『WEB MAGAZINE 朱紺番』
観戦記『勝利を生んだ意識統一 ~京産大戦~』
投稿日時:2012/11/16(金) 12:06
応援するものにとっては、心休まらぬゲーム展開だった。ノーサイドへ刻々と時間が進み、黒星の影がちらついても、フィールドに立つ朱紺の闘士たちは一心に走り続けた。試合後に語った主力選手たちの言葉で解く、京産大戦の逆転勝利。
■観戦記『勝利を生んだ意識統一 ~京産大戦~』
いつものことだ。ゲーム開始から、自分たちの強みを前面に押し出しての真っ向勝負でくる。その相手とは、京都産業大学。伝統的なスタイル、それすなわち強力FWの主張。これに対し、FWリーダーを務めるPR幸田雄浩(経4)は意気込んでいた。
「(京産大は)絶対的にセットプレー、モールと自信持っていると思う。ウチが圧倒できたらと」
開始の笛が鳴ってからのファーストプレー。敵陣に入るや、FW陣で猛進する。相手のお株を奪うかのような、意地のようにも写った縦へ縦へのボール運び。リーダーは振り返る、「FWでいくと決めてました」と。そうして開始3分、PR石川裕基(社4)がゴールポスト横にボールを叩きこみ先制点を奪った。
その直後、FWのぶつかり合い、マイボールスクラムの場面。スタンドからの応援が響き渡る。
『オヤジ、ガンテ、コーダたけひろさん!!』
それは転じて相手のスクラムになっても変わらない。コマーシャルソングを模したコール。
『押したって関学、押したって関学、関学スクラム押したって―』
FWが一丸となって、対する8人と組み合う。この日の敵は、そこにいつも以上の熱が生じる相手。応援するスタンドもコール合戦を展開し、グラウンドで戦う選手たちのプレーを後押しした。そうして序盤から2トライを奪い、優位に試合は運ばれると思われた。主将・藤原慎介(商4)は振り返る。
「入りも得点できて、良い流れで。ただ得点したことで、今日はいけるんではないか、と少し出てたのかも」
前半20分まではFW戦でも手応えを掴み、流れをものにしていた。だが、ほんの少しの綻びが事態を変えることになる。
試合の入りは確かに、FW同士が互いの力量を存分に打ち出した形だった。けれども実のところは、この試合にむけて関学が意図していたところは異なる。これまでのリーグ戦を顧みていくなかで、チームとして目指す『自分たちのラグビー』を再確認した。それは攻撃面での認識。「全員が走って順目にアタックを仕掛けていく」もの。HO金寛泰(人福2)はこう話す。
「これまで相手の対策をし過ぎて、自分たちの形を失っていた。京産大戦は、順目にアタックするというテーマを持って。スクラムもブレイクダウンも負けたらダメなところなんで、FWとしてプライドを。相手の土俵に付き合い過ぎずに」
FW戦を制することは、すなわちゲームを制する為の前提条件だったのだ。そうして土俵に乗るのではなく、こちらの土俵に引き込ませる展開。それを目論んでいた。だが、ささいなミスとペナルティを積み重ねた結果、自滅という名の隙を相手に与えてしまったことで、自分たちの土俵に引き込むつもりが、思いもしなかった勢いで踏み込まれることになったのである。受身になったうえ、自陣でのプレーを許すことに。京産大FBの自在な動きに翻弄され、あれよと2本のトライを奪われる。極めつけは前半のラストプレー。関学は敵ゴールライン寸前まで迫りマイボールスクラムを獲得する。しかしペナルティでみすみす相手にボールを明け渡すと、一気に外へ展開される。不意をつかれたか、油断したのか。ディフェンスの整備もままならず、3本目のトライを決められた。
相手につけいる隙を与えてしまったこと。加えて敵の土俵とは異なる部分で勝負を持っていかれた事実。嫌なムードは存在した。この状況でチームはハーフタイムをいかに過ごしたのか。CTB春山悠太(文4)は明かす。
「前半リードされて折り返して。『焦らないこと』そして『落ちない』ことを徹底してやろう、と。どの時間帯であっても、ミスがあったとしても。焦らず前を向いていく。シンプルなことを、チームのなかで意識統一させました」
ゲームが破綻しかねない状況において、成された意識の統一。たとえ、どんなに追い込まれても、戦い抜く姿勢は出来上がった。こうして激動の後半が始まった。
仕掛けたのは関学。後半7分、WTB畑中啓吾(商3)がPGで点差を詰め寄ると、続けざまに同じくWTB金尚浩(総政2)がトライを決め逆転に成功する。攻撃ではパスワークでミスを犯しても、相手スクラムでスクラムホイールを決めるなど、流れを取り戻そうとした。だが、それでも京産大は前半からのモメンタムを手放そうとはしない。一進一退の攻防が続くなか、後半20分に再度逆転を許すと26分にもトライを決められる。点差は11点、試合は残すところ10分と少しとなっていた。
