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『WEB MAGAZINE 朱紺番』 2012/11

観戦記『藤原組のファイナルアンサー ~近大戦~』

投稿日時:2012/11/30(金) 01:30

 リーグ最終戦にて、たどり着いた境地。つまりは『カンガク・ウェイ』。いま、藤原組は一つの答えを導き出した。

 

■観戦記『藤原組のファイナルアンサー ~近大戦~』

 

 試合後のチームの全体集合。部員150人が集う輪に向かってマコーミックHCが前に出る。開口一番、「イエス!!」。その顔は、普段から見せる笑顔よりもさらに高陽している様子。そのわけは、やはりこの日のゲーム内容にあるだろう。11月25日、リーグ最終戦で藤原組が見せたラグビーとは。


 消沈ムードに突入しようとしていた。前半開始から許した連続トライ。相手ペースになっていたわけではない。ただ、歯車に微々たる狂いが生じていた。グラウンドコンディションとのミスマッチもあったという。しかし主将・藤原慎介(商4)が要因に挙げたのは「意思疎通」だった。ディフェンス面、とりわけ組織的な守備に関してはシーズンを通して培ってきた部分。ディフェンスにあたり「誰がどこを見るか」、そこで生じた歪みを近大に突かれた形だった。


 だが、序々に組織面での本来の動きを取り戻す。それにつれて、ボールを持つ時間帯も増えていく。チャンスをものに出来ない場面が続くが、逆襲の時はいままさに訪れようとしていた。そうして前半33分、今季大活躍のWTB畑中啓吾(商3)が、持ち味のスピードとパワーをミックスさせたプレーでインゴールを割る。トライゲッターが決めた一撃が持つ効力か。直後、攻撃に転じてBK陣がボールを前へ運ぶなか、CTB松延泰樹(商4)があわやノックオンのぽろりと思いきや、〝幸運の左足〟でチップキックの形に。インゴールへ転々とする楕円球を松延が押さえ、あっという間に同点となったのである。前半を終え、14-14の同点。反撃ムードで充たされた前半最後の10分間の好転は、残り40分間で繰り広げられる協奏曲のプロローグに過ぎなかった。



 この試合、初めてSOとして先発出場を果たした春山悠太(文4)は話した。「近大も良いディフェンスするチームで。前半はこっちが攻めて攻めて」、それでも取り切れずに、ああいう内容になったのだと。後半に臨むにあたって「やっとスイッチ入ったな、と」。前半40分のスコア上の拮抗なぞ、どこへやら。後半、怒濤のトライラッシュが幕を開けた。


 その攻撃は、相手の気力を奪い、足を止めてしまうまでのものだった。リーグ戦を通して幾多のトライを上げてきた面々が、この日も攻撃のフィニッシュを飾る。もはや得点シーンは、リプレイを見ているかのごとく、一つのパターンとして繰り出されたものだった。


 言うならば。春山は端的に述べる。「フィットネス。それが自分たちのやりたいラグビー」。グラウンドに立つ全員が攻守両方の場面で走ること。ボールキャリアーが前に出る。相手のディフェンスにより止まる。そこに走り込んでくるFW陣。ボールを確保し、態勢を整える。広がるBK陣へボールが渡る。ボールの動きとともに、展開しゴールラインまで走り切る。


 その動きが、途切れることが無いのだ。フェイズを重ねること、いやそれもあるが、40分間一時もこちらの足が止まることが、無かった。それが相手の心を折った一因だろう。


 予兆はあった。前半最後の10分間、反撃の狼煙となったプレーもまさに同じような展開だった。後半の40分間、その展開をやり続けた結果が、実に7トライという数字だったのである。このアタック面について主将はこう語る。


 「とにかく順目順目に。FWも一生懸命走って、ポイントを作って、空いたスペースにBKが働いてくれる。FWが頑張って走れば、BKがトライを取ってくれるという信頼感があります」


 FWとBKが織り成す剛柔多彩の波状攻撃。それはまるで、協奏曲の如し。FW陣も身体を張り、ときにボールを運ぶこともいとわない。最たる例は一列目の男・PR幸田雄浩(経4)だ。前節の京産大戦でも見せたように、ボールを持ち自ら突き進むシーンがこの日もあった。相手ディフェンダーとの衝突ありきのそれを〝剛〟と呼ぶならば、〝柔〟はやはりBK陣なかでもバックスリーだろう。スピード、テクニックそして強さも相まって決定力はもはや言うまでもあるまい。松延、畑中を筆頭にフィニッシャーとしての役目を存分に果たしている。



