『WEB MAGAZINE 朱紺番』 2012/8/10
越智慶『ある主務の告白』
投稿日時:2012/08/10(金) 23:26
仲間のことを話すとき、男は饒舌(じょうぜつ)になる。藤原組の主務を務める越智慶(人福4)は誰よりもチームを愛でている。主務として、一人の関学ラグビー部員として、胸に秘めたる思いを存分に語ってもらった。
■越智慶『ある主務の告白』

グラウンドで巻き起こる100人超の男たちの躍動を前に彼は尊敬の眼差しを送る。かつては自分もそのなかに身を投じていた。今は違う。かれこれ2年目を迎え、同時に学生最後の1年を過ごしている。主務という、プレーヤーとは異なる立場で。
「あんなに走れないですもん! 練習も激しいですし…みんな凄いなと」
尊敬、それは立場を違えてこそ抱くものだろうか。それでも、やはり物寂しさを感じたことがあったという。チームが始動して数ヶ月、プレーヤーたちが極限まで己を追い込んだときのことだ。
「3月か4月くらい、練習でギリギリのとこまでやってたときに。慎ちゃん(藤原=商4=)が『4回生いこーや!』って。それを見てて、一緒に自分がやってない状態を感じた。最初…寂しかったっス。歴代の主務は、こうやったんやろうな、って」
プレーへの思いは胸の内に確かにある。けれども、自分の今の立場に、確固たる思いで向き合っている。主務という役職、それはチームをマネジメントするポジションのトップ。
「主務の仕事って…100点満点じゃない。5億点以上にだって。
兵庫県ラグビーカーニバルのときですね。選手も気合入ってて。オレもミス出来へん、って。結果ミス無く終われた。
選手の気づかないとこで勝利への貢献出来てるかなと。自己満足かもしれないスけど」
6月10日の兵庫県フェニックスラグビーフェスティバルでは、終始奔走する越智の姿が見られた。試合前から、それこそ全体集合が終わりチームが解散したあとも、スタジアムに残り責務をまっとうした。藤原組の金星の裏にあった、支えるスタッフの功労。それは「努力は、周りが見ていないとこでやるもの」という越智の信念を投影している。
そのスタッフ業を通じて、越智が尊ぶ人物たち。「去年のメンバーが好き過ぎて(笑)」と思い返すその最たる人物は、昨年度の主務を務めていた松村宜明(法卒)だ。「向上心と気合が凄かった。去年は夜遅くなっても飲みに連れて行ってくれたり」。同じポジションの後輩として受けた恩恵。副務から主務へと変わったいま、それらを自らが後輩たちへ還元している。「1コ下の子らも好きなんです」と目を輝かせる。
聞けば聞くほど、越智の口からはチームへの愛情が湧き出てくる。そのなかでも「仲間に恵まれている」と自負する理由は、やはり同学年の存在が最も大きい。入学してこの方、いつも一緒にいる仲間たち。
「もともと弱い高校出身で、ラグビーするのもほどほどの気持ちだった。何かやり切ったという自信につながる経験が欲しくて関学ラグビー部に。入ったらしんどくて…でも凄いなと思える、良い奴ばっかりだった。3年生次に辛いことがあったときも、支えてくれた」
嬉しいときも辛いときも、感情を共有してくれた。その思い出を話せば尽きることはない。送られてきた激励や熱き文言の込められたメールも、保存しているという。
それらの数々のエピソードでも、越智が今の立場になりえた時の話がある。主務・越智慶の誕生秘話。
関学ラグビー部では2年生次にスタッフへ転身する者を選ぶ。3年生に副務となり、やがては最高学年で主務へ。プレーから離れ、チームのマネジメントに徹することになる。それは、ある意味で選手生命を絶つ選択でもある。学年内での長く、かつ辛さを伴う話し合いが設けられるのは毎年の光景だ。
2年後に『藤原組』となる学年たちの話し合いもそれは変わらなかった。越智は振り返る。
「主務ミーティングでの投票で、自分は2票くらいしかなかった。なかには7、8票入っている奴もいた。けど、『越智やったらラグビー部を任せられる』って声も上がって」
越智は、主務の道を選ぶ。そのときの彼の選択を尊重し、励ましてくれる仲間たちがいた。
越智が「一番のやんちゃ者」と形容する春山悠太(文4=CTB=)は言い切った。「お前の為やったら、ラグビーに命かけられる」と。
それまで同じFWの1列目で戦った幸田雄浩(経4=PR=)は寂寥(せきりょう)の思いを馳せながら誓った。「お前がおらんくなるのは寂しいけど、お前の分、オレが日本一のスクラム作るから」と。
胸熱くさせた幾多の激励。「スゲェと思ってる奴らから、そう言われる。認めてもらえたと感じたし、ありがたいなと。命がけでやろう」と心に決めた。
同期はもちろんのこと、先輩後輩と世代を問わず、越智は「好き」と断言する。その気持ちがあるからこそ、チームに全力を注ぐことが出来る。最高の仲間たちと共に紡ぐストーリーは最高のエンディングを目指し、これからも綴られていく。■(記事=朱紺番 坂口功将)
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