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「緑川組~MOVE~」

『7分11秒の抗い』

投稿日時:2010/12/12(日) 02:40

 もはや勝敗はゆるがないとしても。男たちは前に突き進んだ。それは最後に見せた意地。関西リーグ最終戦、ノーサイドの笛が鳴り響くまで、ピッチには長く重苦しい時間が流れた。




 ゲームが始まれば、終わりがくる。そして勝者と敗者に分けられる。そのスポーツ界の摂理は変わることがない。関西リーグ最終戦、対天理大学。3年連続で同一カードが優勝決定戦となった。どちらにとっても優勝には「勝つしかない」試合。12月4日、近鉄花園ラグビー場で行なわれた『3 TIMES SHOWDOWN=3度目の最終決戦』。その結末は、緑川組にとって望まないものになった。
 

 そこにあったのは相手との明らかな差。個々の力、プレーレベル、組織力。あらゆる点で天理大が上をいっていた。強力CTBを中心にした展開力に目がいってしまいがちだが、ゲームが動いた先制点はゴールライン直前のスクラムから形成されたモールの押し込みだった。緑川組にとって成長の証でもあったFWの真っ向勝負で屈する。続く相手ラインアウトの場面では、一気に外へ展開されると天理大の両CTBが関学ディフェンスをぶち破る。試合開始から喫した連続トライ。FWとBKそれぞれが奪ったものであり、それはすなわち、どの武器を持ってして天理大が関学よりも優位にあることを意味していた。


 それでも攻め手をゆるめるわけにはいかない。欲しいのは黒星ではなく白星。襲いかかる黒衣の波状攻撃に抵抗し、攻める。序々に自分たちのプレーを出していく。


 後半11分、マイボールスクラムからナンバー8小原渉(人3)がボールを持ち出し待望のトライを挙げる。32分には主将・緑川昌樹(商4)が意地の一撃を見舞う。今年のチームを代表するトライゲッターが見せ場を作った。


 だが、形勢逆転には至らず。天理大のオフェンスになすすべなく、失点を重ねる。時計の針が40分に迫り、アナウンスが入った。「ロスタイムは2分です」。


 それまでの80分間を通じて試合は黒衣が支配していた。スコアは14-43。ロースコアでタイトなゲーム展開に持ち込めばこそ、勝機はあったが現実は違った。


 そのなかで後半15分に投入されたSH湯浅航平(人1)は振り返る。「ディフェンスが固くて、ゲイン取らせてもらえなかった。エリア(取り)も相手の方が上。FWにしんどい思いさせた」。交代策で同時に投入されたのはSO渕本伸二郎(社4)。キックから陣地を取って、なおかつアタックで弾みをつけたい狙いがあったのだろう。しかしハーフライン上空で楕円球が飛び交ったキック合戦でも、相手の方が上手。自陣深くまで蹴りこまれた。オフェンスシブなメンバー交代も、黒衣の波にのまれた。


 やがてロスタイムに突入。時間は消費され、天理大にとってはノーサイドの笛を待つのみとなった。43分、ここでボールを持ったのは関学。時間的にも、いつラストプレーになってもおかしくない状況。試合終了の条件は2つにしぼられた。このまま継続しインゴールまで突き進むか、相手にボールを奪われるか。


 もはや勝敗は決している。たとえゴールにたどりついたとしても、それは揺るがない。けれども朱紺の闘士たちはボールを運んだ。いずれ直面する敗北の現実に抗うかのように。


 長く重苦しい時間が流れた。ペナルティやパスの乱れ、ひとつのミスも許されない。ワンプレーを丁寧にボールをつないでいく。途中、笛が鳴ったが、それは相手の反則。ロスタイムは継続される。自陣から始まった最後の攻撃は、陣地を挽回し、ハーフラインに到達しようとしていた。そして渕本が外にいた小原にパスを振る。その瞬間、楕円球は黒衣のジャージの手元に吸い込まれた。



Kwangaku sports
 

 流れる時間のなかで、渕本は思い出していた。もう4年前のこと、いまと同じ場所で同じような状況でプレーしていたことを。2007年1月7日、全国高校ラグビー大会決勝。その試合は東海大仰星高校が19-0のリードでノーサイドを迎えようとしていた。


 「イメージは1本!取ってやろう」


 ロスタイムに差しかかり、渕本が所属していた対する東福岡高校はボールを持った。たとえトライを奪っても、勝負の行方は左右されない。それでも、前に進んだ。そうしてトライを奪い、相手の完封優勝を阻止。意地を見せつけた。


 「高校の決勝と一緒。思い出しましたね」


 4年前のシチュエーションが脳裏によみがえりながら、その4年後の花園、同じくロスタイムで渕本は闘っていた。湯浅とともに走りまわり、右へ左へボールを振った。


 「最後バテバテで。パスを放るのに必死で。そして、渉に」


 投じた楕円球が相手に渡った瞬間、渕本はすべてを理解したのだろう。もはや後ろには誰もいない、なぜならチーム全員が身を捨てて攻めていたから。完璧な形でボールを奪われた、もう、攻めることなどできない。


 ターンオーバーした天理大の選手が独走しゴールエリアまで駆け抜ける。その姿に見向きもせず、渕本はその場で崩れ落ちた。微動だにせず、フィールドにうつぶせた。


 コンバージョンキックが成功し、ノーサイドの笛が鳴る。電光掲示板の時計は『47:11』とカウントしたところで止まった。


 「長かった」。渕本を含め、誰もが口を揃える。7分以上ものロスタイム。


 「相手もしんどいはずだったんスけど。最後まで、天理大は仕上げてきた」(湯浅)


 トライを奪って終わりたかった。だが思いは叶わず、逆に相手が最高の形で締めくくる。報われない、それでも戦うしかなった。


 「最後まで、あきらめない。長かったスけどね。やらなアカン(場面)」と緑川は振り返った。80分の戦いのすえの、7分間。それは、あきらめない男たちが持ちうる闘志をふりしぼって、関西王者に抵抗した時間だった。

(記事=朱紺番 坂口功将/写真=関西学院大学体育会学生本部編集部『関学スポーツ』)