『WEB MAGAZINE 朱紺番』
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畑中組『出陣の歌 ~試練を乗り越えて~』
投稿日時:2013/09/27(金) 12:00
■畑中組『出陣の歌 ~試練を乗り越えて~』
「楽しみですよ。うずうず…してきてます。
負けられない戦いですし、絶対勝たないといけないという…。ドキドキ、いやワクワクですかね(笑)。緊張はしていないです」
関西大学Aリーグの開幕戦を数日後に控え、Bスコッドが練習に励むグラウンドに足を運んだ畑中啓吾(商4)はそう話した。Aスコッドのメンバーにはウエイトトレーニングが当てられていた日。にも関わらず、主将はグラウンドに姿を現した。聞けば、練習終わりにキックを蹴りたかったとのこと。
だが、リーグ戦を目前にして告白した胸中。武者ぶるいを隠せずにいる彼の目は、あの日と変わらず澄んで、いや、いつもどおりに一点を捉えていた。
振り返れば1ヶ月前。合宿のメッカ・菅平高原で試練の夏を過ごし、チームは上ヶ原へ帰ってきた。関東の強豪校とぶつかり合った10日間。連戦に次ぐ連戦は、実感と収穫を得られるものだった。
【Aチーム 菅平合宿戦績】
□8/21 早稲田大戦 12-38
□8/23 流通経済大戦 17-22
□8/24 東海大戦 31-21
□8/26 帝京大(C) 42-26
□8/27 筑波大 7-71
「Aチームは早稲田大からスタートして、ブレイクダウンで力を出していこうと話してました。100点ではないですけど、去年よりも確実に成長している点で。早稲田、筑波大、帝京大にもターンオーバー出来ました」
昨年のゲームにおいて感じた関東との差。昨年築いたラグビーに、『ブレイクダウンでの強さ』という要素を加えるべく、畑中組は始動してからこだわりを持って取り組んできた。その成果は、菅平の地で発揮された。
一方で、勝ち星を得られなかったことへの反省点も明確になったと主将は話す。
「大事なとこでミスがありましたね。取りきらなあかんとこで、一歩、ボールを後ろにやってしまったり。一つのミスで5点、7点と取られるという、ミスしないことの大事さが合宿で分かりました」
とはいえ、菅平合宿にて突きつけられた厳しい現実がある。組まれたカードのなかで最後を締めくくった筑波大との対戦。
それは、昨年末の全国大学選手権にて関学ラグビー部へ強烈なまでの差を見せつけた相手との再戦。チームとしての成長具合を量るには、うってつけの機会だった。しかし―
「相手はブレイクダウンの質も高くて、合宿のなかで一番強かった。BKもゲインされたり、抜かれたりして、ずばずばといかれた。
去年対戦したときよりも自分たちは強くなっている自信はあったけど…向こうも成長していた」
レベルアップした手応えは感じられた。それでも、課題は湧き出てきた。
「自信もついてて、けど慢心せずに進める。まだまだ練習しないとアカンねんやなと」
チームが始動してから経過した1年の3分の2もの時間。そこで取り組んできたことへの確信が得られたからこそ、なめさせられた苦杯も収穫と受け止められる。主将は、むろん悔しさもあるだろうが、聞いているこちらも気持ちの高ぶりを感じさせるくらいに、はっきりと口にした。
「筑波大には、まだ勝てないと思いました」
その目は、澄んでいた。
下山してきてから、リーグ戦までの一ヶ月。シーズンの深まりを意識させるこの時期は、チームにとっても大事な期間でもある。歩みを止めることなく、前進あるのみ。
しかし、畑中組はここでチームとしてつまづくことになる。Aリーグに先立てて行なわれるもう一つの公式戦、ジュニアリーグ。その初戦で、関学は黒星を喫したのである。
9月14日、同志社大学Jrとの開幕戦で12-47という完敗。前半は拮抗していたが、後半で一気に崩れた。選手たちは口を揃える。気持ちの問題だった、と。
Aチームのリーグ戦の2週間前に、チームに立ち込めた暗雲。ジュニアリーグは翌週も続く。2戦目をむかえるにあたって、主将はチームを鼓舞した。
「先週、ふわふわした雰囲気のまま臨んでしまっていた。シーズンインした認識をしっかりと持って。