 今シーズン、新しくチームにやってきたマコーミックHCは藤原組に、彼らに見合ったスタイルを落とし込んだ。今年のチームに備える機軸。現在のラグビー日本代表を率いるエディー・ジョーンズ監督が提唱した『ジャパン・ウェイ』に倣った、『カンガク・ウェイ』なるもの。この夏の時点で、HCは言い放った。


 「1にフィットネス、2にディフェンス。3にアタックで4にコンタクト、そして5番目にセットプレー。これが『カンガク・ウェイ』になります。フィットネスは厳しく見ていて、走れないとトップチームに上がれないほどに。いまフィットネスを軽視する人は少ないです」


 とにかく、走れることをチームに求めたのである。技術や戦術よりも、動けること。メンバー選考でも、このフィットネスが重視されたという。そして、そこからチームのスタンスとして、守れることを第一に据えたのである。


 以前、主将は口にした。「走って、走って、ディフェンスして、勝つ」。春シーズンは、それらに終始した。対外試合はロースコアに持ち込むゲームプランを徹底して実践。練習時間はディフェンスの構築に費やしてきた。もとより、昨年の新里組のスタイルだったアタッキングラグビーの財産を引き継いだ点もあったが。それゆえに、攻撃面は度外視し上半期を乗り越えた。


 半年間を終えて、手応えはあったのだろう。それとも、チームの強化の工程表に組み込まれていたのか。夏からアタック面の増強に取り組んだ。秋、『カンガク・ウェイ』は、陽の目を見るところまで迫っていた。


 こうして藤原組はリーグ戦へと臨んだのである。一つの完成形を持ってして、大一番でもあった開幕戦に挑む、そのつもりだった。だが、強敵・天理大が相手だっただけに、チームはここで勝利至上主義のもと方針を変更する。主体としたのは、キックで陣地を獲得するもの。それが黒星という結果に直結したわけでは決してないが、自分たちのラグビーはなりを潜めていた。


 相手への対策を講じるばかりに、いつしか相手の土俵のなかでラグビーをしてしまうことになっていたのだ。リーグ戦の最中、チームは再度確認する。自分たちのラグビーとは、と。


 ようやく『カンガク・ウェイ』の実現がなされた。2勝2敗で迎えた11月3日の摂南大戦。順目に人とボールを動かすことを意識づけした。片鱗が見えてきた。


 続く京産大戦。ディフェンス面では課題が残る内容で相手との打ち合いになったが、80分間の最後の最後までメンバー全員が走り切った結果、大逆転勝利を収めた。


 そして、リーグ最終戦となった近大戦。後半40分間、相手に1つのトライも許すことなく、ねじ伏せた。



 何度も言おう、走れることは前提だ。ディフェンス力、それは負けない為の絶対条件だ。そしてアタック力、勝つ為の必要条件である。


 上半期を経て、藤原組はディフェンスラグビーが機軸となると思われた。試合を見てきた者は、誰もそのことを疑わなかっただろう。しかし、どうだろう。封印してきた攻撃力が加味された今のラグビーは。そう、これが進化の証、藤原組が導き出した答え、『カンガク・ウェイ』なのだ。


 面白いことに、春シーズンでは幾度とパワーあふれるトライを見せてきた主将・藤原だが、このリーグ戦で奪ったトライ数は0。それだけ、いまはBK陣を中心に攻撃的な要素がチーム全体へ万遍に行き渡っていることを意味しているのではないだろうか。


 近大戦、チームの司令塔としてボールを配球した春山は振り返った。「チームがやろうとしたことが出せたのが、嬉しかったです」。


 リーグ戦が終わり、結果として関西3位。主将は「正直、悔しいですね」と漏らした。けれども、もう間もなく全国の舞台が藤原組を待ち構えている。


 「関学のスタイルを徹底すること。今から新しいことをしても仕方がないので。精度を上げていくことで。

 どの試合も勝たなければならないのは決まっている。自分たちのラグビーが関東に通用するか、それを試せるに十分な相手。楽しみ、だと」(藤原)


