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『WEB MAGAZINE 朱紺番』

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古橋啓太『野望の果てに』

投稿日時:2013/11/30(土) 10:00

 自らが欲するものを掴むべく、彼は新天地に戦いの場を移す。背水の覚悟で臨んだ4年目で、男が達した境地とは。CTB古橋啓太(商4)に生まれた新たなるプライドと決意が、フィールドで炸裂する

 

■古橋啓太『野望の果てに』

 


 

 ひょっとすると。そんな空気が漂ってきたのは、リーグ開幕戦が終わったあとだったか。チームは京産大を相手に劣勢を打破できず、黒星を喫した。そのことが直結したかは定かではないが、今後の展開を考えていくなかで、部内で一人のプレーヤーの名が挙がるようになったのは事実。


 それから数日後の関学第2フィールド。調整に励むAスコッドのなかに、そのプレーヤー、古橋啓太の姿があった。同じポジションのCTB鳥飼誠(人福2)らとともに、入念に動きを確認していた様子。その練習後、グラウンドから引き上げる古橋は、訪れた展開に声を上げた。


 「あきらめかけてたんですけどここにきてAに呼ばれました」


巡ってきたチャンス。ものにしないといけない

 「そうスね!」


 遠のいていた。だが、突然にしてチャンスは目の前にやってきた。朱紺のジャージを着る、すなわちレギュラーという座が。


 それは不退転の覚悟で挑んだ戦いだった。もとよりFWに身を置き、大学生活を過ごしてきた。けれども、シーズンの上半期こそ上位チームにいながら、リーグ戦になるとそこからこぼれた。レギュラーを掴めずにいた3年間。ラストイヤーをむかえ、古橋は一つの決断をする。FWからBKへ、CTBへのコンバートである。


 「4年目でプライドとかも持ってられないんで。そんなん捨ててでも、試合に出られるなら出たい」


 大学進学前、全国大会や高校代表といった、自らのアイデンティティーを形成してきたナンバー8というポジション。そこへのプライドをかなぐり捨ててまで、彼は新天地に懸けたのであった。


 そうして春シーズンはCTBとしてプレーに励み、Aチームに名を連ねた。持ちえていた強みである、身体の強さやボールへの働きかけは失わずに、そのうえでCTBのポジションならではの難しさを味わいながら、修練を積んだ。結果として、リーグ戦が始まり、ついにAチームから声がかかることになった。第4節の同志社大戦にて、トップチームへの選出。朱紺色のジャージを手に、念願の舞台へと繰り出す。だが、古橋にとってのデビュー戦は、まさかの展開となった。



 試合が始まり、朱紺と紺グレが交じり合う。その激しさゆえに、関学の選手とりわけFW陣の負傷が相次ぐことに。一人、二人と負傷交代が続く。その状況で、ベンチに控えていた古橋に萩井好次ACから予想もしていなかった指示が告げられる。「3人目の怪我人が出たら、FWでいくよ」


 よもやの指令、しかしそれが現実のものとなる。後半38分にFL中村圭佑(社3)と交代を告げられ、ピッチ上に立ったのはFWとしてだった。


 「はよ出たいな、と思いつつ実はFWかい!!って(笑)」


 緊張はしていなかったと話すが、試合展開は緊迫そのもの。敵陣に詰め寄り、だが決定打に欠く。「ミスは出来へん。チャンスをもらえたという気持ちと、ミスしたらアカンという気持ちでした」


 本来ならば、新たなるポジションでレギュラー入りを果たしたことへの証を、ピッチ上で体現したかっただろう。CTBとして、この試合にむけた狙いをこう明かした。


 「FWを助けられるようなプレーを。相手の裏に出る、ラインブレイクをしたかった」


 思惑とは違えども、FWを助ける形になったデビュー戦。「まさかでした、けど、それ(FW)も出来ると思って、前向きにいきたいです!リーグ戦はまだ残っているし、5分の出場時間も経験にして。まず出る、というのは果たせたので、もう一歩、二歩、三歩と上がっていきたい。自分でも納得できるように」


 自身が望んだ舞台に立つことが出来た。ならば次は


 翌週の第5節、立命大戦で古橋はついにCTBとしての出場を果たす。が、その来たる出番が訪れたとき、そこにはかつてないスリリングな展開が彼を含め畑中組を待ち構えていた。最大31点差からの立命大の猛追。そう、まさに〝混乱の10分間〟を古橋はピッチで過ごすことになったわけであった。


 「BKもFWも関係ないっス。アタックしたかったですけどボールは回ってこず、とりあえず、がむしゃらに相手を止めることを。『楽しい』とか全く思えなかった」


 追い上げムードに勢いを増した立命大を相手に防戦一方。ただひたすらに攻撃を食い止めた。果たしてリテイクとなった〝CTB〟古橋のデビュー戦は、劇的勝利に終わったが。


 「『ついに!』の実感なかったです(笑)。ここに出て、オレは何が出来るのか、と。本当にね怖かった。

 みんなが観にきてくれるなかで、CTBとしてのプレーをやってみたいですね!」


 チームへの貢献は確かにそこにある。それだけでも彼が闘った証としては十分であるが、何ともスマートにいかないところが彼の歩んでいる道といえようか。


 それでも、シーズンが深まるなかで古橋はその存在感を見せるようになっていた。大学Aリーグと並行して行われているジュニアリーグにて、彼は大車輪の活躍を披露。11月17日の天理大とのプレーオフ初戦にて2トライを決めた。



