『WEB MAGAZINE 朱紺番』 2012/5
挨拶『朱紺色に恋焦がれて』
投稿日時:2012/05/29(火) 23:38
挨拶が遅れました。今年度より関学ラグビー部の専属ライターを務めさせていただきます坂口功将と申します。今回『WEB MAGAZINE 朱紺番』という機会を設けて頂き、関係者の皆様に感謝してやみません。
先立ちまして、今年度のチーム「藤原組」の藤原慎介主将の記事を掲載させていただきました。取材日時の都合上、順番が逆転してしまいましたが、改めまして挨拶の変わりとして本稿を掲載します。
関係者の皆様、読者の皆様、関西学院大学体育会ラグビー部と『WEB MAGAZINE 朱紺番』を今後ともよろしくお願い申し上げます。
■挨拶『朱紺色に恋焦がれて』
2008年11月30日、花園ラグビー場。その瞬間、何かが私のなかで弾け、一気に感情があふれ出た。グラウンドに繰り出す選手たちを横目に、カメラマンが位置取るインゴールへ向かうが、こぼれる涙は止まらない。
それはいつもと同じ光景だったのに。試合前に朱紺のジャージをまとった選手たちが円陣を組み、声を張り上げるその姿。
時こそ来たれりいざ戦はん
我等は涙の誓を憶ふ
若き生命を真理に捧げ
我等は努めて勝利を追はん
そう、私はこの姿に魅了されたのだった。そして、いつもと違ったシチュエーションが私を涙させたのだ。
◆◆
振り返ること、今から6年。関西大学Aリーグ開幕戦で、私は初めて出くわした。
これほどまでにのめり込むとは寸分とも思っていなかった当時の私にとって、ラグビーとは…
ノーサイドの精神、同志社大=強い、神戸製鋼=ウィリアムス王子…くらいの印象。
そこに衝撃が走った。写真を撮るためにグラウンドに下りたそのとき、ベンチ前で選手たちが歌い出したのだ。出陣の歌を。
その瞬間が、すべての始まりではないだろうか。それから私は当時所属していた体育会編集部の担当記者として携わっていくにつれ、どんどんと関学ラグビー部の魅力に引き込まれていく。
松尾組、全国選手権一回戦。対するワセダ、大量得点差のなか、頭に包帯を施しながら見せた主将・松尾の意地。報いた一矢。
翌年の西尾組、関西大学Aリーグ最終戦。試合終了間際、小野、執念の同点トライ。繋いだ全国への道。
そうして迎えた3年目、忘れもしない激動のシーズン。
◆◆
自分たちに言い聞かせるように。唱え続けた、チャレンジ・スピリット。それこそが、室屋組の真骨頂。
前年度王者・同大を破るという開幕戦のアップセットは、確かな実力に裏づけされた結果であった。勢い・強さは試合を重ねるごとに増し、最終戦を控え、チームは関西制覇に王手をかけた。
こうして冒頭のシーンにたどり着く。一人の記者として、発信する立場として、過度な感情移入は出さないように心がけている(でないと、大事な場面を撮り逃してしまう)が、このときばかりは違った。彼らの姿を見てきたから―今まさに掴めんとするタイトル、それを手にして欲しい。そんな思いがあったと記憶している。試合開始のホイッスルが鳴ってから、しばらくは涙が収まらなかった。
やがて室屋組は関西制覇を成し遂げ、その後全国選手権で悲願の1勝、ラグビー部の歴史に偉大なる1ページを刻んだ。
このとき、私のなかに生まれた一つの火種。誰よりも関学ラグビー部を伝えたい―その気持ちはこの栄光によって一気に加速した。
◆◆
その思いを形にさせてくれたのは、他でもない関学ラグビー部。小原組の発足に際して、広報的な仕事を託されることになる。私自身もこれまでにない関わり方を実践。〝朱紺番〟と名乗り、闘士たちの戦記を綴っていく。
肉体改造の成果、圧倒的破壊力を持ってして繰り出されるFWラグビー。初志貫徹の結実、関西2連覇。
スタイルを一新、カリスマが率いた緑川組。度々、挫折に苛まれながらも前進し続け、成長を証明した1年。
部員たちの一挙一動。その内で燃えたぎる闘志。目にし、耳にしてきたそれらを番記者として伝えてきた。
