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『WEB MAGAZINE 朱紺番』

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安部都兼『走って蹴って、掴むは—』

投稿日時:2012/06/19(火) 01:43

 存在感が光っていた。それは印象深き千里の地だったから? いや違う、彼のなかで燃えていたから。リベンジの思い、そしてチャンスを掴まんとするアピールへの意欲が。安部都兼(経4)の関関戦。

 

■安部都兼『走って蹴って、掴むは—』
 


 天気予報は大きく外れ、さんさんと日差しが降り注いだ6月17日の日曜日。舞台は吹田市山手町3丁目、関西大学千里山キャンパス。この日はオープンキャンパスが催されていた様子で、休日というのに活気で溢れている。


 おそらくはその前日、この場所ではそれとは違う熱気が漂っていたのではないかと想像する(期待も込めて)。行なわれていたのは今年で35回目を数える総合関関戦。関西を代表する2校の体育会が総力を挙げて繰り広げるバーシティマッチだ。今年はアウェイに乗り込んだ関学が勝利を収めた。それを表す星取表が関西大学のキャンパス内の幹線を成していると思われる道に設置されている。各クラブの戦績が並ぶなか、ラグビー部の枠には「関大×関学」。


 17日はB、Cチーム同士の練習試合が行われた。本戦でAチーム同士が激突、その翌日に下のゲームが組まれるのは毎年のこと。


 前日16日は雨だった。聞くところによる試合のムードそのままではないか。ならば、今日のこの天気はどうだろう。試合開始前の円陣。選手たちが口を開く。


「気持ちで負けんな!」

「昨日A負けてんねんから!」

「B、チャンスやで!上がるチャンスやで!」


 太陽を凌駕するこの熱気が、好天を生んだか。その真ん中に安部都兼の姿があった。



 人数の関係上、この日の試合はハーフごとにメンバーがガラリと変わる変則的なもの。それでも勝ちにいく姿勢は、普段のそれと変わらず、いや、むしろ増幅していた。安部含め、この日の出場メンバーの胸中にあったものは大きく2つ。『リベンジ』と『アピール』。安部は話す。


 「Aチームが負けて悔しかった。Bチームも負けたら、なめられる!と。

 それとBチームにとっては逆にチャンスでもあるなと」


 試合前の円陣で、ナンバー8古橋啓太(商3)とともに飛ばしたゲキの主は安部当人でもあった。


 そうして、その気持ちはプレーに表れる。フィフティーンはボールあるとこに駆けつけ、インゴールを目指してひた走る。横へ横へ振ったかと思えば、縦へのピック&ゴーも。先制点は敵陣ゴール前のスクラムから、追加点もラックからのテンポ良い持ち出しでゴールを割る形だった。


 試合は40分を終え24-0。それはBチームの〝前半〟組が見せた最良の結果。


 「気持ち出てました!みんな走ってくれて。前半40分が終わったときに倒れるくらい。みんな、やばかったです(笑)。BKは40分で交代が決まってたので出し切ったんじゃないかと」


 そう振り返る安部もポジション柄、得点に絡んだ。前述の2トライは、アシストしたもの、そして自身が決めたものである。


 「最近、うまくいかないと思ってて悩んでたけど前に行く面で、少しずつ良くなっていると」


 Aチームの借りを返すことが出来たことへの安堵と同時に、パフォーマンス面ではある程度の満足を得られたようだった。



 ある程度、と書いた理由。「まだまだなんで」とインタビューに対して、謙遜して見せたのも一理ある。だが、それ以上に彼にとっては激しい争いの真っ只中に身を置いているなかでのパフォーマンスであることを忘れてはならない。それはレギュラー争い、という名の競争。