 ナンバー8とは、スコアラーと意味をともにすることが多いポジションである。はじけるように軍勢をかき分け、インゴールを陥れ、とどめをさす。トライへの嗅覚を本能的に備えているポジションといっても過言ではないだろう。それは古橋も例に漏れない。かつては「まわりが自分に合わせろ」なんて心持もあったが、CTBに身を移してからは「パスも回しまくりです」と微笑む。であるからにして、「アタックに関して、トライを取る感覚はなくて」とコンバート後の立ち位置を明かす。


 だが、自らの持ちえる武器を封じる必要はない。その結果がプレーオフでの2トライ。まさにCTB古橋の付加価値である。しかし、「良かった」と振り返る一方で、実のところ反省しきりの試合でもあったという。


 「ディフェンスが全然だめで。仕留められたのが50%くらい。能力の差で上回られて、その点をカバー出来ず。アンガスにも怒られました・・・」


 本人にとっては重きを置いていた部分であったのだろう。身体を張ることは自身のストロングポイント、ましてやディフェンスはチームのベースである。むかえた翌週のリーグ最終節、11月24日の近大戦。古橋に今度こそCTBとしてプレーする機会がやってきた。後半25分、鳥飼に変わっての出場を果たす。


 チームが統率されたプレーを攻守で展開するなかで、古橋もピッチを駆け回った。ボールあるところに走り込み、味方が継続しやすいようにしっかりとオーバーする。見せ場もあった。BK陣が外に広がり、古橋にパスが渡る。相手ディフェンダーが2人がかりで止めにかかるも、幾分かのゲインを見せた。


 「ディフェンスは7本くらいいけましたかね…それでもCTBとしては、もうちょっと欲しいところ。アタックにしても、もっとボール持ちたいですね…」


 プレーする時間がこれまで以上に長かったぶん、至らなかった点も出て来た。それでも―


 「やっと実感が沸いてきました。CTBとしても、Aチームとしても」


 試合後、彼は安堵にも似た表情を浮かべた。それは、描くCTBとしての動きを実現できたこと、つまりは望んでいた境地にたどりつけたことへの喜び。いま、自分はレギュラーとして闘っているのだと。



 ラストイヤー、彼は新天地に全てを懸けた。トップチームでプレーする一心とコンバートが奏功し、願いを叶えた。レギュラーとしてピッチに立つ彼の胸の内にある思いとは。


 「4年目でやっと。同じ4回生も喜んでくれているし、すごい嬉しいです。Bスコッドの4回生の気持ちも分かるんで…。応援したい気持ちと、どこかそうしにくい気持ちがそこにはある。自分がそっちやったら、出来なかったと思うんです。

 だからこそ、情けないことは出来ない」


 応援する側から、される側へ。試合に出るということは、そういうことでもある。部員全員の思いを背に、チームの代表として闘うこと。


 レギュラー争いを制しても、なおも古橋は危機感を抱き、残りのシーズンに挑む。「毎週、怖いです。レギュラー入りしたい気持ちと、チャンスを逃したら取り返せないという不安が」と過ごしてきた日々を告白するが、その背中に受ける思いを分かっているからこそ、彼のレギュラーへの情熱が潰えることはないのだ。


 Aリーグも閉幕し、次は大学選手権。と、その前にジュニアリーグの決勝がある。「まずはそこを」と13番で出場予定の古橋は意気込む。


 「A2の後輩らも頑張ってくれているし、勝たせてやりたいです」


 己の為に野望を抱いた男は、次なる野望を胸に戦いに繰り出す。そこには純粋たる、仲間たちへの思いがあった。■(記事=朱紺番 坂口功将<広報担当>)



関連リンク

▶古橋啓太プロフィール

古橋啓太「切実なる野望」(2013/7/13)

金尚浩『奮いし闘走本能』

投稿日時:2013/11/26(火) 12:00

 たとえ、この身体が果てようとも。宿した闘志が、己を掻き立てる。だ円球を掴み取り、インゴールへ向かえと。最終戦にして、今リーグ初トライを挙げたWTB金尚浩(キム・サンホ=総政3=)。発揮されたパフォーマンスの背景にあった、熱き思いとは。

 

■金尚浩『奮いし闘走本能』

 


 

 後半も始まってまもない時間帯。チームで決めたテーマに従い、相手陣内へと押し上げるべく、SH徳田健太(商2)がボールを蹴り上げる。高く舞い上がったボールはやがて上昇を止め、静かに落下してくる。


 そのハイパントのシチュエーションを『自らの十八番』とするWTB金尚浩が、天に刺さるようにボールへ向かって飛び上がる。相手選手との競り合いのすえ、わずかの差でキャッチはならず。点々とボールは転がり、相手の元へ。悔しさ余ってか残念そうに、それでも金尚浩は笑みを浮かべていた。


 ハイパントキャッチなる空中戦は、それこそ彼にとって苦い記憶が伴うものでもある。主力選手としてむかえた3年目の今季、リーグ戦序盤に彼の姿はピッチに無かった。


 夏の菅平合宿での負傷離脱。悲劇は空中戦の果てに、身に降りかかったのであった。



 今年の8月27日。合宿のメッカ・菅平高原で設けられた練習試合を締めくくる一戦が、筑波大を相手に行なわれた。試合は開始早々から関東王者がトライを重ねる展開。金尚浩は、その瞬間を思い返す。


