「緑川組~MOVE~」
『欲しいのは10?15?』
投稿日時:2010/11/08(月) 20:02
◆連載/闘士たちのMOVE 第4回「欲しいのは10?15?」
ライバル関係。そう言ってしまうのは、見る者が当てはめた都合の良い相関図。実のところ、互いを意に介することはそれほどない。けれども、欲するものが同じものならば、必然として2人の思いは交錯する。それはアスリートが持って然るべきエゴか―。
10月31日、大体大戦。後半が始まってまもなく、チームはメンバー交代策を巧みに講じた。始まりはSH芦田一顕(人3)のシン・ビン(一時的退場)で、中盤がぽっかりと空く形に。その穴を埋めたのは、FBとして今季初スタメンを飾った小樋山樹(人3)だった。それまで位置していた最後尾から中盤へ。ものの3分間、FWからBKの中継役を行なった。そして後半13分にリザーブのSH湯浅航平(人1)がSO新里涼(社3)と入れ替わり投入される。湯浅はSHのポジションに。小樋山はまだ中盤、ときおり後方にも下がるが大体はSOの位置にいる。それから8分後、芦田に変わり渕本伸二郎(社4)がピッチに入る。渕本がSOに入り、小樋山はFBとして最後尾に戻った。
約10分間で見られた選手たちのポジションチェンジ。そこには試合とは別の、10番と15番をめぐる水面下のバトルが少なからずあったように思える。本編の主人公は、小樋山と渕本の2人だ。
「出られるなら、なんでもいい」。ポジションへのこだわりを問えば、そう一蹴されるに違いない。小樋山のレギュラーへの思いは強い。そのぶん、ポジションがどうと言うタイプではない。
「どちらもやり慣れている。問題ない」。10番と15番のどちらに就こうとも、プレーできる自信を持っている。
高校時代はSOで、大学1年生次の合宿からFBにコンバートされた。2年生の春にSOを担ったが、関西2連覇におけるFBとしての立役者のイメージがある。しかし、3年目の今シーズンは厳しいものになった。春先こそFBの定位置に座ったかに見えたが、やがて渕本がFBに就く。ならばSOはというと、ケガによる長期離脱から完全復帰した新里がディフェンスと堅実なプレーでレギュラーを掴んでいた。しばらくはBチームで過ごす日々が続き、リーグ戦が開幕しても状況は変わらなかった。
「今までずっと1年から出させてもらってて。高校のときも1年から出られてて。こういうのは初めて」。ポジション争いに敗れ、挫折に直面していた。
小樋山は自らの武器を強みに、一方で課題とむきあい、プレーを高めていく選手だ。精度の高いキックはSO、FBを兼任できうる最大の武器。それに加えてポジション柄、体を張ることができるフィジカルの強さが求められるが、彼の課題はそこだった。それを克服するために、今春にはCTBにも挑戦しタックルを磨いた。レベルアップのためには一切の妥協がない。
それでも選ばれずにいた、レギュラーのポジション。「正直、くさっていた」と心が折れていた。だが、光は差す。リーグ第4戦、エリアマネージメントの向上を図ったチームは、小樋山をFBとしてスタメンに抜擢したのだ。
「めっちゃ嬉しかった。今までとは違う気持ちで。慢心みたいな…1年から出てたから。そこまでAチームの重みを感じてなかった。
Aチームが一番上。みんなそこを目指している。幸せやなって思った」。
小樋山はトップチームでプレーすることの喜びを噛みしめていた。
スタメンの席は15個。誰かが一つの席に新たに座れば、同時にそこにいたものが追い出される形になる。スタメン争いとはそういうもの。大体大戦で小樋山がFBに就き、リザーブとなったのは渕本だった。「悔しいっス」。彼と同じ状況になって、そう思わないアスリートはいない。
ポジションへのこだわりでいえば、小樋山とうって変わって渕本は相当に強い。「正直SOの方が好き」が本音。その後に付け加える。「出れるなら、どこでも」。
小学生時代から就くポジションで、大学進学後もSOとして関西2連覇に貢献した。昨年からFBも兼任するようになり、今シーズンは15番に座った。
「SOは視野が大事。SOの経験があるから、FBでも。
FBは全部見える。自分以外の残り29人全部が。状況判断しないとダメ」。10番で培った判断能力は場所を変えてもなお発揮されている。
渕本の魅力は何よりもその攻撃性だ。SOにおいての特性か、15番で出場しようとも変わることはない。いわば『SO的FB』。チームとしてもダブルスタンドで臨む場面もある。ディフェンス面と堅実さに定評ある新里と、対照的に攻撃的でクセ者の渕本。2枚のSOの同時起用、それを狙ったうえでの、渕本のFBへの転換があったように今では思える。
しかし第4戦で後輩FBに席を譲ることになった。自身にとって公式戦でのベンチスタートは2年生次のリーグ第2戦(対京産大)以来。いつもとは異なる緊張感とともに、「はよ出たいな」とピッチへの思いを募らせていた。そして後半22分に投入される。ポジションは待望の、SOだった。
そのとき試合は2トライ差で関学がリード。「接戦だったんで、ぼくが入ることで得点を期待されてた。攻めどころ、かな」。普段からアタックが大好きな男が、大好きなポジションで躍動する。まさしく、水を得た魚のごとし。それからはBKが両WTBを中心にプレーを展開し、追加点を重ねた。
試合後、SOのポジションについて聞くと「楽しいっス」と渕本は白い歯をのぞかせた。
Kwangaku sports
スタメンの座をめぐって交錯する2人の思い。共通するは「出れるなら、どこでも」という台詞。それでも互いの心中は異なる。思惑や理想、ときにエゴが絡む。それはアスリートならば必ず持っているもの。むしろ、それなくして戦えるはずもない。他校との対戦と同時に繰り広げられる、チーム内でのレギュラー争いというバトルには。
欲するものが同じである以上、必然としてライバルになる。就くのは10番、それとも15番? これからの戦いで鍵を握るのは相手より抜き出た武器か、思いの強さか。それとも、もうひとりのライバル、新里の存在か。
さてリーグ戦後半、先発オーダーに記されるのは果たして。■
(記事=朱紺番 坂口功将)