 時計の針を戻そう。まる2年前、舞台は同じく関西大学千里山キャンパス。この年の関関戦こちらは本戦で、WTBに入った安部は大車輪の活躍を見せた。トライを2本、コンバージョンキックも決めては7つ。一人で24得点をたたき出すプレーで、本戦の勝利に貢献した。アピールは十分、レギュラー争いに名乗りを挙げたのである。その試合を綴った『関学スポーツSPIRITs』第11号(2010年6月21日刊)のメインを飾ることになるのだが、このときが初めて彼に取材を試みたときだった。当時の彼の声。


 「今年はレギュラーを獲るっていう気持ちは強いです。いまは長野さん(WTB=H23年卒=)や松野尾さん(WTB=H23年卒=)がいないというのがあって代役という感じだけどそうならないように。自分はキックとかランに部分が持ち味なので長所を伸ばしていきたい。

 高校が強豪校じゃなかったので、競争が出来て楽しい。それが正直な気持ちです。楽しんでプレーしたい」


 あれから2年経ち、彼は4年目で、また新しい戦いに身を置いている。ユーティリティープレーヤーとして「言われたらどこでも」就くことが出来るし、「そこで精一杯やる」だけだが、現在、主に起用されているのは10番・SOだ。


 いまそのポジションには、吉住直人(人福3)や宇都宮慎矢(社1)らがAチームに名を並べる。他にも選手は増えており、『層の厚さ=レギュラー争いの激しさ』の構図をまさに表す形だ。


 その状況にも、安部はどこか嬉しげに話す。


「SOはいっぱいいてて急に人数増えたんじゃないかと(笑)。

 それぞれに良いとこがある。自分はランとキックで負けないようにと思ってるし、(それらで)一番なれるとも。まだSOは横並びと思ってる。秋どうなるか分からないです」


 確約されているものなどない。ただひたむきにレベルアップを積み重ねたものが、その座を掴む。弱肉強食。もし、その状況を楽しめるとしたら? 生まれるパフォーマンスに必ずやプラスに働くだろうし、それがレギュラー獲りを後押しするに違いない。


 自らの武器を磨き続ける安部。秋には10番を-? 「着たいです」。控えめながらも、ニヤリと見せた笑顔に、意欲と自信がにじみ出ていた。(記事=朱紺番 坂口功将)
 

観戦記『自信から確信へ ~vs天理大学~』

投稿日時:2012/06/12(火) 02:42

 

 兵庫フェニックスラグビーカーニバルで行なわれた大学対抗戦の主役は、いまや関西のトップに君臨する黒衣のジャージではなく、その強敵から3年ぶりの白星を飾った朱紺のジャージだった。藤原組の真価が発揮された一戦。これが、今年の関学だ。

 

■観戦記『自信から確信へ ~vs天理大学~』
 

 

 熱が覚めやらぬなか、チームに号令がかかる。試合を終え、ユニバー記念競技場のメイン入口から出て集まる部員たち。ヘッドコーチ、監督、そして主将が試合の総括を話し、締めくくられる。
 

 それから主将・藤原慎介(商4)に声をかけインタビューを願い出た。


 「座ってもいいですか?」。もはや疲労困ぱい。近くのベンチへ促し取材を始める。つい先ほどまで身を投じていた80分間を振り返ってもらった。


 「むちゃくちゃキツかったっス。スクラム、ラインアウトでプレッシャーかけていこうと。セットプレーで一本一本を大事にしてやっていって。やってきたことが出来て良いゲームやったと、素直に嬉しいです」


 勝利の味をかみ締める。それはタイトで、それゆえにチームの力が存分に出たゲームだった。


 キーワードは、「セットプレーでのプレッシャー」。ゲームのなかで打たれる一区切りの間は、互いの力量が推し量れる要所である。試合開始早々のスクラム。そこで相手と組み合ったとき、PR幸田雄浩(経4)は一つの自信を覚えていた。「勝てる」。


 そう感じていたからこそ、スクラムが解かれたときには許してしまっていた先制点も意に介さなかった。むろん選手たちが口を揃える、立ち上がりの悪さは改善の余地があるが取られた以上は「切り替えてやるしかない」(藤原)。その直後、ゴールラインまで迫ったFW陣はこん身のパワープレーを見せる。