試合に出られないメンバーが、どれだけ悔しい思いをするか。試合に出ているメンバーが勝ちたい気持ちをどれだけプレーにぶつけられるか。もっと強く、もっと表に。ハングリーに出していこうよ!」
むかえた9月21日、大体大Jrとの第二戦。チームは原点に立ち返るとともに、再燃したプライドを表に出した。この試合でゲームキャプテンを務めた副将・湯浅航平(人福4)は語る。
「公式戦であり、チームの代表で試合に出ているという意識を持って。その為のディフェンスを、と。いくら攻撃で点を取っても、取られたら軽くなる。2本取られたけど、良い感じでディフェンスが出来ていたと思います」
38―14で勝利を収め、やはりチームの雰囲気は好転した。ジュニアチームが部の代表として戦果を挙げたことは、Bスコッドにいる部員たちを触発させた。「下の子らが、段々と上のチームに上がっていくなかで、まずはジュニアが頑張ってくれるのが、近い存在とあって刺激になる。チームの底上げにもつながる」とは湯浅の弁。
いよいよAリーグ開幕を週末に控えた週の水曜日。この時期はA、Bスコッドそれぞれに分かれて練習する形を取っていたが、この日は唯一の合同練習日を設けた。そこでのフィットネスのメニューに取り組む際、上位メンバーたちは目を丸くさせた。「スコッドの差がないくらい、良い雰囲気で」と湯浅。カテゴリーを問わず、部員たちが同じ気持ちでグラウンドに立っていたのだ。「やっぱり良いですね。みんなでフィットネスをやって、部全体で同じ熱さでやれるという」。主将は微笑んだ。
こうして、畑中組は上昇気流を自分たちの手で作り出し、リーグ戦への気構えを整えたのであった。
9月29日、群雄割拠を極める関西圏での戦いの火ぶたが切られる。どのチームにとっても、初戦の持つ意味は大きい。開幕を前に行われたプレスカンファレンスの様子を畑中は振り返る。とりわけ、その場に居合わせた初戦の対戦相手・京産大戦のコーチが口にした台詞を。
「元木さんが来られてて『初戦が楽しみです。うずうずしています』と。何度も『初戦』と口にしていました」
京産大の指導に加わった、日本を代表するラガーマン・元木由記雄氏。歴戦の戦士からの宣戦布告をその言葉の節々から感じ取りながらも、こちら関学の主将も負けじとプレスカンファレンスでは、こう述べたという。
「関学としては、ディフェンスとフィットネスが強み。今年から取り組むブレイクダウンも意識して、相手にプレッシャーをかけていく。取り組んできたことを出していきたい」
一つの確信が主将にはある。グラウンドにて、畑中はチームが勝利する姿をはっきりと捉えながら力強く話した。
「やってきたことには自信あるんで。それをやれば、勝てると」
―勝つヴィジョン、イメージは…
「しています!」
畑中組よ、時こそ来たれり。いざ、戦はん。■(記事=朱紺番 坂口功将<広報担当>)
徳永祥尭『関学が誇りし進撃の巨人』
投稿日時:2013/09/24(火) 12:00
<※学年表記は2013年現在のもの>
■徳永祥尭『関学が誇りし進撃の巨人』
早速だが、こんな言葉をご存知だろうか。
『ボールあるところにマコウあり』
これはニュージーランド代表オールブラックスのキャプテンを長らく務める“生きる伝説”ことリッチー・マコウ選手を称した、ラグビー界における格言の一つ。エリアもプレー時間も問わず、ボールに働きかけるそのハードワークぶりを表している。
そんな格言が浮かんでくるほどのプレーを見せてくれる存在が関学にはいる。
徳永祥尭。高等部時代から注目を集めてきた大型プレーヤー。身長は185センチ。150人に至る大所帯のチームがグラウンドに一堂に会しても、見つけるのは容易い。
周囲とは抜き出た背丈がその一因ではあるが、特筆したいのは彼が醸し出すオーラ。同じグラウンドに立てばそこにいるだけで引きつけられる、一方でカメラのファインダー越しであれば捉えざるを得なくなるほどのフォトジェニックさ。それすなわち、彼の引力。
振り返れば2年前、超高校級の選手として大学に迎えられた。前評判に違わずの圧倒的存在感は入学当初からにじみ出ていたという。ポジションの被っていた先輩プレーヤーが自らコンバートを申し出た、なんて逸話も。
