「小原組~ALL OUT~」
インタビュー『信頼と献身で。』
投稿日時:2009/09/19(土) 23:58
常に選手たちを見つめる存在がいる。プレーヤーではなくともフィールドに立ち続け、いかなる状況になれども冷静に対処し、自身の役割を果たす。
いかなる思いで2人は関学ラグビー部を支えているのか―。
今年からコンディショニングコーチ(CC)に就任した辰見康剛氏。昨年までトレーナー(TR)から変わり、フルタイムで関学ラグビー部を見ることになった。
―関学に来られて今年で…
辰見氏(以下T)「3年目です」
―関学に来られたきっかけとは
T「BKコーチの河野(素明氏)さんが大阪ガスでプレーされてて、僕も大阪ガスでTRをしていた。河野さんがTRを探されていて、声がかかって、今にいたる。河野さんは恩人です」
―では、まずCCの役割について教えてください
T「心身ともに、部員たちがラグビーを120パーセントの状態で出来るようにサポートするのが仕事です」
―昨年はTRでした。何か変わった部分はありますか
T「いっさい。ただ名前が変わっただけで、やっていることは一緒です」
―フルタイムでチームを見られている。その点については
T「去年は週に何回か練習を抜けることがあって…今年は僕からは安心できますね。特にリハビリ組は細かくチェックできる。僕からも選手からも安心できているかなと思う」
―今年チームは体重増加をふくめた肉体改造に取り組みました。そのわけは
T「元々は大学選手権が終わって、新しいチームを作るときに監督、コーチ陣と話し合って。来年以降、体の小さい、ある意味『関学らしい』選手も入ってくる。そうしたときに、戦いうるための環境を作りあげようと。今年は大々的に。(部員たちには)けっこう厳しいと思うけど、スタートはしっかりやらないと、で」
―かなりの体重増を部員たちに指示された
T「頑張ってほしい、という希望をこめてね」
―設定された数字は
T「体重をクリアしてくれたら、国立のピッチに立ったときに遜色なく戦えるなっていう」
―春は体に慣れず走れない場面も。この夏はそこからのフィットネスの課題克服を目指した走りこみをしました。成長を感じたられたり…?
T「(FWでいえば)早稲田との合同練で、実際関学の方が大きくて。たぶん関学の子も、相手をさほど大きいと感じなかったと思う。それは自信につながると。良かったです」
―上半期はフィットネス不足が騒がれた。けれども、それは想定の範囲内だった
T「想定内。騒ぐなよ、と。逆に言えば、練習中に歩かない、とか。そうしたことをきちんとやったうえで、フィットネスをどうしようと意識してほしかった。そこが今年の反省点かな」
―〝賭け〟という様にも取られていました
T「周りから見たら、賭けと取られていたかもしれないけど、方法が違っただけ。斬新なことをやっているつもりはない。
関学の選手は真面目で、基本的に言われたトレーニングはやってくれる。予定通り強くすることも出来るし、調整もしやすい。そこは僕との信頼関係が」
―試合後のウェイトや練習中に辰見さんご自身が『ALL OUTしよう!』と声を上げることがあります。やはり意識されて
T「4回生が決めた言葉。思いを伝えるという意味も込めて。言い過ぎると軽くなってしまうから、タイミング読んで言うようにしています」
―試合後などしんどい時に、『全力を出す』ことに意味がある
T「タイミングは関係なくフィットネスとかトレーニングをすると決まった時点で、自分の限界に挑戦することが大事。そこで全力を出せないやつは、それ以上は望めないと。下の学年の子になればなるほど、その意識が薄くなっているから、頑張ってほしいなと」
―今でもプロの方を見られているとか。学生と関わる際、プロと変わって学生だけに感じる違いはありますか
T「関学の方が1から10まで言わないといけないレベルは大きいかな。例えば、怪我した子が、こっちから言わないと、メニューに取り組まないとか」
―その点が関学に望むことになりますか
T「そう。僕が言わなくても、大丈夫ですよ、っていうチームになってくれれば」
―チームは学生TRも増えました
T「みんな熱心で。技術は言うことがないので、一年間通してTRとしての演じ方を。例えば、夏なんかはTRもきついとは思うけど、選手の前では見せないようにとか。そうした演じ方を心がけてもらいたいなと思ってて。
学生たちは愛ちゃんや大さん(大崎怜)が面倒見てくれてるので。メニューが充実してるのも、彼らのおかげです。彼らのそのへんのサポートが力になってます」
―CCの立場として、常に考えていること、ポリシーなどがあれば聞かせて下さい
T「それが本当に選手のためかどうか。そのときそのときの気持ちに流されず、何ヶ月後、何年後に振り返ったときに、選手のためになってたかどうかを考えて行動している」
―選手たちとのコミュニケーションは大切に
T「それがないとね。TRは、(部員から)TRだからこそ言えることがシーズンになったら出てくるポジション。『辰見さんだけに話せることが…』のその一言のために。その一言が出てこないようでは、CCとして失格。言いやすいような状況を作っておこうと。部員と監督、コーチ陣の橋渡しをすることもあるし、客観的な面を持ちながらやらないとなと」