 「前半始まってすぐに3本トライを取られてチームもどんよりしているなかで、雰囲気を変えるようなプレーをしたいと。サインが出て、啓吾さん(畑中=WTB/商4=)が浅めに蹴って、自分が獲りにいくという。獲れたんですけど、空中で相手に当たった」


 ややもすれば、不安定な状態での衝突が生じる空中でのボールの奪い合い。長身を活かし、それを得意技とする金尚浩は、筑波大でのその場面で怪我を負ってしまう。立てないほどの痛みに襲われた。「今シーズンが終わった、、、」。これまで負傷したことのない箇所の怪我に、嫌な予感が脳裏をよぎったという。


 ただ、不幸中の幸いといえよう、下山してから受けた診断の結果、予感した最悪のケースは免れた。手術は不要、一ヶ月で復帰できる。そう医師から伝えられ、彼は胸をなでおろした。


 そこからはリハビリに当てる日々。一方で、チームはリーグ戦をむかえた。開幕戦に間に合うことは出来ず、チームの黒星をスタンドから眺めるしかなかった。


 「ふがいなかったです。ガンテ(金寛泰=PR/人福3=)とも外で見てて。チームはいつもの自分たちのプレーが出来てない、かといって、自分もフィールドにいないし」


 悔しさに苛まれながら、復帰へむけリハビリを続ける。リーグ戦も第2節を過ぎ、ようやく戦列へ戻る準備が整った。しかし、まだ痛みは抱えたまま。負傷した箇所をテーピングで固め、第3戦にて復帰を飾った。


 怪我の影響は確かにあった。思うように走れない。「トップギアに入らなくて。去年に比べたら、スピードは落ちている」。昨年は畑中とともに決定力十分の両WTBとして数々のトライシーンを彩った。今季は違った。以前なら振り切っていたはずが追いつかれる。パフォーマンスへのジレンマを抱きながら、それはリーグ戦のトライが0本という数字に表れていた。


 だが、このまま終わることはなかった。11月24日、関西大学Aリーグ第7節。近畿大とのリーグ最終戦で、彼は健在ぶりを見せつけたのである。



 開始8分に先制トライを挙げるなど、序盤から積極的に相手陣内へ繰り出す朱紺のジャージ。準備と集中力の賜物、守っては敵の前進を阻み、攻めては悠々とボールをつないでいく。前半13分、カウンターからBK陣を中心に押し上げ、そこからSH徳田が抜け出し一気にゲイン。最後は金尚浩へパスが渡りゴールまで到達した。


 結果的に前半だけで5本のトライを奪うなかで、金尚浩は25分にも、もう一つトライを挙げる。相手ラインの裏側へ放ったCTB鳥飼誠(人福2)のチップキックに、すばやく反応し、ボールを抑えての一本であった。


 自身にとってリーグ戦第1号を筆頭に、ポイントゲッターとしての嗅覚をうかがわせるトライシーン。BK陣と連携を取り、相手ゴールまで駆け抜け、一方でディフェンスに奔走する。これぞ金尚浩と、久しぶりの興奮を覚えた場面の連続だった。


 試合も快勝を収め(55-7)、終わりには満面の笑みを浮かべたが、やはり何よりも彼が、本来のパフォーマンスに限りなく近いそれをピッチ上で発揮できたことが大きい。そして、そこで存分に見られた、彼の闘う姿勢。


 そもそも本人が告白するに、身体の状態でいえば満身創痍そのもの。「ボロボロですね」と明かす。それでも、ピッチに立っている。身体は動く、フィールドにいる以上は、自らの役目を遂行する。表すならば、これは金尚浩が宿している闘争心に他ならない。


 リーグ戦も終わり、2週間を空いて次にやってくるは全国の舞台。ただし、金尚浩にとってはまずは身体のケアが必須。そこから試合に臨む形になる。


 けれども仮に、どんな状況であっても、彼ならば全身全霊を懸けて戦いに身を投じるだろう。恐れぬ精神、近大戦のあの場面について、こう力強く言い放ったものだ。


怪我の原因となったハイパントキャッチ。躊躇はしませんか?


 「無いです! みんなにも言われるんですけどね。びびってても、何も始まらないんで!」


 ボールのもとへ走り、飛びつき、インゴールまで駆け抜ける。WTB金尚浩の闘〝走〟本能は、とどまることを知りえない。(記事=朱紺番 坂口功将<広報担当>)



関連リンク

▶金尚浩プロフィール

竹村俊太『闘率せよ。新たなるリーダー』

投稿日時:2013/11/20(水) 01:54

 いままさに必要とするは、ピッチ上での闘志。主将だけではなく、プレーヤーそれぞれがチームを扇動し、鼓舞するという強烈な意思を持つこと。リーグ戦も半ばを過ぎ、ここにチームからリーダーに指名された男がいる。LO/FL竹村俊太(人福3)、闘率者の胎動。

 

■竹村俊太『闘率せよ。新たなるリーダー

 


 

 出身高校を同じくする主将・畑中啓吾(商4)はこう称える。


 「あんなに優しそうな顔をして、むちゃくちゃ激しくプレーする」


 接する人は、その温和な雰囲気にふと、和みを感じることだろう。仏のような顔立ち、それに加えピッチ上での有無も言わせぬハイ・パフォーマンスが、さらに信頼感を増幅させる。


