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『WEB MAGAZINE 朱紺番』

金尚浩&畑中啓吾『両翼が強く羽ばたいた日』

投稿日時:2012/10/15(月) 03:13

 開幕戦黒星から1週間。続く第2戦で、あわや暗礁もちらついたチームを救ったのは、両端に構えるトライゲッターだった。同志社大戦白星の立役者は、金尚浩(総経2)と畑中啓吾(商3)、両WTBだ。

 

■金尚浩&畑中啓吾『両翼が強く羽ばたいた日』

 

 予想を超えていた。対峙する同志社大の展開力が。グラウンドの横幅を端から端まで使い、人とボールが動く。そのスピードに、加えて当たりにいっても止まらない強さに、動揺が生まれた。あれよあれよと2本のトライを許した前半15分間を副将・松延泰樹(商4)は振り返る。
 

 「自分たちの立ち上がり悪かったのと相手が対策以上に、個々の強さ、ラインスピードが速くて。そこだと。

 正直、去年と同じ展開も考えた。先週負けてた焦りもあったんで」


 昨年の同志社大戦。序盤に許した失点から、ずるずると得点を許し、勝負は決まった。それと同じ光景が、グラウンドに立つプレーヤーたちの脳裏をよぎった。速さに翻弄され、ダブルタックルでも仕留めきれない。ディフェンスラグビーを標榜しながらも、受け手に回っている時間帯で生じるジレンマはやがて焦燥感へと形を変えていた。


 「このままでは去年の二の舞になるな、と。FWでもBKでも、とにかくディフェンスを起点に仕掛けたい」


 チームが泥沼に引きずり込まれそうになるなか、WTB金尚浩はうかがっていた。反撃に出るチャンスを。カウンターで仕掛けていくイメージを固めていた。


 「ノブさん(松延)たちからも、『ボールが来たら、思うようにプレーしたらいい』と言われてたんで。思い切って勝負!と」


 前半20分、自陣でボールが尚浩の元へ回ってきた。WTBとしての見せ場が、訪れた。まずは外へ、相手WTBを片手で抑えながら振り切ると、そこからライン際を駆け上がる。後続のディフェンダーが掴みきれないとなれば、歓声も次第に上昇。大歓声が沸き上がるなか、相手SOが前に現れるや、角度を変え、内へ切り込む。捕まらない。今度は真横からディフェンダーがくる。尚浩はワンハンドで相手を制止しようとするが、決まらない。いよいよ捕まったか


 「圭佑が最後までついてきてくれてたんで」


 ビックドライブの果てに、尚浩はバックフリップでパスを送った。相手は、会心の笑顔を浮かべながら追走していたナンバー8中村圭佑(社2)。パスを受けた中村は悠々とインゴールへ。カウンターからの一閃。「ゲーム前にしていたイメージトレーニング通りに。ひとり抜いて、と」。快足WTBの疾走は、相手の防御網だけでなく、それまでグラウンドを支配していた暗いムードをも切り裂いた。反撃の狼煙(のろし)が、上がった。


 続く23分、敵陣でのマイボールスクラムから、外へ展開。的確にパスをつないでいくと、FB高陽日(経2)から一番外にいた尚浩へボールが渡る。


 「もらった瞬間、ゴールが見えてて。コースに走りこんで。トライするだけだったらいけないと思って、中央まで」


 インゴールに到達するだけでなく、追い討ちをかけるようにポスト裏まで走り抜けた。反撃から逆転まで。前半のハイライトを、尚浩の足が飾った。



 その「11」番の活躍に触発されたか、同じWTBとして逆サイドに構える「14」番・畑中啓吾もふつふつと闘志をたぎらせていた。前半も残すところ10分ほど、同志社大がPGで1点差に迫ってきた場面。自陣でのターンオーバーから一気に相手陣内へ。左サイドから中央へボールが渡り、SO安部都兼(経4)から畑中はパスを受ける。前を向くと、相手のディフェンスラインはきれいに揃っていた。選んだのは、正面突破。「やばいかな」と思いつつも同大のナンバー8に真っ向から当たっていき、負けずにゲイン。そこから軽快なステップで2人を裁き、ゴール中央へ飛び込んだ。
 

 「相手も予想してなかったんじゃないですかね!?」


 得意気な顔で追加点を語る。もとより小柄な体格なぶん、ウェイトトレーニングは常に意識してやってきた。「まわりに大きい選手がいてるなかで、絶対に鍛えなあかんとこは鍛えて」肉体造りに励んできた。スピードも速いわけではないと語るぶん、ステップで相手をずらすスタイルを磨いてきた。まさにWTB畑中の強さと強みが発揮された得点シーンだった。


