『WEB MAGAZINE 朱紺番』
観戦記『想定内と想定外のシナリオ ~vs天理大学~』
投稿日時:2012/10/08(月) 03:46
息が詰まるほどの接戦となった開幕戦。いまだから明かすことの出来る、この一戦にかけた各々の思いを完全告白。そうして挑んだ果てに、喫した黒星はチームに何をもたらすか。
■観戦記『想定内と想定外のシナリオ ~vs天理大学~』

「萩井さんとアンガスさんは、天理大戦、どんなイメージ持ってますか?」
9月半ばに行なわれたリーグ戦を前にした最後の合宿。練習が終わった直後の、夕食でのことだ。副将の安田尚矢(人福4)が、隣に座った萩井好次監督に聞く。同じテーブルには、主将・藤原慎介(商4)と同じく副将の松延泰樹(商4)の姿がある。少し間を置き、萩井監督が答える。
「天理大戦に限らず、FWで2トライ、セットプレーから2トライ、ターンオーバーで2トライを。ただ天理を相手に6本は難しいと思う。
FWで2本、セットで1本、ターンオーバーで1本取って…。20点取られると厳しいな」
すなわち、被トライ数3がボーダーライン。4本目を喰らうと勝利は遠のく。その数字に、以前に安田がチームの現状を話していた際の台詞を思い出す。
「接戦に持ち込める自信はある。アタック力あるチームに対しても、3トライ以内には。けど…」
シーズン当初から磨き続けたディフェンス力。ゆえにロースコアゲームは大歓迎。接戦になってこそ、勝利への道は開ける。自分たちの目指すラグビーは決まっていた。
そして、もう1つ。今シーズンにおいて定まっていたことがある。それは、関西大学Aリーグの初戦の相手が、前年度関西王者の天理大学であるということ。昨年の成績が反映される対戦カード。開幕戦は前年度1位と5位が例年対戦する。
その確定事項について、開幕戦の2日前、主将はあっけらかんと言い放った。
「もう決まってたことなんで!言っててもしゃあないですから。春から分かってたんで、それに合わせてチームの固め方を。あとは、やるだけ」
割り切るしかない。初戦の重みがいっそう増したことも、好材料に変えるのみ。主将は息を巻いた。
「勝つつもりでいるんで。勝ち方のことしか考えてない。天理はどのエリアからでもトライを取りきる力を持っている。どのエリアでも気が抜けない。ちょっとした油断でやられてしまうので、80分間必死でディフェンスしたいです」
関学のチームカラーが防御なら、天理大の特筆すべき点は攻撃。様々なシチュエーションから展開し決定打を浴びせるアタック力。その中心となるBK陣を、CTB春山悠太(文4)はこう分析していた。
「あれが日本一のBKやと思います。みんな上手いっスよね、あそこ。全体のスキルにパス、ラン、全員がレベル高い。突破できる13番がおって、SOはまわりを活かすことに徹している。ひとり一人が自分の仕事を分かっていて、高いレベルでまっとうしている。歯車がかみ合っている」
真正面から、正直に受け止めていた。その強さを。今春の対戦では白星を挙げていたが「あの頃より強い選手が戻ってきているし、チームの出来上がり方も凄いっスよ」(春山)。対戦を前に、彼らが穴の空くほど相手を見ていたことは想像に容易い。
実際、アンドリュー・マコーミックHCも数週間前から分析班より天理大のビデオを受け取り、チェックしていた。
「対帝京、対流経、対東海、をね。向こうのテクニックやサインも見て。展開が早くて、テクニックがうまい。けど組織の動きはシンプルだし、凄い印象はない。精度は高いけど…スクラムとかセットプレー、あとゴール前のディフェンスが足らないかな。あ、これはいつ書くの?(試合が終わってからです。)オッケー」
臨戦態勢は整っていた。ゲームに臨む選手たちからは「自分たちのやってきたことをやるだけ」が共通して聞かれた。それは自信ゆえ。一貫して取り組んできたディフェンスへの自負。強敵相手にも、確信があった。春山は声を上げた。
「(勝てるイメージは)ありますね。きっちりありますよ!FWでプレッシャーかけて、相手下げさせて、最後BKで」
ただ一抹の不安もあった。それは、自分たちのやってきたことを〝やれなかった〟場合。春山は続ける。
「自分たちのやってきたことを出せないこと、出させてくれないことに不安が。それに克てたら。出したら勝つ、そこの強いイメージはある」
自分たちを、自分たちの歩んできた道を信じるのみだった。
いつしか関西の覇権争いを演じるのは朱紺と黒のジャージになっていた。関学が関西制覇をかける試合の相手は決まって天理大だった。その決戦が、今年はオープニングゲームになった。10月7日、花園ラグビー場。火ぶたが、切って落とされた。
開始早々に先制点こそ奪われたが、前半20分あたりで繰り広げられた自陣ゴール前の攻防。相手のFW陣を必死で食い止める。「前半、関学のスタイルが出せた」と主将。そう、ディフェンスだ。上半期、このシチュエーションでゴールを割らせたシーンは、無いといっても過言ではない。あれからさらにチームは進化し続けたのだ。関学FW陣も「最近なってゴール前のディフェンスを強化しよう」(藤原)と貪欲だった。開幕スタメンに立ったHO金寛泰(人福2)も振り返る。
