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『WEB MAGAZINE 朱紺番』

中井剛毅『もっと速く、もっと強く』

投稿日時:2013/12/19(木) 03:47

 走った。とにかく、走った。大学王者とあいまみえた聖地で。WTB中井剛毅(経3)が大舞台で見せた躍動。

 

■中井剛毅『もっと速く、もっと強く』

 


 

 グラウンドでのクールダウンを終え、ロッカールームへと引き上げる。その姿にスタンドからは労いの言葉が投げかけられる。


 ただ、彼の身体が疲労困ぱいそのものなのは誰の目にも明らかだった。過度の酷使による、足の筋肉の硬直。


 「後半の20分くらいからですかね


 中井剛毅は、つい先ほどまで身を投じていた戦いの爪あとに目をやりながら、そう明かした。


 12月15日、全国大学選手権セカンドステージ第2戦。舞台は近鉄花園ラグビー場。畑中組は、これまでにない強敵と対峙した。相手は帝京大。多くを語るまでもないだろう、昨季、前人未到の大学選手権4連覇を遂げた真紅の帝王である。


 開始のホイッスルが鳴り繰り広げられたのは、挑戦者と王者のぶつかりあい。朱紺の闘士たちは果敢に挑んだ。攻められようともタックルにいき、進撃をくい止める。転じては、相手陣内へ進入しゴールへと迫る。その立ち上がりの熱量をいっそうに高めたのがWTB中井だった。


 「一発目のスクラムで、サインが出て、ラインブレイクをした。あのブレイクでテンポに乗ってくれたらと」


 前半10分、中央あたりでボールを受けると、ステップで相手ディフェンダーを一枚かわす。その次のディフェンダーとの隙間をついてゴールに直進する。捕まりはしたものの、ウィンガーの見せたゲインにスタンドは沸いた。


 彼のハイライトは、この日もう一つあった。後半14分、ピッチの横幅を最大限に使いBK陣を中心に外へとボールを展開する。中井はそこでも、まさにWTBの本分であるドライブを見せた。


 応援する者の心を躍らせた、アタックの場面での走り。しかし、この時点で彼の足は限界寸前まできていたという。帝京大の攻撃に対して、ディフェンスラインを押し上げて、プレッシャーをかけようと臨んだ。そのなかで、幾度と裏へボールを蹴り込まれる場面が。前に出ていたぶん、すぐさま中井はカバーに戻った。「相手はボールを奪ってからが早かった」。もちろん、カバーだけでなく、ボールキャリアーの突破を阻むべく、積極的にタックルも。その運動量は、労いとともに心配の声が上がるほどのもの。後半は、硬直した足に動きを奪われながらのプレーであった。



 選手権、相手は王者・帝京大。その大舞台で先発に抜擢された。それまで11番を背負っていたWTB金尚浩(総政3)の負傷離脱が背景にはある。中井にとってAチームでの公式戦での出場は10月13日の関西大学Aリーグ第2戦以来(第3戦はベンチ入りするも出場は無し)のこと。


 そもそもリーグ戦の序盤でレギュラー入りを果たしていたのは、金尚浩の離脱があったが、復帰とともに出番を奪われた形だった。それから選手権までの期間を彼はこう振り返る。


 「正直、悔しかったですね。でも、チームの為に、と思って。Aチームだけでなくて、全部が底上げしないとAチームが強くならないんで。チームのためにフォーカスを当てて、と。悔しい部分はあったんですけど、練習でぶつけました」


 置かれた状況にもくじけず、そこで自らがすべきことにフォーカスを当てた。そうして巡ってきた、プレーする機会。それもビックゲームでの。


 「ジュニアの決勝戦以来のプレーで、ちょっと緊張したりも。相手は帝京大。頭にはあったんですけど、気にせずに。自分のやってきたことをやろうと。ゲームに出ることの緊張がありました」


 試合に臨む際の姿勢。中井は大学一年目で公式戦出場を果たしている。そのときは「めちゃくちゃ緊張していた」。度重なる怪我で思うようなプレーが出来なかった2年目を乗り越え、3回生として過ごす現在。「だいぶ落ち着いてプレーできるように。まわりを見れるようになりましたから」と今年のリーグ開幕戦では話していた。


 けれども、いざ試合となれば、それらは追いやられる。


 「いつも強気というふうに、自分のなかで。弱気にやっても意味がないんで。絶対に強気でやってやろう、絶対に負けへん、と」


 自覚している体格の不利もあるだろう。おそらくピッチ上では、身長の低い部類に入る。が、それゆえの強気だ。帝京大戦への意気込みは「死ぬ覚悟で試合に出てた」であったのだから。



 それでも、全国の舞台での一戦は苦杯をなめるものだった。チームは5-78で敗北。試合後、開口一番に「悔しいっス、、、」と漏らした。


 WTBとしてビックゲインを見せた。だが、インゴールに達することは出来なかった。「チームとしてもゴール前にいったりして惜しい部分はあったんですけど、取りきりの部分が甘かった」。彼含めてBK陣も、攻勢に打って出た好機でパスワークが乱れるなどのミスが。チャンスをものにする精度と、そのフィニッシャーとして中井らWTBもその役をまっとうすることが求められてくる。


 「取り切る意識で。取ってたら、試合展開も変わってくると思うんで」


 一方で、一人のプレーヤーとして、やはりは関東との差を中井も実感した。帝京大戦での反省とともに話す。「1対1のディフェンスで、ずらされるとこもあった。アタックは、フィジカルですかね。勝ってる部分もあるけど、個々の強さや寄りの早さは関東との差を感じました」


 差は確かにあった。しかし無慈悲なまでの絶望ではなく、手応えを感じさせる一戦だった。ゲーム序盤の期待と興奮、その一端を担ったWTB中井の存在。そして、主将・畑中啓吾(商4)も「気合入ってましたね」と舌を巻いたほどの彼の闘争心がそこにあった。


 「チャンスをもらえたので、どうアピールするか」


 闘志の火種は多種多様。そこにどれだけの思いを馳せられるか。中井はこの一戦への意気込みをそうも抱いていた。


 だからこそ、彼が今後ますます速く、強くなると思えてやまないのである。(記事=朱紺番 坂口功将)

 


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