『WEB MAGAZINE 朱紺番』
1回生特集『疾走するニューカマーたち』
投稿日時:2012/08/17(金) 04:24
夏シーズンを迎え、リーグ戦へ焦点を定めるとともに、激化するレギュラー争い。総勢125人を数えるプレーヤーたちによって繰り広げられるその争いは、もはや学年など関係なし。そのなかで、若獅子たちは朱紺のジャージを目指しアピールを見せている。
■1回生特集『疾走するニューカマーたち』

<笹井宏太郎>
4月22日、朱紺の闘士たちが新しく誕生した。関学スポーツセンターで行なわれた入部式。新加入した44人の部員たちは朱紺のネクタイを首に締め、決意表明の場へ。皆がこれから始まるラグビー生活にむけ思いを語る。なかには涙する部員の姿もあった。
それから1ヶ月後、大体大との1回生マッチを経て、Aチーム入りを果たす面々が現れた。5月20日の立命大戦、スターターの『10』番に名を載せたのは宇都宮慎矢(社1)だった。
1年生のなかで一番のりでスタメン出場を果たした宇都宮にとってデビュー戦は熱いものだった。それはゲームが終わるや否や帰宅を命じられるほどの発熱のせいでもあったが。試合では自身が心に決めている「強く突き刺さるようなタックル」を決める場面が見られた。終わりしなには「フラフラだった」が、上々のスタメン初出場となった。アピールは続く。Aチームの次なる試合となった6月10日の天理大戦では勝利を導くトライを決めたのだ。
「いつも狙っているとこ。相手の裏が空いているかどうかを見て、自分でいくか味方に渡すかを」
その判断を迫られたのは後半24分のこと。ボールを持つと相手のディフェンスラインを前に、そこでは自ら切り込んでいくプレーを選択した。そうして奪った決勝トライ。それは高校の先輩であるSH湯浅航平(人福3)が、「自身で抜くプレーも得意」と後輩の特徴を述べた、〝宇都宮慎矢らしい〟ワンプレーであった。
出場に際しては「緊張する」方と話す宇都宮。立命館大戦も、天理大戦も然り。だが、それも試合が進むにつれ湧き出るアドレナリンがかき消していくという。加えてチャンスをものにせんとする気概が彼にはある。「常に挑戦、でいきたいと」。
京都成章高時代は後輩SOに座を譲り、FBとしてプレーの場を求めた。現在はSOとして、しかし大学でもレギュラー取りは容易くない。まだ1回生とあって体格差の問題もある。
「大学はみんな体が大きい。コンタクトの面が高校とは違う。筋トレとかで体重を増やして。練習でも試合でも通用するよう強くしていきたい」。
タックルとラインブレイクを武器に、キックは「ミス多い」と反省するが、それでも宇都宮の挑戦はまだまだ始まったばかり。後輩の台頭に先輩・湯浅もエールを送る。「いまAチームで出ても恥ずかしくないプレーヤーになってくれてるんで。負けないように頑張って欲しいです」。
<宇都宮慎矢>
その同期の、SOとしてのAチーム選出に「びっくりした」と話すのは同じく京都成章高から入学してきたPR安福明俊(教1)。彼も同じく天理大戦でリザーブとしてAチームのベンチ入りを果たした。けれども、宇都宮とは対照的に、こちらはホロ苦いデビュー戦となった。
出番は後半25分、そこからチームにとってトライシーンを目前にしたビックチャンスが訪れた。ボールを持った味方が倒れラックに転じる。安福はオーバーに入ろうとする。だが、ここで相手に押し返される失態。結局、トライには至らずチャンスを逃す形となった。「オーバー出来ていればトライ取れてました」と悔やんだ。
悔い残る初出場だったが、その後はAチームの『1』番に定着している。その理由は、「走れる」ことにあるだろう。「走れる方なので」と自負するフィットネスは、いまチームのメンバー選考で重きを置いているもの。「一番走れるPRになりたい」と意気込む。
もともと高校時代はCTBだったという経歴の持ち主だ。ずっとベンチでくすぶっているなか、2年生次にFWコーチに誘われた。そうしてPRにコンバート、そこから3年生次にはスタメンへと抜擢された。15キロの増量を余儀なくされたが、適性を見出された形。現在「走れる」こともBK時代の財産と思えばうなずける。いたずらに「逆にいまCTBをやれと言われたら?」と質問をぶつけると、「無理です」と苦笑いを浮かべた。
そんな彼も、まだまだ課題として肉体面を挙げる。スタメンで起用された7月1日の同志社大戦。「最初から気合入るんで…リザーブとは全然気持ちの入れ様が違う。(試合は)走り切れず。もっとフィットネスを頑張らないといけないと」。
さらなる増量も。95キロの壁が立ちはだかっていると話すが(現在は92~94キロ)、最終的には「100キロで走れる」体を目指しているという。部内でのスクラム練習では対面するPR幸田雄浩(経4)らに圧される場面もあり、肉体増強は必須だ。
「体重軽いぶん、セットプレー、スクラムが課題。経験積んで強くなっていく」
