『WEB MAGAZINE 朱紺番』 2013/4
湯浅航平/井之上亮『意外性のコンビネーション』
投稿日時:2013/04/30(火) 01:20
■湯浅航平/井之上亮『意外性のコンビネーション』
先制点を奪われ、追う展開となった関学。前半15分、相手のペナルティからマイボールを獲得すると、反撃に打って出た。
テンポ良くボールを運ぶ軍勢の中心にいたのはSH湯浅航平(人福4)。そのポジション柄、ポイントが生じれば駆け込み、ボールをつないでいく。その一連の流れのなかで、ふとアクセントとなったのが、湯浅自らがゲインするプレー。相手ディフェンダーの体が横に流れるや、その隙を狙って突破を図る。一人二人とかわし、ゲインに成功すると、次のポイントを作り攻撃の起点となる。
例年では見られなかったプレーについて、湯浅は語る。「もともと自分で行ったりするのは得意だったけど、関学のスタイルに合わなくて。自分で行くな、って去年も言われたり。今年はやりやすいかなと思います」
今シーズン、SHに求められる仕事が増えたと湯浅は話す。アタックの場面、まずはSHが仕掛け、FW陣を活かしていく。昨年度もオフェンスに関しては、ハーフ団が中心となってチーム全体を動かすのがスタイルであった。今年はブレイクダウン(ボール争奪局面)にこだわりを持つぶん、ポイントでのプレーに重みが増す。ボールをキープすること、奪ってからボールをいかに動かすか、ということ。
そこに湯浅は、封印していた自らラインブレイクを図るプレーをすることで、攻撃の幅を広げようというのである。
ただ、自ら仕掛けるだけではない。この場面では、もう一つのアクセントが見られた。ポイントから湯浅がボールを動かそうとするやいなや、パスを渡した相手は、すぐ横に駆け込んできたPR井之上亮(社3)。敵にとっては突然現れた刺客のように映っただろう。ディフェンスラインを突き破る、まさに“刺し”込むようにドライブしてきた重量FW。防御網の隙を狙い、かつ当たり負けしない体躯の良さをもってして前進する。
「練習の成果。計算どおりです!」
そう満足気な表情を見せる井之上。よもやPRが走りこんでくるとは思うまい―その意外性を突いたプレーである。
「練習から常に狙ってて。湯浅さんがディフェンダーを引きつけて、まさかPRがくるとは、っていう。逆に、PRだけどイケるぞ、と思わせつつ、SHが自分で行ったり。どっちかが追われれば、どっちかが空く形で。得意技です」
あまりにも見事に、9番と3番の連携プレーが決まっていた。そうして、最後は湯浅が相手ディフェンスをかいくぐり、ゴールラインに到達。やがて金星へと至る、反撃の狼煙が上げられたのである。
「だいぶ効きますね」。ポイント周辺から防御網を崩していくプレーに湯浅も手応えを感じている様子。「9-3」の連携プレーの相方を褒め称える。「井之上がラインブレイクもするしドライブ力もあるんで。敵がおってもゲインしてくれる」
この日は、湯浅自身、ゲーム序盤にボールが手につかなかった。「緊張ではなかったですけど…焦りというか」。ハンドリングミスで攻撃の機会を逸した。だが、次第に落ち着きを取り戻し、練習していたフォーメーションを用いた動きでトライを奪った。
そのシステマチックなプレーは今年から新たに加えたものである。昨シーズンなどは個々のスキルアップに注力していたが、今は学生たちが主体となってシステム作りに取り組んでいる。自分たちで考えた、自分たちに合ったものを実行している形だ。
考えたプレーを実現するためにも、湯浅は自身にSHとしてのレベルアップを課している。入学当初からトップチーム入りを果たすなど存在感を放ってきたが、昨年はレギュラーの座を1年目のSH徳田健太(商2)に奪われた。それはプレーヤー人生でも経験したことのなかった屈辱だった。「1、2年生の頃は先輩が出てて自分がリザーブでも、気にはしてなかった。けど、去年は後輩に先越されているのがショックで…なかなか巻き返せなかった」
現実にショックを覚えながらも、活躍する後輩の姿を見て、己に足りないものを明確にした。「徳田のプレーを見ていて、速いし上手いなと。それを認めて、そこを伸ばして。去年の終わりは収穫あったんでね。
やっぱり今年も徳田の存在は頼りになるんで、思い切って僕も臨んでいけたら。徳田に劣っているテンポの部分、そこを伸ばしていきたいです」
悔しさをばねにラストイヤーに臨む湯浅。自分の短所を埋めることで、よりチームの目指すスタイルにマッチすると考えている。
「SHからチームをリードしていきたいですね!」
足りない部分を補うという点では、コンビネーションの相方を担った井之上も同じである。ポジションはPR。重戦車たるスクラムの一列目を形成する一人。かつては「スクラムしかやってなかった」と話すが、彼にとって転機があった。それは昨年にU20日本代表に選ばれた経験。
「あそこから全部変わった。対外国人選手を相手に、ずらす動きとかを。PRでもショートステップを習ったりしたんで。あれで変われたと思います」
その変化は、まさに今シーズンにチームが打ち出した方向性にアジャストしている。“フィットネス”“スキル”“コンタクト”の3拍子揃った選手をチームは前提として求めている。以前に、萩井好次アシスタントコーチが「PRだから走れない、とかは論外」と話した台詞はその最たる例。
その点、井之上はフィールドプレーも出来る、一列目の男になった。そこは本人も自覚している様子。慶大戦でのSH湯浅とのコンビネーションプレー。まさかPRがくるとはと思わせる、その意外性こそ彼からすれば、してやったりという当然の産物だったのだ。