その彼は、学年を重ねるごとに、まといしオーラを増幅させてきた。恵まれた体格と、それを存分に活かしたプレーは言うまでもなく、徳永祥尭というラガーマンになされた一つの評価がそうさせているのだ。各カテゴリーの日本代表への選出である。
昨年は、春シーズンの大半をチームから離れて過ごした。PR井之上亮(社3)、PR/HO金寛泰(人福3)らと揃ってU20日本代表に選出され、チームに合流したのは夏前だった。当時の徳永の胸中は―。
「正直、Aチームに入れるかどうか不安ありました。めっちゃタックルいくし、みんなフィットネス上がって走れるようになってたし」
入部早々から掴んだレギュラーの座も、決して確約されていたわけでなく、しばらく離れていたうちにチームはみるみる成長を遂げていた。しかし、彼もジャパンという特別な環境に身を置いていた。
「学んだことを出せたらなと」
間もなくして関西大学Aリーグの開幕戦のメンバーに選ばれる。10月7日、天理大学との初戦。試合が終わりロッカールームへ引き上げる最中に、彼に聞いた。U20で学んできたことを。
「ボールをもらう前の動きと、正面ではなくずらす動きを。そこは外国人を相手にしたときの体の使い方で。むこうでやってきたことを、大学でも」
話すに、正対する相手選手との間合いの詰め方を身につけたのだと。海外では外国人選手は真正面から当たってくることも。だが、それに対しては「一発で倒せるんです」ときっぱり。逆に、相手がずらしてきた際に、これまではプレー柄「厳しい部分があった」。そこをいかに足の運び等から、ついていけるか、そして捕らえることが出来るか。その点を学び、吸収した。
この日の試合では、アタック力に秀でた天理大のボールキャリアを幾度と仕留める姿が。なかでも主力の留学生プレーヤーを捕まえていたのが、徳永が目立っていた所以でもある。
それでも、このときインタビューを行なったのが惜敗(15-17)した試合直後とあって、悔しさをあらわにしていた。
「悔しい、の一言スね。自分のやってきたことを出して…出し切ったというゲームをやりたい」
そこから始まったリーグ戦では終始、安定したパフォーマンスを披露。攻守ともに高いワークレートを発揮していた。
あらためて記すが、ポジションはFW内の一列目以外であればどこでも。豊富な運動量が求められるバックローでプレーする。3年目を迎えた今季、その存在感は表すならば一言、不動。
そうして、この春先にはジュニアジャパンに招集された。彼にとっては、さらに自身を押し上げるにこのうえない機会を得たのである。
「ハードなスケジュールのなかで、基本的に試合前の調整とかは無くて。ゲームの前の日でもウエイトをしたりも。常に個人を強くする為に、どうするかを考えたプログラムが組まれていて。
社会人の方と一緒にラグビーをやらせてもらって、ラグビー以外での過ごし方や個人でのトレーニングとかを学べました」
同じ境遇の選手が集まったU20とは異なる、また一つ上のステージ。そこでの意識の変化が、自身の向上心につながった。
「体のデカさが無いと通用しないんで。ウエイトトレーニングも決められた日に加えて1日、2日は多く入ろうとしています。そうすれば、怪我も少なくなると思うので」
それはジャパンで気付いた点でもあるだろうが、大学に復帰した際に徳永はこんなショックを覚えたことを明かしている。
「ジュニアジャパンから帰ってきて、チームのコンタクトレベルの上がり具合にびっくりして。AチームとBチームでのアタックディフェンスの練習時に、Bのメンバーのボールへの絡みが激しいのと、上手さに『ここまで!?』と受けてしまった。感動しました」
チームの内外で、身を置いた環境で受ける刺激が、さらに彼をストイックに。そうしてパワーアップした強靭な肉体が生じさせる熱量を、プレーに昇華させる。それが存分に見られたのが、この春、関学ラグビーカーニバルにて執り行われた天理大との一戦だった。