―今年のチームをご覧になられて、辰見さんの目に映る今年の関学ラグビーの魅力とは
T「まだ1年を通して100パーセントの力を見てない。そのとき、どうなるのかなと。延びしろに期待できるのが魅力かな」
―そのときが、リーグ戦になれば…
T「と、期待してる」
―では最後に選手たちにメッセージをお願いします
T「あらためて…何があるやろう…。1年間終わったときに、チームの目標、個人の目標を達成できたと思えるように、1日1日充実したものにしてください」
選手にとっては監督、コーチ陣よりも近い立場で接することが出来る指導者。CCとの信頼感が身を結んだとき、それは関学ラグビー部が栄光を掴んだ瞬間になるに違いない。
その一方で、今年TR代表としてチームに貢献することになったのが西嶋愛(商4)だ。インタビュー当日も、休む間なくテントの下で奔走。常に選手のケアに励む。
―練習前が忙しそう
西嶋(以下N)「いつも。TRはいろんな仕事あるけど、送り出すのが仕事。私はメディカルやから選手とのコミュニケーションも取りやすいし、送り出すことが重要になってくる」
―TRも仕事がたくさんある。割り振り等、詳しく仕事内容を
N「去年の内藤さんが初代TRで、私は3年前からで、やっとTRの仕事が確立し始めた時期。専門的にしたいっていう希望で、メディカル班とフィジカル班に分けた。コンディショニングしたり、テーピングしたり、怪我の対処したりがメディカル。アップとかフィットネス、体作る方がフィジカルで。それぞれ同じような知識は持ってんねんけど、(役割ごとに)特化した集団にしたくて。今年からの取り組み」
―そんななかTR代表として今シーズンをスタートさせた
N「最初は逃げ腰な部分があって、下のTRに気を遣っている部分があった。下のやりやすいように、とかそういうことばかり考えてたんやけど…。リーグを目前にして思うことは、自分が前に出てチームのために、選手のために一生懸命やって、それを後輩が見て感じてくれることがあったらなと。今はスタートしたときと違う思いかな」
―以前はマネージャー(MG)やった。TRになったのは
N「元はMGもTRの仕事してて。チームが強くなってるのに、スタッフのシステムがついてきてなかった。スタッフがしっかりしているチームは、強いから。けっこう話し合いして決めたんよ。チームのために、これから良くなっていったらいいな、と思ってTRになった」
―勉強もしたり?
N「むっちゃ勉強した。辰見さんに学ぼうとしたら、専門的な知識欲しいなと思って。身体のこと徹底的に勉強した」
―いまは
N「後輩に教えられるように、常に勉強して。4回生の引退するまでは、勉強しよう思ってる」
―TRとして辰見さんの存在は大きい?
N「…悔しかった。1年生のときから見てた選手が、TRになった私よりも辰見さんの方に行ってしまうことが。近づきたいとは思ってたし…でも悔しい気持ちは今でも。だからこそ自分の120パーセントでテーピング巻いてあげようと思ってたり」
―そして以前と比べて学生TRも増えた
N「仕事が確立したし、ラグビー部が強くなったのもあると思う。代表やから責任感増えて当たり前やし。毎日プレッシャーに苛まれてる。後輩たちとは、一緒にやっていこうやって感じ。出来んところは助けてもらって、TRを作りあげていこうって」
―練習も試合も関係なく、グラウンドの選手のそばにいる
N「苦やとは思わない、むしろおりたい。念じながら見てる、絶対に怪我しんといてって。どれだけ多くの選手とコミュニケーション取れるかを考えてるから、担当している選手はもちろん、極力一緒にいたい」
―TRとして大変に思うことは
N「選手の信頼を得ること。どうやって信頼を得ようかなって。いまはチームが勝つためにどこまで貢献できるかを考えてる。あとは『誰も怪我せんように!』って」
―逆に、TRとして良かったと思えること、思えた瞬間があれば
N「悲しいことも嬉しいことも共感し合えるとこ。毎日の変化が見れることもかな。
自分がその日巻いたテーピングが良くて『走れたわぁ』『不安なく出れた』って言われたら、やってて良かったと思えるし、逆にありがとうって(笑)」
―最後に選手たちにメッセージを
N「えらそうなこと言えませんけど…みんなのこと信じてるんで、信じてるからこそ最高のサポートしたいと思ってるから、どうぞ信じてついて来て下さい」
インタビュー中も、インカムから入電があり、その場を離れ仕事に向かう場面も。休まる暇はない。けれども、それはチームに貢献したい一心と、飽くなき向上心あってこそのもの。それらが彼女をそうさせている。
選手たちを全力でサポートする彼らの活躍があるから―今日も朱紺の闘士たちはALL-OUTできるのだ。
■辰見康剛/CC/トレーナーとしてチームを見守り、部員たちからの信頼も厚い。
■西嶋愛/商学部4年生/兵庫県立兵庫高校/TR/今年度、ラグビー部TR代表。縁の下の力持ちを体現するサポートでチームを支える。