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『WEB MAGAZINE 朱紺番』

4回生特集『ラストスタンド 吉住直人/長澤輝/南祐貴etc』

投稿日時:2013/10/30(水) 12:00

 リーグ戦も開幕し、シーズンの深まりを実感する時期になってきた。チームの戦いが佳境に入っていくなかで、彼らの存在がもたらすものは果てしなく大きい。ラストイヤーを闘う男たちの群像。

 

■4回生特集『ラストスタンド 吉住直人/長澤輝/南祐貴etc

 


 

「一人じゃ無理ですよね


 春シーズン半ば、大所帯のチームを率いることについて話が及んだときのことだ。主将・畑中啓吾(商4)は、そう吐露した。


 この頃、チームは始動してから初の黒星を喫する(5月26日:33-35近大)など、また一つ壁に直面していた。毎週のように続いた連戦の疲労もあっただろう。主将は、インタビューで時折、曇った表情を見せていた。


 組織を率いることの難しさ。それはトップに立つ者が一度は向き合わなければならない事項だ。そして、部員数が150人にも至るチーム事情がある関学ラグビー部ならではの負荷が、さらにのしかかってくる。実際、チームが始動してからも畑中はその難しさを十二分に実感してきていた。部員全員が一つのベクトルを持つことも、その一つ。「やっぱりまだまだですね。伝えたいけど、伝わってない。4回生でミーティングしてるんですけど、どうやって伝えていこうかな、と」


 そうして冒頭の台詞を口にし、こう続けた。


 「仲間の力を借りないと」


 つまりは、最高学年である同期たちの力が欲しい。部を率いるという責務を持った学年の。


 そこでは、まずは4回生たちが真の一枚岩になることが必要だ。そうでなければ、下の学年たちに何も指し示せない。


 春シーズンを終え、学生生活最後となる夏の菅平合宿で、畑中は同期たちに対して、あるアクションを起こした。合宿の初日に設けた学年ミーティングの場で、一冊の本からの引用した文面を人数分コピーし、チームメイトに配ったのである。


 日本ラグビー界において名将の一人とうたわれる清宮克幸氏(現ヤマハ発動機ジュビロ監督)の著書から引っ張ってきたもの。それは『足掻き(あがき)』をテーマにした文面だった。


 「オレらには足掻くことが足りてない、と。

 1回生や2回生が試合に出てるなかで下のチームにいる4回生が教えることも大事やけど、やっぱりそこで自分が後輩に負けられないという気持ちがあって当然だと思うんです。

 僕も実際、剛毅(中井=経3=)や千里(日名子=経3=)がBKにいて、彼らが真剣にやっているから、自分も浮かれないように頑張れる。そうやって、もがいて足掻くことで周りが響くということを伝えました」


 合宿初日のキャプテンの進言に、確かに同期たちは触発された。その変化に畑中も気付いたという。


 「変わりましたね。練習も分かれてて、なかなか見る機会もなかったんですね。けど、Bスコッドの下級生たちと話してたら、『大城さん(圭右=経4=)良いですよ!』『山口さん(祐磨=法4=)すごいひたむきにやってますよ!』という声を聞いた。実際、試合を見てみても特に4回生が必死にやってて、良いなぁと思いましたね」


 菅平高原から下山して、まもなく。合宿を良い雰囲気で乗り切れたことには「4回生が必死になって足掻いた結果が理由の一つ」と主将は振り返った。そう話したときの彼の表情には、数ヶ月前に見せた影など微塵もなかった。



 足掻きそれは、いまある現実に抗うことを意味している。ただし人それぞれで抗い方は異なってくる。置かれた立場、抱く思いは様々だからだ。では、その4回生たちはどのような思いをラストイヤーに懸けているのだろうか。