PG一本の関学リードで迎えた後半。一進一退の攻防が繰り広げられるなか、敵陣内で得たワンチャンス。マイボールのスローインを獲得し、相手ゴールラインへモールで迫る。インゴールへなだれ込んだ軍勢、歓喜とともにその山が割れると、そこには地にボールを押し付ける徳永の姿があった。「モールで簡単にトライが取れた。チームとして取り組んできた練習が活きたのかなと。相手側がBKの方が強いんで、FWから組み立てていこうと話していました。FWも大きくなっているぶん、セットプレーからも優位に立てると」
追加点を挙げたFWの組織力は、この後もスクラムで相手を圧倒するなどゲームの流れを掌握するに十分なものであった。一方で『個』の力も。タイトなゲーム展開もお構いなしに、時間帯を問わず、いたる局面にも、朱紺のジャージをまとった巨人は躍動していた。ブレイクダウンに転じるや、真っ先に絡んでくる。そのプレーに、浮かんだフレーズは、まさに―
『ボールあるところにトクナガあり』
「自分の良さだと思います。タックルよりもブレイクダウンの方が、そこがウリになります。
でも、まだまだ自分でもフィットネスの部分で安定感が無くて、走れないところも。そこは克服していかないと。
今日(天理大戦)はハードでしたね。むちゃくちゃ疲れました。暑くて走れてなくて…終わって周りにも指摘されました。まだまだ出来てないと」
豊富な運動量も、それを蓄え稼働させる器も。本人にしてみれば、まだまだ。己の目指すレベルは、先にあるのだろう。
飽くなき向上心を持って、進化する徳永祥尭。もしかしたら我々は関学ラグビー部の“生きる伝説”を目にしているのかもしれない。
3年目のリーグ戦で発揮されるは、チームに勝利をもたらす、進撃する巨人のごときパフォーマンスか。
もはや誰が、彼を止められよう―。■(記事=朱紺番 坂口功将<広報担当>)
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鳥飼誠『新司令塔の猛き産声』
投稿日時:2013/09/15(日) 22:00
■鳥飼誠『新司令塔の猛き産声』
継承される伝統はあれど、それを永続的に結果として出すところに学生スポーツならではの難しさがある。なぜなら、4年間という決められたスパンで新陳代謝が為されるからだ。一つのスタイルを極めて結果を出したとしても、次の年にはそれと同じスタイルを実現するには人員が様変わりしており、それに見合った道を歩まんとする例はごまんとある。年が変われど、スタイルを受け継ぎ、そこからさらには別次元に自らを押し上げるチームには感服する。
関学ラグビー部の2013年は、これまでとは違った船出だった。昨年、招聘したマコーミックHCの指導もあって築いた一つのスタイル。ディフェンスとフィットネスを前提に、そこから人もボールも動かすラグビー。ジャパンになぞらえて、『カンガクウェイ』と呼んだは他でもない赤鬼だったか。
リーグ戦での紆余曲折はあれど、序々に明確になっていったカンガクのスタイル。しかし結果的には、関東との違いをまざまざと見せつけられシーズンを終えた。導き出した答えと、はっきりとした課題があったからこそ、次なるシーズンの幕開けを控え、部として打ち出したのは継続的な強化だった。『カンガクウェイ』に加えるは、ブレイクダウンでの強さとコンタクトを、と。
しかし、すんなりとはいかないのが学生スポーツ。昨季、主要なポジションには当時の4回生たちが就いていた。その彼らの姿が今年は無い。なかでも、チームが目指すラグビーを実現するに最も重要な役目を担った男が抜けた。“人を動かす”CTBとして研鑽に励み、マコーミックHCから“司令塔”たるSOとして適性を見出されたプレーヤー、春山悠太(文卒=トヨタ自動車=)である。少なからずも彼を中心として形作られたスタイルは、その存在を欠いた状態を前提として、新チームに継承されたわけである。
そのポジションに就くのは誰か―。それは畑中組の注目ポイントの一つであった。
摂南大学との対外試合で始まった春シーズン。畑中組の初陣で『10』番を着けたのは2回生の鳥飼誠(人福)。ポジションはCTB、自身にとって初のトップチーム選出であった。
「去年就いていた春山さんが抜けて。そこに入ったという感じです」