「オフェンスは好きなんで、得意なとこは伸ばして。ディフェンスとかダメなとこはしっかりとやっていきたい」
トライフェクタ(三拍子揃っているという意味を含んだ表現)と、それに付随するプラスアルファの部分。フィールドプレーを意識してか、彼が話すに自身のベストとする体重からわざと5キロほど落とした体重で今はいるという。現状は105キロで、「体脂肪を落として、筋力をつけてベスト体重の110キロに」持っていきたいと考えているそうだ。「徐々に増やしていきます」
一方で、本職であるスクラムへのこだわりも忘れてはいない。慶大戦では試合前のロッカールームでPR安福明俊(教2)、HO浅井佑輝(商3)と入念に打ち合わせを行なっていた。
「関西制覇したときはFWが強かったと聞いたんで。FWが強くてこそ、関学じゃないかなと。関東に勝てるくらいのFWを作りたいです」
セットプレーでも、フィールドプレーでも。存在感を欠くことのない、新たなるPR像の誕生を井之上が予感させてくれる。
SH湯浅とPR井之上による連携プレーは慶大を相手に、反撃の一手となった。だが、試合そのものは展開が二転三転するタイトなものに。実のところ、2人とも試合を終えたあとは足をつるほどの状態にあった。
そうして、反省点も。「ターンオーバーとか、取れたとこもあったけど取られたとこもあったんで」と井之上が話せば、後半にチャージを喫し同点を許した場面を引き合いに「システムも、まだやれていないとこが。エリアの取り方やキックの部分が」と湯浅も苦い顔を見せた。
それでも、足りない部分を補完するという過程を自身の経験に刻んでいるこの2人なら、心配は無用だろう。リーダー気質の湯浅も、「今年が勝負」と意気込む井之上も、今シーズンのチームを率いる意欲がみなぎっている。
関東勢相手に白星を挙げ、チームは昇り調子にある。ますます期待が集まるなか、湯浅がふと口にした台詞が気になってくる。
「一番楽しみなのが、システムを作っていくのが。1、2年の頃から温めていた作戦とかもあるんで」
この日、見せた「9-3」のコンビネーションは、その一端に過ぎない。次はどんなプレーで、相手チームの意表をつき、そして観る者をワクワクさせてくれるのだろうか。■(記事=朱紺番 坂口功将<広報担当>)
『放たれた三本の矢 』
投稿日時:2013/04/26(金) 15:00
■放たれた『三本の矢』
春のオープン戦も始まり、先週は関西大学に勝利。今週末(4月28日)には関西学院創立125周年記念試合(VS慶應義塾大学)というビックマッチを迎えるにあたって、首脳陣たちの声を聞いた。そこで出てきたキーワードとは、チームの強化にフォーカスを当てたもの。その言葉とは―。
萩井「“Trifecta”(※三連勝単式という意味で用いられる言葉。読み方:トライフェクタ)」
野中「フィットネス、スキル、そしてコンタクトの『三拍子』が揃っているという」
萩井「これまではポジションごとにスキルを優先させていた。『スクラムが強いやつ』とか。それとは逆で、トライフェクタの高い人間をポジションごとに鍛え、ポジションスキルを植えつけていく」
マコーミック「去年、やりたいラグビーは出来ている部分もあった。ただ精度の部分やコンタクト、スキルの点で出来ていないとこも」
萩井「(やりたいラグビーとは)去年でいえば、ディフェンスとフィットネス」
マコーミック「ベースが無いと何も出来ないんです。“Good Foundation”は、その2つでした」
―去年作ったベースをもとに、今年はコンタクトといった部分や精度を上げていくと
萩井「例えばディフェンスの練習をするときもセカンドプレーヤーの働きかけがもっと厳しくないとあかんかったり、足りないスキルの部分ではアタックでもっとボールを継続させるような力、それもコンタクトも含めながら、もっと上げていかないかと。去年作り上げた素地の上に、去年やりきれなかったコンタクトと、スキルでいえばアタックの部分、そこを積み上げていっているところ。その段階であり、また一からやり直すわけではないので、今年は1月から練習しようって。
昔は素材が限られていたから年が変わったら、また次いる選手でこう戦っていこうと考えていたけど、いまはある程度、人数含めて増えてきている。人に合わせるのではなく、“走る”とか“ディフェンス”といったベースのところを継続してやって、そこにどんどん人が送り込まれてくるのが良いかなと。継続していく部分を通じて、『関学でラグビーしたいな』と思って入ってきてくれる子が増えてくれたら」
これまではシーズンごとにチームのスタイルを変えてきたといえる。戦力に応じた形を取ってきた。だが、結果を挙げていくうえで避けられない関東勢との壁を乗り越えるべく、今年は“継続的な強化”を打ち出した。
―関東との差を感じた点では
マコーミック「コンタクトね。去年の練習内容では、どこまでやれるのか、どれだけ出来るのかが、僕が大学が初めてということもあって遠慮していた部分もあった。それが間違いで…タフだったね。反省です」
萩井「コンタクトの部分を強化せなあかんと。去年から本気でフィットネスを年間通じてやってきてて、それはこれからも前提でやり始めていくんだけど…過去の例を見てても、身体を鍛えてコンタクトの練習をがんがんさせても怪我が増えるだけで。去年はフィットネスをやるなかで、そちらを加減してしまっていた部分があった。そこも甘かったなと。