 季節も秋に移り、ジュニアリーグにAリーグとそれぞれが開幕しシーズンが本格化した頃。Bスコッドのみがグラウンドで練習に励むなか、ひときわ響く声があった。


 「一本、一本、ちゃんとやろ!!」「精度、上げていこ!!」


 声の主はSO吉住直人(人福4)。練習時間を問わず、グラウンドに立つ部員たちを声で扇動する。それは意識してやっているものだと彼は話す。


 「声を出すという、一番簡単なことで、一番チームに影響が出ることをやろうかなと」


 もとより彼は自身が置かれている状況には納得などしておらず、はっきりとそのことは口にした。だが、その気持ちを前置きにしたうえで、チームとの向き合い方を変化させた。きっかけとなったのは主将・畑中やOBの面々と話したとき。また、昨年の主将だった藤原慎介(商卒)から、もらった意見も響いたという。


 「上のチームに上がりたい一心で、とりあえず自分のことを考えてやってた。けど、慎さん(藤原)の誕生日でメールしたときに最近気にしてくれてたみたいでして。そこで言われたのが、チームのためにやってたら、おのずと自分のためになるし、それを見てもらえるんじゃないかということでした。それからチームが盛り上がることが、自分を盛り上げることにつながると」


 Bスコッドを見渡したときに、Aスコッドとの違いは、声が自発的に出ているかどうかだと感じた。そこで吉住は、自身がその役を担うことにしたのである。チームのために、と。


 とはいえ、トップチームへの思いは確固たるものとして彼の胸にある。


 3年生次、春先からディフェンス力を買われAチーム入りを果たした。しかし手を骨折し、一時離脱。戻ってからAチームに身を置いていたものの、いまひとつパフォーマンスは上がらず。ディフェンスが悪くなったとまで評価が下されることもあり、結果としてシーズンを乗り切ることが出来なかった。


 ただ、そこで手にしたジャージの感触は、彼の心に大きく刻まれた。


 「中高とそんなに強い学校でもなかったですし、レギュラー争いをしたことなくて。当たり前のようにジャージを着れていた。けど大学に入って、自分の力で勝ち取った成果が、ファーストジャージなんだと初めて感じたんです。

 一度着てしまったら、あの感触は忘れられない」


 目を輝かせながら、朱紺色のジャージへの思いを馳せる。それはシーズンが始まっても、くすむことはない。


 「正直、焦ってる部分はあります。でも、まだ終わってないですし、最後の最後まであきらめたくない。何が起こるか分からないし、まだまだ頑張り続けたいなと思います」



 同じく、ファーストジャージへの思いを全面に押し出すメンバーがいる。FL長澤輝(社4)もその一人だ。


 目下、レギュラー争いのフィールドは強力な顔ぶれを揃えるバックロー(6~8番)。そこで「狙うなら丸山のポジションです」と長澤は同学年の副将・丸山充(社4)をライバル視する。しかし自身のアピールが足りてないことを自覚するかたわら、ライバルとの差を語る。


 「チーム内の存在感ですよね。常にAチームにいたという経験値からくる。去年の安田さん(安田尚矢=人福卒=)もそうでしたし、いま丸山がいたら安心するという空気がある。その立ち位置までに、自分がならないといけない」


 レギュラー入りに迫った昨年はリーグ戦出場を果たしたものの、定着には至らず。今年の上半期も「A2(トップチームの一つ下のカテゴリー)に甘んじていた」。けれども、菅平合宿以降は本人が話すに、プレーの調子も良い。アピールの手を緩めるわけにはいかない。


 そんな彼の、公式戦出場への意欲を掻き立てるものがある。それはキャンパスライフでの一コマ。長澤が所属するゼミには、アメリカンフットボール部のエースプレーヤーがいる。その彼は、自身が出場する試合を前に「ゲームを観にきて!」とゼミ仲間を誘うのだという。一方で長澤はというと、週末に公式戦を控えていたとしても、スターティングメンバーこそ週初めに発表されるが、リザーブはぎりぎりまで選定を待たねばならないのが常。なので「自分は、試合観にきて!っと言えないんで」と苦笑いを浮かべる。スタメンの座を掴んだときこそ、声を大に出来るのだ。「観にきてくれや!!ってね」