 相手ボールのスクラムで、強烈な押し上げ。そのプレッシャーは、相手をペナルティに至らしめるほどのもの。笛が鳴り関学側のボール獲得が告げられると歓声が沸きあがった。そのなかで誰よりも興奮を隠し切れなかったのは、最前列の男たち。幸田と、同じくPR石川裕基(社4)がハイタッチを交わし喜びを現した。


 「今年1番のスクラムでした!けっこう流れ変わったかなと」(幸田)。


 セットプレーの醍醐味、FW陣の見せ場。モメンタムは一気に関学へ。それは、肌を合わせて感じ取った自信と、「スクラムから盛り上げていけたら」と常に心に留めているリーダー率いるFW陣の意地が爆発した一撃だった。



 そうしてゴールライン目前でのマイボールスクラム。勢いそのままに、SH湯浅航平(人福3)がボールを持ち出し、トライを奪う。実は、このとき目論んでいたのはスクラムトライ。ナンバー8中村圭佑(社2)が別のサインと勘違いして動きが変わった、それを冷静に判断、上手くカバーしたプレーだった。


 「自分の伝達ミスもあるけど。スペースがあるのを見てて良かった。ラッキーなプレーでした」と苦笑いの湯浅。


 プレーのなかで、FW陣のすぐ後ろに位置取る彼もゲームを通じて確かな手応えを感じていた。「FWのセットプレーが安定していて、やりやすさが全然違う。むっちゃ助かりました」。悠々とボールを操ることの出来る状態にあった。それに加えて。自身も基点の一つとなるパスワークも、この日は的確に展開された。「つながる意識を持って、チーム全体としてのサポートプレーが出来ていた」結果、逆転となるトライを湯浅自身が挙げた。


 得点シーンは続く。後半31分、敵陣深くでのマイボール・ラインアウト。ここでも安定したプレーを見せ、ボールを前へ運ぶ。一つ一つ丁寧にフェイズを重ね、ゴールラインは目前。「FWで最初攻めてて、ラックから一旦パスを入れたときに、そんなに圧力感じなくて。テンポ良くいったらトライ取れました」。そう語ったのは主将・藤原。ラックからボールを持ち出し、足を刈られながらも豪快に楕円球をインゴールに叩きつけた。


 奪った3つのトライ。天理大を相手に、リードしたのも記憶に久しい。好ムードが漂うが前半最後、天理大WTBがスルスルと関学のディフェンスの間を縫ってトライを決める。ムードは一転、やはり一筋縄ではいかぬ3点差で前半を終えた。



 となると、後半の立ち上がりが重要になってくる。前半は開始早々に失点を許した。終了間際の弾みもある。試合の行方を左右する時間帯、そこで発揮されたのは藤原組の強み、ディフェンス力だった。やはりどこか受身の局面が続き、天理大の攻撃が迫るが必死に食い止める。決してゴールを割らせることはなかった。


 そうして10分近くが立ったとき、相手がこぼしたボールをPR石川が俊敏な動きで奪い取る。そこからボールをつなぎ一気に敵陣へ。ようやく鬼門であった後半の立ち上がりから抜け出したことを意味するターンオーバーだった。


 そのまま一進一退の攻防が続き、後半24分、試合を決定づける1発が生まれる。決めたのは、SO宇都宮慎矢(1)。1年生のなかで一番初めに朱紺のジャージに腕を通した男。「チャンスだと。挑戦の気持ちで」臨んだビックゲームで決勝トライを見舞った。それは彼が得意とするプレーだった。パスの流れに沿って、相手の動きも視野に入れ、そのままパスを回すか、相手ディフェンダーの裏を取るかを判断する。


