『WEB MAGAZINE 朱紺番』
春山悠太『4年目のオフロードパス』
投稿日時:2012/07/03(火) 02:13
文字通り『センター』に君臨している。フィールドの中段、チームの中核。CTB春山悠太(文4)が見せるパフォーマンスにせまった。
■春山悠太『4年目のオフロードパス』
時間にして、ほんのわずか。だが、その瞬間を目にしていると、ふと時が止まったかのような錯覚に陥る。バスケットボールのダンク、それも滞空時間の長いシュートを見ているときと同じ感覚。
一連の流れのなかで、〝それ〟は繰り出される。ボールが渡され、スピードに乗りDFライン突破を図る場面。そこに相手DFが低いタックルで仕留めにくる。捉えられ、足が止まる。体勢が崩れる-
その刹那、時は止まる。捕まったはずのボールキャリアーが、ときに上半身を反転させ、ときに片手でボールを操り、周囲とは違った時間軸にいるかのようなゆったりとした、かつスムーズな動作を持ってして、側に寄る仲間にパスを放つのだ。〝それ〟を『オフロードパス』と呼ぶ。今シーズン、大学ラグビー生活4年目を迎えたCTB春山がフィールドで繰り出す姿が目立つ。好機を生み出す、そのパスを。
「やろうと思ってやってない…いや、自分はスペースに走って、けど、そこで行き切ることが出来ないとき、無理な状態になってからの判断です。ある程度ゲインして、止められたらパス、その形」
春山は自らの『オフロードパス』について、そう話す。大仰な書き始めになったが、プレーする本人にとっては至ってシンプルなもの。突っ走って、止められたらパスに切り替える、そのスイッチ。しかし、そのプレーは以前の彼にはそれほど見られなかったように思える。春山の特徴といえば、パスにラン、コンタクトプレーも全てひっくるめてハイレベルな(グラフにするなら整形になる)ものだった。果たして、いまのパフォーマンスは2012年度の関学ラグビーの方針に即した、彼のニュースタイルなのか? 答えは違う。これは彼の進化した姿なのだ。
もとより、どれを取ってもレベルの高いプレーを見せてきた。それゆえに就くポジションはCTB。春山が話す、その役割とは。「SOが司令塔で、そこからWTB・FBへのつなぎ役がCTB。コンタクトプレーが必要で、ランもパスも全てのプレーが要求されるポジション」
12、13番と2人を揃えるチームのCTB陣で彼が着けるのは『12』番が多い。俗にインサイドセンターと言われるその方は、春山曰くゲームメイクの役も担っているという。「激しい状況のなかで、冷静になってゲームを作っていく。そこにやりがいが。あと、一番タックルにいけるのも」
かつて彼がU20日本代表に選ばれたとき、そして国際大会という大舞台での経験を得た2年生次のこと。当時の彼はU20日本代表が掲げた『4H=低さ、速さ、激しさ、そして走り勝つ』を取り込み、プレーに反映させていた。まもなくチームのレギュラーにもなるのだが、それでも春山はさらに上のレベルを目指すべく、こう話していた。
「(足りないのは)コンタクトの部分、それと人を動かすことスかね。『12』番というポジションから人を動かして。そこを磨いていきます」
相手との接点、周囲との連動。不足と実感していた2つのピースを埋めること、その結実として4年目のオフロードパスが生み出されたのである。
それはコンタクトプレーから始まる。ラン突破に襲い掛かってくる相手のタックル。そこで倒れない、たとえバランスが崩されようともパスを放つ為の体勢は一瞬だけでも整っている。
「去年から体幹を鍛えるコアトレーニングを太朗(吉原=人福4=)と継続してやって。それ自体はそれほど疲れたりはしないんスけど、練習後となると。それでも、どれだけしんどくてもやり続けてきた成果が出てきている。(1対1で)相手をずらしやすくもなっているし。フィットネスは落ちてないし、フィジカルの面でも…4年目で一番、身体は良い状態です」
体幹の強さが、オフロードパスのあの瞬間を作り出す。しかし、放つパスがつながらなければ、ラインブレイク失敗と見られてしまう。ボールがつながってこそ、成立するプレー。それにはパスを受ける側の周囲のサポートが不可欠である。
「ずっと去年もシーズン通して太朗と組んできて、信頼厚いし、僕のこと分かってくれてるんで助けてくれる。俊輝(水野=人福2=)もアタック力あるし、良いプレーしてるし」
CTBは春山を軸に、大半を吉原との成熟コンビが担い、一方で終盤は2年生・水野の台頭が著しかった。意思疎通の成せる技、オフロードを起点に加速する勢い。どちらもチームにとって大きなファクターとなった。
春山の進化の証は、この春シーズン存分に発揮されたように思える。だが、当人は納得など微塵も見せず、上半期を振り返った。
「満足できたのは…無いです。
バックスリーに、ものすごい3人がいて、加えて太朗も俊輝もアタック力あるなかで、あいつらを活かすことを重点的に、もっと意識すればプレーも変わってたと思う」
自らのドライブで火中に飛び込む、いや表現を借りるならば「行き切れない」が為にオフロードパスを投じるに至る場面。そこでサポートしてくれる仲間への感謝と信頼は感じている。次は自分が周囲を活かす番。自身が的確な判断力を持ってすれば、周囲をより上手く動かすことが出来ると考えている。
「突っ込んでオフロードの場面か、広くパスを振るか。縦と横のバランスが偏っている。全く出来てない…まだまだです。
そのときそのときの判断をして、ゲームメイクをしながら。BKラインがほんと揃っているので、それを動かす原動力、アクセントになりたい。選手を活かす存在になりたいです」
ゲーム中の激しさのなか、ほんの一瞬だけ冷静さが極限までプレーに昇華される。オフロードパス、それは春山が口にしたCTB『12』番の魅力がそのまま映し出されたワンプレーに思える。だからだろう、春山がこのパスを繰り出すシーンは違和感なく写る。けれども、これは一端に過ぎない。チームを勝利に導く、絶対的『センター』の。
周りを活かすプレー、これが春山悠太ステップアップの次なるピースである。■(記事=朱紺番 坂口功将)