『WEB MAGAZINE 朱紺番』 2013/4/30
湯浅航平/井之上亮『意外性のコンビネーション』
投稿日時:2013/04/30(火) 01:20
■湯浅航平/井之上亮『意外性のコンビネーション』
先制点を奪われ、追う展開となった関学。前半15分、相手のペナルティからマイボールを獲得すると、反撃に打って出た。
テンポ良くボールを運ぶ軍勢の中心にいたのはSH湯浅航平(人福4)。そのポジション柄、ポイントが生じれば駆け込み、ボールをつないでいく。その一連の流れのなかで、ふとアクセントとなったのが、湯浅自らがゲインするプレー。相手ディフェンダーの体が横に流れるや、その隙を狙って突破を図る。一人二人とかわし、ゲインに成功すると、次のポイントを作り攻撃の起点となる。
例年では見られなかったプレーについて、湯浅は語る。「もともと自分で行ったりするのは得意だったけど、関学のスタイルに合わなくて。自分で行くな、って去年も言われたり。今年はやりやすいかなと思います」
今シーズン、SHに求められる仕事が増えたと湯浅は話す。アタックの場面、まずはSHが仕掛け、FW陣を活かしていく。昨年度もオフェンスに関しては、ハーフ団が中心となってチーム全体を動かすのがスタイルであった。今年はブレイクダウン(ボール争奪局面)にこだわりを持つぶん、ポイントでのプレーに重みが増す。ボールをキープすること、奪ってからボールをいかに動かすか、ということ。
そこに湯浅は、封印していた自らラインブレイクを図るプレーをすることで、攻撃の幅を広げようというのである。
ただ、自ら仕掛けるだけではない。この場面では、もう一つのアクセントが見られた。ポイントから湯浅がボールを動かそうとするやいなや、パスを渡した相手は、すぐ横に駆け込んできたPR井之上亮(社3)。敵にとっては突然現れた刺客のように映っただろう。ディフェンスラインを突き破る、まさに“刺し”込むようにドライブしてきた重量FW。防御網の隙を狙い、かつ当たり負けしない体躯の良さをもってして前進する。
「練習の成果。計算どおりです!」
そう満足気な表情を見せる井之上。よもやPRが走りこんでくるとは思うまい―その意外性を突いたプレーである。
「練習から常に狙ってて。湯浅さんがディフェンダーを引きつけて、まさかPRがくるとは、っていう。逆に、PRだけどイケるぞ、と思わせつつ、SHが自分で行ったり。どっちかが追われれば、どっちかが空く形で。得意技です」
あまりにも見事に、9番と3番の連携プレーが決まっていた。そうして、最後は湯浅が相手ディフェンスをかいくぐり、ゴールラインに到達。やがて金星へと至る、反撃の狼煙が上げられたのである。
「だいぶ効きますね」。ポイント周辺から防御網を崩していくプレーに湯浅も手応えを感じている様子。「9-3」の連携プレーの相方を褒め称える。「井之上がラインブレイクもするしドライブ力もあるんで。敵がおってもゲインしてくれる」
この日は、湯浅自身、ゲーム序盤にボールが手につかなかった。「緊張ではなかったですけど…焦りというか」。ハンドリングミスで攻撃の機会を逸した。だが、次第に落ち着きを取り戻し、練習していたフォーメーションを用いた動きでトライを奪った。
そのシステマチックなプレーは今年から新たに加えたものである。昨シーズンなどは個々のスキルアップに注力していたが、今は学生たちが主体となってシステム作りに取り組んでいる。自分たちで考えた、自分たちに合ったものを実行している形だ。
考えたプレーを実現するためにも、湯浅は自身にSHとしてのレベルアップを課している。入学当初からトップチーム入りを果たすなど存在感を放ってきたが、昨年はレギュラーの座を1年目のSH徳田健太(商2)に奪われた。それはプレーヤー人生でも経験したことのなかった屈辱だった。「1、2年生の頃は先輩が出てて自分がリザーブでも、気にはしてなかった。けど、去年は後輩に先越されているのがショックで…なかなか巻き返せなかった」