 『カンガク・ウェイ』を、今こそ見せつけてくれ。(記事=朱紺番 坂口功将)

観戦記『勝利を生んだ意識統一 ~京産大戦~』

投稿日時:2012/11/16(金) 12:06

 応援するものにとっては、心休まらぬゲーム展開だった。ノーサイドへ刻々と時間が進み、黒星の影がちらついても、フィールドに立つ朱紺の闘士たちは一心に走り続けた。試合後に語った主力選手たちの言葉で解く、京産大戦の逆転勝利。

 

■観戦記『勝利を生んだ意識統一 ~京産大戦~』
 

 

 いつものことだ。ゲーム開始から、自分たちの強みを前面に押し出しての真っ向勝負でくる。その相手とは、京都産業大学。伝統的なスタイル、それすなわち強力FWの主張。これに対し、FWリーダーを務めるPR幸田雄浩(経4)は意気込んでいた。


 「(京産大は)絶対的にセットプレー、モールと自信持っていると思う。ウチが圧倒できたらと」


 開始の笛が鳴ってからのファーストプレー。敵陣に入るや、FW陣で猛進する。相手のお株を奪うかのような、意地のようにも写った縦へ縦へのボール運び。リーダーは振り返る、「FWでいくと決めてました」と。そうして開始3分、PR石川裕基(社4)がゴールポスト横にボールを叩きこみ先制点を奪った。


 その直後、FWのぶつかり合い、マイボールスクラムの場面。スタンドからの応援が響き渡る。


 『オヤジ、ガンテ、コーダたけひろさん!!』


 それは転じて相手のスクラムになっても変わらない。コマーシャルソングを模したコール。


 『押したって関学、押したって関学、関学スクラム押したって


 FWが一丸となって、対する8人と組み合う。この日の敵は、そこにいつも以上の熱が生じる相手。応援するスタンドもコール合戦を展開し、グラウンドで戦う選手たちのプレーを後押しした。そうして序盤から2トライを奪い、優位に試合は運ばれると思われた。主将・藤原慎介(商4)は振り返る。


 「入りも得点できて、良い流れで。ただ得点したことで、今日はいけるんではないか、と少し出てたのかも」

 前半20分まではFW戦でも手応えを掴み、流れをものにしていた。だが、ほんの少しの綻びが事態を変えることになる。



 

 試合の入りは確かに、FW同士が互いの力量を存分に打ち出した形だった。けれども実のところは、この試合にむけて関学が意図していたところは異なる。これまでのリーグ戦を顧みていくなかで、チームとして目指す『自分たちのラグビー』を再確認した。それは攻撃面での認識。「全員が走って順目にアタックを仕掛けていく」もの。HO金寛泰(人福2)はこう話す。


 「これまで相手の対策をし過ぎて、自分たちの形を失っていた。京産大戦は、順目にアタックするというテーマを持って。スクラムもブレイクダウンも負けたらダメなところなんで、FWとしてプライドを。相手の土俵に付き合い過ぎずに」


 FW戦を制することは、すなわちゲームを制する為の前提条件だったのだ。そうして土俵に乗るのではなく、こちらの土俵に引き込ませる展開。それを目論んでいた。だが、ささいなミスとペナルティを積み重ねた結果、自滅という名の隙を相手に与えてしまったことで、自分たちの土俵に引き込むつもりが、思いもしなかった勢いで踏み込まれることになったのである。受身になったうえ、自陣でのプレーを許すことに。京産大FBの自在な動きに翻弄され、あれよと2本のトライを奪われる。極めつけは前半のラストプレー。関学は敵ゴールライン寸前まで迫りマイボールスクラムを獲得する。しかしペナルティでみすみす相手にボールを明け渡すと、一気に外へ展開される。不意をつかれたか、油断したのか。ディフェンスの整備もままならず、3本目のトライを決められた。


 相手につけいる隙を与えてしまったこと。加えて敵の土俵とは異なる部分で勝負を持っていかれた事実。嫌なムードは存在した。この状況でチームはハーフタイムをいかに過ごしたのか。CTB春山悠太(文4)は明かす。


