『WEB MAGAZINE 朱紺番』
鳥飼誠『新司令塔の猛き産声』
投稿日時:2013/09/15(日) 22:00
■鳥飼誠『新司令塔の猛き産声』
継承される伝統はあれど、それを永続的に結果として出すところに学生スポーツならではの難しさがある。なぜなら、4年間という決められたスパンで新陳代謝が為されるからだ。一つのスタイルを極めて結果を出したとしても、次の年にはそれと同じスタイルを実現するには人員が様変わりしており、それに見合った道を歩まんとする例はごまんとある。年が変われど、スタイルを受け継ぎ、そこからさらには別次元に自らを押し上げるチームには感服する。
関学ラグビー部の2013年は、これまでとは違った船出だった。昨年、招聘したマコーミックHCの指導もあって築いた一つのスタイル。ディフェンスとフィットネスを前提に、そこから人もボールも動かすラグビー。ジャパンになぞらえて、『カンガクウェイ』と呼んだは他でもない赤鬼だったか。
リーグ戦での紆余曲折はあれど、序々に明確になっていったカンガクのスタイル。しかし結果的には、関東との違いをまざまざと見せつけられシーズンを終えた。導き出した答えと、はっきりとした課題があったからこそ、次なるシーズンの幕開けを控え、部として打ち出したのは継続的な強化だった。『カンガクウェイ』に加えるは、ブレイクダウンでの強さとコンタクトを、と。
しかし、すんなりとはいかないのが学生スポーツ。昨季、主要なポジションには当時の4回生たちが就いていた。その彼らの姿が今年は無い。なかでも、チームが目指すラグビーを実現するに最も重要な役目を担った男が抜けた。“人を動かす”CTBとして研鑽に励み、マコーミックHCから“司令塔”たるSOとして適性を見出されたプレーヤー、春山悠太(文卒=トヨタ自動車=)である。少なからずも彼を中心として形作られたスタイルは、その存在を欠いた状態を前提として、新チームに継承されたわけである。
そのポジションに就くのは誰か―。それは畑中組の注目ポイントの一つであった。
摂南大学との対外試合で始まった春シーズン。畑中組の初陣で『10』番を着けたのは2回生の鳥飼誠(人福)。ポジションはCTB、自身にとって初のトップチーム選出であった。
「去年就いていた春山さんが抜けて。そこに入ったという感じです」
司令塔への大抜擢。奇しくも『CTB発、SO着』という点で、先代プレーヤーと構図が被る。高校生時代に経験したこともある、そのポジションを鳥飼はこう語る。「ぼく次第でチームが勝つか負けるかが決まるキーマンかなと」
『10』番への指名は、彼への期待値の高さを表しているだろう。司令塔への任命により、上半期のゲームでは度々SOに就いた彼の姿があった。
「Aチームに入れたということもあるし、いい経験が出来たと思います」
夏の合宿時点で再びCTBに戻った鳥飼はそう半年間を振り返った。彼が就く『12』番・インサイドCTBは、本人曰く“第2のSO”。背番号が何番であろうと、一人のプレーヤーとして成長するきっかけが訪れ、そしてさらなるレベルアップを自身に課すシーズンとなったわけである。
「まわりのメンバーがAチームでずっとやってきているなかで、プレッシャーを感じるというよりは、まだまだレベルアップしないとな、と。今のままじゃあかん、の気持ちが強いです。やることは…欲を言ったら、いっぱいありますね(笑)」
昨シーズンはジュニアチームでもリザーブだったりと、「自分のプレーも全然で、納得できない部分もあった」。一転して、突き進んだ2年目。チームからの期待も、自らをストイックに磨く一因となっている。
もとより「でかくならないと、上のチームに通用しない」と睨んでいた肉体改造は率先して取り組んだ。上ヶ原にて実施された一次合宿では、阿児嘉浩S&Cコーチによる早朝の特別トレーニングのメンバーに選ばれた。「前々から選ばれるよって話は聞いてたんで、お願いします!と」
そこではパンプアップ系のスペシャルメニューが行なわれ、鳥飼も疲労感をのぞかせながら「良いトレーニングが出来た」とにこり。部全体としてもコンタクト面での強化を打ち出し、皆がビルドアップを果たしているが、鳥飼の体つきの変容には目を見張るものが確かにある。
また、一次合宿ではこんな場面も。全体ミーティングが終わったあと、主将・畑中啓吾(商4)と今年から指導にあたる大鷲紀幸BKコーチがサインプレーを確認する話し合いをしていた。その最中で、主将がその内容を聞いておくよう、呼び出したのは鳥飼であった。
「鳥飼は調子良いね。体も大きくなったし。反応に、ワークレート、それにプレーに臨む態度も気持ちが良いです」
今夏、マコーミックHCは、頭角を現した新司令塔をそう評した。「SOも、両方とも出来るということは使いやすいです」と語る一方で、「健太郎(平山=社4=)、吉住(直人=人福4=)も一緒。3人ともがプレーできることは頼もしい」とも。進化を図る『カンガクウェイ』を実現するための重要ポジションを巡る競争はまだまだ激化か、しかし、それが層の厚さを生み出すことにつながる。
中心部分で回っていた大きな歯車が抜けた。今シーズン、その役目を担う者に求められるものは必然的に大きくなる。
「春山さんというキーマンが抜けて…インパクトが強い選手やったんで。埋めると言ったらおかしいですけど、そこを超えていかないといけないと。タイプとしては別なんですけどね。チームが強くなるために頑張らないとな、と思います」
今季、いや今年だけに限ることはあるまい、この先、鳥飼誠という歯車が動くことで、周りがどう連動し、いかなる時を刻んでいくのか。
“埋める”ではなく“超える”。そう明言したところに、彼がその責務をどのように捉えているかが存分に―表れている。■(記事=朱紺番 坂口功将<広報担当>)
関連リンク
▶鳥飼誠プロフィール