現実にショックを覚えながらも、活躍する後輩の姿を見て、己に足りないものを明確にした。「徳田のプレーを見ていて、速いし上手いなと。それを認めて、そこを伸ばして。去年の終わりは収穫あったんでね。
やっぱり今年も徳田の存在は頼りになるんで、思い切って僕も臨んでいけたら。徳田に劣っているテンポの部分、そこを伸ばしていきたいです」
悔しさをばねにラストイヤーに臨む湯浅。自分の短所を埋めることで、よりチームの目指すスタイルにマッチすると考えている。
「SHからチームをリードしていきたいですね!」
足りない部分を補うという点では、コンビネーションの相方を担った井之上も同じである。ポジションはPR。重戦車たるスクラムの一列目を形成する一人。かつては「スクラムしかやってなかった」と話すが、彼にとって転機があった。それは昨年にU20日本代表に選ばれた経験。
「あそこから全部変わった。対外国人選手を相手に、ずらす動きとかを。PRでもショートステップを習ったりしたんで。あれで変われたと思います」
その変化は、まさに今シーズンにチームが打ち出した方向性にアジャストしている。“フィットネス”“スキル”“コンタクト”の3拍子揃った選手をチームは前提として求めている。以前に、萩井好次アシスタントコーチが「PRだから走れない、とかは論外」と話した台詞はその最たる例。
その点、井之上はフィールドプレーも出来る、一列目の男になった。そこは本人も自覚している様子。慶大戦でのSH湯浅とのコンビネーションプレー。まさかPRがくるとはと思わせる、その意外性こそ彼からすれば、してやったりという当然の産物だったのだ。
「オフェンスは好きなんで、得意なとこは伸ばして。ディフェンスとかダメなとこはしっかりとやっていきたい」
トライフェクタ(三拍子揃っているという意味を含んだ表現)と、それに付随するプラスアルファの部分。フィールドプレーを意識してか、彼が話すに自身のベストとする体重からわざと5キロほど落とした体重で今はいるという。現状は105キロで、「体脂肪を落として、筋力をつけてベスト体重の110キロに」持っていきたいと考えているそうだ。「徐々に増やしていきます」
一方で、本職であるスクラムへのこだわりも忘れてはいない。慶大戦では試合前のロッカールームでPR安福明俊(教2)、HO浅井佑輝(商3)と入念に打ち合わせを行なっていた。
「関西制覇したときはFWが強かったと聞いたんで。FWが強くてこそ、関学じゃないかなと。関東に勝てるくらいのFWを作りたいです」
セットプレーでも、フィールドプレーでも。存在感を欠くことのない、新たなるPR像の誕生を井之上が予感させてくれる。
SH湯浅とPR井之上による連携プレーは慶大を相手に、反撃の一手となった。だが、試合そのものは展開が二転三転するタイトなものに。実のところ、2人とも試合を終えたあとは足をつるほどの状態にあった。
そうして、反省点も。「ターンオーバーとか、取れたとこもあったけど取られたとこもあったんで」と井之上が話せば、後半にチャージを喫し同点を許した場面を引き合いに「システムも、まだやれていないとこが。エリアの取り方やキックの部分が」と湯浅も苦い顔を見せた。
それでも、足りない部分を補完するという過程を自身の経験に刻んでいるこの2人なら、心配は無用だろう。リーダー気質の湯浅も、「今年が勝負」と意気込む井之上も、今シーズンのチームを率いる意欲がみなぎっている。
関東勢相手に白星を挙げ、チームは昇り調子にある。ますます期待が集まるなか、湯浅がふと口にした台詞が気になってくる。
「一番楽しみなのが、システムを作っていくのが。1、2年の頃から温めていた作戦とかもあるんで」
この日、見せた「9-3」のコンビネーションは、その一端に過ぎない。次はどんなプレーで、相手チームの意表をつき、そして観る者をワクワクさせてくれるのだろうか。■(記事=朱紺番 坂口功将<広報担当>)
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