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『WEB MAGAZINE 朱紺番』

高陽日『RISING SUN』

投稿日時:2013/07/04(木) 12:00

 目に見えて、味わった屈辱さえも。不屈の精神で乗り越えることが出来たからこそ、今シーズンも彼は、自らが望む居場所にいる。FB高陽日(経3)の3年目、陽は再び昇った。

 

■高陽日『RISING SUN


 

 追撃のトライだった。畑中組が臨む春シーズン最後の対外試合となった6月30日の同志社大戦。前半に先制を挙げながらも、立て続けに3トライを奪われるという劣勢のなか、後半もしばらくして。ようやく敵陣でプレーが展開される。マイボールスクラムからボールをキープすると、外へ的確にパスをつないでいく。相手ディフェンダーに防がれようとも、力強いプレーで最後にゴールを陥れたのは、FB高陽日(コウ・ヤンイル)だった。


 ちょうど一年前の春シーズン。伝統的に評される「関学のBKはタレント揃い」の言葉どおりに、関学ラグビー部の、とりわけBKにはハイレベルな選手たちが名を連ねていた。そのなかでも、WTB2人とFBのバック・スリーは、平均身長180センチ超の顔ぶれ。大型BK、そうビッグ・スリーと形容できたか。両WTBには松延泰樹(商卒=現東芝=)と金尚浩(キム・サンホ/総政3)、そしてFBには高陽日。


 破壊力とスピードの双方を兼ね備えたこの3人は、それぞれのポジションを不動のものとしていた。WTB松延の決定力は言うまでもなく、特筆すべきはWTB金尚浩とFB高陽日のコンビネーション。中学生時代から同じ環境でプレーしてきた二人は、まさに阿吽の呼吸を大学でも繰り出した。


 「中学から一緒なんで、すごいやりやすい。言わなくても、お互いの動きが分かっている。僕がこう動いたら、ヤンイルがこう動く、その逆も。アタックでも、どっちかが抜いたら、横にいたり」


 そう語っていたのは金尚浩。大外で構えるフィニッシャーは、クレバーにトライへの嗅覚を研ぐ。もちろんディフェンスにも積極的に駆り出す。その彼が前に出る際、必然として後ろにスペースが広がる形になるわけだが、心配はご無用。背中を預けられる、後方にいる相方の存在が頼もしいのだと金尚浩は話す。


 「安定してる。目立ったミスもなく、突破力もあるし、タックルも激しくいく。ヤンイルが抜かれたシーンって見たことない。前でディフェンスする身としては、安心してプレーできます」


 バックもといビッグ3の羽翼・松延のコンバートはあれど、春シーズン果てはリーグ戦と試合を重ね、彼らはますます成熟していくものだと思われた。



 「覚えてるんですけど近大戦の前の京産大戦で、僕の軽いミスでチームの流れを悪くしてしまって。最後は大差で勝ちましたけど、責任を感じてまして。(次の近大戦では)やっぱり落とされた。ジュニアで調子の良かった1年生の子が代わりに入って


 シーズンも大詰め。関西大学Aリーグも佳境に移るなかで、チームは自分たちの求めるラグビーを再認識した。それは、これまでに取り組んできたことを実直に遂行させるもの。すなわち走り勝つラグビー。それに伴い、レギュラー内で人選が変わったポジションもあった。むろん、己の失態でその座を奪われるのは勝負の世界の常でもあるが。高陽日は、その厳しさを思い知らされたのである。


 けれども、レギュラー争いに敗れたことは、彼自身にとって自分を見つめ直す機会にもなった。


 「悔しかったですけど、自分に何が足りないのか、とか。京産大戦からチームの方針が変わったなかで、僕よりも1年生の子の方が球を動かす面で優れていたんで。試合を見ながらも、勉強なるなと」


 出場機会を失ったまま、終えた2年目。味わった挫折において、気付いたものとは。


 「積極性がなかった。全部先輩たちから支えてもらうというか自分からもっと意見を言ったりしないとな、と。3年生になってますし、去年活かせなかったぶんは変えていこうと思ってます」


 屈辱をばねにして迎えた3年目のシーズン。春先、コーチ陣から別のポジションを打診された。WTBでの起用である。先の経験があったぶん、FBへの哀愁を少なからず感じた部分はあったが、高陽日は気持ちを切り替えた。


 WTBでやれることをやるその気持ちでプレーに臨んだところ、自分自身でも良いと思えるパフォーマンスが試合で発揮できたという。そして後輩FBの調子の波も左右し、その高陽日のプレーをコーチ陣は買ってくれていた。一度、FBに戻してみよう、と。


 そうして、再度FBを任された折に、はたまた良いパフォーマンスを出せたと本人は振り返る。それ以降の流れはお察しの通り。今年の上半期を、彼は背番号15のジャージを身につけ締めくくる。どこか謙虚そうな口どりも、喜色満面に一言。「戻れました、ね」



 再びFBに就けた喜びは、自身の成長を促す何よりのカンフル剤となっている。この上半期のパフォーマンスを語るうえで、以前と変わった部分があるという。春シーズンの最終試合の同志社大戦が終わり、彼はこう話した。


 「トライを取れるようになっているな、って。去年1年間を通して取れたのは1本だけ。それも春の試合での1本のみ。今年は、Aチームで4トライくらいですかね。

 今日もそうですけど、チームの流れ、というか。試合を決定づけるトライもそうですし、追い上げてチームを盛り上げれるようなトライも。アタック面でFBとして貢献できているのではないか、と」


 同大戦で挙げたトライは、まさに追い上げムードにチームを誘う一撃だった。やっと訪れた敵陣での攻撃。FWとBKが一体となってボールをつなぎ、フェイズを重ね、敵のDFラインを崩した。そのフィニッシュを飾った。


 そして、もう一つ。FBという、ピッチではフィフティーンのなかで最後方から駆け上がっていくポジションならではの攻撃特性。バックスリーの尾翼が仕掛けるカウンターだ。


 「両WTBがサンホとキャプテンなんで決定力のある二人で。カウンターからの攻めで。関東に行ったときに抜けて、ビックゲインもありましたし、そこから点を取る場面も。自信を持てるようになりました」


 同大戦では繰り出すチャンスこそなかったものの、この上半期で手応えは感じている。ディフェンスは大前提だが、攻撃においての存在感は増すばかりだ。


 想像してみて欲しい。たとえインゴールまでの道すじが遠くて見えにくく感じる局面でも、前に進まんとするメンバーたちの後ろからやってきて、行く先を照らす。そんなバックスリーの真ん中に、見て字のごとく、高陽日という太陽があることを。


 レギュラーの座を奪い返した、カムバックストーリー。挫折からの脱却を図るなかで、彼が腐ることなく貪欲な姿勢を持ち続けたことが結果として表れたのだろう。高陽日は語る。


 「どういうポジションでも関係なく。自分のやれる仕事をしっかりやっていけば、結果が。Aチームでしっかりと出ることが出来るのかなと思いました」


 昇らぬ太陽など、無いのだ。(記事=朱紺番 坂口功将<広報担当>)