大きくする 標準 小さくする

「緑川組~MOVE~」

『長居の地で、彼らは。』

投稿日時:2010/11/20(土) 03:06

 そこは決してラグビー界において有名でも、ましてや崇敬されているフィールドでもない。けれどもそこには朱紺の記憶が刻まれている。ここ数年の関学ラグビー部躍進の軌跡を語るには外せない場所。長居第2陸上競技場を介して、激闘の記憶がよみがえる




 楕円球が飛び交い、肉体がぶつかり合う。そうしてグラウンドに刻まれるは、選手たちのプレーや思い、感情。


 10月14日、長居第2陸上競技場(以下、長居第2)に懐かしい顔ぶれが揃った。それは小原組の面々。そう、関西2連覇の中心を担った世代である。彼らはスタンドに陣取り、後輩たちに声援を送っている。と同時にふと口にする。


 「ここ来たら、小野さんのトライ思いだすわぁ」

 「あんときの室屋さんのタックル強烈やった!」


 スタジアムに足を運び、ピッチを俯瞰すれば、かつて目にした場面がよみがえる。長居第2に刻まれた記憶とは。

 

◆2007年11月25日 対近大(21-19)


 その響きがもはや懐かしいものになっているかもしれない。大学選手権への出場のための最後の切符、関西第5代表。関西大学Aリーグで5位(1~4位は自動的に出場)になると、選手権前にその『関西第5代表』をかけて他の地区の代表校と決定戦を行なうのだ。


 3年前のリーグ戦、苦戦を強いられていた関学は関西5位になれるかどうかの瀬戸際にいた。そしてそれは最終戦の相手・近大にとっても同じく。2007年11月25日の関学近大は、勝った方が5位になるという『関西第5代表決定戦出場校決定戦』でもあった。


 かくして始まった試合は拮抗そのもの。近大の先制点で始まるも、関学は14分に取り返し同点にする。前半7-7。試合そのものは相手ペースで進み、後半には近大が連続トライをあげる。ここで選手たちはプレーを転換。ボールを展開するラグビーを実行する。後半27分にはPR小野貴弘(社卒)がトライを上げ、流れを一気に引き寄せる。このとき、スコアは14-19。それでも、その5点が遠い。やがて時計の針は40分を過ぎ、ロスタイムに突入した。


 決定打を欠いたまま、残すは数分。いつホイッスルが鳴ってもおかしくない状況だった。そして攻撃の最中、ボールを持っていたFL有馬克全(卒)が相手タックルを受ける。誰もが笛を覚悟した。だが


 楕円球はつながれる。PR小野がパスを受けると、彼の目の前に広がっていたのは誰も邪魔することのないインゴールへの一本道。「ゴールしか見えなかった」。ぽっかりと空いたスペースを猛然と駆け上がる。ボールを託した有馬が叫ぶ、小野が必死の形相で飛び込む。会場に鳴り響いたのは同点トライをつげるホイッスルだった。


 「(トライの瞬間は)まっしろ。おいしいとこ持っていった」


 興奮冷めやらぬうちに、直後にコンバージョンキックが決まり、今度こそノーサイドの笛が鳴る。まさに、劇的勝利。この白星で関学は関西5位を確定させた。


 時同じくして、長居第2のすぐ隣の長居スタジアムではアメリカンフットボール部がリーグ最終戦で宿敵・立命大と戦っていた。そこではファイターズが宿敵を下し、見事関西制覇を果たしている。スタジアムの規模、観客数がまるで違う。ましてや隣は関西タイトル、はたまた長居第2では5位をめぐっての戦い。そういう時代であったのだ、たった3年前までは。かつてシーズンが始まれば、朱紺の闘士たちは星取表で黒星を先行させていた。それだけにリーグ戦の締めくくりとしての劇的勝利の味は格別だった。


 たとえ『関西第5代表決定戦出場校決定戦』であったとしても。最後まであきらめない姿勢、執念がもたらす勝利、を見る者の脳裏に焼き付けた試合だった。



Kwangaku sports
 

◆2008年11月9日 対摂南大(82-5)

 

 時代は変わる。もはや見据えているのは関西の頂のみ。1年でここまで戦いが変わるとは誰も想像しなかっただろう。選手たちを除いて


 2008年は、関学ラグビー部にとって特別な1年になった。創部80周年のメモリアルイヤーに呼応するように、むかえたリーグ戦では快進撃を遂げる。開幕戦で同志社大から勝利を奪う(19-15)と、第2戦で京産大を完封(66-0)、続く大体大戦も快勝(33-17)。前年まで『入れ替え戦以上、選手権出場圏外』だった朱紺のジャージが一躍、優勝候補筆頭に名乗り出ていた。


