『WEB MAGAZINE 朱紺番』
平山健太郎『泰然自若のパフォーマンス』
投稿日時:2013/11/06(水) 00:04
大抜擢にも彼は、動じる素振りなど微塵も見せずにボールを運び、朱紺色の軍勢を敵の城砦まで押し上げた。10月29日のリーグ第4節・同志社大戦でSOに就いたのは平山健太郎(社4)。そのプレーに、感嘆の声が上がった。
■平山健太郎『泰然自若のパフォーマンス』
敵のどよめきを誘った。当の本人が直接、相手のプレーヤーから言われたのだという。
対戦相手の同志社大が、それこそ徹底的にマークを図っていたのは、関学の『10』番。おそらくはリーグ開幕戦からスタメンを張っているルーキーSO清水晶大(人福1)のことだろう。けれども、実際にピッチに立ったのは4回生プレーヤーであった。
結果として、紺グレのジャージに軍配は上がったが、その男が見せた80分間のパフォーマンスは、単なる『読みが外れた』という表現では足りない。
驚きのスタメン抜擢、けれども、そこで我々が目撃し、抱いたのはSO平山健太郎への信頼感だった。そして、その彼自身もこの場所に至るまで様々な思いを胸に奮闘してきたのであった。
長き沈黙の時を経ていた。平山にとって、大学生活最後の年を迎えても、プレーは出来ずにいた。昨年のリーグ最終戦で負った前十字靭帯損傷の大怪我。復帰まで半年間、それ以上の時間を要した。
「4回生としてミーティングを重ねたりしていて…チームが始まった頃は、一緒にやれなくて、ふがいない思いがありました」
今年に入り、ようやくのことで復帰を果たせたのは春シーズンに設けられた対外試合の最終戦(相手は同志社大)だった。畑中組のシーズンという点からすれば、優に半分以上を過ぎている。
離脱している間に生まれた、自分の置かれた状況への危機感。それでもチームに貢献したいという思いは決して潰えることなく、平山はラストイヤーの戦いに足を踏み出した。
「焦りはありましたけど、復帰してから『まだ間に合うな』って気持ちも。さぁ、どうしようか!と」
示した気概そのままに。チームに復帰してから、瞬く間に平山はトップ・カテゴリーに返り咲く。
夏合宿のさなか、マコーミックHCはSOというポジションの席を巡る顔ぶれについて、名指ししたものだ。〝純正SO〟清水と、〝ディフェンス面で信頼を置ける〟鳥飼誠(人福2)、吉住直人(人福4)、それに平山健太郎、と。
そうして復帰から数ヶ月、関西大学Aリーグが開幕した折に、彼はレギュラー入りを果たすのである。カムバックに込めた思いとは。
「復帰して、この短期間でここまで上がれた。この怪我があったから成長できたかなって。過ごしてきた時間は無駄ではなかった。これからも成長していけたら」
だが、大学最後のリーグ戦は、予期せぬ事態をもって幕を開けた。9月29日の第一節・京産大戦。途中出場を果たした平山であったが、相手プレーヤーとの衝突の際に、脳震とうに見舞われたのだ。その症状は、プレーの記憶を消し飛ばすほどのもの。後日談ではあるが、京産大の友人と話したことも本人は覚えていなかったそうだ。
そこから次節までの間、1週間以上の様子見の期間を経て、万全の状態に。そのときの負傷跡で、第2戦には顔面にテーピングを施して臨んだ。
思わぬスタートダッシュとなったが、公式戦ではトップチーム入りを果たし、出場機会を得た。夏にマコーミックHCが「SOとCTBの両方が出来るのが彼らの強み」と評していた期待に応えた証といえる。
こうしてリーグ戦の折り返し地点となる第4戦で、今季初となるスタメンに抜擢された。
4回生のスタメン選出も今年のチーム情勢からすれば、久しいトピック。試合前、コーチ陣は「彼は緊張しないタイプだから」と一種の安心感を持って、送り出した。当の本人が話すに、緊張感を表に出さないだけだそうだが、この試合には「今日は思ったより緊張しなかった。落ち着いて試合に入れました」。