卒業と同時にやむなき理由から手を引いたが、この度、再びその役に就くことになった。まる1年を経ても、やはり朱紺色への思いは変わらなかった。むしろブランクがある分、募ったものもある。
藤原組に感謝したい、情熱を爆発させていただけるこの機会を与えてくれたことを。
4月半ば、新チームの初陣を見ようと1年ぶりにグラウンドを訪れたときのこと。かつて取材をさせてもらったこともある4年生部員が、顔を合わせるやいなや一言。
「いつまで来はるんですか!?」
広報を引き受けたいま、返す答えは一つ。
「これから、もうしばらくは」
どうぞ、よろしくお願いします。■(記事=朱紺番 坂口功将)
藤原慎介『闘士から闘将へ』
投稿日時:2012/05/22(火) 23:32
2012年の関学ラグビー部を率いるのはこの男だ。シーズン序盤から自分たちのラグビーをグラウンドで発揮し、結果を出す『藤原組』。その先頭に立つ闘将・藤原慎介(商4)が見つめるものとは。
■藤原慎介『闘士から闘将へ』
高ぶる気持ちと、形容するならば不安か。それらのせいか、リーグ開幕戦を控え彼の目はどこか定まっていないようにも見えた。「まだ実感が沸いてなくて…花園のピッチが始めてで、観客が多いなかでプレーするのも始めて。そんな緊張するタイプやないんで…まだ。(試合)前日にすごくなるかも」。それは、その年にレギュラーに抜擢され、自身初となる聖地での戦いに繰り出そうとしていた一人のラガーマンが2年前に口にした心境。藤原慎介、その人。2012年現在、関学ラグビー部の主将を務める男である。
JOCKY
気がつけば、チームのなかで不動たる存在になっていた。いまやスタメン表の上からその名が外れることはない。藤原がレギュラーに選ばれたのは2年生次だ。
もとはPRとして大学の門をくぐった。決して強いとは言えない高校の出身。Aリーグへの思いを胸に、「頑張ればレギュラー入れる」と自らに期待を込めて、当時は関西4、5位の位置にいた関学ラグビー部を選んだ。だが、スポーツ推薦が決まったその年、関学は躍進を遂げ関西の王者となった。進学してから藤原は気づいた、すごいメンバーばっかり、だと。
入学から半年、Eチームを経験するなど彼はチームの下位にいた。転機となったのは秋。ナンバー8へのコンバートが成功しBチーム入りを果たす。2年目からはガタイの良さに加え、アタック力、セットプレーの強さを買われ2列目に選出された。「スクラムやったら、どこを押して欲しいとかが分かると思うんで。PRを10月までやっていたという経験が活きてる。PRしてエイトやって、いまはLO。すごい良い経験をさせてもらっている」。当時の藤原はこう話していた。翌3年生次は、抜けた絶対的2番の穴を埋める策として、HOをも務めた。リーグ戦では定位置へと戻ったが。
これまでの過去3年間の生き様。それこそが、藤原が主将になりえた所以。彼ならではの「色んなポジションを経験している」ことは、どんな形でもスタメンに定着しようとしたレギュラーへの執着心であり、そしてまた仲間・コーチ陣ら周囲からの期待に他ならない。キャプテンを務めるにあたっても自身のなかで不安はあった。けれども、寄せられる期待を感じているからこそ、主将でいる。
シーズン前、チームの目標を決める話し合い。色々な意見が飛び交ったが、最終的には「主将のお前が決めろ」と促された。藤原の気持ちは一つだった。全員が納得のうえ、チームの目標は決まった。藤原組が目指すのは、日本一。
JOCKY
藤原組が実現させているのは防御主体のラグビー。チームが発足してからというものの「練習ではディフェンスしかやっていないと言っても過言ではない!」と主将は語気を強める。数多の強豪校に勝つためを考えた結果、出てきた答えがディフェンスの徹底だったのだ。
そうして迎えた4月15日の京産大とのシーズン初戦は、62-7で初陣を飾る。特筆すべきは被トライ1という数字。それ自体はアンラッキーなインターセプトで喫したものであり、ゲーム全体では終始、タックルを炸裂させ相手の動きを封じ込めた。
