『WEB MAGAZINE 朱紺番』
畑中組『出陣の歌 ~試練を乗り越えて~』
投稿日時:2013/09/27(金) 12:00
■畑中組『出陣の歌 ~試練を乗り越えて~』
「楽しみですよ。うずうず…してきてます。
負けられない戦いですし、絶対勝たないといけないという…。ドキドキ、いやワクワクですかね(笑)。緊張はしていないです」
関西大学Aリーグの開幕戦を数日後に控え、Bスコッドが練習に励むグラウンドに足を運んだ畑中啓吾(商4)はそう話した。Aスコッドのメンバーにはウエイトトレーニングが当てられていた日。にも関わらず、主将はグラウンドに姿を現した。聞けば、練習終わりにキックを蹴りたかったとのこと。
だが、リーグ戦を目前にして告白した胸中。武者ぶるいを隠せずにいる彼の目は、あの日と変わらず澄んで、いや、いつもどおりに一点を捉えていた。
振り返れば1ヶ月前。合宿のメッカ・菅平高原で試練の夏を過ごし、チームは上ヶ原へ帰ってきた。関東の強豪校とぶつかり合った10日間。連戦に次ぐ連戦は、実感と収穫を得られるものだった。
【Aチーム 菅平合宿戦績】
□8/21 早稲田大戦 12-38
□8/23 流通経済大戦 17-22
□8/24 東海大戦 31-21
□8/26 帝京大(C) 42-26
□8/27 筑波大 7-71
「Aチームは早稲田大からスタートして、ブレイクダウンで力を出していこうと話してました。100点ではないですけど、去年よりも確実に成長している点で。早稲田、筑波大、帝京大にもターンオーバー出来ました」
昨年のゲームにおいて感じた関東との差。昨年築いたラグビーに、『ブレイクダウンでの強さ』という要素を加えるべく、畑中組は始動してからこだわりを持って取り組んできた。その成果は、菅平の地で発揮された。
一方で、勝ち星を得られなかったことへの反省点も明確になったと主将は話す。
「大事なとこでミスがありましたね。取りきらなあかんとこで、一歩、ボールを後ろにやってしまったり。一つのミスで5点、7点と取られるという、ミスしないことの大事さが合宿で分かりました」
とはいえ、菅平合宿にて突きつけられた厳しい現実がある。組まれたカードのなかで最後を締めくくった筑波大との対戦。
それは、昨年末の全国大学選手権にて関学ラグビー部へ強烈なまでの差を見せつけた相手との再戦。チームとしての成長具合を量るには、うってつけの機会だった。しかし―
「相手はブレイクダウンの質も高くて、合宿のなかで一番強かった。BKもゲインされたり、抜かれたりして、ずばずばといかれた。
去年対戦したときよりも自分たちは強くなっている自信はあったけど…向こうも成長していた」
レベルアップした手応えは感じられた。それでも、課題は湧き出てきた。
「自信もついてて、けど慢心せずに進める。まだまだ練習しないとアカンねんやなと」
チームが始動してから経過した1年の3分の2もの時間。そこで取り組んできたことへの確信が得られたからこそ、なめさせられた苦杯も収穫と受け止められる。主将は、むろん悔しさもあるだろうが、聞いているこちらも気持ちの高ぶりを感じさせるくらいに、はっきりと口にした。
「筑波大には、まだ勝てないと思いました」
その目は、澄んでいた。
下山してきてから、リーグ戦までの一ヶ月。シーズンの深まりを意識させるこの時期は、チームにとっても大事な期間でもある。歩みを止めることなく、前進あるのみ。
しかし、畑中組はここでチームとしてつまづくことになる。Aリーグに先立てて行なわれるもう一つの公式戦、ジュニアリーグ。その初戦で、関学は黒星を喫したのである。
9月14日、同志社大学Jrとの開幕戦で12-47という完敗。前半は拮抗していたが、後半で一気に崩れた。選手たちは口を揃える。気持ちの問題だった、と。
Aチームのリーグ戦の2週間前に、チームに立ち込めた暗雲。ジュニアリーグは翌週も続く。2戦目をむかえるにあたって、主将はチームを鼓舞した。
「先週、ふわふわした雰囲気のまま臨んでしまっていた。シーズンインした認識をしっかりと持って。
試合に出られないメンバーが、どれだけ悔しい思いをするか。試合に出ているメンバーが勝ちたい気持ちをどれだけプレーにぶつけられるか。もっと強く、もっと表に。ハングリーに出していこうよ!」
むかえた9月21日、大体大Jrとの第二戦。チームは原点に立ち返るとともに、再燃したプライドを表に出した。この試合でゲームキャプテンを務めた副将・湯浅航平(人福4)は語る。
「公式戦であり、チームの代表で試合に出ているという意識を持って。その為のディフェンスを、と。いくら攻撃で点を取っても、取られたら軽くなる。2本取られたけど、良い感じでディフェンスが出来ていたと思います」
38―14で勝利を収め、やはりチームの雰囲気は好転した。ジュニアチームが部の代表として戦果を挙げたことは、Bスコッドにいる部員たちを触発させた。「下の子らが、段々と上のチームに上がっていくなかで、まずはジュニアが頑張ってくれるのが、近い存在とあって刺激になる。チームの底上げにもつながる」とは湯浅の弁。
いよいよAリーグ開幕を週末に控えた週の水曜日。この時期はA、Bスコッドそれぞれに分かれて練習する形を取っていたが、この日は唯一の合同練習日を設けた。そこでのフィットネスのメニューに取り組む際、上位メンバーたちは目を丸くさせた。「スコッドの差がないくらい、良い雰囲気で」と湯浅。カテゴリーを問わず、部員たちが同じ気持ちでグラウンドに立っていたのだ。「やっぱり良いですね。みんなでフィットネスをやって、部全体で同じ熱さでやれるという」。主将は微笑んだ。
こうして、畑中組は上昇気流を自分たちの手で作り出し、リーグ戦への気構えを整えたのであった。
9月29日、群雄割拠を極める関西圏での戦いの火ぶたが切られる。どのチームにとっても、初戦の持つ意味は大きい。開幕を前に行われたプレスカンファレンスの様子を畑中は振り返る。とりわけ、その場に居合わせた初戦の対戦相手・京産大戦のコーチが口にした台詞を。
「元木さんが来られてて『初戦が楽しみです。うずうずしています』と。何度も『初戦』と口にしていました」
京産大の指導に加わった、日本を代表するラガーマン・元木由記雄氏。歴戦の戦士からの宣戦布告をその言葉の節々から感じ取りながらも、こちら関学の主将も負けじとプレスカンファレンスでは、こう述べたという。
「関学としては、ディフェンスとフィットネスが強み。今年から取り組むブレイクダウンも意識して、相手にプレッシャーをかけていく。取り組んできたことを出していきたい」
一つの確信が主将にはある。グラウンドにて、畑中はチームが勝利する姿をはっきりと捉えながら力強く話した。
「やってきたことには自信あるんで。それをやれば、勝てると」
―勝つヴィジョン、イメージは…
「しています!」
畑中組よ、時こそ来たれり。いざ、戦はん。■(記事=朱紺番 坂口功将<広報担当>)