「小原組~ALL OUT~」
『分析班のホンネ。』
投稿日時:2010/02/02(火) 23:58
【シリーズ連載第2弾】
チームの勝利を願うのは、メンバーなら誰しものこと。そのなかでもこの2人はとりわけ願っているのではないだろうか?分析班として関学ラグビーを最も見つめた、玉泉啓太(社4)と増尾友甫(社4)が、胸の内をとことん語ります。
―はじめに、分析スタッフの仕事とは
玉泉(以下、T)「まずは、増尾はFWやからラインアウトを。BKは対戦相手のラインアタックのサインとかディフェンスシステムとか、どんなアタックの傾向があるとかを。
そして最終的に、相手メンバーを予想する」
増尾(以下、M)「とりあえず、試合は見たよな(笑)」
T「具体的にはパソコン使って、試合を切り取って見ていく。で、選手に見せるために編集をする」
M「実際にやったのは半年。8月の終わり」
T「(就任は)春から決まってたんやけど。春から分析班おいたのは、おれらの代から。去年と形変えて、映像の編集するのもおれら、サイン調べるのもおれら」
M「実際は4人。FWは慎平(北野=商4=)とBKは崇志(畑中=社4=)がやって。ひとりひとりやとやりきれん部分あって…2人に助けられた部分ある」
T「見る視点も違ってくるから」
M「あの2人が手伝ってくれたのは大きい」
―さて試合中はどんなことを
M「試合中はグラウンド下りて、『サインプレーあったで』とか話あって」
T「増尾はウォーターしながら」
M「補助係で、ね」
―リーグ戦を振り返ってもらって
M「早かったよな―。試合終わり次第チェックしていって」
T「リーグ戦やと毎週続いたから。火曜日には見せなあかん。日曜日のゲームを月曜にやらなあかんくて、休みやったけど部室来たり」
M「各週、各週で。時間も無いし、ハードやった」
T「1日では終わらん」
M「半日の作業が何日もある感じ。練習終わって、部室こもっての繰り返し」
T「朝練して、ウエイトして、分析して、練習して…。そこが他の大学との違いで、関東なんかは分析スタッフだけ募集してたりするけど。プレーヤーやりながら、っていうのは…」
M「少ないと思う。全国的に見ても」
―その分析スタッフ。そもそも役職に就いた経緯は
T「オレの場合は何となく話してて。4年生のBKが6人しかいなくて、健太(田中=4=)、崇志、将(片岡=総4=)は幹部に決まってたところ、将から『けっこうラグビー見てるし』って。海外ラグビーとか、見てるのは他の人より多いと思ってたし、4年になって頑張りたいと思って」
M「オレは何でやろう…」
T「増尾は、誰よりもラグビー知ってる。PRやのに、BKのこういうアタックした方がいいとか、エリアとか」
M「エリア取らんかったら、しんどいのはFWやし。言わんかったら、がまんするだけやし。
あらためて、あの期間であれだけの試合を見たのははじめてやわ」
T「そもそも引継ぎが無いから。パソコンの使い方だけ聞いてて。ここをこうまとめて、とかも自分たちで考えてベース作ったから」
M「やのに、一発目が摂南やったのがきつかった!何してくるか分からんし、データ無いし。摂南は勝って良かったーって。天理はやってくれるって分かってたし」
T「摂南が一番難しかったよな。第1戦で、摂南はむっちゃ分析してきてたみたいやし」
―対するこちらは、菅平の偵察ビデオのみ?開幕戦はどういった対策を
2人「うん」
M「どのエリアでボール持つかくらい」
T「ナンバー8をどこで止める、とか」
M「ほんまこんな対策でエエんか、って(笑)」
―ちなみに分析班の目から見て、関西制覇は見えてた?
T「一戦一戦やっていくのが精一杯。勝っていかんと!って」
M「うん。天理のときも、試合終わったあとに、優勝や!って」
T「次当たるチームに最大限に尽くさんと。(分析の仕事自体)始めてやったから、先を見る余裕無かったし」
―優勝した後の、同志社大戦に関しては
T「最終戦やから…」
M「同志社戦に関しては、心配無かった」
T「データある、ってことに関してはね」
M「ゲームに関しては不安な面もあったけど、相手の良いとこを見ようとしてるから、余計に良く見えてまう」
T「相手のエエとこしか見ぃへんから」
M「ウチのウィークポイント取られたら、ヤバイでって。天理より同志社の方が、かな」
T「リーグの同志社戦ではケア出来んかった部分あったよな。それで選手権で戦うことなって、直して。橋野(SO=大工大高=)がこういうイメージで走ってくる、とか」
M「選手権の同志社の方がやりやすかった」
―選手権では対戦経験のない学校とも戦う可能性がある。関東勢に対しての対策はどうやって?
