『WEB MAGAZINE 朱紺番』
萩井好次『新たなる飛躍への決断』
投稿日時:2013/02/15(金) 15:59
■萩井好次『新たなる飛躍への決断』
いまや関学ラグビー部首脳陣の屋台骨。時代の移り目に携わること丸々8年。萩井好次、まさに関学ラグビー部の躍進を支えてきた存在である。
コーチとして招聘されたのは平成17年のこと。「FWを見てくれ」と当時は関西大学Aリーグの下位にいた、関西学院大学にやってくる。そうしてFWコーチに就任。それから4年後に、チームは半世紀ぶりの関西制覇を達成する。当時の監督が掲げた『ディフェンス』ラグビーこそは栄光を掴みえた主たる要素であるが、4年間で鍛え上げられたFW陣によるセットプレーも大きな一因であった。
そして、その翌年はヘッドコーチとして指揮を取ることになり、継続的な強化が為された。『FW』ラグビーを掲げた「小原組」は破壊力抜群のFW陣を中心に猛威をふるい関西2連覇を遂げる。歓喜のそばには、いつも萩井氏の姿があった。
一躍、関西大学ラグビーのトップに君臨した朱紺のジャージ。それこそが、時代の移り変わりを意味するが、同時に天理大の台頭や、伝統校同士の実力拮抗といった様相がここ数年のうちに見られた。そのなかで、2012年。関学ラグビー部に新たなる風が吹き込んだ。かの日本代表主将、〝赤鬼〟アンドリュー・マコーミック氏のコーチ招聘である。
こうして、マコーミック氏はヘッドコーチに、監督には萩井氏が就く形で昨年の藤原組は指導体制を取ることになった。フルタイムのコーチを据えたこと自体が、元より学生主体を本流としてきた関学にとっては初の試みであり、これもまた時代の変遷を表していると言えよう。
新体制でスタートした1年。藤原組は掲げた『カンガクウェイ』を実践すべく、フィットネスに磨きをかけ、ディフェンスの強化を徹底していく。春シーズンは、前年度関西王者の天理大を破るなど、上々の仕上がり。充実したシーズンを過ごしてきた。夏からはアタック面にも着手し、FW・BKともに成長の一途を辿った。
その成長過程において、時間と、ときに戦術面から遠回りはしたが、果たして『カンガクウェイ』なるラグビーを具現化することは出来た。リーグ最終戦の後半40分間で、近大相手に見せたラグビーはまさにそれであった。
思い描いたものを実現する―。それは藤原組の上げた成果だろう。だが、シーズンを経てチームを見つめた指揮官の目には一つの現実と、課題が映ったという。萩井氏は黒星を喫した2つの試合を引き合いに出した。「リーグでの立命大との試合と、選手権の筑波大戦」。
10月28日の立命大戦。降りしきる雨の下、決め手に欠いたチームは敗北を喫した。この試合を通して萩井氏は実感することになる。「あぁ…FW弱くなったんやな」と。かつて、コンディションの悪いピッチでも、それをもろともしないプレーを見せることが鍛えられたチーム、なかでもFWの強さの証であると言われた。その点において、いつしか強みが失われていたことに気づかされ、指揮官には悔恨の情がこみあげた。
そして、もう一つは。そうしてシーズンが深まり、12月23日の大学選手権での対筑波大戦。藤原組にとって最後のゲームとなったこの80分間、何よりも痛感させられたのは「コンタクトの部分」だった。組織で作り上げるディフェンスを持ってして、相手のアタックを捕らえることは出来る。けれども、捕らえ〝切る〟ことが出来ない。ワンハンドで御される場面も、当たった末に弾け飛ばされる場面も見られた。やはりは関東の大学勢との壁を意味するが、これを乗り越えずして頂点に至らないことを、またしても思い知らされた。
この2つの黒星で馳せた思いが、萩井氏の琴線に触れたのだろう。雨中の試合でいえば、一昨年の大体大戦も含め2年連続で負けを喫している。コンタクトに関しても、以前はこだわっていた部分であったが、ここ数年は戦い方に意識を寄せていた。
チームを指導する者として、最高の成果を出すために必要なものとは。出した答えが、指導体制の変更であった。2013年シーズンを迎えるにあたり、萩井氏はアシスタントコーチへの転身を決断する。
昨季は、パートごとに分かれる際には主として萩井監督がFW、マコーミックHCがBKの練習を見るようにしていた。といっても、FWをフルタイムで見れる指導者は他におらず、いわば「監督兼コーチ」の状態であった。だが、兼務とあっては仕事量も多く、意識も分散するため強化のスピードを上げられないという悩みが生じることに。それを解消すべく、いま一度、萩井氏が『FW』と『コンタクト』を集中的に強化できる体制を整える狙いがある。そしてそれらは、越えなければならない関東の壁に正面から向き合うことを意味している。萩井氏は語る。「監督を辞めることに対して賛否両論あると思うが、自分自身の肩書きよりも学生を勝たせてやることにこだわりたい」。
では、FWの強化に焦点を置いたときに、やはり実績として挙げられる4年前の小原組が指針となるか。彼らはどうだっただろう。リーグ戦、同じくどしゃぶりの雨のなかで立命大を相手に粘り強く戦い抜き勝利を得た。コンタクト、各々が持ち前の強さと身に着けた重厚な肉体は、どのチームにも追随を許さなかった。
この問いに、萩井氏は、うなずくようにきゅっと口元を締め、しかし口を開き否定した。あくまでも、トータル面でのレベルアップが前提、そのなかでFWを強化していくことである、と。つまりは、80分間働き続けるフィットネスあってこそ。どれだけ接点に強かったり、体躯があったとしても、〝鈍重〟では意味がないというのだ。
藤原組が歩んだ『カンガクウェイ』とは。「走力×守備力」をベースに「攻撃力」を加味し、一つの完成形を成した。だが、現実を前に足りないピースを補完し、別の次元の『カンガクウェイ』を作り上げることが、チームを指揮し指導する者の役目。そのピースの一つが「個々の強さ」であり、全体を二分化すれば「FWのレベルアップ」に当たる。
歩みは留まることなく、2013年の関学ラグビー部の幕が開けようとしている。首脳陣は、以前よりチームのマネジメントを担っていた野中孝介氏(平成12年卒)が監督に。マコーミックHCは2年目を迎え、チーム全体とりわけBKのレベルアップに努める。そして、アシスタントコーチとして萩井氏の頭のなかには、すでに構想は描かれている様子だ。「強くなるよ!楽しみです」
最高の結果をもたらすべく。3クール目の強化プランが、いま、実行に移された。■(記事=朱紺番 坂口功将)