『WEB MAGAZINE 朱紺番』
芳村直忠『“闘”率者、ここに一人』
投稿日時:2012/06/06(水) 00:41
4年生主体で臨んだ京大との定期戦。この日チームを率いた男は目を輝かせながら、試合を振り返った。
■芳村直忠『“闘”率者、ここに一人』
笑顔がはじけていた。試合の後、それはもちろんだが、この日は違った。ゲームが始まる、それも『出陣の歌』を奏でる直前のこと。グラウンドへ向かう選手たちには花道が用意されていた。100人超の部員数とあって、作られる列は長く、ベンチからグラウンドまでの道は必然的に遠巻きになる。やがて朱紺のジャージを着た22人が列の間を縫うように駆け出す。いっそう沸き上がる声援のなか、芳村直忠(法4)は一番乗りで花道から飛び出した。
「こいつらの代表として戦わなあかんなと。と同時に関学って、あったかいチームやと改めて思いました。花道出たあとは、やってやろう、と。気持ち入った」
この日ゲームキャプテンを務めた男は、試合前の心温まるセレモニーをそう思い返した。
伝統が紡いだ一戦。京大との定期戦は、意気も高揚する演出で始まった。それに加え、ファーストジャージを着用してのプレー、4回生中心のメンバー構成。様々な要素が重なった一戦でナンバー8芳村はキャプテンを託された。
「4回生が中心となったメンバーで…楽しみでした。それとファーストジャージを着て定期戦に出させてもらえるという感謝が。誇りとプライド、背負っているものが違うなと。
(キャプテンとしては)とりあえず楽しもう、と」
自身は過去に朱紺のジャージに腕を通したことはある。この日のメンバーのなかには、初めての者もいた。
「着ることで、これからも奮起してくれるんじゃないかと」期待を寄せるとともに、その重みを知る者として、キャプテンとして、チームを引っ張る気持ちを高ぶらせ試合に臨んだ。
実力は開きがある。それでも、いや、それだからこそか。相手は執拗にタックルを繰り出し、関学オフェンスを食い止める。開始早々にWTB秋重真人(社4)がトライを決め先制点を挙げたが、そこからは硬直状態に。前半40分も半分以上を消化し、徐々に得点を重ねるが、釈然としない状況が続いた。
「得点は取れていたが、前半は相手ペース。ゲームの入り方を意識していたが、悪くて。自分たちのミスもあるし、色々な理由があると思うけど、相手ペースになってしまった」
ハーフタイムで、仕切り直しをチームに呼びかける。だがその後半の立ち上がりで、インターセプトから失点を喫してしまう。焦らないわけがない、しかし芳村は前を向いた。
「ノートライを目指してたんで…やってしまった、と。けど、引きずっても良いゲームにならないし、取り返すくらいのプレーしよう」
その切り替えがプレーに乗ったか、すぐさま芳村自身がインゴール左隅へ飛び込む形でトライを奪い返した。実はこの一発、全く覚えていないという。チームを率いるという必死さゆえのワンプレーだった。
このゲームキャプテンの得点が呼び水となり、そこからは縦横無尽に攻撃を展開。コンスタントに得点を積み重ねると同時に、しっかりと守りの意識を保ち無得点に抑える。そうして迎えた終了間際。テンポ良くつながれたボールが芳村のもとに渡り、ゴール中央へトライを決めた。こちらは…「覚えてます!みんなでつないで、首藤(WTB=社4=)からパスが来て、4回生からもらったトライやったんで」。おそらく思い出に残るであろう、同期でつないだ一撃で試合を締めくくった。
芳村のキャプテンシーが光った80分間だった。トライはもちろんのこと、いつもより多く見られた選手たちのミスへのフォローも積極的に行なっていた。
それは彼に与えられた役目。マコーミックHCからも「鼓舞してくれ」と言われ、彼自身も「自分のいいトコでもある」と話す。たとえ誰かがミスを犯しても、ポジティブな声がけをすること。なるほど後半早々のトライもうなずける。キャプテンを務めるチームが犯したミス、それを取り返すべく自らを鼓舞した結果があの一発だったのだろう。
4回生としては役職についていないフリーのポジションである芳村。だからこそ「できることの幅は広いかなと思う。キャプテンに任せきりではなく、自分もやっていけたらと」。
この日のMVP―「自分です!いえ、4回生全員です。FWがミスしたら4回生のBKがカバーして。BKがミスしたらFWが。
4年生のプライドが見えました」
冷静に目を配ることが出来る、そして前向きな姿勢でまわりにもプラスな影響を与えることが出来る、藤原組のモチベーター。こういう男がいるチームは、強い。■(記事=朱紺番 坂口功将)