今年は、年を越してかなり早い段階でコンタクトの練習にも取り組んでいるんやけど、素地として怪我の起こりにくい身体は出来てきていると。ウエイトトレーニングを継続していることもあるし、ずっと走り込みもしているし、身体が強くなっている部分も。しんどくて思考が停止して怪我が起こりやすくなることが今はほとんど無い。なんで、その素地が出来ているので今年はがんがんやっても怪我人が出ないだろう、と。そういう前提で取り組んでいくので、関東との足りない部分をどんどん補っていける一年になるんじゃないかな」
―手応えはどうですか
萩井「みんな意識上がってきてくれているのは嬉しい。筑波大には点差つけられた。けど思うのは、昔と違って真っ向勝負であの点差(0-54)。何が足りないかを、ある程度自分たちのなかで絞られていると思う。『これが足りないから、フォーカス当てたら結果出せるな』と確信を選手たちが持ってくれているから。だから嫌なことにも前向きに取り組んでくれている」
―今年の畑中組はどのようなキャラクターに映っていますか
野中「みんな真面目というか…本気でラグビーするという気持ちは伝わってくる。だからこそ本気でサポートしたいと思えているし。中途半端な気持ちでやっているチームだったら僕らコーチ陣も本気なられへんからね。学生たちには、あくまでも主役は学生たちなんだと。彼らがどれだけ主役として活躍できるか、そのうえで主役として活躍するために我々コーチ陣が全力でサポートすると約束しました。それを信じて、取り組んでくれているんじゃないかと」
萩井「すごい前向きに取り組んでいる」
マコーミック「すごい楽しみにしている感じ。本当に誰も逃げてないし頑張れている」
ここから話は、それぞれの思いへ。新シーズンにかける意気込みを語ってもらった。

(写真=野中孝介監督)
―監督という立場からシーズンをむかえます
野中「選手たちはラグビー部員でありその前に関学の大学生なので、僕は監督という立場から人間として成長といったところを問いたいというか…例えば帝京大学が4連覇したわけだけど、やはり彼らの人間性は高くて。グラウンドでの過ごし方とか。ただ、それをやったからといって日本一になれるわけではなく。けど日本一にふさわしい人間であるかどうかは問いていきたいし…。仮に日本一になれなかったとしても、まわりの人が関学を応援したいと思ってくれるようなチームが良いと思っているので。
主役は学生なので、学生たちが主体的に。 表現は難しいですけど、監督という名前だけど、選手たちを下から支えてあげるような、ね。」

(写真=アンドリュー・マコーミックHC)
―続いてマコーミックHC。関学での2年目はどういった思いで臨んでいますか
マコーミック「まず…チームがどの方向にいくかを示すこと、それが僕の役割ではと思います。選手たちには細かく。
それともう一つは。今までは僕の場合は18歳からプロのラグビー選手としてプレーしてきて…グラウンドとグラウンド以外の過ごし方を選手たちに落とし込みたいです。ラグビーのノウハウを。僕はラグビーを通してグラウンド以外の示すものは大きいと。ラグビーだけじゃなくて人間として伸びることが大事だと思っています。その点で、僕にも責任はあると。選手たちにはグラウンド外でも関学ラグビー部員として誇りを持ってもらいたい。
そこで…僕はHCだけど、上からではなくて同じ視点でね。選手とコミュニケーションを取れることを目標としています。僕含めチームとして同じ考え持つことで伸びることが出来る。全員で一つになって動くことが大事で、それはグラウンドでもグラウンド以外でも。自分は去年HCをやって今年も。自分が伸びることを目標にしています。“Better Never Stop”です」
―トップリーグでも2年目に結果を出されてました。そうした経験は今後も活きてくるものですか
マコーミック「うん…全く環境が違う。東芝は元々強くて…そこから伸びて伸びて強くなった。関学は弱いとは言わないけど、いま出来上がっているベースを伸ばして、それに加え弱い部分を上げていく。社会人と比べるのは難しい。関学では関学のHCとしての自分を考えていくだけです。もちろん経験は落とし込んでいくけど、必要なものとそうでないこと、合うことと合わないことがあるので。18歳からの経験は選手たちに落とし込みたいなぁと。いま自分はコーチとしてピークなので。」
野中「いつでもピークということです」
マコーミック「もちろん! 毎日“Better Never Stop”で。去年よりは関学のコーチとしてはベターだと思います。
—強化する点については
マコーミック「ディフェンスとフィットネスはベースとして、それは変わらない。コンタクトとスキルが足らなかったので、そこを」
―コミュニケーションを大事にされると
マコーミック「ラグビー以外のことも話しながらね、コミュニケーションは取っていく。選手もスタッフともです。 やはりグラウンドだけでは時間が無いので。事務室でミーティングしたりビデオを見たりして。やってみる人は良くなる、見る人は良くなる、聞く人は良くなる。全部員の細かいとこまでは無理だけど、出来るところはやってみたいし今年も続けたい。
それとセレクションの理由も伝えないといけないから。なぜメンバーに選ばれなかったのか、が伝わらないと。僕が日本語をみんなみたいに使えないこともあるけど、理由を理解してもらうことは大切で…。だいたい分かるんです、うまく伝わらなかったな、って。ボキャブラリーが足りないとこがあるから、ラグビー以外の友達も必要かもね(笑)」
―学生のコーチング、楽しいですか?