T「基本的には、関東と戦ってきた大学と協力して。ビデオ借りたり」
M「慶應にはけっこうお世話なった。この場をお借りして、慶應に感謝の意を」
2人「ありがとうございます」
―そして始まった選手権。2度目の対戦となったライバル・同志社大に勝ったわけだけど
M「なんだかんだで橋野皓介のチームってのがでかい。彼が何をしてくるのか、ていう。見てて面白いねんけど、やられるとイヤやね。パスキックも、全部出来るし」
T「プレーがしぼりきれない。サインでどうこう動いてくるチームじゃないし。橋野に合わせて自由にやるチームやから、説明しにくかった…」
M「とりあえず、見て!って。どう見てもFWで負ける気しんかったのはあるけど」
―部員たちに説明する、ミーティングではどんなことを?
T「プレゼンって言ったら、たいそうかも知れんけど。『相手がこうしてくるから、ディフェンスはケアしてください』って感じで言ったり…『キックをこう使ってくるから』とか、けっこう言ったかな。あと、ジョー(イオンギ・シオエリ=摂南大=)とか、キープレーヤーの話を」
M「ラインアウト…あらためて考えてみると、他にやり方あったかなって。結局、取れへんかったから…」
T「責任感じている?」
M「明治戦とか安定させてしまったし。ラインアウト取ってたら、勝ってたもん」
―いま話に挙がりました。ずばり分析スタッフから見た、明治大戦の敗因は
M「田村(SO=國學院栃木=)ちゃう?」
T「なめてたわけじゃないけど…そこまでポテンシャルあるんや!ってビックリした。『まさかそこまで』考えてなかったのが敗因」
M「ハーフタイムで玉(玉泉)の顔見て、うわっ動揺してるわって。あの顔は忘れられへん」
T「あそこまで外れたっていうね」
M「予想を超えるプレーをさせてしまった、っていうのもある」
T「ビデオ見る限りは…。ウチとの試合で、そこまで出るかっていう」
M「6番とか注目してなかったし」
T「そこは反省かな。予想を超えるとこまで分析しなあかんな、って。いまだに明治大戦のビデオは見てないもん。悔しすぎて。いつもは毎回、帰って即行見てんのに、ショックすぎて」
M「終わってから何回も考える。もうちょっと言っとけばなぁ、とか」
T「ウチはFWに自信あったから勝算はあった。アタックはあの試合見ても、いったら取れてたもんな。そこに至るまでにいかせてもらえんかった」
M「先制されて、けど大滝(社4)がすぐ取り返して。イケるやろ!って」
T「けど甘かったな…」
―ちなみに増尾は明治大戦のビデオは見た?
M「んー…まだ見てないと思う!終わってから見たんは、選手権の準決勝と決勝。ラグビーを見てないね―。ラグビーと距離置いてる気する。高校ラグビーも見てないし」
▲明治大戦。スタンドに増尾、グラウンドには玉泉の姿
―結局のところ、今年の『関学ラグビー』とはどういったものだったのか
M「オレはFW視点やから、『FW』って言ってしまう。どこがウリ、て聞かれたら『FW』。あんなデカいFWおったらイヤじゃない?(笑)」
T「みんな入ったときから別人のようになったもん」
M「でもオレらの学年、元々デカかったよな」
T「『FWの関学』って言われて、BKとしては肩身せまい…(笑)。
オレがハーフなのもあるけど、FW動かしたアッシー(芦田=人2=)の存在デカかった。この1年で成長したかなって。で、だいぶこのチームを成長させた」
M「同志社戦でのケガしたときは、ヤッバーって。それだけ、あいつはでかい。
チーム全体でいえば、ラインのなかでFWが絡んでくるのが多い。いい傾向やと思う」
T「それが通用したのは関西だけやったよな…。関東相手に、ウチの良さが出せんかった」
M「出せてたら通用するよ。関東のやつ言ってたで。あの松川ってやつ誰?って。
…でも色々考えるくない?もうやることないのに」
―考えたとき、改めて振り返って今年のチームの弱点とは
T「あくまで分析やから…」
M「グラウンドで相手と正対して違和感とかあっても分からんし。机の上でやったらナンボでもいえる。けどゲームでは何にもならん」
―分析スタッフという役職を振り返って。やりがいを感じるときは
T「勝ったときかな、まさしく」
M「そうよな。勝ったら、良かったなって思える」
T「安心っていうか。負けたときは『自分たちがあかんかった』って責任感じる。かといって、勝ったときに『オレらのおかげで』とは感じへん」
M「オレらはあくまで参考でしかないから」
―選手と分析の兼任、4年目は大変だった?
