『WEB MAGAZINE 朱紺番』
竹村俊太/水野俊輝/中野涼『ハードワーク、ハードランニング』
投稿日時:2012/12/13(木) 22:56
■竹村俊太/水野俊輝/中野涼『ハードワーク、ハードランニング』
季節そのままのどんよりとした空の下、肌をつんざくような寒さを吹き飛ばすかのごとく、彼らは走っていた。古都で催された初の全国大学ラグビー選手権。西京極の地でも『カンガクウェイ』は健在だった。関東からの使者、黄色と黒色の縞模様。慶應義塾の虎が相手でも。
「全員走っていたと思います!」
グラウンドに立っていた者が皆、時を余すことなく動いていた。この日もスタメンで出場を果たしたCTB水野は断言した。ただ、こう続けた。
「こっちも走り込んでたんですけど、慶應も走力が落ちることがなかった」
彼自身は初めてのフル出場。80分間を戦った上で、相手を称えるしかなかった。
ゲームは早々と慶大が先制トライを上げて始まった。対する朱紺の闘士たちは、リーグ戦を経て完成されたスタイルを実践していく。ボールを持てば、屈強なFW陣は相手ディフェンスに真っ向からぶち当たっていき起点となる。一斉に動き出すBK陣は流れるようなパスワークとドライブでフィールドを駆け回る。それらはテンポの良さも相まってか、リーグ戦で見せたそれよりも磨きがかかって見えた。全国の舞台でも、確かに通用していた。
そのなかでCTB水野は、猛然と突き進んだ。BKでありながらFWのごとく。敵とのクラッシュもお構いなしにボールを運んだ。持ち味のアタック力は存分に発揮されていた。
「前の週、近大戦でスタメンで出れて。アタック面で起用されてもらっていると。ディフェンスももちろんですけど。アタック、好きですね」
今年、攻撃的なプレーヤーとして見初められた一人。春シーズン、大型バックスリー(松延泰樹、金尚浩、高陽日)に比べて、一見すれば小柄な体格だが、攻撃的プレーは引けを取らず光っていた。その台等は、不動のCTBだった春山悠太(文4)に「良いプレーしてるし、(レギュラー争いの)危機感は僕も持っている」とまで言わしめたほどだった。
シーズンは深まり、リーグ戦。CTBには春山―松延泰樹(商4)が名を連ね、水野はリザーブとしてAチーム入りを果たした。それは、やはり攻撃的なカードとしての選出。『カンガクウェイ』が構築されていくなかでSOへとコンバートした春山は、〝活かす〟側として、水野投入の意図をそう汲んでいた。果たしてスタメンとして初出場した近大戦においても春山は「俊輝は十分良いプレーしてくれた」と称えていた。
〝活かす〟側と〝活かされる〟側のコンビネーションも、チームの充実とともに高まってきている。いまやスタメンに立つ水野は話す。
「悠太さんがSOになって…けっこう自分からいくタイプなので、攻撃的なBKになっていると。悠太さんが自分でいくやろうなという場面で、裏でボールを出すシーンが。今日(慶大戦)も裏取れましたし、2枚目のサポートでゲインにつなげられたらと」
春山がボールを運ぶ。それに伴って、連なるように後ろをカバーする。「サポート、2枚目の速さをチームから言われているので」。積極的に仕掛けていくSOに乗じて、若きCTBも加速していく。
走り勝つラグビー、それが『カンガクウェイ』。リーグ最終戦で見せた爆発的なオフェンス力が目を引きがちだが、もっとも前提にあるのはフィッネスであり、そしてディフェンス力であることに変わりは無い。春からまずはディフェンス力を徹底的に強化していくなかで、そこにはまったのがLO竹村俊太(人2)だ。自らの強みを「ディフェンス」と言い切る男。攻撃に転じるまでの過程、防御において彼は奔走する。
今季、層厚き関学ラグビー部においてまさに不動、絶対的な安定感のもとシーズンを過ごしている。だが、当の本人は「周りが言うほど、自分で安定していると思ってないんです」と微笑む。ならば、トップチームで居続ける秘訣とは。「自分の強みを出そうかなと。いつもどおりに100パーセントのプレーをしようと」心がけているのみなのだという。「調子に波あるし、ミスするときはあるし」とこぼすが、常に全力プレーという姿勢の結果として今日に至っているのである。
ポジション柄もあってか、とりわけ目立つ立ち位置ではない。だが、その運動量・走力は特筆すべきだろう。やはりはディフェンス面で彼は、とにかく走る。相手が陣地挽回でボールを蹴ろうものなら、チャージを狙い、飛びかかる。ボールを運ぶ相手にはゲインを許すまいとタックルをかます。慶大相手にも、そのプレーは幾度と炸裂した。
そしてディフェンスはいつもの通りだったが、この日のハイライトを竹村は飾ることにもなった。前半も残り10分を切りリードを許していた場面。敵陣でプレーを展開しゴールへと迫る。竹村がライン際へトライ、だが直前の慶大のペナルティで無効に。マイボールのラインアウトを獲得し、FWでのトライを狙う。モールを組みインゴールへ。ゴールエリアに到達し、竹村が〝決め直し〟のトライを上げた。