 その選手の名は、LO/FL竹村俊太。彼は、自らの存在を確たるものにしている。昨シーズンにトップチームに選出されてから、常にスタメン入り。ピッチに繰り出しては終始走り続け、セットプレーではきちんと自らの仕事をこなし、そして誰よりもタックルにいく。ボールにくらいつく姿勢の延長で、インゴールを割ることも。


 ただ、ポジション柄もあるだろう。ネームバリューも含め、真っ先に名前が挙がるような選手ではない。だが、誰もが目にしている。竹村のハードワークを。そして、そこで常に発揮される安定感抜群のパフォーマンス。


 かつて「自分では安定しているとは思っていない」と明かしたが、「いつもどおり100パーセントのプレーをしよう」という気概が、フィールドでの一挙一動に宿る。全力プレーが、チームからの厚き信頼感につながっていることは言うまでもない。


 3回生となった今季も、それは変わらず。チームが始動した当初から、FWの中心選手として君臨している。ハイレベルでの安定度合い、それでも3年目を迎え、彼のなかでは気持ちも新たにした。それは上級生としての意識だった。


 「今までは3、4回生に頼りっぱなしだった。3回生になって、引っ張っていく立場になって。自分が引っ張って、結果を出さないとダメに。責任を感じます」


 シーズンも深まり、関西大学Aリーグに突入。開幕戦ではトライも挙げ、やはりは見るものをうならせる、竹村俊太のプレーを繰り出す。


 そうしてリーグ戦も半ばを過ぎた時点で、彼はチームからFWリーダーを命じられた。



 11月9日、リーグ第5節・立命館大戦。彼はただ一つ、これまでとは異なり、ゲームに際して、FWリーダーに就くことになった。現職のFL丸山充(社4)がリザーブに回ったこともあり、ゲーム上でのリーダーの意味合いもあっただろう。主将も「リーダーの自覚」を竹村に促した。


 彼が話すに、これまで競技人生のなかで、キャプテンといった役職に就いたことはない。関学においては2年生次から学年リーダーを務めてきた経緯がある。が、もとより「言葉が上手くないんで」と苦笑いを浮かべるように、穏やかな性格ゆえの物静かなタイプ。「まとめてから話をしたりする時とかは難しいです」と苦難を述べる。


 けれども畑中は、任命してからの彼の変化を感じていた。「練習中から、よくしゃべるようになりましたね」


 〝FWリーダー〟竹村の初陣となった立命大戦は、残り時間10分での相手の猛追を振り切っての勝利。スタメンのFW8人全員に3回生を配した采配もあるなかで、結果を挙げることが出来た。劇的勝利に気運も上がったチームは、「勝った次の試合が大事」(畑中)と心に留め、次なる相手の天理大との一戦に臨んだ。


 11月16日のリーグ第6節。試合前に設けられたレフェリーチェックの場面で、聞いておきたいことはないかという主審の問いかけに竹村は手を挙げた。事前に萩井好次アシスタントコーチとも話していた内容を、レフェリーにぶつけ、しっかりと確認を行なう。アップ時には、天理大の練習風景に目を配っていた丸山から「ラインアウトは分析どおり」と進言され、受け止めた。


 だが、いざ試合本番ではチーム全体の動きが鈍っていた。オープニングトライを相手に献上すると、その直後にPGを与え失点、そこからまたしてもトライを許し、開始10分にて15点差をつけられた。


 前節でも露呈した課題を克服できなかったショックは確かにチームに響いた。「受けてばっかりでした」と主将が振り返るように、自陣でのディフェンスに終始するゲーム展開。警戒していたCTBもさることながら、「前に出る圧力がすごかった。順目にいくのも、ボールの捌きも早かった」と主将は相手のオフェンスの印象を述べた。


 一方で数少ない攻撃のチャンスも、この日は不発に終わる。得点パターンである外へ一気にボールをつなぐ展開ラグビーも、ゴールが遠い。「横々になりすぎて、縦にいけなかったのが反省点です」(畑中)。


 FWとしても敵陣内へ迫るが、相手の迅速なるディフェンスを攻略できない。「ゴール前で取りきることが出来なかった」とFWリーダーは悔やんだ。


 相手の攻撃に関しては主将が話すに「想定の範囲内」だったが、守備は実感して「想像以上」(竹村)。結局80分間を通じて、奪った得点はPG2本のみ。天理大との一戦は、畑中組にとって公式戦では初めてのノートライという、文字通りの『完敗』に終わった。



 「悔しいですね。まだ安定してない。良いパフォーマンスを継続して出せてない」


 天理大戦直後、竹村は悔しさをにじませた。と同時に、劣勢に陥ったゲームのなかでチームの闘志を奮い立たせる、響くようなアクションまでに至らなかったことへの反省も。


 「沈んでしまう場面が多かった。前を向かせるような、ポジティブな声がけが出来たら良かったと」


 ピッチ上でのパフォーマンスには文句のつけようがない。〝体を張る〟ことは、それだけで周囲の心を惹きつける。竹村のリーダーシップも根底にはそれがある。ただ、彼自身はチームを率いる者として、必要となる〝声を出す〟ことに挑む気概だ。