同志社大に挑むにあたり、平山はSOとしての一つの指令を請け負っていた。それはエリアマネジメントの部分。
「春に同志社大相手にスクラムで負けて。相手もそこはプライド持ってやってたところだと思ったんで、この試合でもFWが劣勢になるのはFW自身も分かっていた。自陣の深い位置でスクラムになってしまうと厳しくなってしまうので、エリアの取り方を一番に考えました」
この試合、SO平山が安定してキックを蹴ったことで、エリア挽回そして獲得が着実になされた。このパフォーマンスを引き合いに、主将・畑中啓吾(商4)は舌を巻く。
「上手いですね。。。去年、一昨年とムラがあったんです。センスはあったけど、それが続かないという。4回生なって、怪我から復帰して安定してきた。常に良い状態でやれていると」
ただし、キックだけではない。反撃の狼煙を上げた前半27分のシーン。敵陣でのラックからボールを外に振って、最後は畑中がフィニッシュを飾った。この場面、畑中はWTBとして、トライを取りきること一点に注力したという。彼にとってはリーグ戦初のトライ。そこでは、大外で構える自分にボールが回ってくるまでの過程である、CTB水野俊輝(人福3)ら内側の選手たちを称えた。そのなかでの平山評。
「健太郎のラインアップしかり。前に仕掛けるという動きですね。相手が引きつけられるし、前にいるディフェンダーが出てくれるので。自分が来るかと思わせる上がり方を彼がしてくれることで、外側が空いてきます」
WTB畑中にフィニッシャーとしての役目のみを遂行させたこと。ここには、平山が心がけていることが根幹にはある。彼自身はSOとしての役目をこう語っていた。
「関学は個人の能力は高いけど、人を活かすよりも自分で仕掛けていくタイプが多い。そのなかで選手の能力を引き出したいなと思っています。
自分の力で、チームの中心となって、選手たちを最大限に活かせるような。強気なリードをしていきたいと」
初めてのスタメン出場を果たした同志社大戦。最終的には80分間のフル出場となった。そこではキックしかり、周りを活かすプレーしかり。SOとしての役目をまっとうした。
だが、結果が伴わなかったことには悔しさをのぞかせる。また司令塔たるポジション、ゆえに「意思疎通、コミュニケーションの部分」がまだまだ周囲との連携が熟していないと試合中には感じたという。
「ゲームの流れを読んで、徹底できていれば、もっと楽に出来たかな」
試合が終わってからも、CTB鳥飼とは入念に話し合い、チームの活かし方を見直していた。
リーグ戦の半ばを過ぎ、トップチームという部の代表として、平山はプレーに励んでいる。これまでの経験から「特別な思いはリーグ戦にある」とは話すが、大学生活最後となる今季はまた違った思いが胸の内にはある。
「どの試合に対しても、4回生として引っ張っていかな、という思いはあります」
開幕戦のハプニングはあれど、レギュラーに居続け、出場するには自身の力を最大限に発揮する。そこで安定したパフォーマンスを見せる。泰然自若の立ち振る舞い、それが4回生プレーヤーであるという点が、部員たちの安堵に似た信頼感をもたらしたことだろう。
そして何よりも、そこで彼自身が勇躍しているのには、これまでの苦難があったから。同志社大戦後に、平山は告白した。
「怪我もあって半年以上もラグビーが出来なかった。いまラグビーが出来て、こうして試合に出れていることに感謝したいし、幸せに思っています」
チームに注ぎ、自らに課す使命感。加えて、プレーが出来ることの幸福感も。4回生ならばいっそうに極み立つそれら様々な思いを身に宿し、平山健太郎はこれからもパフォーマンスを最大限に発揮していくのである。■(記事=朱紺番 坂口功将<広報担当>)
関連リンク
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