「FW全員のトライ。関西リーグでモールでのトライは無くて。選手権で慶應相手に取れたのはFWにとって自信になったと思います」
前半を同点で締めた、よもやの得点。「BK陣にきれいなボールを出すのが試合での役目。僕はトライ取れなくてもいいんですけど…。今日取れたのはラッキーでした」と笑みを浮かべた。
派手なプレーでは無いかもしれない。しかしゲームの立役者、さもすれば彼が起点となっていることも少なくないだろう。
「ターンオーバー取っていきたいですね。フィットネスは春からやってきたことでもあるので強みとして。(-とにかく走って、と?)そういう感じです」
全力プレーが生み出すハードワークこそが、彼の真骨頂である。
一進一退の攻防が繰り広げられた一戦。関学がついにリードを奪ったシーンはスクラム(FWの見せ場!)から外へ展開しての、WTB畑中啓吾(商3)のフィニッシュと、理想ともいえる形だった。『カンガクウェイ』は通用していた。だが、前述の水野の台詞のとおり、相手も走力に関して衰えなかったという現実が立ちはだかった。
「後半、差が出た。後半2本目に許したトライが。19-17ならPGでも逆転できたが、取られたことで焦って。そこから関学のリズムが崩れた」
そう振り返ったのはFB中野涼(文1)。ルーキーイヤーでレギュラー入りを果たした新鋭。選手権でもスタメンに抜擢された。
リーグ戦デビューは11月3日の摂南大戦。Aチーム選出には「びっくりした」と話すが、ゲーム本番では緊張などおくびにも出さず、はつらつとしたプレーを見せた。「ボールを持ったら走ること。FBとして自分から前に」出ることを心がけ、最後方から押し迫る。
慶大戦でも、相手が蹴り上げたボールを捕球するや、前へ。ステップを刻みながら、ゲインを図る場面が見られた。その切れ味は抜群。なるほど、出身は東福岡高校。同校出身者が持つラグビーセンスの光るプレーは見る者をうならせる。しかし本人はこの日の自身のパフォーマンスには納得にいかなかった様子。敗戦の胸中もあっただろう。「全然ですね。自分はまだプレーが軽いんで。ボールのキープが出来てなかった」
FBとして後ろからチームを見渡して。「ディフェンスもアタックでも、しっかりと走れてて。良い感じでいけてるかなと。ただ自分たちのミスから取られたんで。気分的にも、次取り返さないと負けてしまうという雰囲気になった」
後半27分、慶大のターンオーバーからそのまま逆転トライを許してしまった。チーム内の焦りは、防御網にほころびを生む。それを見逃さなかった虎は追い討ちをかけるように牙をむき、試合は17-29でノーサイドを迎えた。
悔しさをにじませながら、中野は次の戦いにむけ、プレースタイルさながら前を向く。
「自分はランニング、ボールを持って走ってトライにつなげるのが持ち味。カウンターも最初から強気に仕掛けて、会場を沸かしたい。自分らしいプレーを!」
ルーキーFBが、華麗なステップと勝ちん気の走力で、これからチームを押し上げていく。
ブロックに分けられ、総当り形式となった全国大学選手権。計3試合の初陣を藤原組は落とした。竹村は初戦の勝敗を分けたものをこう語る。
「取り切る力。慶應はここってチャンスで取ってた。関学もチャンスあったが取り切れず。慶應相手に夏に比べたら全然やれることは多くて。自分たちのやれたことは出せた。ただ精度が悪くてトライにつなげれなかった」
確かな手応えは自分たちのなかにある。あとは、細かな部分。一つひとつは小さい、しかし結果を左右する大きなもの。全国の舞台で勝利を掴むために必要なものは明確になった。それを踏まえ竹村は意気込む。「残り試合、勝たないといけない。勝ちにこだわるラグビーを。自分たちのラグビーが出来たら結果は出てくると思うので。チャンスを取り切ることと、精度を上げて(次の試合に)臨みたいです」
水野はファーストジャージへの思いを胸に代表戦へ繰り出す。関学高等部の出身とあって朱紺のジャージへの思いは特別。憧れのユニフォームをまとい「残りの試合数は少ないけど、勝利目指して頑張りたいです!」
次節は福岡、レベルファイブスタジアムで法政大との対戦が決まっている。生まれも育ちも九州の中野は地元での活躍を誓った。「楽しみですね。慶應に勝てなかったぶん、次の関東勢相手にも勝っておかないといけないですし」。地元で観衆を沸かすことが出来れば、このうえない帰省になるだろう。
フィールドに立つメンバー全員が奏でる『カンガクウェイ』と、その演〝走〟家たち。ある者はオフェンスシブに、ある者はディフェンスシブに、そしてある者はテクニカルに。各々が自分たちの持ち味を発揮して、走り上げる。その先にある勝利を目指して、彼らの脚が止まることはない。■(記事=朱紺番 坂口功将)