マコーミック「イエス! みんなポジティブ。みんな遠慮しないよ。だからこそ『マコーミックは何でも話が出来る』という関係を作りたい。“Communication is Very Important”」

(写真=萩井好次AC)
―続いて萩井コーチに。強化のポイントを。
先日のスクラム練習時に『FW8人で15人を圧倒する』と声を上げていましたがその言葉の意図とは。実際に可能なものか
萩井「出来ると思うで。そこを目指すつもりもやるつもりもないけど、ラグビーはFWだけで勝とうと思えば勝てる。例えば、やるつもりはないけどスクラムを100メートル押せたら勝てるやんか。仮に最悪のコンディション、SHがパスを投げたらSOが必ずノックオンするような状態で…FWだけで戦うことになったと。そこで相手が15人で向かってきてもFWで押し切れたら勝てるやん。チーム全体としては、それを目指してはないけど、ある意味FWという職業に携わるんだったら、それは考えとしてやるべきことだと。それは俺の基本的な考え。
俺の理想は…試合が始まる前から相手が負けている状態を作るのが理想。それくらい関学のFW8人はオーラが出ている、相手が『絶対負けるやろうな』と思っているような状態で試合に来させるような。そこに至るまでのバックグラウンドとしての練習の量と質が必要だと。
チーム全体としては走れることが前提でそれは学生にも伝えてあるけれども、FWとしての意識はそうあるべきだと」
―萩井コーチ自身にとっても原点回帰の意味合いも見て取れます。FWに専念できる、その態勢が整ったと
萩井「そう思ってもらって間違いない。あとはコンタクトの部分。スキルとか細かい部分はマコーミックがやってくれるとは思うけど…FWに勝てるくらいのBKにしたいと。たぶん帝京大のAチームのBKって、ウチのAのFWとやりあっても、けっこうやりようと思うねん。でも、いまのウチのBKは関学高等部のFWとやりあってもわからない。モールとかブレイクダウンでね、もしかしたら。それをもっともっと引き上げなあかん。最終的にはウチのBKが、ウチのFWとやりあえるようなくらいにならないと。
―サイズが小さくても強い選手。WTB畑中君(今年度主将=商4=)は去年もあんなに強かったのか、という印象があるが
マコーミック「啓吾はコンタクト強くなっているね」
萩井「意識がそこに向いているから。いまは全員の意識がコンタクトに。そこを埋めたら、全然強くなる。関東との大きな差はそこやと思うしね」
マコーミック「選手がグラウンドのどこに立っても、動けることが」
萩井「PRだから走れない、とかは論外。最低でもBKなみにディフェンスはしてもらわないと。オールラウンダーを、ポジションごとに鍛えていく」

―それでは最後に野中監督に伺います。創立125周年記念試合にむけて、意気込みを。そして応援していただけるファンの方々にメッセージを。
野中「まず、125周年記念試合の実施にあたり関係各位へ感謝申し上げます。僕たちラグビー部は関西学院のスクールモットー“Mastery for Service(奉仕のための練達)”の精神に基づき、関西学院大学の学生として誇りを持ってプレーします。そしてファンの皆様に勇気と感動を与えられるよう、部員・スタッフ一丸となってベストを尽くします」
関西から日本一へ。放たれた三本の矢に期待したい。■(取材・構成:福本浩兵、坂口功将)
関連サイト
関西学院創立125周年記念サイト
関西ラグビーフットボール協会
関西学院創立125周年記念試合のお知らせ
畑中啓吾『VISION』
投稿日時:2013/04/18(木) 19:22
■畑中啓吾『VISION』
一つの戦いが終えんを迎えたとき、男は涙していた。ロッカールームという空間で、こぼれる嗚咽が響く。とめどなく流れる涙が全てを物語る。12月23日、筑波大戦。チームとしても、そして個人として、完敗を喫した。
「しばらく泣き叫んで…家に帰って、そっこう寝ました。試合が終わったときは…4回生の為に何も出来なかったという申し訳ない気持ちと」
関東王者の壁を痛感したラストゲーム。そのなかで、彼自身も、対峙した相手WTBとの差を思い知った。
「人生で初めてぐらいの…完敗でした。一対一では」。その相手の名は福岡堅樹。ジャパンにも選ばれた、日本トップクラスの快足WTB。畑中は、はっきりと述べる。「力の差、感じました、正直」。
戦いが終わってしまったことへの無念と、一人のプレーヤーとしての屈辱に、関学のエースWTBは打ちのめされた。昨シーズンは、どんな状況でも前向きな気持ちで臨んでいたと話すが、それをも覆い尽くすほどのショックが最後に待っていた。「なかなか…立ち直ると言うか…また頑張ろうという風に持っていくのは難しかったです」。畑中啓吾の2012年は、こうして終わった。
しかし、どれだけ打ちひしがれようとも時間は流れる。一つの戦いの終わりは、次なる戦いの始まりを指す。年末から、翌年の最高学年を控えた当時3回生の部員たちは体制づくりに向け話し合いを進めた。チームづくりについて、キャプテンを誰にするか、等々。部として移り変わろうとする状況のなか、畑中もメンタルに関する書籍を読むなどして、意識を次に向けた。