 そして、それはチーム全体に対しても、同期たちに対しても。トップチームの主力選手に3回生が多い現状において、竹村はこう語った。


 「良い意味で仲が良い。けど、悪い意味で厳しさが無いと。強く言えないところがあるので。厳しく言っていかないと、こういう試合も勝てないのかなと思います」


 口にした言葉から垣間見えた、厳格たる決意。チームを勝利に導くためにも。


 竹村俊太よ、今こそ修羅となれ。(記事=朱紺番 坂口功将<広報担当>)

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▶竹村俊太プロフィール

観戦記『理想の70分間と混乱の10分間』

投稿日時:2013/11/14(木) 12:00

 畑中組にとってベストバウトになる予感がした。リーグ戦の首位を走る立命館大を相手に、悠々と試合を進めていく。そこにあった、プレーヤーたちの〝狙い〟の一撃。しかし事態は急転し、思わぬ展開に。その果てに掴んだ重き1勝を振り返る。

 

■観戦記『理想の70分間と混乱の10分間

 


 

 ラグビーは人生の縮図、とはよく言ったものだ。ゴールを目指し、立ちふさがる壁にも果敢に挑んでいく。そこには一人ひとりの執念もあれば、支えあう仲間たちと一丸となることも。また、準備を重ね、イメージを深めて臨んだ本番では、そのビジョンを実現させ、結果を手にする。一方で浮き出た課題には目を逸らすことなく向き合う。


 11月9日、関西大学Aリーグ第5節。ここまで全勝を続ける立命大との一戦は、開始5分での失点で幕を開けた。立ち上がりの悪さを露呈する形となったが、起きてしまった以上は、すぐさまチームは気持ちを切り替える。このゲームで自分たちが意識すべき点は何か、それらを徹底していくべし、と。


 チーム全体としてそれらを実践していくことで、ここから畑中組は試合の流れを掌握する。そのなかでプレーヤーたちも、それぞれに与えられた使命もさりながら、〝狙い〟すましたプレーを見せた。


 開始早々の7点ビハインドも、まずは追いつくことから。前半8分、相手ゴール手前まで攻め込む。生じたラックに人が集まり、その密集から少し離れた位置にいたHO浅井佑輝(商3)にパスが送られる。


 「狙えるかなと」。このシチュエーションを彼は、そう捉えていた。ゴール前での得点チャンス。自身にとっては何としても、ものにしたかった。


 彼が振り返るに、前節の同志社大戦(10月27日)。同じように相手ゴールを目前にした場面で、彼はノックオンを犯してしまい得点機会を逃した。攻めども結果的にトライを奪うことは出来ず、こぼしたボールと同様に、勝ち星を一つこぼしてしまった(12-25)。


 今度こそは、取り切る。目の前にいた相手ディフェンダーをもろともせずに、浅井はインゴールへと飛び込む。文句なしのトライは、反撃の狼煙を上げる一発となった。


 前節のリベンジも含め、浅井はリーグ戦において、反省と修正を行なってきたプレーヤーである。昨シーズンの暮れにAチームに抜擢されてから、レギュラーとして臨んだ3年目。背番号2番を譲ることなく、リーグ戦を迎えたが、開幕戦では苦い思いをした。試合前のアップ時からボールに手がつかず、セットプレーは不安定のまま、ゲームへ。結果、「あんなにミスしたら勝てないです。。。」と敗戦の責を一身に背負った。


 おそらくは公式戦ならではのプレッシャーだったのだろう。それでも試合を重ね、またレギュラーに同学年の選手が多いことも手助けし、その不安材料も次第に解消された。


 立命大戦にあたっては「久しぶりに緊張した」と浅井は話す。この試合、FWの8人全員に3回生を配した。これまでにないメンバー構成は、セットプレーに影響してくる。しかし、その懸念材料も練習の成果が試合本番で発揮できたことで打ち消された。


 1週間前に設けられたトップリーグの神戸製鋼コベルコスティーラーズとの合同練習で、FWはスクラムについて学ぶ機会を得た。そこでは、組む際に相手にまっすぐ当たっていくのではなく、潜るように低く姿勢を取るという、より「相手が嫌がる」組み方を習得。そして、それを立命大戦で実践し、まさに効果を挙げたのである。



 セットプレーから優位に立てたことは、試合の流れを掴めた一因。と同時に、この試合については、一つのキーワードを意識づけして臨んでいた。それは、『敵陣でプレーする』ということ。


 SO平山健太郎(社4)という、冷静にその右足でエリアマネージメントを図れる存在が頼もしかった。前半23分、相手のペナルティからボールを得ると、平山が敵陣深くまでボールを蹴りこんだ。そこからのラインアウトをFW陣がしっかり成功させると、次はBK陣の出番。流れるようなパスワークを展開し、相手ゴールへと迫る。最後は、前節で今季リーグ戦初トライを挙げたWTB畑中啓吾(商4)がきっちりとフィニッシャーとしての役目をまっとうした。


 目覚めたエースWTBは、このゲームにむけての狙いを、こう明かした。「対策のなかで、立命大の外側、WTBはディフェンスが良くないと。内に寄ったり、ずれたり。それで健太郎(平山)とも話してたんです。『外、いけるで』って」


 敵のウィークポイントを攻略の糸口とするのは勝負の世界では常套たる手段。それを踏まえ、確実にしとめることがBK陣とりわけWTB畑中に与えられた使命だったのだ。そうして前半終了間際には、これと同じような形でさらなる追加点を畑中は奪った。


