手のプレッシャーもあれど、ノックオンでボールを献上。順目へボールを行き渡らせようとするも、選手間の呼吸が合わず、楕円球は見当違いにグラウンドを転々とする。注視するからに余計ではあるが、それでもミスは目立った。ようやく結ばれたのはゲーム自体が動いたシーン。前半16分、自陣でのターンオーバーからCTB水野俊輝(人2)が相手ディフェンスを揺さぶりながらゲイン。最後は外側で併走していたCTB松延泰樹(商4)へパスを出し、松延が悠々と独走トライを決めた。アタッキングなCTBコンビもこれで3試合目。チームが求める攻撃的要素をトライという形に仕上げる。前半24分、追加点も同じく水野が防御網を激しく破り最後は松延につなげたものだった。


 攻める場面でのミスは、次第に減っていった。しかし、もう一つの課題こそが、敵につけ込ませる部分となる。先制点の直後、PGで反撃を許す。そして前半残り10分の場面、自陣でペナルティを犯すと、そこからすぐさまリスタートを切った相手に、防御の整備もままならずトライを許す。強みのディフェンスも、精度が伴わなければ、意味を成さない。そうして前半終了間際の攻防。ターンオーバー合戦で攻守が入れ替わり立ち代わる。フィニッシュへとつなげたのは、法政大だった。


 最悪なタイミングで喫した逆転。しかし、それでもなお、この時点でチームに影が落ちることはなかった。ハーフタイムの様子を主将は述懐する。


 「気持ち落ちる様子も無くて、後半の最初から気持ち作って、と。ハーフタイムで、まだまだ走れるという顔をチームはしてて。またギアを上げて、近大戦みたいな後半にしようと」


 実のところは、自分たちの手で、己の首を絞めていた。前半40分間は、そういった展開だった。かといって、そのことで闘志が揺らぐことなどなかった。フィットネスを軸とした『カンガクウェイ』、そのウェイ=道を突き進むだけのことだ。


 後半から意識したのは、ボールを奪ってからトライへ至るまでのイメージ。一度ボールを持てば、幾ら細かくても丁寧に刻んでゴールへ迫ろう、と。


 後半4分、相手のパントからボールを獲ると、そこから反撃に転じる。前に出て、ポイントを作って、外へ。その反復。とにかく細かく。ラックを生じさせてでもキープし前進するもの。リスクを減らし丁寧にボールをつないでいくという意図だとすれば、これ以上に確実な方法はないだろう。そして後半の10分間で、ターンオーバーからの得点パターンで2トライを上げ、リードを奪い返したのである。


 「自分たちのラグビーが出来れば、いけるということを再認識しました。フェイズを重ねてでもいいから、フェイズを重ねながら前に出て、と。理想とするラグビーが出来た」(藤原)


 先の慶大戦から得た確信は、このとき果実として具現化されようとしていた。



 しかし勝利の女神は目をつむるようなことはしなかった。彼女は相手よりも上手な者に惹かれ、反対に綻びある者を甘やかせることはない。


 ブレイクダウンにおける反応の良さを持ってして、法政大に幾度とチャンスを奪われる。逆に、課題をカバーしきれないチームは後手に回りピンチを招く。後半15分、再度リードが入れ変わる。


 自陣で過ごす時間が多くなってきた。ターンオーバーに成功すれば、それこそ自陣からじんわりと攻め上げ、ときに松延らのビックゲインでゴールへと猛進してみせたが。最後の最後で、インターセプトされ、振り出しに戻る。精度の低さが、決定力を縮減させた。


 追い討ちをかけられたのは後半32分。自陣でのマイボールスクラムから、キックでの陣地挽回ではなく、ボールを回すことを選択した。SO春山悠太(文4)が周りの動きを見て、キックパスを繰り出す。頭上から舞い降りてくる楕円球を目掛けて松延が飛ぶ。が、しかしボールは相手の手に。そのまま追加点を許した。


 残り時間は5分を切っている。スタンドからは、振り絞られた声援が飛ぶ。10点差、とにかく前へ、と。相手のペナルティもあって、敵陣へ。だが、ここでも自分たちのミスで自ら勢いを断つことになった。最後、HO浅井佑輝(商2)の追い上げトライもむなしく、29-34でゲームを終えた。


 試合後、通常ならば記者会見の会場へそのまま足を運ぶのだが、藤原は意識なかったか。チームとともにいったんはグラウンドそばの室内練習場に戻り、ほおを濡らした。それから主務・越智慶(人4)に促されて、腰を上げた。


 「全然負ける相手じゃなかった。自分たちのミスで首をしめることに。先週よりも、もったいなかった」と主将は口にした。


 不甲斐なさが身に痛く染みたことだろう。勝てる試合をみすみす落としてしまったことへの自戒。けれども、それ以上に、自滅が最悪のシナリオを招いたことに気づいたときに、彼らの心は崩れた。選手権セカンドステージ、2敗目。チームが目指し続けた頂への道が完全に途絶えた瞬間だった。


 記者会見、アフターマッチファンクションを終え、チームの全体集合。部員たちの前に立った主将は、ときおり言葉を詰まらせながら、思いを口にした。「勝てんくて申し訳なくて、、、ただ4年生にとって、もう一試合やらせてもらえるのが嬉しくて、、、(中略)まだお前らとラグビーしたいから。あと1週間、4年生は最後まで死ぬ気で頑張るから。1週間しかないけど、ついてきて欲しい。一緒に頑張って欲しい」


 非情なる現実に打ちひしがれていた。夢が潰えたという事実。だが、もう一つの現実が確かにある。最後の戦いが残っているということ。


 藤原組のラストゲーム。12月23日、筑波大戦。それは、この一年のなかで、もはや勝敗を問わない唯一の試合になる。そこで藤原組が成すべきことは、たった一つ。チーム最後の80分間で、自分たちのラグビーを出し尽くすこと。


 「次で最後。それはもう分かってしまってるんで。どれだけ力を出せれるか。今週一週間、しっかり練習して臨みたい。

 80分間走り切って、ターンオーバーからフェイズ重ねて、トライへつなげる。関学ラグビーを徹底したいです」


 彼らのラグビーは日々、成長を遂げてきた。これまでの自分たちをさらに超える、〝OVER〟するラグビーを見せてくれると信じて。時は、終着へむけ刻まれる。(記事=朱紺番 坂口功将)