例年であれば、シーズンが終わればオフ期間に突入、2月の納会にて新体制が発表され、新チームが本格的に始動する。だが、継続的な強化を打ち出した今回は年明け早々から練習を開始させることに。1月9日の全体ミーティングでその旨が伝えられた。と同時に、監督・コーチ陣からも新体制が述べられ、想定している新キャプテンの名もホワイトボードに記載された。そこで書かれたのは、畑中の名前だった。
「ある程度、予測というか…自分がなる覚悟はしてましたけど、会議室9のホワイトボードを見たときにどきどきしました。今まで意識はしてたけど…それが濃くイメージできた。心臓がバクバクと」
けれども、この時点で学生間ではまだキャプテンは決まっておらず。部員たちが納得する形を取るためにも、一旦は話を持ち帰った。そこからの約一ヶ月間。畑中を筆頭に、PR南祐貴(人福4)、FL丸山充(社4)、SH湯浅航平(人福4)の4人でローテーションを組み、毎日の練習時のリーダー役を回した。部員同士でも、一対一で話し合う機会を設け、むろんキャプテン候補同士でも。そこで互いの本音をぶつけあった。畑中は、同期にこんな問いかけもしたと明かす。俺がキャプテンをやったら、どう思う―?
「『それは全然大丈夫と思うけど、去年WTBとしてトライゲッターの務めも果たして、それプラス、キッカーの仕事もあって…それにキャプテンの仕事を与えられて、プレーに集中できなくなってしまわないか』って。『啓吾はチームのことを考え込まずにプレーに没頭して欲しい』と言ってくれたんです、何人かが」
そうした声を素直に受けとめた。一方で、彼のなかにある反骨心にも似たハートにも火が灯されていた。
「そんなんで負けない!というか…。役職を与えられても、トライを取りきる自信はあるし、キックを決める自信も。よくよく考えたら、しっかり練習して、しっかり準備すれば大丈夫なことだと思ったんで。心配しなくていいよ、と後日伝えました」
心積もりは出来ていた。そうして最後の決め手となったのは、チームが目指す方向性。それは、4回生がどれだけ団結できるか、加えて、ついていく下級生たちが4回生をどれだけ思えるか、といったものだった。
「下のチームからも4回生の為に頑張ろうと思えるようなチームは強いと。小原さんの代の4回生は本当にみんなから愛されてたと聞いたので。そういうチームを目指すためには4回生のモチベーションを上げないといけない、と」
部員たちの闘志の起爆剤となる存在とは。まわりは満場一致で、畑中を思い浮かべたことだろう。「練習も100パーセントでやってて、自主練もやって、努力している」と同期は感心を抱く。その存在がリードする姿を見れば、誰もが闘争心をかきたてられる。
ここに誕生した、エースWTB畑中啓吾が率いる『畑中組』。部内で最も努力をする人間が先頭に立ち、その努力する姿を見て高いモチベーションを持つことが出来るチーム。
主将は意気込む。「もともと努力はし続けてきて、それをすることは当たり前なんですけど…。3年生の時とかは自分のためだけに努力をしていた。足りないとこを補って、自分が活躍すればチームのためになると思ってた。
今年は、チームのみんなにも努力をさせていかないといけない。自分のためだけの努力じゃなくて、チームのためを考えた努力を」
キャプテンという立場から。これは、部員たちに頭ごなしに伝えるものではない。ただ、努力とはやるべき大前提であり、その目的がどこにあるのかということ。エースという役割を担った経験も踏まえ、畑中のなかに芽生えたものである。最高学年になれば、役職・ポジションを問わず自然と湧き出てくるものでも。けれども学年の垣根を越え、部員みながベクトルをチームに向ければ、そこに膨大なパワーが生まれ、やがては結果につながる。
だからこそ、チームとして行なわせなければならないのだ。畑中が見せる努力を、全員が―
昨シーズンから関学にHCとして携わることになったマコーミック氏。コーチ就任の知らせに興奮をかくしきれなかった様子を振り返る畑中は、その新HCから嬉しい言葉をもらった。「ケーゴは練習中からも一つひとつのプレーを大事にしている。常に努力をし続けて、高いモチベーションでやっている」と。
誰の目にも映る、畑中啓吾の努力する様。しかし本人が話すに、そこに至った経緯があるという。チームの勝利に得点という形で貢献した昨年のさらに一つ前。彼が2回生の頃の話だ。
高校は名門・東海大仰星高校。双子の兄弟プレーヤーとして話題になり『畑中ツインズ』の名で花園を席巻した。高校2年生次からレギュラーを張り、一方で年代別の様々なカテゴリーの代表メンバーに選出もされたこともあった。
一目置かれる実力は確かに持っている。だが、当の本人が思い返すに“うぬぼれ”を生んでいた。大学2年生次、シーズンが始まる1、2週間前に肩を故障した。復帰してからも、思うようなプレーは出来ず。トップチームもといジュニアチームでもゲームに出れず、下位に甘んじていた。「練習、努力がついてなかった。肩の怪我を言い訳にして」。そのままシーズンを終えて、気づかされた。このままではいけない、と。
