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「緑川組~MOVE~」

『掴んだナンバー』

投稿日時:2010/10/31(日) 21:31

◆連載/闘士たちのMOVE 第3回「掴んだナンバー」


 それは選ばれしものの証だ。100人を超える部員から朱紺のジャージを公式戦で着ることができるのは22人。そこから、試合開始の時点でピッチに立つのは15人。10月24日の近大戦、初のスタメンに男たちは選ばれた。




 試合前日のミーティング。Aチーム全員にジャージを手渡ししたのち、萩井HCは開口一番に口にした。「テユと竹内、ビーバー、太朗、先発おめでとう。ぜひ自信を持ってやってください」。

 

『1』=PRチャン・テユ


 「昨日の夜、寝れなかったっス」。PRチャン・テユ(経3)は試合前夜のことを告白した。Aチームとして昨シーズンも公式戦に出場したことがある。けれども、それはリザーブとしての話。近大戦が初のスタメンだった。「力が入って。頑張ろうと思いました。始めから気合入れて気持ちの入り方が全然違うかった」。


 リザーブとして試合途中からグラウンドにむかう際には、「スタメンよりも活躍しよう」と気合を入れて臨んでいる。この日は、それとは別の、いやそれ以上の気持ちがあった。


 試合ではポジション柄、スクラムで力を出すことを念頭に置いてプレー。前半にはゴール前でスクラムを押し上げトライをゲットした(認定トライ)。


 「仕事はスクラム、モール、セットプレー。スクラムを意識して。認定トライ取れたときは嬉しかった」


 それでもFW戦で相手を圧倒するまでには至らず。80分間の出場の末に、チームの初黒星をピッチ上でむかえた。


 「前列のやつが引っ張って、勝たないといけない。これが最後じゃないんで、次、勝とうと思いました。

 (次の試合も?)出ようと思ったらセットプレー強くならないとダメ。体強くして、スクラム意識して」


 チャンは自らの強みを発揮していく。
 


『4』=LO竹内仁一


 ラストシーズンに掴んだ、初先発だった。LO竹内仁一(経4)は公式戦で初めて、『4』番の朱紺ジャージに袖を通した。


 「Bチームでスタメンやったんで、いつもどおりやろうという感じで」。


 試合開始のホイッスルと同時の、ゲームへの〝入り方〟は重々知っている。それでも、ファーストジャージの1桁ナンバーを背負っての出場は「緊張しました」。


 竹内のプレースタイルはクセ者。普段から「裏をかいて。人が考えなさそうな、人とは違うプレーをしようと」。初スタメンとなった近大戦では、そうしたプレーを見せるチャンスに恵まれずに終わったが、アピールの場面はそれだけでない。


 「春からこだわってきたスクラムでプレッシャー与えられたかなと。(今日の自身のプレーは)スクラムしかなかったんで。スクラムではアピールできた」。


 しかし自身のアピールとは別に、チームの敗北に悔しさをにじませた。それも最上級生としての意識あってのものか。「メンバーが変わって、試合に負けたら、4回生としても情けない。絶対勝ちたい気持ちがありました。

 花園という滅多に立てる場所じゃなくて負けたことは、いまも悔いに残っている」。試合後、着替えも済み一段落ついたときに改めて悔しさを口にした。


 ラストシーズンにかける思い。「自分が出て、関西3連覇に貢献したい」。上級生の意地が見られるか。

 

『5』=LO山本有輝


 「オレ、スタメンやねん」。顔をほころばせながら、試合の数日前に口にした。意外にも、5年目で初めてのスタメン『5番・LO』だった。


 インパクトプレーヤーは健在。それはスタメンでもリザーブでも関係ない。「やること一緒やし。元気出すこと、タックルすること」。


 ただ違うとすれば、気持ちの入り方。途中投入策で期待されるときには、それまでの試合の流れを感じとりながら気持ちを作っている。「こんなことをしたら、まわりも上がるかな」。そしてピッチに立つと、周囲を触発する。


 ではスタメンのときは。「やるだけやもん!何も考えんと。自分のやること、チームのやること、を」。そうして全身全霊で敵にぶつかっていく。近大戦ではタックルもインパクトプレーも連発した。


 その山本の原動力となっているのは、〝期待〟だ。春からは学生コーチとして携わってきたが、次第にプレーヤーとしての復活を求められた。もとは断っていたが、「こんだけ求められるのも、人生無いからさ。やるからには、思いっきりやるし。使ってくれんでも、チームのためになるなら」。やがてレギュラーとしてリーグ戦を戦うことになるとは。


 その山本に、元チームメイトたちも声援を送る。小原組の面々は毎試合、姿を見せる。「応援きてくれるから。応援してくれる奴のためにも、さ。〝らしさ〟出したいやん」。期待に応えるために、ベテラン・インパクトプレーヤーはビッグタックルを見舞う。
 


『12』=CTB吉原太朗


 Aチームの22人のうち、緑川組はCTBに4人を揃えている。層の厚さ、スタメン争いの激しさを表している。そして近大戦で、リーグ開幕時には姿の無かった『第5の男』がついに登場した。CTB吉原太朗(人2)が初スタメンを飾ったのだ。


 試合前日、萩井HCはチームに「太朗にボール持たしたって。ボール持ったら、調子上がるから」と話した。春先からAチームに名を連ねるなど今シーズン、ブレイクしたCTBの勢いが注目された。


 だが、プレッシャーか緊張からか、動きは固かった。やがて彼にとって悪夢のようなスタートを切ってしまう。ファーストプレーでのタックルミス。完全に外されると、伸ばした手も届かず、ついには相手の先制トライにつながった。


 そこで気持ちを切り換えられれば、その後のプレーは変わっていたはず。けれども、これが若さか。自身のなかで頭を切り換える術はなかった。攻めても、序盤にノックオンを喫するなど、もはやドつぼにはまっていた。「全部、悪い方に。まったく切り換えられなかった」。


 いつもはムードメーカーとして明るく振舞う彼も、この日ばかりは表情に影を落した。10月24日は、苦いデビュー戦に終わった。


 たとえスタメン入りしても、謙虚な気持ちは変わらない。『第5の男』であると、自らが一番思っている。「つねに何か劣っていると思いながら。そこを補うために。タックルも強くしたいきたい」。


 デビュー戦で味わった悔しさをバネに、ここから吉原はさらなる成長を遂げるはずだ。

 

 それぞれのデビュー戦。彼らの存在は、チームにとって新しい追い風となる。


(記事/写真=朱紺番 坂口功将)