「緑川組~MOVE~」
『自分超え宣言。』
投稿日時:2010/11/28(日) 01:25
4年間が過ぎてなお、男は戦い続ける道を選んだ。そうして臨んだシーズンで、また一つプレーレベルを上げようとしている。CTB田中健太(商4)が挑むラストシーズン。

昨年暮れに小原組の戦いが終わり、季節は変わった。2010年春、主将にHO緑川昌樹(商4)が就き、スローガン『MOVE』を掲げ、新しいチームは歩みを始めた。そこにただひとり、昨年から残留を果たしたラガーマンがいた。田中健太、ポジションはCTB。小原組の中心選手であり、これまでの関西2連覇のピッチを知る男である。その彼が今シーズンも関学ラグビー部に籍を置いた。5年目の理由を聞けば、苦笑いしながら「学業」と答えるが、そのことが楕円球を追い続けるきっかけでもあった。
彼のなかでは、早々からラグビーを続けるという決心はあった。それは大学を卒業して、その先の社会人というカテゴリーでプレーする思いから。「将来続けるから。そのためにはプレーを続けなあかん。必然的に」。学業の事情で5年目突入が決まった以上、ラグビーの選択肢は言うまでもなかった。
幹部学年として臨んだ昨年はBKリーダーに就任し、チームをけん引した。その1年間は常にプレッシャーが付きまとっていたという。そこから一転して、今シーズンはいわば自由の身に。解放感から、プレーに集中できる状態になった。ならばと、この1年間はレベルアップに費やすことにした。
「去年は相手に当たっていったり、相手をとばしたりして。今年はわざとそういうプレーをやめて、ずらしてスペースに走る。それを課題に1年ずっとやっている。1対1の練習とか、セットの練習とかやっているし」
ラガーマン・田中健太のプレーの幅は確実に広がっていた。
これまでのチームの中心選手が、さらなる成長を遂げている。となると、出場機会は設けられる。春先からトップチームに名を連ね、頼れる存在として周囲の期待を集めた。「必要とされているなら、やるだけ」。
レギュラー陣を含め、一気に若返ったチーム状況のなかで後輩たちには戦う姿勢を説く。「とりあえず気持ちでやれ、と。ディフェンスも抜かれたら、しゃあないやん。全部止められるわけないし。次、止めたら。
オフェンスは、好きなように自由にやってくれ、とか」
経験の豊富さが、言葉に重みを持たせる。一方でプレー面でチームから求められるものは。
「インパクト、なんかな。あと、強さ」
敵がぶつかってこようとも跳ね返す強さ、そこで生じる衝撃は流れをこちらに引き寄せる。いまはバリバリのプレーヤーを務める同期LO山本有輝(文4)も持ち味とする『インパクトプレー』。それは小原組闘士2人に共通する武器。劣勢を覆すその武器は、ゲームの途中でも重宝される。上半期の戦いを振り返るなかで、主務・橋本憲典(商4)はこう口にしたことがある。「怖くないですか!? 相手にとっては…。健太さんが途中から出てきたら」。
やがてリーグ戦が始まり、山本とともに田中はリザーブとしてレギュラー入りを果たした。だが、そこではスタメン起用への思いをにじませた。
「途中から入るのが苦手。一発目からガンガンいきたい」
むろん途中投入でもピッチに立てば「やるだけ!」と闘志をむきだしにする。けれども、『インパクトプレー』をゲーム開始から発揮していきたいのが本音。そうして戦っていくなかで、リーグ第5戦にスタメンに選出された。
「全然やりやすいね!自分らしさを出せるかな、と」
より強さと衝撃を増したプレーは、チームを勝利に導く一撃となって表れる。
11月14日。初スタメンを飾った摂南大戦の後半13分、相手ディフェンスの合間を縫うようにゲインしたFB小樋山樹(人3)のすぐ後ろを追走しボールを受ける。「ごっつあんトライ」とゴールを割った。
勢いは止まらない。続く20日の同志社大戦ではステップワークを駆使しインゴールへ駆け抜け追加点をゲットする。「前から相性がいい。同志社戦のときは、〝何か〟持ってる」。昨シーズンから掴んだ『対紺グレ』時に発動する、好プレーの波。最終戦に先駆け、重要な試合となった同志社戦でもトライとなって具現化した。
奇しくも、田中がスタメンを飾った2試合には、小原組の面々が多く応援に駆けつけた。「みんなの声がむっちゃ聞こえて。がんばらなって。同志社戦のときは『今日のMVPやな』って言われたり」。そう話すとき笑顔をはじけさせる。〝何か〟―それは〝仲間〟かもしれない。
Kwangaku sports
関学ラグビー部がこれまでに刻んだ関西2連覇の栄光。その瞬間を2回とも、田中はグラウンドで味わっている。そしていま、3度目が訪れようとしている。12月4日、天理大との優勝をかけた直接対決。「やるしかない。後悔せんように」。大一番のなかで戦うイメージはもう彼のなかに出来上がっている。
「外国人を一発で止めて、2トライ」
対峙するであろうCTBトニシオ・バイフ(日本航空石川)を封じ込める。かたや、攻撃面では2発。それは、これまで1試合につき1トライしか取れてないことに対する〝自分超え〟宣言でもある。
シーズンが深まるにつれ存在感をより増してきたベテランCTBの進化が止まることは、しばらく無さそうだ。■
(記事=朱紺番 坂口功将)