司令塔への大抜擢。奇しくも『CTB発、SO着』という点で、先代プレーヤーと構図が被る。高校生時代に経験したこともある、そのポジションを鳥飼はこう語る。「ぼく次第でチームが勝つか負けるかが決まるキーマンかなと」
『10』番への指名は、彼への期待値の高さを表しているだろう。司令塔への任命により、上半期のゲームでは度々SOに就いた彼の姿があった。
「Aチームに入れたということもあるし、いい経験が出来たと思います」
夏の合宿時点で再びCTBに戻った鳥飼はそう半年間を振り返った。彼が就く『12』番・インサイドCTBは、本人曰く“第2のSO”。背番号が何番であろうと、一人のプレーヤーとして成長するきっかけが訪れ、そしてさらなるレベルアップを自身に課すシーズンとなったわけである。
「まわりのメンバーがAチームでずっとやってきているなかで、プレッシャーを感じるというよりは、まだまだレベルアップしないとな、と。今のままじゃあかん、の気持ちが強いです。やることは…欲を言ったら、いっぱいありますね(笑)」
昨シーズンはジュニアチームでもリザーブだったりと、「自分のプレーも全然で、納得できない部分もあった」。一転して、突き進んだ2年目。チームからの期待も、自らをストイックに磨く一因となっている。
もとより「でかくならないと、上のチームに通用しない」と睨んでいた肉体改造は率先して取り組んだ。上ヶ原にて実施された一次合宿では、阿児嘉浩S&Cコーチによる早朝の特別トレーニングのメンバーに選ばれた。「前々から選ばれるよって話は聞いてたんで、お願いします!と」
そこではパンプアップ系のスペシャルメニューが行なわれ、鳥飼も疲労感をのぞかせながら「良いトレーニングが出来た」とにこり。部全体としてもコンタクト面での強化を打ち出し、皆がビルドアップを果たしているが、鳥飼の体つきの変容には目を見張るものが確かにある。
また、一次合宿ではこんな場面も。全体ミーティングが終わったあと、主将・畑中啓吾(商4)と今年から指導にあたる大鷲紀幸BKコーチがサインプレーを確認する話し合いをしていた。その最中で、主将がその内容を聞いておくよう、呼び出したのは鳥飼であった。
「鳥飼は調子良いね。体も大きくなったし。反応に、ワークレート、それにプレーに臨む態度も気持ちが良いです」
今夏、マコーミックHCは、頭角を現した新司令塔をそう評した。「SOも、両方とも出来るということは使いやすいです」と語る一方で、「健太郎(平山=社4=)、吉住(直人=人福4=)も一緒。3人ともがプレーできることは頼もしい」とも。進化を図る『カンガクウェイ』を実現するための重要ポジションを巡る競争はまだまだ激化か、しかし、それが層の厚さを生み出すことにつながる。
中心部分で回っていた大きな歯車が抜けた。今シーズン、その役目を担う者に求められるものは必然的に大きくなる。
「春山さんというキーマンが抜けて…インパクトが強い選手やったんで。埋めると言ったらおかしいですけど、そこを超えていかないといけないと。タイプとしては別なんですけどね。チームが強くなるために頑張らないとな、と思います」
今季、いや今年だけに限ることはあるまい、この先、鳥飼誠という歯車が動くことで、周りがどう連動し、いかなる時を刻んでいくのか。
“埋める”ではなく“超える”。そう明言したところに、彼がその責務をどのように捉えているかが存分に―表れている。■(記事=朱紺番 坂口功将<広報担当>)
関連リンク
▶鳥飼誠プロフィール
徳田健太『朱紺色のブロッサム』
投稿日時:2013/07/30(火) 12:00
日本ラグビー界が動いている。向かう先は2019年のW杯自国開催、その道中における昨今の躍進。先日、ウェールズから有史初となる白星を挙げたことは大きな話題にもなった。国家レベルの飛躍を掲げるなか、裾野は確実に広がっている。その波は上ヶ原の地にも。サクラのジャージを身に纏った男たちは、そこで得た経験を活かし、戦いに臨んでいる。
■徳田健太『朱紺色のブロッサム』
「いいね!」ボタンがクリックされた。昨年10月7日天理大との関西大学Aリーグ開幕戦における関学ラグビーの近況に対して。そこでの朱紺のジャージの「6」番と「9」番のプレーが目にとまったのだ。日本ラグビー界の先導者の、あの眼光鋭き瞳に。