「自分が弱いというのを認めたくなかった。自分は凄いと思いこんでて…けど全然弱かった。それを自分で認めたるのが、なかなか出来なかった。
どん底にいて…そこから頑張ろう、と。3年生のときにプライドを全部捨てて…自分の力量を認めるようになって。強くなるために何をしなアカンか、それを見つけたら、努力をする。その繰り返しを」
自分自身の弱さと向き合い、克服したときに、彼は“生まれ変わった”。体格差の不利をカバーするため、ウエイトトレーニングに取り組んだ。スピードやパワーで劣るぶんは、ステップといったスキルを磨いた。その結果として、3年目にチーム内における絶対的存在へとなりえたのである。
気持ちの部分が持つ要因の大きさ。さらなるレベルアップを目指すか、それとも現状に留まるか。気持ちを切り替えることで、そこからの道のりが大きく変わることになる。
上昇志向について、畑中は一つのキーワードを述べる。それは、自分自身の現在地をどこに置くか、というもの。分かりやすく言うならば、“自分らしさ”。「『セルフイメージ』というもので、自分がその場所におって心地が良いもの。自分にとって、それ以上でも、それ以下になっても居心地が悪く感じるみたいなんです」
彼にとって、昨シーズンはAチームのリザーブで出場する機会も多く、当初はそこが自身にとって最適な居場所だったという。「レギュラーになったら緊張するし、あたふたして、『自分が活躍せなあかん』とかそういう思いもありますし、正直居心地は悪かったです。けど、それ以下、BチームCチームになると、それまた居心地が悪い。自分らしくない、『もっと上に上がらないと』って」
現状がどういったものであるのか。そこから自分が考える現在地を、自分らしいと思える場所まで押し上げること。そして、そこにたどり着くまでに努力が必要となってくるのだ。
いまの畑中にとってはトップチームで活躍する姿、いや、それ以上のレベルを自身に抱くべきイメージだと捉えている。「レギュラーになってトライ取る、そこは普通というか…。自分のなかでは、もっと。日本一のセルフイメージを持っていかないといけない」
目指すは頂点。畑中は続ける。「当然、それに合った練習はしないとだめですけど…たぶん日本一になるのは簡単だと思うんですね。気持ちの部分が大きいと。日本一になることが難しいと思ってしまえば、それを達成することが出来ないと思ってしまう。自分がなれると思えば、すごいイメージするんですね、日本一になったときのこととかを。居心地が良いというか、にやけてくる…いまはそう思うようにしてます」
頂点こそが自分にふさわしい場所だと考えていれば、そこに至らぬ現状など納得できるはずもない。
セルフイメージを高めること。畑中組の主将は、そのことをチームにももたらしたいと考えている。昨シーズンの全国大学選手権を引き合いに、畑中は語る。
「関東のチームを相手にしたときに、もちろんこっちは勝つつもりでいくけど。先入観といいますか、まずは気持ちの部分で負けたと。慶應大にしても法政大にしても、勝ち切れなかった」
話すに、昨季で全国4連覇を達成した大学王者・帝京大は、頂点こそが自分たちの居場所であると考えているのだと。関学もそこを目指してはいる、が、ふさわしいと思えるまでには至っていない。かといって、関西大学Aリーグで下位に位置することには違和感を感じる。つまりは、「関西上位」が関学のセルフイメージにおけるレベルであったのだ。
畑中組が目指すは日本一。その場所をどこまでイメージできるか、自分たちにとってふさわしい場所と思えるか。そして、そこに行き着くために何をすべきかを考え、実行していくこと。
チームとしては、昨年に磨き上げたフィットネスとディフェンスをベースとして、ブレイクダウン(ボール争奪局面)とコンタクトの面を今年は加味していく。それは、昨年に関東勢を相手に身に染みて痛感した“差”でもある。
シーズンが始まり、取り組むメニューもより具体的なものになっている。「いま朝練もしてますし、ブレイクダウンもしっかりやって。練習はやってきている。あとはメンタル。セルフイメージを高めていかないと。僕もまだ完全にそう思えてるかと言えば、そうでないと思う。やっぱり心のどこかで帝京大は強い、筑波大は強いと思っている。自分たちにとって強い姿こそがふさわしいと思えるようにすれば、そうなれると」
ラストイヤーに臨むにあたって、畑中は様々なヴィジョンを抱いている。主将という立場からチームのことを。はたまた一人の選手として、プレーする様を。
「トライ取ることは仕事だと。WTBの義務といいますか…トライにはこだわって。キッカーも、やりますね。去年はシーズンを通して(成功率が)7割くらい。全部決めるつもりで…それこそ全部決めるのが、自分らしいと思えるくらいに。それが自分にふさわしい、と」
雪辱を果たすことも忘れてはいない。あの最終試合でスカイブルーの快足WTBに振り切られた完敗の記憶、それに対するリベンジ。「次は、止めれます!」