M「しんどかったけど、いまこうやって思い返したら、楽しいことしか思いうかばへんし。実際楽しかったな―。もう一回やれって言われたら、うーんって(笑)」
T「達成感はあるかな。やったなぁ、みたいな。春とか夏とかはジュニアの方を見てたし。やりきった。ほんまに後悔は明治戦だけ。
分析に関しては、指導してくれる人がおるわけやないし、分析の基礎が無かったから。それをつくるとこから始まった」
M「一発目のミートは、どぎまぎした。摂南戦前の9月の初仕事は」
T「急に萩井さんから『(相手チームの)あいつ、どんなプレーヤーや?』って聞かれたり。いつ、そんなんあるか分からんから大変。
アメリカン(フットボール部)とかスゴいよな。分析おって、あんだけミーティングして。あれが日本一目指すチームなんかなって思ったり」
M「あれぐらい相手を丸裸にしたら、どこまでイケるんやろな…。莫大な情報量なる思うわ」
T「オレら、全部手書きやで!」(分析で使用した資料ファイルを手に)
M「その方が楽やけど」
T「まさにアナログ」
―資料の数がすごい。ラインアウトなどは、だいたい1チームで何パターンくらい?
T「京産が多い!明治もそこそこや思う」
M「京産に関しては、この倍あってもおかしくないと思う」
―やはりデータは重要になってくる?
T「最後の天理、同志社で…。それまで天理が何トライ取ったのを時系列にくぎってて。それをグラフに出して、ばらつきを見たんよ。そしたら、トライ取れてない時間とかが浮かびあがって」
M「ウチは、時系列関係なく打ち合いになってたり」
T「で、こんなんをイメージとして。この時間帯強いよ、とか。誰に言われたわけじゃないけど、ちょっとの参考で準備して」
M「最初は自己満足やってけど、データ重ねたら」
T「なんだかんだで作業量はいっぱいいっぱい。けど、やりすぎることはないよな」
―分析スタッフという役職に思うことは
M「こうやっておけば、って反省を活かすためにも」
T「各学年から出てくれば。経験とか重ねていったら」
M「自分が下の学年やったら、面倒くさがる思うけど。今の学年のためになれると思ったら絶対やった方がいいと思う!」
T「昔はそんな考え無かったけど(笑)
オレらが作っていかなアカンからな―基盤を。スタートラインじゃないでしょうか」
M「良くも悪くもチャレンジしてた」
―関学で過ごした4年間を振り返って
T「1年で入ったときに、関学ってAで強いチームなんやって入って。まわりが有名校の方ばっかりで、ビビりながら。
それから始まって、このチームが同志社に勝つとか、関西で優勝するとか考えもしなかったし。リーグで勝ち越すのも、なぁ?」
M「4年間で部員の意識変わった」
T「それを一番感じた学年やと思う」
M「環境に恵まれたのもある。部もそうやし、部員ひとりひとりの環境も変わった」
T「パッ、って」
M「選手権でどこまで勝つかに変わったし。ちょうど移行期」
―では最後に
M「オレは分析としてやってきて…この4人でやってて良かったなって思う。明治戦終わって、慎平に最初に握手しにいったもん。顔見て、『お疲れ』って言おう思った。あのメンバーで良かった!充実した半年やった」
T「増尾にそんな良いこと言われて…。4人でちゃんと力合わせてここまでやってこれたし。どうこれを後輩たちが土台の上に続いていくか。
将来にも良い経験なったかな。明治戦で予想超えることが起きるんやなってことも。まだまだ甘かった…。今後に活かせると思います!」
分析スタッフ―。関学において、そのポジションの役割は定まっていない。けれども、チームへの貢献は確かにそこにある。だからこそ、2人はまだまだ分析班という役職の発展を望む。そして、思いを後輩に託した。
作戦参謀の戦いは、始まったばかりだ。■
▲練習時には分析班が作り上げた資料が
(取材/構成=朱紺番 坂口功将)
■増尾友甫(ますお ゆうすけ)/社会学部4年生/東海大仰星高/PR/179㌢、113㌔
■玉泉啓太(たまいずみ けいた)/社会学部4年生/芦屋高/SH/163㌢、74㌔