 個人技で取ったトライの次は、「チームで取った」トライだ。後半5分、味方が外へ外へとボールを運びライン際でパスをもらうと、あとは前を行くのみ。「相手いてなかったんで」と話すが、このときも2人のディフェンダーをかわし、弾いてのプレーだった。


 畑中の活躍はトライだけにとどまらない。要所でキッカーとしての役目を託されている。後半13分、好位置で相手ペナルティをもらうと、PGを選択した。「確実に蹴れる位置で。キャプテンとも話し合って、確実に取れるとこは点取っていこうと」


 開幕戦でもPGを成功させており、「今年は安定している」と話すだけに自信を見せる。この日も成功させ、追加点を足で叩き出した。



 両WTBの大車輪の活躍によって勝利を収めたリーグ第2節、同志社大戦はBK陣が存在感を見せつけた。「尚浩のトライもあって、数少ないアタックチャンスでシンプルにトライを取ることが出来たのが」良かったと松延。副将が信頼を置くバックスリーが中心となってゲームを動かした。前節の悔しさも、彼らのギアを一段と加速させる一因だった。尚浩は話す。
 

 「前の試合では2回しか触れず。今日はボールもらいにいこうと。

 天理大戦はチームのFWに助けられた部分が大きくて。同志社大は8番とか重量級のFWがいるから、今度はBKがFWを助けてあげようと思っていた。グラウンドを広く使って振ってくるのも分かってたんで、BKが視野を広く持って、引きつけてディフェンスしていこう、と」


 尚浩自身はスピード、そして何より185センチの長身を武器に大型WTBとして今シーズン初めからレギュラーの座を不動のものにしていた。安定感、そこには常に全力プレーを心がける姿勢がある。「全試合通して自分のプレーが出来るように。ボールをもらったら、思い切って走ったり、タックルでもまわりとコミュニケーションを取って。自分の身体とモチベーションも高く保って、全試合100パーセントの気持ちで臨んでいます」


 リーグ戦に入り、レギュラーであることを、より意識している様子。「150人のなかで選ばれるのもなかなか。選ばれなかった人のためにも、楽しもう、勝とう、と思います。アンガスさんからも『レッツ・エンジョイ!』と言われていますし」


 前節と打って変わって、フィールドを駆け抜けた同志社戦。さぞかし楽しかったのでは?


 「すごい楽しかったです!」。満面の笑顔をはじけさせた。



 一方の立役者、畑中も開幕戦の屈辱をばねに、この1週間を過ごしてきた。初戦で務めたキッカーとして、舐めた苦杯。「1本1本が大切やと意識してたんスけど、2本外して結果2点差で負けた」


 天理大戦の試合後、彼は唇を噛みしめながら口にした。


 「ぼく自身悔やんで、落ち込んでても仕方ないんで。次に向けて、もっと練習して。4回生の思いもあるんでね。次!次にむけて、やっていきたい。

 責任感じてますけど、、、向上していきたいと」


 それから1週間の間、プレースキックの練習時。とくだん量を増やすようなことはせず、一本ごとに集中力を高めて蹴ることにした。キック〝1本の重み〟を知ったからこそ、である。


 話すに「(自分は)緊張するタイプ」。張り詰めた緊張感が支配するプレースキックの場面、畑中はとにかくリラックスして蹴りにかかるという。「入れなあかん、という考えではなくて、気楽に。気負ったら力んで外してしまう」。


 自らを落ち着かせることで、〝1本の重み〟をその右足に宿すことが出来るのだろう。「今日もリラックスして、1本1本集中して、蹴れました」。畑中は、同志社大戦をそう振り返った。


 輝きを放った両WTB。タイプが違う2人は、トライを取るという共通事項のもと、それぞれの役目をまっとうするべくプレーしている。尚浩は「2回生が引っ張っていけたら。4回生が僕らのケツは拭いてくれる、と言うてくれてるんで(笑)。思いっきり楽しんでいきたい」と声を弾ませる。畑中はこの日コンバージョンキックを1本外したことを引き合いに「トライを取るのが仕事。それプラス、キック蹴るのが自分の役目。100パーセント成功、それが僕の役目としてある。100パーセント、自分の仕事をこなしたいですね」と意気込んだ。


 関学のチームロゴである、KGで模されたイーグル。この両翼をもってして、藤原組は頂点へむけ、力強く羽ばたいてゆくのである。(記事=朱紺番 坂口功将)