 ポイントを作ったFW陣から、大外のフィニッシャーまでボールを繋げる過程は、リーグ戦も半ばになり成熟している。前節でのトライ・シーンを、畑中は「内側たちの選手たちが上手かったです」と開口一番に振り返っていた。WTB金尚浩(総3)の逆サイドでの走り込み、CTB水野敏輝(人福3)や鳥飼誠(人福2)のパス、それらを称えた。「ああいう状況になれば、取り切る!」。そう明言したとおりの、続く立命大戦での2トライであった。


 「BKも早めに仕掛けていけば、トライを取れるんで。そこは自信を持って、攻めれたらと思います」


 得点という明確なる結果が、自信をさらに深めていくのだ。


 前半を終え、24-7。開始早々の被弾はあったが、それ以降は関学ペース。優勝候補筆頭と評される立命大との一戦が、このようなスコアになると想像した人はそう多くはいまい。しかし畑中組としては、まさに目論みどおりであった。主将は、対戦チームをこう分析していた。


 「立命大は、一つひとつのプレーがしっかりしている。アタックも特別難しいことをしているわけでもなく、とくにFWも強いわけでも。自分たちにも勝てるだけの絶対的な力はある、勝てる!と思って臨みました」


 あとは残りの40分間も前半で見せたパフォーマンスを継続できば、おのずと白星を掴むことが出来る。


 そのためにも、後半の入り方は重要だった。ホイッスルが鳴ってすぐの、チームが不得手とする時間帯。


 後半も5分を過ぎたあたり、自陣深くまで攻め込まれるが、ゴールを割らせない。やがては相手のオフサイドを誘い、ピンチを脱した。転じて攻撃では、念頭に置いた『敵陣でのプレー』を徹底。フィールドの中盤付近でフリーキックを獲得した場面でも、相手にルール上で一定の距離を後退させるのではなく、あえてスクラムを選択し、引きつけたところから敵陣奥までボールを蹴り込む作戦を取った。



 テーマを着実に具現化していき、後半で先にスコアを動かしたのは朱紺のジャージ。後半21分にSH徳田健太(商2)がゴールポスト下へボールを叩き込む。


 勢いそのままに敵陣でプレーを展開し、その3分後。今度は陣地回復を図る立命大のキックに、猛然と駆け込んだCTB水野がチャージに成功した。はじかれて点々と転がるボールはインゴールへ。水野がボールを押さえ込み、さらなる追加点を挙げた。


 「狙ってました。あそこのワンダッシュだけに集中して。時間的にも、もう1トライ欲しいし、良いプレーして良い流れにしようと。1プレー、頑張りました」


 『敵陣でのプレー』とは、相手に前進させないだけのプレッシャーを与えるということでもある。チャージという捨て身のプレッシャーは、相手の陣地挽回をはね返すばかりか、一転して、そこに絶大なる好機を生む。


 予兆はあった。前節の同志社大戦でも、水野は同じようなシチュエーションで一つ、チャージに成功している。ただ一点だけに狙いをすませる嗅覚を研ぎ澄ませていたのだ。


 その水野も、リーグ開幕戦では表情に影を落としていた。思えば、あのときの京産大戦では相手の前に出るディフェンスに受身になってしまった。展開して人数を余らせても、自分たちのミスで攻撃を手放す、負の連鎖に陥っていた。水野も先制トライこそ挙げたが、局面を打開できぬままに終わった。「相手の思い通りやったかも」と彼は試合後に口にした。


 自分たちがなすべきラグビーが出来なかったことへの悔しさに苛まれた。リスタートを切ったチームで、水野も徐々に調子を取り戻していく。コンディション調整の一環で体重は減らしたが、「当たり負けしない程度」の肉体に。丁寧かつ絶妙なパス回しは熟成するBK陣のなかで輝きを放つようになった。


 立命大戦の前半で見せた畑中の2トライ。「BKでパスを回して、WTBがトライを決める。理想的なプレーだったんで、BKの士気も上がりました」。そうしてユニット全体でムードを押し上げたうえで、個々としても、チャージという一瞬で熱を生じさせるプレーを繰り出したのである。


 組織と個々が、まさに狙い通りのパフォーマンスを発揮する。その結果が、時計の針も30分に差しかかろうとしていた時点での387というスコアであった。


 それは、「29点差を空けよう」と意識していたセーフティゾーンに至るまでのゲーム運びをチームが実現できた瞬間だった。



 試合も残すは10分ほど。リザーブも投入し、最後までフィットネスが途切れることがないようにフレッシュな戦力をピッチに送り出す。


 だが事態は急転する。後半29分に自陣で獲得した関学のアドバンテージ。キックで相手を押し返すが、返した刀、トライを許す。つけられた一つの割れ目が、ここから〝ダムの決壊〟を引き起こす。あふれだした水は、勢いを増し、手をつけられないほどに。あれよあれよと10分間で計3本ものトライを決められるのである(コンバージョンキックも全て成功)。


 「インゴールで話もするんですけど攻められているということに対してパニック状態に。もはや何を言っても響いてなかった」


 突如として訪れた局面を、主将はそう振り返った。セーフティゾーンに到達したことで逆に「気が緩んだ」という。


 点差も把握していたそうだが、それもパニックを助長させたのかもしれない。試合終了が刻々と近づくなかで、ほんの10分前までは31点あったリードは3点差にまで縮んでいた。


