大きくする 標準 小さくする

『WEB MAGAZINE 朱紺番』

松延泰樹『コンバート・トゥ・コンバット ~回帰~』

投稿日時:2012/10/21(日) 04:39

 それは必勝を期するための手段である。チームの戦術や思惑によって、プレーヤーたちは求められる役割やポジションが変動する。それでも、彼らが戦うことに変わりはない。

 

■松延泰樹『コンバート・トゥ・コンバット ~回帰~』
 

 

 ボールが渡れば、観客の視線が一気に集中する。少しでもギアを上げ、ゲインすれば歓声が沸きあがる。それが、エースといわれる者の証。松延泰樹(商4)は間違いなくその域にいる。昨シーズンに見せたWTBとして活躍する姿を、人は重ねて眺める。ライン際でも密集でも突破していき、やがて奪い取るトライを彼のプレーに見る。その彼がいま、最後のシーズンで『13』番をつけている。WTBではなく、CTB。リーグ戦を前に、当の本人に胸中を聞いてみた。


 「嫌やったですよ!」


 浮かべる苦笑い。確かに、ラストイヤーとなる今季も、春シーズン開幕から常にWTBを担ってきた。もはや定位置、同じくWTB金尚浩(総経2)とFB高陽日(経2)で形成される彼らは大型バックスリーとして確固たるものとなっていた。CTB松延、違和感はあった。自身はどう受け止めていたのか。


 「2年生以来。CTBやってて、無理やったからWTBになったのに。最後の大事なシーズンでWTBとして出たい気持ちもあって。CTBやることに不安もプレッシャーも」


 そうだ、もともと彼のポジションはCTB。曰く、「太朗(吉原=人福4=)みたいに突っ込むタイプ」。ガタイの良さから、当たり負けしない強みがあった。それに加えて備わっていたスピードを買われ、WTBに転向した。それを機にブレイクを果たし、エースと呼ばれるまでになった。むろんラストイヤーも、と思われていたが今年の夏、再度CTBへと戻ることになったのである。


 「1次合宿のちょっと前からですね。メンバー選考も兼ねてその時期CTBに怪我人が多くて、熊野さん(BKコーチ)からも『ひとまずやってみて』と言われて。アンガスさんも『いいじゃん!』と。そっから抜けれず(笑)」


 一見すればその場しのぎの応急措置。だが、事実はどうやらそうではない。松延のCTB起用を目論んでいたのは、マコーミックHCかもしれないのだ。HCが語った松延評。


 「ノブのCTB、面白いね。速いし、身体大きい。ディフェンスもカバー広い範囲で出来る」


 マコーミックHCは、CTBとしての松延泰樹をかねてより思い描いていたのである。
 


 「アンガスさんからは『足も速いから、勝負していいよ』と」


 勝負せよそれがHCがエース〝元〟WTBに下した指令だった。だがコンバート当初、松延はCTBとして求められているものと自身のなかでのイメージにギャップを覚えていた。


 「CTBとしてトライのイメージがそこまで無くてちょっとでもゲインして、つなげる。そのイメージがあって、それでやっていたんです。そしたら、アンガスさんから『もっと勝負しろ』と」


 彼自身が抱いていたCTBへの不安点。アタック面に関してスキルは無いのだと自認する。それでも転向するにあたっては器用さも必要と踏んでいた。しかし実情は違った。マコーミックHCもといコーチ陣、チームが彼に求めていたのは、あくまでもウインガーとしての要素。ずばり『強さ×スピード=突破力』の方程式。それに気づかされたとき、彼のなかで不安も和らいだという。


 「みんな分かってくれてる。『突っ込んでくれたらいい』って言われているので、気持ちも楽です。

 WTBに比べたら不安しかない。けど消極的なってミスするくらいなら、と。CTBでもWTBと同じことできるんや、ってね。CTBやから、って気持ちに捕らわれることなく、やっていくんやと」


 ふっ切れた、いや腹をくくっていた。「4回生、わがまま言えないです。チームのためにやるしかない」。その言葉に偽りはないだろう。


 ただ、WTBからCTBへの転向に際して、フィールドで感じる違いはあるようだ。


 「WTBのときは、とにかくボールが欲しい、はよ回してこいって思ってたんスけど。いまCTBやってて、ここではどうしようもないから放ってくんな、って(笑)。自分でも勝負しつつ、冷静な判断してプレーすることが課題です」


 課題に挙げた判断力。CTBは役割が多いぶん、瞬時の判断とそれに足るスキルが要求される。松延が「技術ない」と話す一方で、それを手助けする心強い存在がチームにはいる。CTBの相方、春山悠太(文4)だ。「悠太に動かしてもらいつつね」と松延は話す。その相方は、新生アウトサイドセンターをどう見ているのか。


 「始めは太朗とずっと組んでたんで不安もあったんスけど。太朗が密集での強さを持っているのに対して、ノブは足が速くて横を大きく使えるプレーヤーで。最初は活かし方のギャップにとまどった。

 いまはノブと話して、特徴掴んで。ぼく自身も助けてもらっているし、すごいやりやすい。ノブをしっかり、どの場面でも活かしてあげたい、と。

 アンガスさんが選んだ理由が分かった。ずば抜けたスピードあるし、サイズもあって、ディフェンスも上手いしすごいっス」


 この頼もしき活かす側の存在を持ってして、CTB松延は研ぎ澄ましている。ポジションが違えども、インゴールへの嗅覚を。


 「いかに悠太に活かしてもらいながら取るか。トライへのイメージがないと抜けないんでね、イメージありますよ!」



 始まった最後のリーグ戦。開幕して2戦、トライこそ無いもののボールを持てば、歓声が沸きあがる。リーグ戦初白星を得た同志社大戦が終わり、松延は語った。


 「WTBのポジションでボールもらったりもしたので、自由に。アタック面では、もっとボール持つべきだなと。

 (歓声を聞き)みんな期待してくれてんからと分かってるんスけどミスしたことを考えたら。けど消極的になるのはアカンので。思い切ったプレーは、ダブルスコアくらいになったら、のびのびと出来るかな(笑)」


 まだ若干の不安要素はある様子だが、チームそして周囲は、待ち望んでいる。密集などお構いなしに突っ込んでいく姿、豪脚を披露して相手ゴールを陥れる姿、を。どのポジションについているのかではない。松延泰樹という一人のラガーマンに、期待と興奮を抱いているのだ。(記事=朱紺番 坂口功将)