 「前半リードされて折り返して。『焦らないこと』そして『落ちない』ことを徹底してやろう、と。どの時間帯であっても、ミスがあったとしても。焦らず前を向いていく。シンプルなことを、チームのなかで意識統一させました」


 ゲームが破綻しかねない状況において、成された意識の統一。たとえ、どんなに追い込まれても、戦い抜く姿勢は出来上がった。こうして激動の後半が始まった。



 仕掛けたのは関学。後半7分、WTB畑中啓吾(商3)がPGで点差を詰め寄ると、続けざまに同じくWTB金尚浩(総政2)がトライを決め逆転に成功する。攻撃ではパスワークでミスを犯しても、相手スクラムでスクラムホイールを決めるなど、流れを取り戻そうとした。だが、それでも京産大は前半からのモメンタムを手放そうとはしない。一進一退の攻防が続くなか、後半20分に再度逆転を許すと26分にもトライを決められる。点差は11点、試合は残すところ10分と少しとなっていた。


 この場面、さすがにグラウンドもスタンドも焦燥感が蔓延していた。無理もない、2トライ以上の差がそこにある。ただ、フィールドの選手たちは焦りもあったが、それだけに支配されていたわけではなかったようだ。

 「焦ったけど僕よりも周りの下級生の部員たちの表情があまりにも焦り過ぎてて。どんな焦ってんねんや!と(笑)。すごい不安そうにしてました。そこは4回生で声かけて、立て直したいと」


 そのときのチームトークの様子を主将は笑い飛ばす。焦ってない、と言えば嘘になる。けれども、焦らずに前を向こう。ハーフタイムで留めたその気持ちがあったからこそ、たとえ2トライ差をつけられたこの状況でもチームに影が落ちることはなかった。「チーム全体が前向きやった」。春山はそう語った。


 残る時間はわずか。関学はリザーブを全員投入し、再度突き進む。疲労の少ないフレッシュな風が運ばれてくる。フィールドに立つメンバーが変わっても、チームとして意識することは変わらなかった。ずばり、『自分たちのラグビー』を貫くということは。


 試合は残り10分を切った。足を止めず走りに走り、順目に展開、かつ丁寧にボールをつなぐ。まずは一本、最後はナンバー8中村圭佑(社2)がトライを決める。この時間帯、BKFWも、いやそうして表現を分けるのもはばかれるほどに選手たちはフィールドを駆け回った。その姿は、まさに『自分たちのラグビー』そのもの。春から磨いてきてもの、リーグ戦では潜ませていたスタイル。


 となるとフィニッシャーは、やはりこの男だ。CTB松延泰樹(商4)が弾丸のような走りで相手ゴールを陥れる。「相手のディフェンスが俊輝(水野=人福2=)に詰めてたのが見えて。あとは覚えてないけど、がむしゃらにトライ取りにいきました」。残り4分、逆転に成功した。「まだ、ほっとはしてなかった。とりあえず、といったところで焦りはありましたし。京産大の流れはあったんで」と松延。この時点で点差はまだ安全圏にない。かの同志社大を下した京産大の持つ、乗せてしまった際の勢いは最後まで警戒せねばならない。「キープではなく、ボール動かそう」と。チームトークで、攻めの姿勢を崩さないという意識統一を図った。



 それからは圧巻だった。試合終了までの数分間。ほんの10分ほど前まで漂っていた、ひっ迫感など微塵も感じさせない活き活きとした姿を見せる。春山が追加点を上げ、引き離すと終了間際でもトライを奪い、2トライ差をつけてノーサイドの瞬間を迎えた。


 試合後、選手たちは口を揃えてゲーム内容について供述した。『自分たちのラグビー』を意識統一して、と。主将の弁。


 「テンポの早い、とにかく走ってボールを動かす。順目にしっかり走ってトライを取りきる。全員が意識統一されているときの関学って凄いなと。途中も、何したらいいんやろうって不安に思うメンバーが一人や二人ほどいてた。けど、そこでチームとして一つになって」


 だから、勝利を手繰り寄せることが出来た。思えば、試合に臨む姿勢そのものがそうだった。つまりは初志貫徹の果ての白星。


 それに加えて、特筆すべきことがある。80分間のゲームのなかで、選手たちが自分たちの力で施したもの。適応と修正である。藤原が話すに「ゲームの途中もワンパスつながればトライの場面もあった。そこで単純なパスミスも見られて。シンプルなアタックをしょう」とチームに説いたという。


