『WEB MAGAZINE 朱紺番』 2012/6/19
安部都兼『走って蹴って、掴むは—』
投稿日時:2012/06/19(火) 01:43
存在感が光っていた。それは印象深き千里の地だったから? いや違う、彼のなかで燃えていたから。リベンジの思い、そしてチャンスを掴まんとするアピールへの意欲が。安部都兼(経4)の関関戦。
■安部都兼『走って蹴って、掴むは—』
天気予報は大きく外れ、さんさんと日差しが降り注いだ6月17日の日曜日。舞台は吹田市山手町3丁目、関西大学千里山キャンパス。この日はオープンキャンパスが催されていた様子で、休日というのに活気で溢れている。
おそらくはその前日、この場所ではそれとは違う熱気が漂っていたのではないかと想像する(期待も込めて)。行なわれていたのは今年で35回目を数える総合関関戦。関西を代表する2校の体育会が総力を挙げて繰り広げるバーシティマッチだ。今年はアウェイに乗り込んだ関学が勝利を収めた。それを表す星取表が関西大学のキャンパス内の幹線を成していると思われる道に設置されている。各クラブの戦績が並ぶなか、ラグビー部の枠には―「関大○-×関学」。
17日はB、Cチーム同士の練習試合が行われた。本戦でAチーム同士が激突、その翌日に下のゲームが組まれるのは毎年のこと。
前日16日は雨だった。聞くところによる試合のムードそのままではないか。ならば、今日のこの天気はどうだろう。試合開始前の円陣。選手たちが口を開く。
「気持ちで負けんな!」
「昨日A負けてんねんから!」
「B、チャンスやで!上がるチャンスやで!」
太陽を凌駕するこの熱気が、好天を生んだか。その真ん中に安部都兼の姿があった。
人数の関係上、この日の試合はハーフごとにメンバーがガラリと変わる変則的なもの。それでも勝ちにいく姿勢は、普段のそれと変わらず、いや、むしろ増幅していた。安部含め、この日の出場メンバーの胸中にあったものは大きく2つ。『リベンジ』と『アピール』。安部は話す。
「Aチームが負けて悔しかった。Bチームも負けたら、なめられる!と。
それとBチームにとっては逆にチャンスでもあるなと」
試合前の円陣で、ナンバー8古橋啓太(商3)とともに飛ばしたゲキの主は安部当人でもあった。
そうして、その気持ちはプレーに表れる。フィフティーンはボールあるとこに駆けつけ、インゴールを目指してひた走る。横へ横へ振ったかと思えば、縦へのピック&ゴーも。先制点は敵陣ゴール前のスクラムから、追加点もラックからのテンポ良い持ち出しでゴールを割る形だった。
試合は40分を終え24-0。それはBチームの〝前半〟組が見せた最良の結果。
「気持ち…出てました!みんな走ってくれて。前半40分が終わったときに倒れるくらい。みんな、やばかったです(笑)。BKは40分で交代が決まってたので出し切ったんじゃないかと」
そう振り返る安部もポジション柄、得点に絡んだ。前述の2トライは、アシストしたもの、そして自身が決めたものである。
「最近、うまくいかないと思ってて悩んでたけど…前に行く面で、少しずつ良くなっていると」
Aチームの借りを返すことが出来たことへの安堵と同時に、パフォーマンス面ではある程度の満足を得られたようだった。
ある程度、と書いた理由。「まだまだなんで」とインタビューに対して、謙遜して見せたのも一理ある。だが、それ以上に彼にとっては激しい争いの真っ只中に身を置いているなかでのパフォーマンスであることを忘れてはならない。それはレギュラー争い、という名の競争。
時計の針を戻そう。まる2年前、舞台は同じく関西大学千里山キャンパス。この年の関関戦こちらは本戦で、WTBに入った安部は大車輪の活躍を見せた。トライを2本、コンバージョンキックも決めては7つ。一人で24得点をたたき出すプレーで、本戦の勝利に貢献した。アピールは十分、レギュラー争いに名乗りを挙げたのである。その試合を綴った『関学スポーツSPIRITs』第11号(2010年6月21日刊)のメインを飾ることになるのだが、このときが初めて彼に取材を試みたときだった。当時の彼の声。
「今年はレギュラーを獲るっていう気持ちは強いです。いまは長野さん(WTB=H23年卒=)や松野尾さん(WTB=H23年卒=)がいないというのがあって代役という感じだけど…そうならないように。自分はキックとかランに部分が持ち味なので長所を伸ばしていきたい。
高校が強豪校じゃなかったので、競争が出来て楽しい。それが正直な気持ちです。楽しんでプレーしたい」
あれから2年経ち、彼は4年目で、また新しい戦いに身を置いている。ユーティリティープレーヤーとして「言われたらどこでも」就くことが出来るし、「そこで精一杯やる」だけだが、現在、主に起用されているのは10番・SOだ。
いまそのポジションには、吉住直人(人福3)や宇都宮慎矢(社1)らがAチームに名を並べる。他にも選手は増えており、『層の厚さ=レギュラー争いの激しさ』の構図をまさに表す形だ。
その状況にも、安部はどこか嬉しげに話す。
「SOはいっぱいいてて…急に人数増えたんじゃないかと(笑)。
それぞれに良いとこがある。自分はランとキックで負けないようにと思ってるし、(それらで)一番なれるとも。まだSOは横並びと思ってる。秋どうなるか…分からないです」
確約されているものなどない。ただひたむきにレベルアップを積み重ねたものが、その座を掴む。弱肉強食。もし、その状況を楽しめるとしたら? 生まれるパフォーマンスに必ずやプラスに働くだろうし、それがレギュラー獲りを後押しするに違いない。
自らの武器を磨き続ける安部。秋には10番を-? 「着たいです」。控えめながらも、ニヤリと見せた笑顔に、意欲と自信がにじみ出ていた。■(記事=朱紺番 坂口功将)
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