ここで注釈。あくまでも文中の表現は最近主流のソーシャル・ネットワーク・サービスの引用。事実は、こうだ。天理大戦の映像を通して、現在ラグビー日本代表を率いるエディ・ジョーンズHCから、こちら関学ラグビー部を指導するアンドリュー・マコーミックHCに連絡がきたのだという。その内容が、まさに関学の2人のプレーを称えるものだった。6番はFL徳永祥尭(商3)。9番はSH徳田健太(商2)。この2人が、「いいね!」と。(学年表記は現時点のもの)
いま日本ラグビー界の潮流として、世代やカテゴリーを問わず全体的なレベルアップが図られている。背景にあるのは将来を見据えた永続的な強化だろう。世代の垣根を越え学生ラガーマンが、トップに位置づけられる日本代表に選ばれていることも一例として挙げられる。高いレベルでの人材発掘が、それに続くジュニアジャパンやU20日本代表といった、それぞれのカテゴリーで行なわれているのだ。そのスカウティングの網は大学にも及んでいる。
関学においては、ここ数年の躍進もあって、有力な学生プレーヤーが揃うようになった。全国各地から人材が集まり、その一方で、直系の弟分・関学高等部からも全国級のラガーマンが進学している。そうして、そのなかには大学でプレーに励むうちにジャパンに召集された部員も。過去にはWTB長野直樹(社卒=関西学院高等部出身/現サントリー=)やCTB春山悠太(文卒=天理高校出身/現トヨタ自動車=)がU20日本代表に選ばれ、国際舞台を経験している。
チーム内で、そうしたジャパン経験者という大きな刺激が生まれることを指導者たちは喜んでいる。今年の春に、徳永がジュニア・ジャパンに選ばれた際に、マコーミックHCはこう話していた。
「すばらしい。ただ入るだけじゃなくて、活躍できるのが楽しみ。私たちにもプラスになると思う。チームに戻ってきてプラスになることもある」
選ばれし者だけが得られるモノを還元すること。それこそが彼らの役割でもあり、チームにとっても貴重な財産になるといえよう。
SH徳田健太、公式戦全試合先発出場。それもルーキーイヤーでの。改めて振り返ってみると、関心するとともに驚きの記録である。ハイレベルな顔ぶれを揃えるそのポジションで、昨シーズン、彼はレギュラーの座を射止めた。
その大学での活躍ぶりが冒頭のように評価され、今年の春にU20日本代表の合宿へお呼びがかかった。きたる大会にむけてのメンバー選考を兼ねた合宿は5~6回を数えるもの。桜のジャージを懸けた、セレクション合宿。2月も終わりの頃、彼の戦いは幕を開けた。
「行きたいなとは思ってたんで。嬉しかったです。行くときから、『なんとか残ってやろう』と」
彼にとっては、初めてとなるジャパンへの挑戦。その舞台に立つことに焦点を定め、合宿に挑んだ。メンバー自体は、当初からある程度「絞ってたみたいで」(徳田)、それでも国の代表を決めるセレクションだ。厳しい選考を着実にクリアしていき、そうして大会を直前に控え、徳田はU20日本代表メンバーに選出された。
「怪我もあって、いけるか分からなかったんですけど…選ばれて、ほっとしました」
5月の暮れから6月にかけて、南米チリで開催されたIRBジュニアワールドラグビートロフィー。その国際舞台において、自身のなかにも少なからずあった、憧れのジャパンに徳田は身を投じた。
憧れのジャパン、それすなわち国の代表。桜のエンブレムや紅白で彩られたジャージや支給品を手に取ったとき、そしてピッチ上で国歌を口にしたときに、そのことを実感したという。
そうして始まった世界大会で、国の威信を背にした若武者たちは戦った。対峙した外国人プレーヤーとは“体格差”を痛感することに。だが、体格に関しては不利を自覚している徳田も、通用する強みを最大限にぶつけた。それは、基本的な2つの要素。「早いテンポ」と「低い姿勢」だ。
「小さい人間でも、そうした基本的なことをやったら、大きい外国人相手にも通用するのだと」
