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「小原組~ALL OUT~」

『闘志静かに燃やして』

投稿日時:2010/02/12(金) 15:41

【シリーズ連載第3弾】

 伝えたい人がいる。このシリーズ連載を考えたとき、真っ先に頭のなかに浮かんだのは彼だった。そして、その旨を部員たちに話したとき、「まさしく」「あいつこそ」という言葉が必ず上がった。今こそFL山本真慶(経4)にスポットライトを当ててみよう



 

 

【サポートプレー】

 2009年の関学ラグビーは、ずばり『FWラグビー』に他ならない。平均体重100㌔前後の屈強な男たちが、ぐいぐいと前に出るもの。そして、そのアタック力は凄まじいものであった。そのなかで特に2列目より後ろにはタレントが揃った。リーグ戦チーム最多の11トライをあげたナンバー8大滝(社4)、たぐいまれなる突破力でインゴールを割るFL西川征(文4)、相手ディフェンスをもろともしない突進を見せるLO松川(経4)、そして主将のLO小原正(社4)。彼らの活躍には誰もがうなずく。しかし、彼らに続く「第5の男」というべきか、いや匹敵する存在というべきか。山本真慶、この男を忘れてはいけない。 


 「自分は目立つポジションじゃないから。チームにたくさんアタックが得意なやつがおって。そいつらを自由に動かせるように、しっかりボール出ししようと」


 山本がレギュラーをはるFLは「タフな選手がする」ポジション。とにかく走る。時にアタックへ、時にディフェンスへ。ボールのあるところ、あらゆるシーンに姿を現す。そこでは相手とのコンタクトが常につきまとう。そのポジションを今シーズンのFLは攻撃面で西川が、その対極で山本が防御面を担った。それに加え、引き立て役に徹した。 


 持ち味であるコンタクトプレーとタックル。それらはトライという誰もが心を奮わせるプレーとはま逆のもの。だが一見目立たないワンプレーも、それなしにゲームがチームの思いどおりに進むことはなかった。


 「トライを取ってくれる人たちに、いいサポートが出来るように。しっかりと裏方に回って仕事していきたい」


 これが3年生次から山本が口にするFL論。ぶれることなく自分の役回りをこなす、この男まさに職人である。 




【vs外国人】

 その献身的なプレーが、ときにひときわ輝く。そのときばかりは、「引き立て」役がアル存在によって引き立てられる。そのアル存在とは 


 「ポジションもそうやろうし、自分のプレーの特徴もそうやし。対外国人の役割を任される」


 そう話すとき、笑みがこぼれる。摂南大のイオンギ・シオエリ(トゥポ)や天理大のアイセア・ハベア(日本航空第二)に代表される、留学生ラガーマンが各大学の核となることが多く見られるようになった大学ラグビー界。むろん関学も彼らと対峙する機会が増えた。いかに彼らを自由にさせないか、抑えるかが重要になる。そこで登場するのが、山本というわけだ。


 対外国人専用の職人芸が発揮されたのは、08年の摂南大戦。イオンギが迫力あるプレーで存在感を放っていたリーグ戦だ。そこで対峙することになった山本は、真っ向からイオンギにぶつかっていく。ハイパントをキャッチした瞬間に狙いすましたタックルをお見舞いし、相手の攻撃を封じこめた。


 「倒したときは嬉かったです」


 そのときの素直な感想。やがて翌年も、山本は再び彼らと相まみえることになる。


 09年関西大学Aリーグ開幕戦の相手は一躍「優勝候補」とまで目されるようになった摂南大。そして、さらなるパワーアップを遂げた褐色のナンバー8が濃淡混じる青色のジャージを着て、そこに立っていた。 


 「今年はもっと止めてやろうと思ったけど。さらに成長してて。子供扱いされた。これには勝てない、と」 


 そう試合を振り返る。最終的にはチーム一丸となって食い止め、逆転勝利をおさめた。対イオンギは1勝1敗といったところか。


 さて、もう一人の留学生と相まみえたハイライトが今シーズンの彼にはある。関西2連覇がかかった天理大戦。ジュニアW杯日本代表にも選出されたアイセアが中心となってチームを扇動していた。その大一番では。 


 「ハベアくんを狙っていったという感じ。彼を止めることの意味は大きかった」


 幾度となく防御網を破られそうになるが、CTB村本(文2)とともに食い止める。なかでも、味方が足元にタックルにいきアイセアが止まったところに、全身からぶつかっていく(左腕でかちあげる、ラリアットのようだった)シーンは、見る者を湧かせた。 


 「今日はバックローのディフェンスも良かった。特に山本真慶が」


 関西2連覇を決めた試合後、萩井ヘッドコーチは名指しで彼を誉めたたえた。


 その活躍ぶり、あえて暗躍ぶりと書こうか、山本の姿は職人肌と相まって『侍』に見えてくる。やはり自身も「外国人相手に燃えるタイプ」と自負している様子。学生ラグビー新時代を牽引(開国?)する留学生に正面から立ち向かう侍だ。




【言い切れること】

 普段から物静か。口数はお世辞にも多い方ではない。けれども、内では燃えている。ラグビーと向き合っているときのこの男は熱い。


 3年生次の夏合宿でAチームに昇格。そこからはひたすら「Aにとどまり続ける実力をつける努力」をしてきた。今季の体重増加計画の際には、とにかく走れる身体を作り上げるために、「(周りより数値が低い)こういう体重でいきたい」と監督に直訴。シーズンに合わせて、身体をしぼった。


 「最後の年やし、この4回生で目標を達成したいと思った。一番気持ちが入って。全力で頑張った」


 内なる闘志をプレーで存分に出し切り、ラストシーズンを戦いきった。だからこそ、引退した今はっきりと口にする。


 「いっさい悔いはない」


 それは他のどの言葉よりも熱っぽく発せられた。


 スポットライトは当たっていなかったかもしれない。それでもみんなの心に刻まれている。FL山本真慶という名の熱き侍の姿を。■ 

 


(文=朱紺番 坂口功将)


■山本真慶(やまもと まさよし)/経済学部4年生/関西学院高等部/FL/170㌢、92㌔


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 シリーズ連載最終回となる次回は、「復活」をテーマに選手2人に迫ります。よろしくお願いします。朱紺番 坂口功将