 この場面で選んだ答えは「裏を取る」だった。背後にいた藤原もその気配に感づいていた。「前が見えてて、裏が抜けてるシチュエーション。抜くなと思ってたし、フォローしてボールもらえたらとも思っていた」。そうして詰め寄るも、宇都宮は狙い通りのラインブレイクでインゴールへ。主将は走り込んだ勢いのまま、ルーキーSOを抱きかかえた。


 5月20日の立命大戦からAチームに抜擢された宇都宮。この日も「緊張していた」と話すが、その緊張もプレー中に湧き出るアドレナリンが打ち消した。その堂々としたプレーぶりに、出身校・京都成章高校の先輩である湯浅も「いまAチームで出てても、恥ずかしくないプレーをやってくれてるんで。心強いです」と誉めた。



 安定したセットプレーに屈強なスクラム、乱れぬパスワークと強みのディフェンス。そしてルーキーの台頭というトピックもついて、結果は24-14。実に3年ぶりとなる天理大からの勝利を得た。


 「すごいチームを相手にプラン通りに進められたことは自信につながる。勝ちが続いているなかでの天理大戦の勝利は大きかったと」


 主将が話すように、この白星で自信は深まっただろう。それは、連勝ひた走る自分たちの実力を過信するものではなく、さらなる高みを目指せるという確信。


 今年1番と出来を評した幸田は「もっと。関西一のスクラムを目指して」とにらんだ。湯浅は「レベル高い相手でもトライ数少なかったんで。今年は上を狙える」と断言した。


 藤原も意気込む。「まだまだ伸びると思っている。上のグレードにしていけたら。

 今日は相手がフルメンバーじゃなかったのもあるので。秋にもう1回、ロースコアで勝てたらと思います!」


 ライバルからの白星で、自信は確信に変わった。


 試合が終わり、チームの全体集合。萩井監督は説いた。「あとはウチと向こうが、どれだけ伸びるか」。現状の力関係をさらに突き放すか、それとも覆されるのか。確信を得た以上、求めるものは一つ。その答えは、数ヶ月後、関西大学Aリーグ開幕戦で明らかになる。(記事=朱紺番 坂口功将)


芳村直忠『“闘”率者、ここに一人』

投稿日時:2012/06/06(水) 00:41

 4年生主体で臨んだ京大との定期戦。この日チームを率いた男は目を輝かせながら、試合を振り返った。

 

■芳村直忠『“闘”率者、ここに一人』
 


  笑顔がはじけていた。試合の後、それはもちろんだが、この日は違った。ゲームが始まる、それも『出陣の歌』を奏でる直前のこと。グラウンドへ向かう選手たちには花道が用意されていた。100人超の部員数とあって、作られる列は長く、ベンチからグラウンドまでの道は必然的に遠巻きになる。やがて朱紺のジャージを着た22人が列の間を縫うように駆け出す。いっそう沸き上がる声援のなか、芳村直忠(法4)は一番乗りで花道から飛び出した。


 「こいつらの代表として戦わなあかんなと。と同時に関学って、あったかいチームやと改めて思いました。花道出たあとは、やってやろう、と。気持ち入った」


 この日ゲームキャプテンを務めた男は、試合前の心温まるセレモニーをそう思い返した。



 伝統が紡いだ一戦。京大との定期戦は、意気も高揚する演出で始まった。それに加え、ファーストジャージを着用してのプレー、4回生中心のメンバー構成。様々な要素が重なった一戦でナンバー8芳村はキャプテンを託された。
 

 「4回生が中心となったメンバーで楽しみでした。それとファーストジャージを着て定期戦に出させてもらえるという感謝が。誇りとプライド、背負っているものが違うなと。

 (キャプテンとしては)とりあえず楽しもう、と」


 自身は過去に朱紺のジャージに腕を通したことはある。この日のメンバーのなかには、初めての者もいた。

「着ることで、これからも奮起してくれるんじゃないかと」期待を寄せるとともに、その重みを知る者として、キャプテンとして、チームを引っ張る気持ちを高ぶらせ試合に臨んだ。