この場面、さすがにグラウンドもスタンドも焦燥感が蔓延していた。無理もない、2トライ以上の差がそこにある。ただ、フィールドの選手たちは焦りもあったが、それだけに支配されていたわけではなかったようだ。
「焦ったけど…僕よりも周りの下級生の部員たちの表情があまりにも焦り過ぎてて。どんな焦ってんねんや!と(笑)。すごい不安そうにしてました。そこは4回生で声かけて、立て直したいと」
そのときのチームトークの様子を主将は笑い飛ばす。焦ってない、と言えば嘘になる。けれども、焦らずに前を向こう。ハーフタイムで留めたその気持ちがあったからこそ、たとえ2トライ差をつけられたこの状況でもチームに影が落ちることはなかった。「チーム全体が前向きやった」。春山はそう語った。
残る時間はわずか。関学はリザーブを全員投入し、再度突き進む。疲労の少ないフレッシュな風が運ばれてくる。フィールドに立つメンバーが変わっても、チームとして意識することは変わらなかった。ずばり、『自分たちのラグビー』を貫くということは。
試合は残り10分を切った。足を止めず走りに走り、順目に展開、かつ丁寧にボールをつなぐ。まずは一本、最後はナンバー8中村圭佑(社2)がトライを決める。この時間帯、BKもFWも、いやそうして表現を分けるのもはばかれるほどに選手たちはフィールドを駆け回った。その姿は、まさに『自分たちのラグビー』そのもの。春から磨いてきてもの、リーグ戦では潜ませていたスタイル。
となるとフィニッシャーは、やはりこの男だ。CTB松延泰樹(商4)が弾丸のような走りで相手ゴールを陥れる。「相手のディフェンスが俊輝(水野=人福2=)に詰めてたのが見えて。あとは覚えてないけど、がむしゃらにトライ取りにいきました」。残り4分、逆転に成功した。「まだ、ほっとはしてなかった。とりあえず、といったところで…焦りはありましたし。京産大の流れはあったんで」と松延。この時点で点差はまだ安全圏にない。かの同志社大を下した京産大の持つ、乗せてしまった際の勢いは最後まで警戒せねばならない。「キープではなく、ボール動かそう」と。チームトークで、攻めの姿勢を崩さないという意識統一を図った。
それからは圧巻だった。試合終了までの数分間。ほんの10分ほど前まで漂っていた、ひっ迫感など微塵も感じさせない活き活きとした姿を見せる。春山が追加点を上げ、引き離すと終了間際でもトライを奪い、2トライ差をつけてノーサイドの瞬間を迎えた。
試合後、選手たちは口を揃えてゲーム内容について供述した。『自分たちのラグビー』を意識統一して、と。主将の弁。
「テンポの早い、とにかく走ってボールを動かす。順目にしっかり走ってトライを取りきる。全員が意識統一されているときの関学って凄いなと。途中も、何したらいいんやろうって不安に思うメンバーが一人や二人ほどいてた。けど、そこでチームとして一つになって」
だから、勝利を手繰り寄せることが出来た。思えば、試合に臨む姿勢そのものがそうだった。つまりは初志貫徹の果ての白星。
それに加えて、特筆すべきことがある。80分間のゲームのなかで、選手たちが自分たちの力で施したもの。適応と修正である。藤原が話すに「ゲームの途中もワンパスつながればトライの場面もあった。そこで単純なパスミスも見られて。シンプルなアタックをしょう」とチームに説いたという。
金寛泰も敵の最大の武器と対峙した点をこう振り返る。「最初はクセのあるスクラムにやっかいだなと。陣地によって1番が横から、とか、3番が内に寄せてきたり、とか組み方を変えてきた。幸田さん、オヤジさんと話あって、『低さとセットスピードを意識しよう』と。対応して、自分たちの形にできた」。
いくら自分たちのプレーを心がけようとしても、ときに想定外の局面は訪れる。これまで苦い思いをしてきた場面は、そういったものだった。自分たちのミスで自滅した天理大戦、焦りを振り払うことが出来ずにずるずると負けた立命大戦。それらの経験を踏まえたうえで、身につけた修正能力が発揮されたのがこの日の京産大戦だった。
リーグ戦もほとんどを消化し、シーズンは佳境に突入しようとしている。この1勝は、そのなかで挑んだ最後のゲームだったのではないだろうか。それは、自分たちへの戦い。これまでとは違うスタイルもとい原点への回帰、どれだけ苦しい場面でも前を向く不撓不屈の精神。それらを身につけ自分たちの殻を破った、そんな一戦だったと。
最後まで戦い抜くという選手たち。最後まで声援を送り続けるというスタンド。目指す先への、チーム全体の意識統一が、これからの過酷な戦いには必須だ。そして、それはもう藤原組には備わっている。■(記事=朱紺番 坂口功将)