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『WEB MAGAZINE 朱紺番』

安部都兼『掴むはレギュラー。目指し続けたもの』

投稿日時:2012/11/06(火) 02:30

 いま自分はグラウンドに立っている。朱紺のジャージを身にまとって。それは目指し続けてきたもの。SO安部都兼(経4)のレギュラー獲り絵巻、続編。

 

■安部都兼『掴むはレギュラー。目指し続けたもの』
 


 秋には10番を? 「着たいです」。控えめながらも、ニヤリと見せた笑顔に、意欲と自信がにじみ出ていた。
 

 そう綴ったのは6月の中頃だったか。あれから4ヶ月ほどが経った。始まった最後のリーグ戦。いま彼は朱紺色の、『10』番のユニフォームを着ている。


 「最高に嬉しかったですね! 今年のターゲットでもあったんで。誇りに思っています」


 リーグ戦開幕時をそう振り返る。狙ってきたその座。選手層の厚さ、パフォーマンス、戦術、幾多の要因が壁となって、これまで掴めずにいた。それでも、チームの代表そして朱紺のジャージをただひたすら目指し歩んできた。最高学年として目標にたどり着いたいま、思いはひとしおだ。それは、春先ではトップチーム入りを果たしながらも、リーグ戦では選出されなかったという過去の経験があったから。


 安部といえば、その器用さとプレーの精度の高さから、BK陣のなかでもFBに始まり、WTBそしてSOと、幅広いポジションを担えるユーティリティーさが最大の特徴。「FBが好きですけど」と前置きしたうえで、彼は述べる。


 「ポジションに対するこだわりは無くて、レギュラーへのこだわりしか。与えられたとこで、やるだけ。求められているならば、SOをやるだけです」


 いま安部が就くSOは、自身が話すに高校時代に少し経験があるだけのものだった。大学2年生次の秋にチームから乞われ、他のポジションと兼任するように。そうしてラストイヤーは、春先から「10」番を背負った。大所帯のチーム事情とあって、どのポジションも一概にはいえないものの、やはりSOも多数のプレーヤーがひしめく。春シーズン、アピール期間の最中で彼は選手層をこう語っていた。


 「SOはいっぱいいてて急に増えたんじゃないかと。それぞれに良いとこがある。自分はランとキックで負けないように思っているし、一番になれるとも。まだSOは横並びと思っている。秋どうなるか分からないです」


 レギュラー争いの激しさを受け止め、にらんでいた。大学生活最後の一年、今度こそ。「ライバルがいっぱい。毎週が勝負って感じです」。



 果たして掴んだレギュラー。その日々は、これまで知りえなかった境地であった。

 「下には上手い子がいっぱいなので、危機感持って」。トップチームが公式戦を戦う一方で、チーム内の競争は終わっていない。リーグ戦すなわち今シーズンの本番の舞台ではあるが、それは水面下において現在進行形で繰り広げられている。そこに打ち克つべく、安部は己と向き合い、その日々を過ごす。


 「毎週試合ありますし、身体のケアはしっかりと。

 難しいですね。安定した力を毎試合発揮しないと。ムラがあってはダメで」


 常に求められるパフォーマンスを最大限に発揮すること。それがレギュラーたるに必要なもの。安部自身にも、その自覚は芽生えた。目標を見据えていたからこそだ。


 「(安定したパフォーマンスを出せるように?) やっとそうなれた。最初は軽いプレーもしてたけど、安定したプレーを出来るように少しはなっているかと。意識の問題ですね。レギュラーなりたい、という思いでやってきたので」


 どれも、彼にとって初めて味わう感覚だろう。これが、その境地に踏み入れた者だけが知るものだ。「4回生でのリーグ戦もやっぱり違いますし、それにリーグ戦のレギュラーも初めてなんで。毎試合、新鮮な気持ちでいてます」。まずは目標にたどり着いた喜びもあり、いま身を置く新しい世界の居心地に浸ってか、安部は口元を緩ませた。


 リーグ戦が開幕し、全試合で「10」番・スタメンを果たしている。得意のキックが見せ場となるプレースキックは後輩WTB畑中啓吾(商3)に譲っているが、「そこは信頼しているので大丈夫です」ときっぱり。ならば、SO=司令塔としてチームを牽引するのが役目だ。


 「ゲームのコントロールが求められている。勝っても負けても、自分に責任がある」。SOの持つ使命を安部はそう話す。



 2勝2敗で迎えたリーグ第5節、摂南大戦。チームを動かすという点では反省を口にした。


 「テンポ上げたかったんスけど。僕がラインを押し上げても、前が詰まってたり、相手のディフェンスがノブ(松延)、ユウタ(春山)に詰めてきていたりで。抜きにいくとこは抜きにいかないとダメですね。ちょっと中途半端なプレーもありました」


 この試合では、それまでのリーグ戦で見せていた戦い方とは異なるそれを見せた。キックで陣地獲得を狙う戦術から一転して、ボールを回し順目のアタックを徹底していくもの。ただ、それ自体はチームにとって目新しいものではなく、春シーズンは実践してきたスタイルだ。つまりは〝原点回帰〟。


 となると、選手間のコミュニケーションそしてボールキャリアーの判断が大切になってくる。結果としてチームは快勝を収め(40-7)、勝ち越しに成功した(3勝2敗)。「今日の試合では上手くいった」と話す一方で、安部は修正点を自分自身に落としこんでいく。チームを引っ張っていく立場として、さらなる成長をにらむ。


 それでも、ゲームのなかでは実に安部らしい場面が見られたのも事実だ。前半32分、相手がこぼしたボールが目の前に転がるや、前方へ蹴り出す。転々とインゴールに転がる楕円球に追いつくと、ダウンボールが認められトライをゲットした。


 泥臭くトライを奪ったプレーもあれば、反面スマートなプレーも。後半30分、敵陣を攻め込み、順目にボールをつたわせるうちで、安部は視線を大外へやった。視界に写ったのは、相手の防御網の外側を駆け上がる朱紺のジャージ。そこではパスを振らずに、右足を振り上げ、キックパスを放った。そのボールはすっぽりとナンバー8中村圭佑(社2)の腕のなかに。お見事としか言い様のないアシストで、追加点を演出した。


 得点につながった右足の塩梅。どちらも「感覚で。こんなもんだろう、と(笑)。」一瞬の判断で繰り出される、精度も伴った足技。安部の持つ器用さを物語っている。


 ようやく手にした、レギュラーの座。スポーツ界には格言がある。『なることは容易、そこにい続けることが難しい』。安部にとって、次の目標は、レギュラーであり続けることだ。


 だが、それも彼が口にした思いがある限り、叶うことだろう。「チームの勝利に少しでも貢献できるように、頑張っていくだけです」。この意気込みが、己のパフォーマンスを最高に発揮する、何よりの原動力になる。(記事=朱紺番 坂口功将)