 金寛泰も敵の最大の武器と対峙した点をこう振り返る。「最初はクセのあるスクラムにやっかいだなと。陣地によって1番が横から、とか、3番が内に寄せてきたり、とか組み方を変えてきた。幸田さん、オヤジさんと話あって、『低さとセットスピードを意識しよう』と。対応して、自分たちの形にできた」。


 いくら自分たちのプレーを心がけようとしても、ときに想定外の局面は訪れる。これまで苦い思いをしてきた場面は、そういったものだった。自分たちのミスで自滅した天理大戦、焦りを振り払うことが出来ずにずるずると負けた立命大戦。それらの経験を踏まえたうえで、身につけた修正能力が発揮されたのがこの日の京産大戦だった。


 リーグ戦もほとんどを消化し、シーズンは佳境に突入しようとしている。この1勝は、そのなかで挑んだ最後のゲームだったのではないだろうか。それは、自分たちへの戦い。これまでとは違うスタイルもとい原点への回帰、どれだけ苦しい場面でも前を向く不撓不屈の精神。それらを身につけ自分たちの殻を破った、そんな一戦だったと。


 最後まで戦い抜くという選手たち。最後まで声援を送り続けるというスタンド。目指す先への、チーム全体の意識統一が、これからの過酷な戦いには必須だ。そして、それはもう藤原組には備わっている。(記事=朱紺番 坂口功将)

 

安部都兼『掴むはレギュラー。目指し続けたもの』

投稿日時:2012/11/06(火) 02:30

 いま自分はグラウンドに立っている。朱紺のジャージを身にまとって。それは目指し続けてきたもの。SO安部都兼(経4)のレギュラー獲り絵巻、続編。

 

■安部都兼『掴むはレギュラー。目指し続けたもの』
 


 秋には10番を? 「着たいです」。控えめながらも、ニヤリと見せた笑顔に、意欲と自信がにじみ出ていた。
 

 そう綴ったのは6月の中頃だったか。あれから4ヶ月ほどが経った。始まった最後のリーグ戦。いま彼は朱紺色の、『10』番のユニフォームを着ている。


 「最高に嬉しかったですね! 今年のターゲットでもあったんで。誇りに思っています」


 リーグ戦開幕時をそう振り返る。狙ってきたその座。選手層の厚さ、パフォーマンス、戦術、幾多の要因が壁となって、これまで掴めずにいた。それでも、チームの代表そして朱紺のジャージをただひたすら目指し歩んできた。最高学年として目標にたどり着いたいま、思いはひとしおだ。それは、春先ではトップチーム入りを果たしながらも、リーグ戦では選出されなかったという過去の経験があったから。


 安部といえば、その器用さとプレーの精度の高さから、BK陣のなかでもFBに始まり、WTBそしてSOと、幅広いポジションを担えるユーティリティーさが最大の特徴。「FBが好きですけど」と前置きしたうえで、彼は述べる。


 「ポジションに対するこだわりは無くて、レギュラーへのこだわりしか。与えられたとこで、やるだけ。求められているならば、SOをやるだけです」


 いま安部が就くSOは、自身が話すに高校時代に少し経験があるだけのものだった。大学2年生次の秋にチームから乞われ、他のポジションと兼任するように。そうしてラストイヤーは、春先から「10」番を背負った。大所帯のチーム事情とあって、どのポジションも一概にはいえないものの、やはりSOも多数のプレーヤーがひしめく。春シーズン、アピール期間の最中で彼は選手層をこう語っていた。


 「SOはいっぱいいてて急に増えたんじゃないかと。それぞれに良いとこがある。自分はランとキックで負けないように思っているし、一番になれるとも。まだSOは横並びと思っている。秋どうなるか分からないです」


 レギュラー争いの激しさを受け止め、にらんでいた。大学生活最後の一年、今度こそ。「ライバルがいっぱい。毎週が勝負って感じです」。



 果たして掴んだレギュラー。その日々は、これまで知りえなかった境地であった。

 「下には上手い子がいっぱいなので、危機感持って」。トップチームが公式戦を戦う一方で、チーム内の競争は終わっていない。リーグ戦すなわち今シーズンの本番の舞台ではあるが、それは水面下において現在進行形で繰り広げられている。そこに打ち克つべく、安部は己と向き合い、その日々を過ごす。


