『WEB MAGAZINE 朱紺番』 2012/6/12
観戦記『自信から確信へ ~vs天理大学~』
投稿日時:2012/06/12(火) 02:42
兵庫フェニックスラグビーカーニバルで行なわれた大学対抗戦の主役は、いまや関西のトップに君臨する黒衣のジャージではなく、その強敵から3年ぶりの白星を飾った朱紺のジャージだった。藤原組の真価が発揮された一戦。これが、今年の関学だ。
■観戦記『自信から確信へ ~vs天理大学~』
熱が覚めやらぬなか、チームに号令がかかる。試合を終え、ユニバー記念競技場のメイン入口から出て集まる部員たち。ヘッドコーチ、監督、そして主将が試合の総括を話し、締めくくられる。
それから主将・藤原慎介(商4)に声をかけインタビューを願い出た。
「座ってもいいですか?」。もはや疲労困ぱい。近くのベンチへ促し取材を始める。つい先ほどまで身を投じていた80分間を振り返ってもらった。
「むちゃくちゃキツかったっス。スクラム、ラインアウトでプレッシャーかけていこうと。セットプレーで一本一本を大事にしてやっていって。やってきたことが出来て良いゲームやったと、素直に嬉しいです」
勝利の味をかみ締める。それはタイトで、それゆえにチームの力が存分に出たゲームだった。
キーワードは、「セットプレーでのプレッシャー」。ゲームのなかで打たれる一区切りの間は、互いの力量が推し量れる要所である。試合開始早々のスクラム。そこで相手と組み合ったとき、PR幸田雄浩(経4)は一つの自信を覚えていた。「勝てる」。
そう感じていたからこそ、スクラムが解かれたときには許してしまっていた先制点も意に介さなかった。むろん選手たちが口を揃える、立ち上がりの悪さは改善の余地があるが取られた以上は「切り替えてやるしかない」(藤原)。その直後、ゴールラインまで迫ったFW陣はこん身のパワープレーを見せる。
相手ボールのスクラムで、強烈な押し上げ。そのプレッシャーは、相手をペナルティに至らしめるほどのもの。笛が鳴り関学側のボール獲得が告げられると歓声が沸きあがった。そのなかで誰よりも興奮を隠し切れなかったのは、最前列の男たち。幸田と、同じくPR石川裕基(社4)がハイタッチを交わし喜びを現した。
「今年1番のスクラムでした!けっこう流れ変わったかなと」(幸田)。
セットプレーの醍醐味、FW陣の見せ場。モメンタムは一気に関学へ。それは、肌を合わせて感じ取った自信と、「スクラムから盛り上げていけたら」と常に心に留めているリーダー率いるFW陣の意地が爆発した一撃だった。
そうしてゴールライン目前でのマイボールスクラム。勢いそのままに、SH湯浅航平(人福3)がボールを持ち出し、トライを奪う。実は、このとき目論んでいたのはスクラムトライ。ナンバー8中村圭佑(社2)が別のサインと勘違いして動きが変わった、それを冷静に判断、上手くカバーしたプレーだった。
「自分の伝達ミスもあるけど…。スペースがあるのを見てて良かった。ラッキーなプレーでした」と苦笑いの湯浅。
プレーのなかで、FW陣のすぐ後ろに位置取る彼もゲームを通じて確かな手応えを感じていた。「FWのセットプレーが安定していて、やりやすさが全然違う。むっちゃ助かりました」。悠々とボールを操ることの出来る状態にあった。それに加えて。自身も基点の一つとなるパスワークも、この日は的確に展開された。「つながる意識を持って、チーム全体としてのサポートプレーが出来ていた」結果、逆転となるトライを湯浅自身が挙げた。