 実力は開きがある。それでも、いや、それだからこそか。相手は執拗にタックルを繰り出し、関学オフェンスを食い止める。開始早々にWTB秋重真人(社4)がトライを決め先制点を挙げたが、そこからは硬直状態に。前半40分も半分以上を消化し、徐々に得点を重ねるが、釈然としない状況が続いた。


 「得点は取れていたが、前半は相手ペース。ゲームの入り方を意識していたが、悪くて。自分たちのミスもあるし、色々な理由があると思うけど、相手ペースになってしまった」


 ハーフタイムで、仕切り直しをチームに呼びかける。だがその後半の立ち上がりで、インターセプトから失点を喫してしまう。焦らないわけがない、しかし芳村は前を向いた。


 「ノートライを目指してたんでやってしまった、と。けど、引きずっても良いゲームにならないし、取り返すくらいのプレーしよう」


 その切り替えがプレーに乗ったか、すぐさま芳村自身がインゴール左隅へ飛び込む形でトライを奪い返した。実はこの一発、全く覚えていないという。チームを率いるという必死さゆえのワンプレーだった。


 このゲームキャプテンの得点が呼び水となり、そこからは縦横無尽に攻撃を展開。コンスタントに得点を積み重ねると同時に、しっかりと守りの意識を保ち無得点に抑える。そうして迎えた終了間際。テンポ良くつながれたボールが芳村のもとに渡り、ゴール中央へトライを決めた。こちらは「覚えてます!みんなでつないで、首藤(WTB=社4=)からパスが来て、4回生からもらったトライやったんで」。おそらく思い出に残るであろう、同期でつないだ一撃で試合を締めくくった。



 芳村のキャプテンシーが光った80分間だった。トライはもちろんのこと、いつもより多く見られた選手たちのミスへのフォローも積極的に行なっていた。


 それは彼に与えられた役目。マコーミックHCからも「鼓舞してくれ」と言われ、彼自身も「自分のいいトコでもある」と話す。たとえ誰かがミスを犯しても、ポジティブな声がけをすること。なるほど後半早々のトライもうなずける。キャプテンを務めるチームが犯したミス、それを取り返すべく自らを鼓舞した結果があの一発だったのだろう。


 4回生としては役職についていないフリーのポジションである芳村。だからこそ「できることの幅は広いかなと思う。キャプテンに任せきりではなく、自分もやっていけたらと」。


 この日のMVP「自分です!いえ、4回生全員です。FWがミスしたら4回生のBKがカバーして。BKがミスしたらFWが。

 4年生のプライドが見えました」


 冷静に目を配ることが出来る、そして前向きな姿勢でまわりにもプラスな影響を与えることが出来る、藤原組のモチベーター。こういう男がいるチームは、強い。(記事=朱紺番 坂口功将)
 

挨拶『朱紺色に恋焦がれて』

投稿日時:2012/05/29(火) 23:38

 挨拶が遅れました。今年度より関学ラグビー部の専属ライターを務めさせていただきます坂口功将と申します。今回『WEB MAGAZINE 朱紺番』という機会を設けて頂き、関係者の皆様に感謝してやみません。
 先立ちまして、今年度のチーム「藤原組」の藤原慎介主将の記事を掲載させていただきました。取材日時の都合上、順番が逆転してしまいましたが、改めまして挨拶の変わりとして本稿を掲載します。
 関係者の皆様、読者の皆様、関西学院大学体育会ラグビー部と『WEB MAGAZINE 朱紺番』を今後ともよろしくお願い申し上げます。
 

■挨拶『朱紺色に恋焦がれて』
 


 2008年11月30日、花園ラグビー場。その瞬間、何かが私のなかで弾け、一気に感情があふれ出た。グラウンドに繰り出す選手たちを横目に、カメラマンが位置取るインゴールへ向かうが、こぼれる涙は止まらない。