夏合宿でのある日、チームの練習が終わってからも一人黙々とグラウンドで体を動かす彼の姿があった。「監督・コーチがいはるけど、大学は選手主体。自分たちで考えて…サボるのも自分次第なんで。自分がもっと頑張らないと」。FWの最前列で生きていく―ストイックな姿勢はその決意の表れではと感じた。
<安福明俊>
安福がフィットネスを嘆いた同志社大戦。雨も相まってタイトな試合展開のなか、先発完投を遂げた選手がいた。SH徳田健太(商1)である。春シーズン最終戦を控え、1週間前にAチーム入りを果たした。初スタメンにも「あまり緊張しないタイプ」と物怖じけることなく試合に臨んだ。
ゲームが終わってから目の上が腫れあがっていることに気づいたが、プレー中は気にならないほどのハッスルぶり。「自分の持ち味はディフェンス」と話すように、DFラグビーを掲げた関学高等部で身につけたプレースタイルを今年のチームにおいても発揮している。ともすれば、まぶたの腫れも殊勝の傷ということか。
一方で、攻撃の起点としては納得のいかない様子。スリッピーなコンディションだったせいもあるだろう。だが自らのミスが目立ったこともあって反省の弁がこぼれた。
「自分のミスを他の人がカバーしてくれて…助かりました。今日は捕まり過ぎ。うまくさばけるように、ボールをうまく供給できるように」
ミスの要因の一つ。それはルーキーたちが必ず通るもの。高校と大学の一番の違いともいえる、『接点』だ。体格差はもとい、そこから生まれる激しさに、打ちのめされる。徳田は言う。「さばき易さが違う。そこでミスが生まれる。改善していきたいと」
皆が通ってきた道。慣れること、大学用の体を作り上げることで攻略できる。その課題は前提として、レベル高き関学SH陣に名乗りを挙げたことは特筆すべき点だ。なにせ今シーズン序盤から君臨し続けた湯浅とのスタメン争いを制したのだから。これには湯浅も落ち込んでいたとのことだが、主将・藤原慎介(商4)も「湯浅にとっても成長できる、良い経験になる」と期待を寄せる。そう、ルーキーの台頭はチームにとっても刺激となるのだ。
「うまい人がSHには、いっぱいいる。(スタメンのときは)そのぶん精一杯やろうと。出る機会があれば、精一杯やっていきたい」
6月17日の関大B戦では独走トライを決めるなど攻撃的な一面ものぞかせた徳田。中西健太(経4)も怪我からの復帰が見込まれるなかで、『9』番をめぐるバトルは彼の存在によって激しさを増しそうだ。
<徳田健太>
徳田と同じくして、高等部時代に花園ベスト4の一員であったFL笹井宏太郎(教1)もAチームでアピールを続けている。立命館大戦では控えとして途中出場を果たすと、6月24日の関東学大との定期戦で憧れだった朱紺のジャージの袖に腕を通す。「重みが違うな」と実感した。
体型が細く小さいことを認識しているからこそ、自らのアピールポイントは豊富な運動量だと話す。「チームのなかで、走り続ける運動量を。フィットネスもFWで1番を目指して」日々取り組んでいる。これまでリザーブでの出場が多いが、「流れを変えるのは、自分が走ることで。他の選手が疲れて動けないところをフレッシュに走っていきたい」と目を光らせる。むしろ効果的な起用方法になりうるか。
その運動量に加え、笹井にはもう一つの武器がある。それは体をなげうってでも繰り出す闘争心あふれるプレーだ。春シーズンで最後の出番となった同志社大戦では試合のラストワンプレー、相手に抜かれそうになったところを必死に食らいついた。ひきずられた際に負傷することになるのだが、そこで流れを切ったことで勝利を告げるノーサイドの笛へと導いた。振り返れば花園のピッチに立ったときも、トンガ人留学生と対峙した際に胸部を骨折した。それでも痛み止めを打ち、準決勝の舞台までグラウンドに立ち続けた。
FLとして常にボールあるところに働きかけなければならない。タックルに、ブレイクダウン。「高等部はディフェンスを大事にしていた。いまもタックルにいく回数は意識している」。自慢の運動量は存分に発揮される。一方で、それだけでは通用しないことも自覚している。同志社大戦でインゴール目前で捕まえられた場面を引き合いに笹井は語る。「タックルされても倒れない強さが必要だと。コンタクトが通用していない。フィジカルがまだまだ。体を鍛えていかないと」。
前出の徳田同様に、明確な課題と向き合っている。それを攻略することは、心技体において関学〝大〟のラガーマンになることにつながる。「フィットネスを落とさず、フィジカルの強さを出していきたいと思います」。答えは出ている。それに至るまでの数式を解いていく作業が、すなわち笹井の成長曲線だ。
2012年、日本一を目指しひた走る藤原組に加わったラガーマンたち。対戦する敵とも、そして部内競争にも彼らは猛然と立ち向かっている。その姿はどこか爽やかにも感じられる。新戦力、もとい〝新鮮〟力がチームにとって爽快な追い風となることは、期待するに堪えないだろう。■(記事=朱紺番 坂口功将)