 「毎週試合ありますし、身体のケアはしっかりと。

 難しいですね。安定した力を毎試合発揮しないと。ムラがあってはダメで」


 常に求められるパフォーマンスを最大限に発揮すること。それがレギュラーたるに必要なもの。安部自身にも、その自覚は芽生えた。目標を見据えていたからこそだ。


 「(安定したパフォーマンスを出せるように?) やっとそうなれた。最初は軽いプレーもしてたけど、安定したプレーを出来るように少しはなっているかと。意識の問題ですね。レギュラーなりたい、という思いでやってきたので」


 どれも、彼にとって初めて味わう感覚だろう。これが、その境地に踏み入れた者だけが知るものだ。「4回生でのリーグ戦もやっぱり違いますし、それにリーグ戦のレギュラーも初めてなんで。毎試合、新鮮な気持ちでいてます」。まずは目標にたどり着いた喜びもあり、いま身を置く新しい世界の居心地に浸ってか、安部は口元を緩ませた。


 リーグ戦が開幕し、全試合で「10」番・スタメンを果たしている。得意のキックが見せ場となるプレースキックは後輩WTB畑中啓吾(商3)に譲っているが、「そこは信頼しているので大丈夫です」ときっぱり。ならば、SO=司令塔としてチームを牽引するのが役目だ。


 「ゲームのコントロールが求められている。勝っても負けても、自分に責任がある」。SOの持つ使命を安部はそう話す。



 2勝2敗で迎えたリーグ第5節、摂南大戦。チームを動かすという点では反省を口にした。


 「テンポ上げたかったんスけど。僕がラインを押し上げても、前が詰まってたり、相手のディフェンスがノブ(松延)、ユウタ(春山)に詰めてきていたりで。抜きにいくとこは抜きにいかないとダメですね。ちょっと中途半端なプレーもありました」


 この試合では、それまでのリーグ戦で見せていた戦い方とは異なるそれを見せた。キックで陣地獲得を狙う戦術から一転して、ボールを回し順目のアタックを徹底していくもの。ただ、それ自体はチームにとって目新しいものではなく、春シーズンは実践してきたスタイルだ。つまりは〝原点回帰〟。


 となると、選手間のコミュニケーションそしてボールキャリアーの判断が大切になってくる。結果としてチームは快勝を収め(40-7)、勝ち越しに成功した(3勝2敗)。「今日の試合では上手くいった」と話す一方で、安部は修正点を自分自身に落としこんでいく。チームを引っ張っていく立場として、さらなる成長をにらむ。


 それでも、ゲームのなかでは実に安部らしい場面が見られたのも事実だ。前半32分、相手がこぼしたボールが目の前に転がるや、前方へ蹴り出す。転々とインゴールに転がる楕円球に追いつくと、ダウンボールが認められトライをゲットした。


 泥臭くトライを奪ったプレーもあれば、反面スマートなプレーも。後半30分、敵陣を攻め込み、順目にボールをつたわせるうちで、安部は視線を大外へやった。視界に写ったのは、相手の防御網の外側を駆け上がる朱紺のジャージ。そこではパスを振らずに、右足を振り上げ、キックパスを放った。そのボールはすっぽりとナンバー8中村圭佑(社2)の腕のなかに。お見事としか言い様のないアシストで、追加点を演出した。


 得点につながった右足の塩梅。どちらも「感覚で。こんなもんだろう、と(笑)。」一瞬の判断で繰り出される、精度も伴った足技。安部の持つ器用さを物語っている。


 ようやく手にした、レギュラーの座。スポーツ界には格言がある。『なることは容易、そこにい続けることが難しい』。安部にとって、次の目標は、レギュラーであり続けることだ。


 だが、それも彼が口にした思いがある限り、叶うことだろう。「チームの勝利に少しでも貢献できるように、頑張っていくだけです」。この意気込みが、己のパフォーマンスを最高に発揮する、何よりの原動力になる。(記事=朱紺番 坂口功将)

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