イメージは出来上がっている。それが色濃くなればなるほど、必然として努力の量は増えるだろう。これは畑中の持論だ。「どんな人も、絶対に辛い経験をしている。そこで凄い努力をしていると。簡単にはステップアップはしない。
自分は不器用だし…泥臭く、努力し続けるしか。それが自分らしいのかなと」
負けもした。自我を見失ったこともあった。だが、表面だけでなく、心の底から見つめ、愚直なまでに前に進むからこそ。彼の努力する姿が人を惹きつける。
2013年度関西学院大学体育会ラグビー部『畑中組』。このチームがいかなる栄光を掴むかは、誰も分からない。けれども、チームを率いる彼のヴィジョンを部全体が共有することが出来れば。
努力の結晶は、国立の地で形作られるはずだ。■(記事=朱紺番 坂口功将)
藤原慎介『敢闘の記憶とフィールド』
投稿日時:2013/04/04(木) 00:18
いつしか欠かせない存在になっていた男は、やがてチームの将となった。2012年度関学ラグビー部『藤原組』のキャプテン・藤原慎介(商卒)へのラストインタビュー。自身について、チームについて、卒業にあたり語り明かした。
■藤原慎介『敢闘の記憶とフィールド』
卒業式の翌週、その1週間後には社会人という新しい舞台が開ける、“学生”として過ごす最後の1週間。その週初めに、昨年度に関学ラグビー部の主将を務めた男に時間を取ってもらった。これが、『藤原組』のラストインタビューになる。そう伝えると、一瞬寂しげな表情を浮かべたが、すぐに、普段見せる柔らかな顔つきに戻った。
実のところ、チームの戦いが終わった昨年末から会うのは久しぶりのこと。引退して卒業するまで顔を合わせていなかった。その期間、彼にとっては、つかの間の休息の時間でもあったのだろう。聞くところによれば、小学生時代から何かしらのスポーツに興じてきたという。高校から始めたラグビーも、果ては大学生活4年間も、“漬け”の日々だった。そして、それは4月から始まる次のステージでも。トップリーグ下部のトップイーストに籍を置く栗田工業への入社が決まっている。引退してからのこれまで、次第に意識はそちらへ向いていたようだ。
「自分のゲームよりも、トップリーグの試合とか。征克さん(西川=文卒/ナンバー8=現サントリー)凄いな、と思ったり。次のステージでやらせてもらえることを考えたら…上のレベルのプレーを、こんなラグビーを、って」
テレビでの試合観戦やビデオで、国内最高峰のプレーを見ていた。とき同じくして、自身が1年生だった頃の最高学年の先輩が、トップリーグの大一番で活躍を見せていたことも関心を高めた。かと言って、去年の、自らが率いたチームの戦いを彼方に追いやったわけではない。「見たら余計に悔しくなるんで」と話すように、振り返れば真っ先に出てくるのは、悔しい記憶。
インタビューのせきを切ったのは、リーグ戦で喫した2つの黒星についてだった。「天理戦は…勝てた試合でしたし。立命大戦を、『雨で負けた』とは言い訳で、結局は実力差。悔しいス。『晴れてたら』と思うときもあったけど、そのときの状況で勝てるかどうかが、そのチームの強さだと思うんで」
自身が船頭に立った一年、苦く辛い思いもした。こぼれた白星が、頂への道のりをふさいだ。目標を叶えることの出来なかった事実が、胸を覆う。それでも、誇れることが彼のなかで確たるものとして存在するからこそ、引退してからも表情に影が落ちることはない。抱く悔しさは、屈辱の傷ではなく、思い出のアクセントである。
「負けた試合があるんで…『あぁしとけば』と思うこともありますけど。でも、2年生のときから使ってもらったのは、ありがたいことですし。3年生のときはフル出場して、少なからず自信につながった。もちろん、全試合出続けたいし、全員の気持ちを背負って出てるわけですから、負けられないと。その点は、人一倍強く持っていました」
様々なポジションへのコンバートを経て、存在感を増していった藤原慎介は2年生次にレギュラーに抜擢。3年生次には公式戦フル出場を果たした。そうして最高学年になり、主将としてピッチに立つことになったのである。
藤原組がスタートして初めてのインタビューでも彼は「怪我しないことも、ゲームに出続けることも自分がキャプテンをやらせてもらっている理由」と語っていた。それから、まる1年間、公式戦全試合フル出場を果たし出てきた台詞は同じだった。「2年連続で出続けられたのもキャプテンやらせてもらえた理由です」。その双肩にチーム全員の思いを背負い、戦い続けた。
2年生にレギュラーとなり、自身のなかで沸き出た強き闘志。当時の主将・緑川昌樹(商卒/HO=現NTTドコモ)が奮闘する姿を目の当たりに、「緑川さんの為に頑張りたい。どうにか自分の力を発揮したい」とがむしゃらにプレーした。翌年、試合に出場する上級生がそれほどいなかったチーム事情を背景に、同回生とともに「チームを引っ張ろう。一緒に盛り上げれたら」と奮った。そして、最後の一年。「この人の為に頑張りたいと思ってもらえるようなキャプテンになれたら」と、かつて下級生の頃の自分が抱いた思いを持ってもらえるように志した。
高校時代に主将を務めた経験はあったが、「当たり前だけど、全然違うくて」。別次元の境地、そこで念頭に置いていたことは。