 それはいつもと同じ光景だったのに。試合前に朱紺のジャージをまとった選手たちが円陣を組み、声を張り上げるその姿。

 

 時こそ来たれりいざ戦はん

 我等は涙の誓を憶ふ

 若き生命を真理に捧げ

 我等は努めて勝利を追はん

 

 そう、私はこの姿に魅了されたのだった。そして、いつもと違ったシチュエーションが私を涙させたのだ。

 

◆◆

 

 振り返ること、今から6年。関西大学Aリーグ開幕戦で、私は初めて出くわした。


 これほどまでにのめり込むとは寸分とも思っていなかった当時の私にとって、ラグビーとは

 ノーサイドの精神、同志社大=強い、神戸製鋼=ウィリアムス王子くらいの印象。


 そこに衝撃が走った。写真を撮るためにグラウンドに下りたそのとき、ベンチ前で選手たちが歌い出したのだ。出陣の歌を。


 その瞬間が、すべての始まりではないだろうか。それから私は当時所属していた体育会編集部の担当記者として携わっていくにつれ、どんどんと関学ラグビー部の魅力に引き込まれていく。


 松尾組、全国選手権一回戦。対するワセダ、大量得点差のなか、頭に包帯を施しながら見せた主将・松尾の意地。報いた一矢。


 翌年の西尾組、関西大学Aリーグ最終戦。試合終了間際、小野、執念の同点トライ。繋いだ全国への道。


 そうして迎えた3年目、忘れもしない激動のシーズン。

 

◆◆

 

 自分たちに言い聞かせるように。唱え続けた、チャレンジ・スピリット。それこそが、室屋組の真骨頂。

 前年度王者・同大を破るという開幕戦のアップセットは、確かな実力に裏づけされた結果であった。勢い・強さは試合を重ねるごとに増し、最終戦を控え、チームは関西制覇に王手をかけた。


 こうして冒頭のシーンにたどり着く。一人の記者として、発信する立場として、過度な感情移入は出さないように心がけている(でないと、大事な場面を撮り逃してしまう)が、このときばかりは違った。彼らの姿を見てきたから今まさに掴めんとするタイトル、それを手にして欲しい。そんな思いがあったと記憶している。試合開始のホイッスルが鳴ってから、しばらくは涙が収まらなかった。


 やがて室屋組は関西制覇を成し遂げ、その後全国選手権で悲願の1勝、ラグビー部の歴史に偉大なる1ページを刻んだ。


 このとき、私のなかに生まれた一つの火種。誰よりも関学ラグビー部を伝えたいその気持ちはこの栄光によって一気に加速した。

 

◆◆

 

 その思いを形にさせてくれたのは、他でもない関学ラグビー部。小原組の発足に際して、広報的な仕事を託されることになる。私自身もこれまでにない関わり方を実践。〝朱紺番〟と名乗り、闘士たちの戦記を綴っていく。


 肉体改造の成果、圧倒的破壊力を持ってして繰り出されるFWラグビー。初志貫徹の結実、関西2連覇。


 スタイルを一新、カリスマが率いた緑川組。度々、挫折に苛まれながらも前進し続け、成長を証明した1年。


 部員たちの一挙一動。その内で燃えたぎる闘志。目にし、耳にしてきたそれらを番記者として伝えてきた。


 卒業と同時にやむなき理由から手を引いたが、この度、再びその役に就くことになった。まる1年を経ても、やはり朱紺色への思いは変わらなかった。むしろブランクがある分、募ったものもある。


 藤原組に感謝したい、情熱を爆発させていただけるこの機会を与えてくれたことを。


 4月半ば、新チームの初陣を見ようと1年ぶりにグラウンドを訪れたときのこと。かつて取材をさせてもらったこともある4年生部員が、顔を合わせるやいなや一言。


 「いつまで来はるんですか!?」


 広報を引き受けたいま、返す答えは一つ。


 「これから、もうしばらくは」

 どうぞ、よろしくお願いします。■(記事=朱紺番 坂口功将)
 



