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『WEB MAGAZINE 朱紺番』

古橋啓太『切実なる野望』

投稿日時:2013/07/13(土) 12:00

 与えられた機会への挑戦は、自らの願いを叶えるためのものである。ラストイヤーにかける思いが形となるのは、今年から立つ新天地か、それとも。古橋啓太(商4)の胸中に迫った。

<学年表記は2013年現在のもの>

 

■古橋啓太『切実なる野望


 

 大ヒットドラマの主人公の台詞を借りるならば。


 『実に、おもしろい。』


 真っ先にそのキーワードが浮かび上がったトピックだった。今年に入り、それまで彼が居た場所に、姿が見えなかった。部員たちのネームプレートがスコット別に貼られているホワイトボードを見てみると、答えが判明する。古橋啓太は、FWからBKへとポジションを移していたのだ。


 入学当初から一貫してFWとりわけバックローに身を捧げていた。だが、学生最後の年にして、就いたポジションは、そこから2、3列下がった位置。一転して、CTBに古橋啓太の名前がある。「4年目にして、ね」と微笑みながら本人は話す。新天地に導かれたのはチームが始動してまもない時期だった。


 「アンガスさんと野中さんと話し合って。『チャレンジしてみたらどうや?』と」


 指揮官たちからの大胆なる提案。けれども、アタック面にフォーカスを当てたならば合点もいく。猛然とぶち当たって、相手の防御網を破っていく様は容易に想像できる。確かに彼ならばという納得は、おもしろいと感じた点である。


 では、ラストイヤーの上半期に取り組んだ新しいポジションについて、本人はどう感じているのか。


 「FWとは違う楽しさだったり、難しさも。けっこう毎日が刺激的で楽しいっちゃ楽しいです」


 聞けば、自身にとって小学2年生次以来となる、CTBというポジション。コンバートされた当初は楽しさが胸の内を充たしていた。けれども、修練を積み重ねていけばいくほど、そのポジションの難しさを味わうことに。


 「やりこんでいくと、難しさに気付いて。奥深さ、というか」


 春シーズンを通して、いま具体的にそれらを挙げるならば。古橋は語る。


 「味方との連携とか。個人技だけじゃ、うまくいかないんで。人に合わせて動きを変えてみたり、こいつの得意なコースは、とかそういったことをまだ把握しきれてないんで。やっぱり難しいですね」


 もっとも、これはナンバー8からCTBへの転身に際して、最も異なってくる部分ではないだろうか。プレーに求められる、組織のバランス。古橋は、自分の過去になぞらえて、こう表現する。


 「1、2年のときなんか、『みんながオレに合わせろ』みたいな。いまは、ボールも回しまくりですよ(笑)」



 古橋啓太のコンバート。その事実に、期待感を抱くと同時に、悲痛にも似た決意を彼に感じたのは筆者だけだろうか。


 もとよりFWのなかでもインパクトプレーを期待される存在だった。1年生次にはFL丸山充(社4)、SH湯浅航平(人福4)らとともにU20日本代表合宿にも召集されている。積極的に先輩たちへアドバイスを求めにいく点にも、有力選手と評するに値していた。


 だが、有力どまり、であったのも事実と言わざるをえない。月日は経ち、大学生活最後の一年をむかえた。これまでにトップチームの一員として活躍できたか、と言われれば。その点は、当の本人が一番に自覚している。


 「いつもFWでの出場だったら、春先だけAチームで。年間通して上のチームでは通用しない部分があった。でも今年になって、ずっとA1、A2でしか。そこで経験させてもらえたんで。今後もぶれずにいきたいですね」


 己の望むものを手にすることが出来なかった、これまでの3年間。ラストイヤーで受けた新しいポジションへの提案は、まさに舞い込んできたチャンスそのものであった。いまは自分の可能性に挑戦することこそが、目標への可能性を広げるキーとなっている。


 「ナンバー8で全国大会とか、個人としても高校代表に選ばれたりして。自分のなかでプライドとかも持ってたんですけど。でも、4年目でプライドとかも持ってられないんで。そんなん捨ててでも、試合に出られるなら試合に出たい」


 自己をかなぐり捨て、新しいアイデンティティーを形成する。彼のコンバートには、そうした決意が込められているのである。



 4年目にして拓けた、目指す場所への道すじ。けれども、険しさに変わりはない。新しいポジションでの、チーム内における戦いに勝利せねばならない。


 学生最後の一年。限られた残り時間のなかで、彼はどう戦っていくのか。


 「自分の得意なこと、苦手なことは自分なりに分かっているつもりなんで。そこはプライドとか、恥ずかしさとか捨てて。助けてもらうところは、しっかり味方に助けてもらって。体を張ったりとか、自分が頑張れるところでは一番に」


 プライドは捨てても、骨肉に刻み込まれた己の武器は手立てにする。スタメンで出場した6月30日の同志社大戦でも、ボールあるところに常に働きかけていた。


 「そこは意識しますね。ディフェンスでの、相手のボールへの絡みとかは、すごく。FWでやってたことをBKでも活かせたらと思ってます。

 やっぱり今年からBKにいって、今までCTBやってた奴よりも上のチームで出させてもらってることが多いんで。そいつらにも、しっかり認めてもらえるような、でないと失礼なんで。頑張りたいですね」


 チャレンジで幕を開けたラストイヤー。ひょっとすると古橋本人が、もっとも自分自身に期待を抱いてるのではないだろうか。だからこそ、口から出る台詞は躍動感に満ち、そして確固たる思いが芯として、そこには感じられる。


 このポジションで、レギュラーを掴んでみせる、のだと。


 リーグ戦にむけ、大事な期間がやってくる。中身の濃い合宿や対外試合が組まれる真夏を前にして。


 『古橋啓太×「 」=レギュラー』


 長らく解けずにいた方程式の答えは、ここにきて解かれたのである。(記事=朱紺番 坂口功将<広報担当>)

関連リンク

古橋啓太プロフィール
松延泰樹「コンバート・トゥ・コンバット ~回帰」(2012/10/21)
春山悠太「RIDE ON TIME」 (2012/12/22)