「9月、FWは朝も夕方もかなりハードな練習をして、自信ついた。今日もゴール前で危ないとこはあったけど、強みのディフェンスと、FWでしっかり勝負出来たので。手応え感じました」
息詰まらせる攻防の果て、自陣を割らせることはなかった。相手の反則を誘い、陣地を挽回。そうして前半も残すところ10分、朱紺のジャージが反撃に転じる。
前半33分、相手ゴール寸前でFWが粘ると、最後はナンバー8中村圭佑(社2)が敵陣を陥れる。コンバージョンも決まり逆転に成功、続く37分、敵陣内で相手ペナルティでボールをゲット。ここで、チームはPGを選択する。キッカーを命じられたWTB畑中啓吾(商3)も「それまで蹴ってて、良い感触あったんで。FWとも話し合って、蹴りました」。蹴り上げられた楕円球は、ポストの真ん中を貫いた。
前半終わって10-5。互いに1トライのみのロースコアゲーム。「関学らしいゲーム展開になっている、と。しっかりディフェンスして、取れるとこは取って。後半に臨んでいこう」。ハーフタイムで、主将はチームにそう説いた。
そうして始まった後半、試合はシーソーゲームの様相を呈していく。後半5分に天理大が逆転。だが、徐々に敵陣でのプレーを増やしていた関学がプレッシャーをかけていく。後半15分、ゴール前でのマイボールスクラム。「セットプレーは心配ない」とマコーミックHCが話していたように、あっさりとFL徳永祥尭(商2)がトライを決める。再度、リードを奪った。
決めた2トライは、相手のウィークポイントで確実に仕留めたものだった。つくべきは『ゴール前のディフェンス』、HCの狙いは見事に的中した。
シナリオは出来上がっていた。それも想定どおりの。しっかりと守り、取るべきとこで取る。まさに主将がチームに話したこと。あとは、最後まで徹底し続けるのみだった。
が、しかし。後半27分、やはり警戒すべき相手のストロングポイントに打ち砕かれた。ターンオーバーから相手BK陣のゲイン。先制点を上げた留学生CTBの突破力を警戒してか、ややライン際の防御網が緩くなる。そこへパスがつながり相手WTBが大外一気。リードは3たび、変わった。
残すは10分強。3つ目のトライを目指して関学は走る。けれども、リードが覆ることはもう無かった。
「ペナルティですね。同じ反則を2回も繰り返したりで。もったいなかった」(藤原)
攻撃のチャンスは幾度とあった。しかし、決定打となる前に自らのミスでチャンスを逃した。後半ロスタイムのラストプレー、ボールを獲得するも、焦りがあったか、早〝すぎる〟パスワークでボールがこぼれた。そして、勝利も。
「ワンプレーの精度ですね。こだわり持ってやっていたら。取られたトライも、自分たちのミスからのトライで。精度の差だったと」
この日、体を張ったディフェンスとトライで存在感を光らせた徳永は敗因をそう語った。自分たちのほんの小さなミスが、取りきれた場面、抑えきれた場面で積み重ねられたことで、最終的には大きく響いた。
試合後、クールダウンに入る直前、マコーミックHCは主将の傍に寄り、こう話したという。
「決して悪くないゲームだった。良いとこもたくさんあった。やってきたことも間違いない。ただ、ペナルティ。反則を無くすための練習をしよう」
黒星という事実は揺るがない。だが、『15-17』というスコアは、それ以上の意味合いを持っている。4本目を奪われなかったこと、20点以内に抑えたことは、かつて萩井監督の想定したシナリオ通りだった。
一方で、冒頭で述べられた安田の台詞の続きも、いまリンクする。「…けど、ディフェンスも強いチーム相手に3本取る自信はない」。春シーズンは徹底的にディフェンスを磨いたからこそ攻撃面には着手していなかった。その点を自認し、夏を経て、アタック面でも着実にレベルアップを果たしていた。
「自分たちのやってきたことは出せた」。試合を振り返り、選手たちは口を揃えた。3本目のトライが奪えなかったのは、主将が「直接的な敗因」と述べたペナルティそして精度という想定外のポイント。それが、分かったことが開幕戦の収穫だ。
今日、ピッチで誰かが叫んだ。「これで全部終わったわけちゃうぞ!」
グラウンドから引き上げ、競技場の外でのチームの全体集合。輪の中で、主将も力強く声にした。
「俺たちが目指すのは日本一やし、リーグ戦を通じてまだまだ強くなれるから!」
頂点を目指す闘いは、いま始まったのだ。下を向いている暇などない。
リーグ開幕戦を控えた先週。週初めはどこか緩い雰囲気もあったが、ふと全体が引き締まったものに変化したという。その切り替えが出来るのならば。
部員たちに問う。一発目の練習となる火曜日の朝、君はどんな顔でグラウンドへ来る―。■(記事=朱紺番 坂口功将)