 むかえたラストイヤー、トップチームへの愛執は募るばかり。もっとも昨年も、懸ける思いは今日と変わりなく胸に秘めていた。


 「3回生のときも、4年目のつもりで。これが最後かも、出れなかったら来年は無い、とにかく時間が惜しい、と思って過ごしてました。それこそ出場する1試合1試合がメモリアルなものだという気持ちで」


 いよいよ残された時間が限られてくるなか、その気概は戦いに繰り出すに何より必要なものだ。それを形にするうえで、強みである運動量やタックルやブレイクダウンといった「FWの泥臭い部分」のプレーを発揮していく。その先に、自らが欲するものがある。


 「Aチームで出たいスね!」



 自分がそれまでの3年間をいかに過ごしてきたか、そして4年目に臨むにあたって、いかなる姿勢を持っていたのか。確たる真理としてそこにあるのは、ラストイヤーゆえに芽生える気持ちがあるということ。


 PR南祐貴(人福4)の場合は、副将という立場もあって、そのことをいっそうに実感している。


 「自分は今までキャプテンとかやったことがなかったので。気持ちの部分で、自分を超えられるかを。自分のことだけでなく、チームを引っ張って、押し上げられるかが大事になってくる」


 そして、4年目に挑むにあたっての極意を口にした。


 「みんな以上やって、当たり前の状況だと。それが自分にとっては初めてであり、違和感もあったり。けど、今までの自分とは違う場所に立っているんだなって感じています」


 チームの幹である4回生とは、特別な存在なのである。それは実際になってみて思い知らされることでもあるし、覚悟しておかなければならないことでもあるのだ。


 主将・畑中は前述の著書を引き合いに、チームメイトへの期待を込めて、こう話す。


 「4回生は指一つでも、相手のスパイクに引っ掛けて、相手を止める。なぜなら、4回生には後が無いから。そういうものなんだと」



 関西大学Aリーグも半分を経過し、ジュニアリーグも佳境を迎えている。畑中組のシーズンも、いよいよのところまできた。


 そして、4回生たちはなおも、己の戦いに身を投じている。そこでも、やはり彼らの姿は千差万別だ。


 長澤の最大の敵でもあるFL丸山は、身体を負傷しながらも気迫ではね返し、試合に挑んでいる。一本の指は曲がったまま(シーズンオフに手術予定)、けれども治療よりも先にプレーを選んでいる。


 南、丸山に続くもう一人の副将であるSH湯浅航平(人福4)は後輩プレーヤーにスタメンこそ譲っているが、出番となればピッチを駆け回る。積極的に仕掛けていく場面も多く見られ、先のリーグ第4戦では相手選手が試合中に大声で周りの選手に警戒を呼びかけたほどの存在感を放っている。


 その試合では、CTB古橋啓太(商4)も念願のトップチーム入りを果たし、出場機会も得ている。また、司令塔であるSOには平山健太郎(社4)が就き、キックを中心にエリアマネージメントで大きく貢献をしていた。


 チームの代表として戦う23人に4回生が増えてきている。その事実に畑中も喜びを隠せない。


 「いち4回生の選手として、やっぱり試合に出て欲しい。同じ学年の選手が出てくれたら、嬉しくなりますね!

 4回生の意地があると思いますし、特別な思いや執念が、足掻きがあると」


 もちろん、試合前のアップから入場時の花道、試合中の応援まで、出場メンバーを支え鼓舞する4回生たちの存在もあってこそ。チームの為に彼らが移す行動の一つひとつが、チームにパワーをもたらす。


 そこで自分の置かれた状況がいかなるものであっても。南はこう話した。

 「グラウンドに出たら全力を出すけれど、最終的な結果として出たものが自分の納得できるとこまでに至ったら。Aチームで出たいですけど、たとえジュニアで終わったとしても、そこで自分が納得できる最高のパフォーマンスを出しきることが大事だと思います」

 畑中組の真価。ラストイヤーに懸ける男たちの足掻きが、その一端を担っている。戦いは、まだまだ終わらない。(記事=朱紺番 坂口功将<広報担当>)

 

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