得点シーンは続く。後半31分、敵陣深くでのマイボール・ラインアウト。ここでも安定したプレーを見せ、ボールを前へ運ぶ。一つ一つ丁寧にフェイズを重ね、ゴールラインは目前。「FWで最初攻めてて、ラックから一旦パスを入れたときに、そんなに圧力感じなくて。テンポ良くいったら…トライ取れました」。そう語ったのは主将・藤原。ラックからボールを持ち出し、足を刈られながらも豪快に楕円球をインゴールに叩きつけた。
奪った3つのトライ。天理大を相手に、リードしたのも記憶に久しい。好ムードが漂うが前半最後、天理大WTBがスルスルと関学のディフェンスの間を縫ってトライを決める。ムードは一転、やはり一筋縄ではいかぬ―3点差で前半を終えた。
となると、後半の立ち上がりが重要になってくる。前半は開始早々に失点を許した。終了間際の弾みもある。試合の行方を左右する時間帯、そこで発揮されたのは藤原組の強み、ディフェンス力だった。やはりどこか受身の局面が続き、天理大の攻撃が迫るが必死に食い止める。決してゴールを割らせることはなかった。
そうして10分近くが立ったとき、相手がこぼしたボールをPR石川が俊敏な動きで奪い取る。そこからボールをつなぎ一気に敵陣へ。ようやく鬼門であった後半の立ち上がりから抜け出したことを意味するターンオーバーだった。
そのまま一進一退の攻防が続き、後半24分、試合を決定づける1発が生まれる。決めたのは、SO宇都宮慎矢(1)。1年生のなかで一番初めに朱紺のジャージに腕を通した男。「チャンスだと。挑戦の気持ちで」臨んだビックゲームで決勝トライを見舞った。それは彼が得意とするプレーだった。パスの流れに沿って、相手の動きも視野に入れ、そのままパスを回すか、相手ディフェンダーの裏を取るかを判断する。
この場面で選んだ答えは「裏を取る」だった。背後にいた藤原もその気配に感づいていた。「前が見えてて、裏が抜けてるシチュエーション。抜くなと思ってたし、フォローしてボールもらえたらとも思っていた」。そうして詰め寄るも、宇都宮は狙い通りのラインブレイクでインゴールへ。主将は走り込んだ勢いのまま、ルーキーSOを抱きかかえた。
5月20日の立命大戦からAチームに抜擢された宇都宮。この日も「緊張していた」と話すが、その緊張もプレー中に湧き出るアドレナリンが打ち消した。その堂々としたプレーぶりに、出身校・京都成章高校の先輩である湯浅も「いまAチームで出てても、恥ずかしくないプレーをやってくれてるんで。心強いです」と誉めた。
安定したセットプレーに屈強なスクラム、乱れぬパスワークと強みのディフェンス。そしてルーキーの台頭というトピックもついて、結果は24-14。実に3年ぶりとなる天理大からの勝利を得た。
「すごいチームを相手にプラン通りに進められたことは自信につながる。勝ちが続いているなかでの天理大戦の勝利は大きかったと」
主将が話すように、この白星で自信は深まっただろう。それは、連勝ひた走る自分たちの実力を過信するものではなく、さらなる高みを目指せるという確信。
今年1番と出来を評した幸田は「もっと。関西一のスクラムを目指して」とにらんだ。湯浅は「レベル高い相手でもトライ数少なかったんで。今年は上を狙える」と断言した。
藤原も意気込む。「まだまだ伸びると思っている。上のグレードにしていけたら。
今日は相手がフルメンバーじゃなかったのもあるので。秋にもう1回、ロースコアで勝てたらと思います!」
ライバルからの白星で、自信は確信に変わった。
試合が終わり、チームの全体集合。萩井監督は説いた。「あとはウチと向こうが、どれだけ伸びるか」。現状の力関係をさらに突き放すか、それとも覆されるのか。確信を得た以上、求めるものは一つ。その答えは、数ヶ月後、関西大学Aリーグ開幕戦で明らかになる。■(記事=朱紺番 坂口功将)
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