 出来ることは、ただ一つ。ひたすらディフェンスに集中することだった。


 ゲームも終盤、けれども立命大はミスを犯すこともなく、継続してボールを運び、陣地を広げてくる。やがてハーフウェイラインも越え、関学陣内へ。よもやの不安と、一方で興奮とが交じり合った空気が会場に蔓延した。


 ロスタイムも優に過ぎ、立命大のボール。だが、敵がどのような手を繰り出してこようとも、朱紺の闘士たちは必死に食い止める。やがて、立命大がペナルティを犯しようやくノーサイドの笛が鳴り響いた。


 安堵の表情を浮かべる、見ている側の面々。それも、すぐさま勝利の喜びに覆われ、選手たちと同様に歓喜の声をあげた。


 最終スコアは38-35。終わってみれば、水野のあのチャージが、貴重という言葉では表しきれない大きな決勝点だった。



 「めちゃくちゃしんどかった。けど、そう思っているヒマもなく。良い経験でした。

 最後の15分間は修正せなアカンとこ。日本一になるチームは、こんな展開にならない、と」(畑中)


 優勝候補の筆頭、リーグ首位の相手を破った一つの金星。そこでは、目論みを実行に移すことが出来た事実から、自分たちのラグビーに対する確信を覚えた。一方で、ほんの少しの油断が引き起こしたパニックの恐怖をまざまざと味わった。


 主将が述べたように、最後の時間帯は教訓と捉えることが出来るだろう。そのうえで、見た者は『最後の時間帯さえ除けば、ベストゲーム』と評するに違いない。


 けれども、実のところ畑中組にとって、必死で猛攻を食い止めたあの時間帯は〝教材〟であり、かつ、一つの〝成果〟でもあった。


 今年の上半期のオープン戦にて、チームは始動してから初の黒星を近畿大に喫した。その試合では後半開始時から一気に3本のトライを許した。勢いづいた相手のテンポに遅れを取り、為すすべなく防御網を破られる。ベースとしてディフェンスを掲げていただけに、チームは一種の混乱に陥った。この一戦を機会に、もっともそれより前から説いてきたことではあるが、主将はチームに『リアクションの早さ』を常々、口にするようになるのである。辛く、厳しく、チームに説いた。


 立命大戦での混乱の10分間は、ようやく、そのことが活かされたのではなかっただろうか。あの局面までに至ったことはむろん反省点ではあるが、ピンチのなかで相手の猛攻に対して迅速なるリアクションを発揮できたことは、一つの〝成果〟といえる。


 出しうるパフォーマンスを形にした濃密なる一戦だった立命大戦。ただし、克服できていない課題は山積みだ。


 それは立ち上がりの悪さしかり、ひとたびの隙しかり。試合に先立ってマコーミックHCは、こんなゲキを飛ばしていた。


 「80分間の、勝ちたい気持ちを、まだ見てないよ!」


 畑中組のベストバウトを、次こそ。(記事=朱紺番 坂口功将<広報担当>)

平山健太郎『泰然自若のパフォーマンス』

投稿日時:2013/11/06(水) 00:04

 大抜擢にも彼は、動じる素振りなど微塵も見せずにボールを運び、朱紺色の軍勢を敵の城砦まで押し上げた。10月29日のリーグ第4節・同志社大戦でSOに就いたのは平山健太郎(社4)。そのプレーに、感嘆の声が上がった。

 

■平山健太郎『泰然自若のパフォーマンス

 


 

 敵のどよめきを誘った。当の本人が直接、相手のプレーヤーから言われたのだという。


 対戦相手の同志社大が、それこそ徹底的にマークを図っていたのは、関学の『10』番。おそらくはリーグ開幕戦からスタメンを張っているルーキーSO清水晶大(人福1)のことだろう。けれども、実際にピッチに立ったのは4回生プレーヤーであった。


 結果として、紺グレのジャージに軍配は上がったが、その男が見せた80分間のパフォーマンスは、単なる『読みが外れた』という表現では足りない。


 驚きのスタメン抜擢、けれども、そこで我々が目撃し、抱いたのはSO平山健太郎への信頼感だった。そして、その彼自身もこの場所に至るまで様々な思いを胸に奮闘してきたのであった。



 長き沈黙の時を経ていた。平山にとって、大学生活最後の年を迎えても、プレーは出来ずにいた。昨年のリーグ最終戦で負った前十字靭帯損傷の大怪我。復帰まで半年間、それ以上の時間を要した。


 「4回生としてミーティングを重ねたりしていてチームが始まった頃は、一緒にやれなくて、ふがいない思いがありました」


 今年に入り、ようやくのことで復帰を果たせたのは春シーズンに設けられた対外試合の最終戦(相手は同志社大)だった。畑中組のシーズンという点からすれば、優に半分以上を過ぎている。


 離脱している間に生まれた、自分の置かれた状況への危機感。それでもチームに貢献したいという思いは決して潰えることなく、平山はラストイヤーの戦いに足を踏み出した。


 「焦りはありましたけど、復帰してから『まだ間に合うな』って気持ちも。さぁ、どうしようか!と」


 示した気概そのままに。チームに復帰してから、瞬く間に平山はトップ・カテゴリーに返り咲く。


 夏合宿のさなか、マコーミックHCはSOというポジションの席を巡る顔ぶれについて、名指ししたものだ。〝純正SO〟清水と、〝ディフェンス面で信頼を置ける〟鳥飼誠(人福2)、吉住直人(人福4)、それに平山健太郎、と。