続く5月5日の大体大戦。ファーストジャージを着ての初の試合は、前半を無失点に抑える。後半早々に先制点を許したが、取られたのはその1本のみだった。
自らの手で繰り広げる、自分たちの目指すラグビー。その戦いぶりは、さらに翌週の試合でも発揮された。
5月12日の青学大との定期戦。この日は試合前の空気が違った。1年前の同カードで喫した大敗(10-69)の「借りを返したい」という気持ちが選手たちの胸中で燃えていた。前週と同じくファーストジャージを着用してのゲームだったが、試合直前、サイドラインからピッチへ繰り出そうとする選手たちの表情を見て部員の一人がつぶやいた。「今日何かかっこいい」。
兄弟校へのリベンジマッチでは「やってきたことをやるだけ」と2人がかりのタックルを徹底し、攻撃に転じては副将を務めるFL安田尚矢(人福4)とWTB松延泰樹(商4)の2人が持ち前の決定力を見せつけた。終わってみれば62-5の大勝。昨年のスコアを丸々ひっくり返す形で雪辱を果たした。
開幕から3連勝。それも1試合平均の被トライは1本。自分たちのラグビーが出来ている実感で毎試合満たされているのでは? 青学大戦後の主将に聞いてみた。返ってきた答えは意外なものだった。
「ディフェンスが出来てる実感は…最近まで無かった。昨日ですね。BチームとCチームを見て実感した。しっかりディフェンスしてると。
ディフェンスになると目の色変わって、がつがつタックルにいっている。チーム全体として出来ているなと思う」
トップチームの選手だけではなく、チーム全体としての意識統一が成されている。その実感が主将の胸にはある。
例年、大所帯のラグビー部とあって部員全員のベクトルを同じ方向へ向けることが難題となってきた。ときに挫折が、ときに不信感が、部内で蔓延した過去は幾つもあった。それらはシーズンが深まるにつれ、やがて解消されてきた。けれども今年は違う。シーズン序盤にして、この結集。堅固な防御とともに藤原組の凄みとなりうる。
JOCKY
そもそもディフェンスをチームのスタイルとして打ち出したのは、関学ラグビー部のなかで久しい。振り返るは4年前、室屋雅史(社卒)が率いたチームが、「ディフェンスの出来ない選手は試合に出さない」とまでの意識づけのもと防御の構築を図ったとき以来だ。その年のリーグ戦では被トライが10本(全7試合)であり、半世紀ぶり関西制覇の最たる要因にその強固なディフェンスが挙げられたことに誰もがうなずく。「室屋さんたちの代みたいになれたら良いなと。ああいう代を目指していけたら」と藤原は語る。
憧れを抱いた先輩たちの姿がある。それらを意識しながら、自分たちに投影させている。室屋組からはスタイルを。そしてもう一つ、藤原始め現4年生たちが直接目にしてきた存在からは、部を統率する姿勢を倣っている。3年前に関西連覇を遂げた小原組を思い浮かべて主将は話す。
「常に日本一という目標と、スローガンの『ALL-OUT』を口にしてて。4回生全体が声に出して体で見せていた。
今こうして3試合勝たせてもらえたが、まだ下の学年が日本一という目標に対してどれだけ思っているかは分からないし…それでも4回生が口に出して引っ張っていかなと思っている」
先輩たちの存在を心に留め、掲げた今年のスローガンは『OVER』。ただ憧れるだけではない、越えていこうとする意欲。「これまでの関学を」〝超える〟1年を見せてくれるか。
青学大戦のインタビュー、最後に主将へ質問を投げかけてみた。
―目標の日本一は見えている?
「はい!!」間髪入れず返事をし、藤原は続けた。
「この勢いで強い相手と試合して自信をつけていきたい。やるのも楽しみ。どれだけ良いプレーが出来るのかな、とも」
リーグ戦を目前にしていた2年前のあのときとはまるで違う、ぎらぎらと闘志をたぎらせたその瞳は目指す頂をしっかりと見据えていた。■(記事=朱紺番 坂口功将)
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