徳田は体格差を言い訳にすることはなかった。逆に、その基本的な部分を集中して徹底できなければ、やはりは打ち崩されたという。意識の継続を、国際舞台における自身の課題として捉えていた。
1~2週間で計4試合。そのうち徳田は3、4試合目で先発出場を果たした。緊張は続いたと振り返るが、初めての国際デビューで遺憾なく自身のパフォーマンスを試せたのは、何よりの経験になった。加えて、学生レベルとは違ったカテゴリーならではの待遇についても。
「ゲーム以外の、ケアの仕方とか。スタッフのサポートだったり、本当に細かいところまでトップレベルのものを味わえた。プレー以外の部分も、自分の成長していける点だと思いました」
おそらくは地球半周分ほど、かけ離れた地で徳田は、得られるものを余すことなく吸収してきた。海外渡航ならではの気苦労(帰国後、真っ先に口にしたのは『どん兵衛』だったとか)もあったが、それらの経験も含めて、一回りも二回りも成長したことだろう。
この上半期、大学では出場した試合は数えるほどに終わった。けれども、衝撃的なプレーを披露している。帰国した後の、6月23日の立命大戦。母校のグラウンドで行なわれたオープン戦にて、徳田は一発のタックルを相手にぶちかました。疾風のごときスピードと、地を這うような低きインパクト。それこそボールキャリアーを追っていたカメラのファインダーの外から、突然に姿を現したほどのものであった。
「どうしても、ああいう感じで入らないと外国人は止まらなかったんで。
ジャパンでも接点のとこは大事にしていて、タックルスキルの練習もやってきた。それが身についてきたのかな」
接点の部分、それは関学においても今シーズン重きを置いている点である。チームの目指す先が、日本代表というトップレベルと通ずるならば。それらを身に染み込ませた徳田のようなジャパン経験者の存在が頼もしい。
彼にとっては、憧れの舞台への挑戦は今後も続きそうだ。
「国歌を一回、歌ってみたかったんです。
これからのパフォーマンスによって、呼ばれることもあると思うので。チームで出来ることをしっかりやって、召集がかかったらなと思います」
弾けるような闘志が詰まったブロッサムの実は、まだまだ熟していく。ひとまずは朱紺の彩りをもってして、華麗に花咲くことを強く願おう。■(記事=朱紺番 坂口功将<広報担当>)
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古橋啓太『切実なる野望』
投稿日時:2013/07/13(土) 12:00
<学年表記は2013年現在のもの>
■古橋啓太『切実なる野望』
大ヒットドラマの主人公の台詞を借りるならば。
『実に、おもしろい。』
真っ先にそのキーワードが浮かび上がったトピックだった。今年に入り、それまで彼が居た場所に、姿が見えなかった。部員たちのネームプレートがスコット別に貼られているホワイトボードを見てみると、答えが判明する。古橋啓太は、FWからBKへとポジションを移していたのだ。
入学当初から一貫してFWとりわけバックローに身を捧げていた。だが、学生最後の年にして、就いたポジションは、そこから2、3列下がった位置。一転して、CTBに古橋啓太の名前がある。「4年目にして、ね」と微笑みながら本人は話す。新天地に導かれたのはチームが始動してまもない時期だった。
「アンガスさんと野中さんと話し合って。『チャレンジしてみたらどうや?』と」
指揮官たちからの大胆なる提案。けれども、アタック面にフォーカスを当てたならば合点もいく。猛然とぶち当たって、相手の防御網を破っていく様は容易に想像できる。“確かに彼ならば”という納得は、おもしろいと感じた点である。
では、ラストイヤーの上半期に取り組んだ新しいポジションについて、本人はどう感じているのか。
「FWとは違う楽しさだったり、難しさも。けっこう毎日が刺激的で…楽しいっちゃ楽しいです」
聞けば、自身にとって小学2年生次以来となる、CTBというポジション。コンバートされた当初は楽しさが胸の内を充たしていた。けれども、修練を積み重ねていけばいくほど、そのポジションの難しさを味わうことに。
「やりこんでいくと、難しさに気付いて。奥深さ、というか」