 そうして復帰から数ヶ月、関西大学Aリーグが開幕した折に、彼はレギュラー入りを果たすのである。カムバックに込めた思いとは。


 「復帰して、この短期間でここまで上がれた。この怪我があったから成長できたかなって。過ごしてきた時間は無駄ではなかった。これからも成長していけたら」



 だが、大学最後のリーグ戦は、予期せぬ事態をもって幕を開けた。9月29日の第一節・京産大戦。途中出場を果たした平山であったが、相手プレーヤーとの衝突の際に、脳震とうに見舞われたのだ。その症状は、プレーの記憶を消し飛ばすほどのもの。後日談ではあるが、京産大の友人と話したことも本人は覚えていなかったそうだ。


 そこから次節までの間、1週間以上の様子見の期間を経て、万全の状態に。そのときの負傷跡で、第2戦には顔面にテーピングを施して臨んだ。


 思わぬスタートダッシュとなったが、公式戦ではトップチーム入りを果たし、出場機会を得た。夏にマコーミックHCが「SOとCTBの両方が出来るのが彼らの強み」と評していた期待に応えた証といえる。


 こうしてリーグ戦の折り返し地点となる第4戦で、今季初となるスタメンに抜擢された。


 4回生のスタメン選出も今年のチーム情勢からすれば、久しいトピック。試合前、コーチ陣は「彼は緊張しないタイプだから」と一種の安心感を持って、送り出した。当の本人が話すに、緊張感を表に出さないだけだそうだが、この試合には「今日は思ったより緊張しなかった。落ち着いて試合に入れました」。


 同志社大に挑むにあたり、平山はSOとしての一つの指令を請け負っていた。それはエリアマネジメントの部分。


 「春に同志社大相手にスクラムで負けて。相手もそこはプライド持ってやってたところだと思ったんで、この試合でもFWが劣勢になるのはFW自身も分かっていた。自陣の深い位置でスクラムになってしまうと厳しくなってしまうので、エリアの取り方を一番に考えました」


 この試合、SO平山が安定してキックを蹴ったことで、エリア挽回そして獲得が着実になされた。このパフォーマンスを引き合いに、主将・畑中啓吾(商4)は舌を巻く。


 「上手いですね。。。去年、一昨年とムラがあったんです。センスはあったけど、それが続かないという。4回生なって、怪我から復帰して安定してきた。常に良い状態でやれていると」


 ただし、キックだけではない。反撃の狼煙を上げた前半27分のシーン。敵陣でのラックからボールを外に振って、最後は畑中がフィニッシュを飾った。この場面、畑中はWTBとして、トライを取りきること一点に注力したという。彼にとってはリーグ戦初のトライ。そこでは、大外で構える自分にボールが回ってくるまでの過程である、CTB水野俊輝(人福3)ら内側の選手たちを称えた。そのなかでの平山評。


 「健太郎のラインアップしかり。前に仕掛けるという動きですね。相手が引きつけられるし、前にいるディフェンダーが出てくれるので。自分が来るかと思わせる上がり方を彼がしてくれることで、外側が空いてきます」


 WTB畑中にフィニッシャーとしての役目のみを遂行させたこと。ここには、平山が心がけていることが根幹にはある。彼自身はSOとしての役目をこう語っていた。


 「関学は個人の能力は高いけど、人を活かすよりも自分で仕掛けていくタイプが多い。そのなかで選手の能力を引き出したいなと思っています。

 自分の力で、チームの中心となって、選手たちを最大限に活かせるような。強気なリードをしていきたいと」



 初めてのスタメン出場を果たした同志社大戦。最終的には80分間のフル出場となった。そこではキックしかり、周りを活かすプレーしかり。SOとしての役目をまっとうした。


 だが、結果が伴わなかったことには悔しさをのぞかせる。また司令塔たるポジション、ゆえに「意思疎通、コミュニケーションの部分」がまだまだ周囲との連携が熟していないと試合中には感じたという。


 「ゲームの流れを読んで、徹底できていれば、もっと楽に出来たかな」


 試合が終わってからも、CTB鳥飼とは入念に話し合い、チームの活かし方を見直していた。


 リーグ戦の半ばを過ぎ、トップチームという部の代表として、平山はプレーに励んでいる。これまでの経験から「特別な思いはリーグ戦にある」とは話すが、大学生活最後となる今季はまた違った思いが胸の内にはある。


 「どの試合に対しても、4回生として引っ張っていかな、という思いはあります」


 開幕戦のハプニングはあれど、レギュラーに居続け、出場するには自身の力を最大限に発揮する。そこで安定したパフォーマンスを見せる。泰然自若の立ち振る舞い、それが4回生プレーヤーであるという点が、部員たちの安堵に似た信頼感をもたらしたことだろう。


 そして何よりも、そこで彼自身が勇躍しているのには、これまでの苦難があったから。同志社大戦後に、平山は告白した。


 「怪我もあって半年以上もラグビーが出来なかった。いまラグビーが出来て、こうして試合に出れていることに感謝したいし、幸せに思っています」


 チームに注ぎ、自らに課す使命感。加えて、プレーが出来ることの幸福感も。4回生ならばいっそうに極み立つそれら様々な思いを身に宿し、平山健太郎はこれからもパフォーマンスを最大限に発揮していくのである。(記事=朱紺番 坂口功将<広報担当>)


関連リンク

▶平山健太郎プロフィール

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