 だが、勝ち続ける難しさを知ることとなる。3連勝した後の立命大戦。やはり部員たちが相性の悪さを唱えるライバルに惜敗を喫する(21-22)。勢いをさえぎられる黒星をつけられ、関学にとって続く第5戦が今後の結果を左右するターニングポイントとなった。「もう負けられない」。


 2008年11月9日、寒風が吹きすさぶどんよりとした天気のなかで、長居第2のピッチに朱紺の闘士たちは姿を現した。結論から言えば、彼らに前節敗戦のショックなど皆無だった。むしろモットーであるチャレンジ・スピリットは再燃し、関西制覇への思いをより強いものにしていた。その闘志はプレーとなって具現化される。


 その中心にいたのは、開幕戦で負傷して以来4戦ぶりの先発となった主将CTB室屋雅史(社卒)。ゆくゆくは関西ナンバーワン・タックラーと称される闘将が、衝撃的プレーを見せる。前半27分、相手の進撃を阻む強烈タックル。その際の衝撃音が会場に響き渡った。それは形容のしようがない、効果音。肉体と肉体がぶつかりあえば、あのような音が鳴るのか。いや室屋のタックルならでは、か。


 「出るからには相手を止めて、流れを作っていきたい」と、闘将が見舞った必殺の一撃。そうして卒倒する相手を尻目に、こぼれたボールをFL西川征克(文卒)が拾い独走トライ。このワンプレーが呼び水となり関学は攻撃力を爆発させる。トライゲッターたちが総出で次々とゴールを割る。守っては被トライは1本。82-5の圧勝をおさめた。


 第5戦で欲しかったのは白星はもちろん、今後に弾みがつく〝何か〟。室屋雅史という存在の復帰はチームに安心感を与えただろう。彼のプレーに、関学の象徴である「前に出るタックル」を見ただろう。そして、そこから展開する自分たちの目指すラグビーを再認識しただろう。摂南大戦でいくつものファクターが折り重なって、弾みがついた。


 摂南大戦で圧倒的勝利をおさめた関学は、ここから再び関西の頂へ歩を進めていく。やがて51年ぶりの関西制覇を成し遂げた。


 常に焦点を当ててきた実力校から勝利した開幕戦、勝ち続けることの難しさを思い知った第4戦。最終戦を前に、当時のレギュラーたちはその2試合を印象的なゲームとして挙げた。だが、一つの白星に過ぎなかったかもしれないが、長居第2での圧勝劇はその後の栄光を確信させるものだった。



Kwangaku sports
 

 OBたちの口にした一言から、ふと回想に浸っているうちに2010年関学ラグビー部・緑川組がピッチに繰り出した。


 第5戦、長居第2、相手は摂南大。2年前とすべてのシチュエーションが同じ。


 そんなこともお構いなしと言わんばかりに、ただ勝利を目指して朱紺の闘士たちは『MOVE』する。FW、BKが一体となってゲームを支配する。FW陣がドライビングモールで敵陣を落とせば、BK陣もCTBを中心に個人技ありパスワークありでトライを決める。守っても、主将・緑川昌樹(商4)がタックルを見舞ってはすぐさま体を起こし、次のボールキャリアーにぶつかっていく。自陣ゴールライン直前で見せた主将の3連続タックルにOBたちも感嘆の声を上げた。
 

 また駆けつけた同級生の声援に応えるように、FL山本有輝(文4)も自慢のタックルを連発。プレー中に右耳を負傷し包帯を巻いてピッチに立ったが、試合終了間際には、それこそ室屋の強烈タックルを彷彿とさせる、こん身の一撃をくらわせスタンドを沸かせた。

 

 これは長居第2に限った話ではない。聖地・花園はもちろんであるし、ラガーマンたちが闘った戦場のそれぞれにドラマがある。


 ただ、ここ数年に巻き起こった、関学ラグビー部の激動の歴史を語るうえで、長居第2での名場面は必ずや思い出されることだろう。


 この場所で緑川組が新たに刻んだ1勝は、栄光への軌跡に記されるものとなりうるか。リーグ戦はいよいよ佳境をむかえる。

(記事=朱紺番 坂口功将/写真=関西学院大学体育会編集部『関学スポーツ』)