藤原慎介『闘士から闘将へ』

投稿日時:2012/05/22(火) 23:32

 2012年の関学ラグビー部を率いるのはこの男だ。シーズン序盤から自分たちのラグビーをグラウンドで発揮し、結果を出す『藤原組』。その先頭に立つ闘将・藤原慎介(商4)が見つめるものとは。

 


■藤原慎介『闘士から闘将へ』



 高ぶる気持ちと、形容するならば不安か。それらのせいか、リーグ開幕戦を控え彼の目はどこか定まっていないようにも見えた。「まだ実感が沸いてなくて花園のピッチが始めてで、観客が多いなかでプレーするのも始めて。そんな緊張するタイプやないんでまだ。(試合)前日にすごくなるかも」。それは、その年にレギュラーに抜擢され、自身初となる聖地での戦いに繰り出そうとしていた一人のラガーマンが2年前に口にした心境。藤原慎介、その人。2012年現在、関学ラグビー部の主将を務める男である。



JOCKY
 

 気がつけば、チームのなかで不動たる存在になっていた。いまやスタメン表の上からその名が外れることはない。藤原がレギュラーに選ばれたのは2年生次だ。
 

 もとはPRとして大学の門をくぐった。決して強いとは言えない高校の出身。Aリーグへの思いを胸に、「頑張ればレギュラー入れる」と自らに期待を込めて、当時は関西4、5位の位置にいた関学ラグビー部を選んだ。だが、スポーツ推薦が決まったその年、関学は躍進を遂げ関西の王者となった。進学してから藤原は気づいた、すごいメンバーばっかり、だと。


 入学から半年、Eチームを経験するなど彼はチームの下位にいた。転機となったのは秋。ナンバー8へのコンバートが成功しBチーム入りを果たす。2年目からはガタイの良さに加え、アタック力、セットプレーの強さを買われ2列目に選出された。「スクラムやったら、どこを押して欲しいとかが分かると思うんで。PRを10月までやっていたという経験が活きてる。PRしてエイトやって、いまはLO。すごい良い経験をさせてもらっている」。当時の藤原はこう話していた。翌3年生次は、抜けた絶対的2番の穴を埋める策として、HOをも務めた。リーグ戦では定位置へと戻ったが。


 これまでの過去3年間の生き様。それこそが、藤原が主将になりえた所以。彼ならではの「色んなポジションを経験している」ことは、どんな形でもスタメンに定着しようとしたレギュラーへの執着心であり、そしてまた仲間・コーチ陣ら周囲からの期待に他ならない。キャプテンを務めるにあたっても自身のなかで不安はあった。けれども、寄せられる期待を感じているからこそ、主将でいる。


 シーズン前、チームの目標を決める話し合い。色々な意見が飛び交ったが、最終的には「主将のお前が決めろ」と促された。藤原の気持ちは一つだった。全員が納得のうえ、チームの目標は決まった。藤原組が目指すのは、日本一。



JOCKY
 

 藤原組が実現させているのは防御主体のラグビー。チームが発足してからというものの「練習ではディフェンスしかやっていないと言っても過言ではない!」と主将は語気を強める。数多の強豪校に勝つためを考えた結果、出てきた答えがディフェンスの徹底だったのだ。


 そうして迎えた4月15日の京産大とのシーズン初戦は、62-7で初陣を飾る。特筆すべきは被トライ1という数字。それ自体はアンラッキーなインターセプトで喫したものであり、ゲーム全体では終始、タックルを炸裂させ相手の動きを封じ込めた。