春シーズンを通して、いま具体的にそれらを挙げるならば。古橋は語る。
「味方との連携とか。個人技だけじゃ、うまくいかないんで。人に合わせて動きを変えてみたり、こいつの得意なコースは、とか…そういったことをまだ把握しきれてないんで。やっぱり難しいですね」
もっとも、これはナンバー8からCTBへの転身に際して、最も異なってくる部分ではないだろうか。プレーに求められる、“個”と“組織”のバランス。古橋は、自分の過去になぞらえて、こう表現する。
「1、2年のときなんか、『みんながオレに合わせろ』みたいな。いまは、ボールも回しまくりですよ(笑)」
古橋啓太のコンバート。その事実に、期待感を抱くと同時に、悲痛にも似た決意を彼に感じたのは筆者だけだろうか。
もとよりFWのなかでもインパクトプレーを期待される存在だった。1年生次にはFL丸山充(社4)、SH湯浅航平(人福4)らとともにU20日本代表合宿にも召集されている。積極的に先輩たちへアドバイスを求めにいく点にも、有力選手と評するに値していた。
だが、有力どまり、であったのも事実と言わざるをえない。月日は経ち、大学生活最後の一年をむかえた。これまでにトップチームの一員として活躍できたか、と言われれば―。その点は、当の本人が一番に自覚している。
「いつもFWでの出場だったら、春先だけAチームで。年間通して上のチームでは通用しない部分があった。でも今年になって、ずっとA1、A2でしか。そこで経験させてもらえたんで。今後もぶれずにいきたいですね」
己の望むものを手にすることが出来なかった、これまでの3年間。ラストイヤーで受けた新しいポジションへの提案は、まさに舞い込んできたチャンスそのものであった。いまは自分の可能性に挑戦することこそが、目標への可能性を広げるキーとなっている。
「ナンバー8で全国大会とか、個人としても高校代表に選ばれたりして。自分のなかでプライドとかも持ってたんですけど…。でも、4年目でプライドとかも持ってられないんで。そんなん捨ててでも、試合に出られるなら試合に出たい」
自己をかなぐり捨て、新しいアイデンティティーを形成する。彼のコンバートには、そうした決意が込められているのである。
4年目にして拓けた、目指す場所への道すじ。けれども、険しさに変わりはない。新しいポジションでの、チーム内における戦いに勝利せねばならない。
学生最後の一年。限られた残り時間のなかで、彼はどう戦っていくのか。
「自分の得意なこと、苦手なことは自分なりに分かっているつもりなんで。そこはプライドとか、恥ずかしさとか捨てて。助けてもらうところは、しっかり味方に助けてもらって。体を張ったりとか、自分が頑張れるところでは一番に」
プライドは捨てても、骨肉に刻み込まれた己の武器は手立てにする。スタメンで出場した6月30日の同志社大戦でも、ボールあるところに常に働きかけていた。
「そこは意識しますね。ディフェンスでの、相手のボールへの絡みとかは、すごく…。FWでやってたことをBKでも活かせたらと思ってます。
やっぱり…今年からBKにいって、今までCTBやってた奴よりも上のチームで出させてもらってることが多いんで。そいつらにも、しっかり認めてもらえるような、でないと失礼なんで。頑張りたいですね」
チャレンジで幕を開けたラストイヤー。ひょっとすると古橋本人が、もっとも自分自身に期待を抱いてるのではないだろうか。だからこそ、口から出る台詞は躍動感に満ち、そして確固たる思いが芯として、そこには感じられる。
このポジションで、レギュラーを掴んでみせる、のだと。
リーグ戦にむけ、大事な期間がやってくる。中身の濃い合宿や対外試合が組まれる真夏を前にして。
『古橋啓太×「 」=レギュラー』
長らく解けずにいた方程式の答えは、ここにきて解かれたのである。■(記事=朱紺番 坂口功将<広報担当>)
関連リンク
古橋啓太プロフィール
松延泰樹「コンバート・トゥ・コンバット ~回帰」(2012/10/21)
春山悠太「RIDE ON TIME」 (2012/12/22)
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