「やっぱり体を張って、声を出していくしかないなと。あとは常にミスをしたらいけないと。一つひとつの行動に責任が伴う。それまでは考える前に行動してたことも、一瞬考えてから行動するようになりました」
主将ならではの責任感と重圧を受けながらも、彼の性格でもあるであろう冷静に物事を捉える点はぶれなかったように思える。以前、マコーミックHCはこう話していた。「彼は、僕が見たこともないくらいすごく冷静。練習でもゲームでも同じパフォーマンスが出せるし、変わることがない。それは選手たちからも信頼できる点だと」。主将というポジションを経験した者が話す、キャプテンに求められるもの。どのフィールドでもベストパフォーマンスを発揮すること、だという。
それでも、ときに藤原は「僕がキャプテンをやっててエエんかなと、春シーズンが始まってからも思うときがありました」と告白する。チームを引っ張ることの難しさ、加えて大所帯となったチーム事情もさらに起因するなかでの苦悩。しかし前に進めたのは、やはり“仲間たちの存在”だった。
「ついてきてくれて、支えてくれた仲間には感謝してます。しゅっぴー(首藤聡一郎=社卒/WTB=)とか彰吾(石川=文4/HO=)が下のチームで、文句を言うことなく、自分たちの経験を踏まえて、まとめてくれた。練習中もすごく体を張ってくれたたし。下の学年の子たちから、『しゅっぴーさんがおらんかったら大変でした』って声も聞きましたしね。それを聞いたら嬉しかったです。僕もチーム全体を見ているつもりでも、練習中はトップチームのことと自分のことで精一杯になるんで。
まわりが本当に色々とやってくれました。ヤス(安田尚矢=人福卒/FL=)も悠太(春山=文卒/CTB=)も練習中に声出してくれますし。自分が高校からラグビー始めたこともあって、ラグビーのサインで分からないことも多くて。それを、まわりが埋めてくれた。越智(慶=人福卒=)も裏方の仕事をやってくれたり。
支えてもらって…僕がやることは誰よりも体を張って。ラグビーをやることが僕の役目だと、途中で気づかされました」
重責に伴う苦悩がいつ晴れるのか、答え無き難題に主将は必ず苛まれる。仲間たちの手助けによって緩和されることもあるし、シーズンが終わるまで解かれることはないのかもしれない。「(引退、卒業に際して)やっぱり寂しいですよ。もっと関学でラグビーが出来るならやりたかった。キャプテンって形じゃなくて、ね。次、社会人になったら1年目としてのラグビーが始まるけど、自分が大学1年の頃とか、もう覚えてない(笑)。自分が好きなようにラグビーが出来るっていう感覚なんて」
チームに一つしかないそのポジションが背負うものは自らを奮い立たせるカンフル剤でもあり、その副作用としてプレッシャーに付きまとわれることになる。けれども、それらを味わった上で藤原だけがたどり着けた世界がある。
「大変やったし嫌なことも多かったし…けど、それ以上に、得られるものは大きかったと。きれいごとや言われるかもしれないスけどね。同じ学年の誰よりも成長させてもらえたと思います!
毎年、一人しか経験させてもらえないですし…そもそも『大学のキャプテン』って、一生誰にも経験できない。ありがたいことです。これから先にも、つながってくることだと。今でも、やってて良かったなと思える瞬間ありますしね!」
自身が先頭に立って、突き進んだ一年も昨年の12月23日に聖地・花園にて終えんを迎えた。関東王者・筑波大にも真っ向から挑み、そして散った。主将は、最後までピッチに立っていた。「全部終わったんや、って気持ちが強かったです」。悔しさよりも、解放感が勝っていたのだろう。戦いが終わったことへの、ある種の安堵。「このグラウンドに入ることはもう無いんやろうな、って」。だが、藤原慎介のエピローグは、このときではなかった。
彼はオフシーズンの間に関西ラグビー協会のベスト15に選ばれることに。その表彰式の会場が花園だったのである。ファーストジャージを着用、スパイクも履いてのゲーム仕様で写真撮影が行なわれた。
「筑波大戦が終わってから初めてスパイクの袋を開けたんです。そしたら、靴に残ってた芝の匂いが、ぶわぁ、って出てきて」。あの長くも短くも感じられたシーズンを終えてから、再び降り立った聖地のグランド。「花園でラグビーしたいな、って思いと…負けた試合の悔しさがこみ上げてきました」
そのフィールドは、かつての自分では立つことなど想像もしなかった場所。高校時代は無縁そのもの。けれども大学でレギュラー入りを果たし、公式戦を初めて戦った会場が花園だった。そうして学生生活を締めくくったのも。聖地は、彼にとってスタート地点でありゴール地点でもあった。
朱紺のジャージを着ての戦いは、ここに完結した。そして、わずかながらの春休みを経て、次なる舞台へと歩を進める。それが花園でなくとも。いまそこに立つフィールドこそが、藤原慎介、彼自身の主戦場である。■(記事=朱紺番 坂口功将)
2013年4月
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