 続く5月5日の大体大戦。ファーストジャージを着ての初の試合は、前半を無失点に抑える。後半早々に先制点を許したが、取られたのはその1本のみだった。


 自らの手で繰り広げる、自分たちの目指すラグビー。その戦いぶりは、さらに翌週の試合でも発揮された。

 5月12日の青学大との定期戦。この日は試合前の空気が違った。1年前の同カードで喫した大敗(10-69)の「借りを返したい」という気持ちが選手たちの胸中で燃えていた。前週と同じくファーストジャージを着用してのゲームだったが、試合直前、サイドラインからピッチへ繰り出そうとする選手たちの表情を見て部員の一人がつぶやいた。「今日何かかっこいい」。


 兄弟校へのリベンジマッチでは「やってきたことをやるだけ」と2人がかりのタックルを徹底し、攻撃に転じては副将を務めるFL安田尚矢(人福4)とWTB松延泰樹(商4)の2人が持ち前の決定力を見せつけた。終わってみれば62-5の大勝。昨年のスコアを丸々ひっくり返す形で雪辱を果たした。


 開幕から3連勝。それも1試合平均の被トライは1本。自分たちのラグビーが出来ている実感で毎試合満たされているのでは? 青学大戦後の主将に聞いてみた。返ってきた答えは意外なものだった。
 

 「ディフェンスが出来てる実感は最近まで無かった。昨日ですね。BチームとCチームを見て実感した。しっかりディフェンスしてると。

 ディフェンスになると目の色変わって、がつがつタックルにいっている。チーム全体として出来ているなと思う」


 トップチームの選手だけではなく、チーム全体としての意識統一が成されている。その実感が主将の胸にはある。


 例年、大所帯のラグビー部とあって部員全員のベクトルを同じ方向へ向けることが難題となってきた。ときに挫折が、ときに不信感が、部内で蔓延した過去は幾つもあった。それらはシーズンが深まるにつれ、やがて解消されてきた。けれども今年は違う。シーズン序盤にして、この結集。堅固な防御とともに藤原組の凄みとなりうる。



JOCKY
 

 そもそもディフェンスをチームのスタイルとして打ち出したのは、関学ラグビー部のなかで久しい。振り返るは4年前、室屋雅史(社卒)が率いたチームが、「ディフェンスの出来ない選手は試合に出さない」とまでの意識づけのもと防御の構築を図ったとき以来だ。その年のリーグ戦では被トライが10本(全7試合)であり、半世紀ぶり関西制覇の最たる要因にその強固なディフェンスが挙げられたことに誰もがうなずく。「室屋さんたちの代みたいになれたら良いなと。ああいう代を目指していけたら」と藤原は語る。


 憧れを抱いた先輩たちの姿がある。それらを意識しながら、自分たちに投影させている。室屋組からはスタイルを。そしてもう一つ、藤原始め現4年生たちが直接目にしてきた存在からは、部を統率する姿勢を倣っている。3年前に関西連覇を遂げた小原組を思い浮かべて主将は話す。


 「常に日本一という目標と、スローガンの『ALL-OUT』を口にしてて。4回生全体が声に出して体で見せていた。

 今こうして3試合勝たせてもらえたが、まだ下の学年が日本一という目標に対してどれだけ思っているかは分からないしそれでも4回生が口に出して引っ張っていかなと思っている」


 先輩たちの存在を心に留め、掲げた今年のスローガンは『OVER』。ただ憧れるだけではない、越えていこうとする意欲。「これまでの関学を」〝超える〟1年を見せてくれるか。


 青学大戦のインタビュー、最後に主将へ質問を投げかけてみた。

 目標の日本一は見えている?


 「はい!!」間髪入れず返事をし、藤原は続けた。


 「この勢いで強い相手と試合して自信をつけていきたい。やるのも楽しみ。どれだけ良いプレーが出来るのかな、とも」


 リーグ戦を目前にしていた2年前のあのときとはまるで違う、ぎらぎらと闘志をたぎらせたその瞳は目指す頂をしっかりと見据えていた。■(記事=朱紺番 坂口功将)
 


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