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「緑川組~MOVE~」

『闘いはここから始まる。』

投稿日時:2010/10/13(水) 21:47

 若いFW陣。今年のチームをひも解くなかで、それは外せないキーワードだ。10月10日の開幕戦でスタメンに選ばれたFW陣の面々を見れば、それは明確だった。今シーズン、朱紺の闘士に抜擢された若きLOが振り返るオープニングゲーム。
 



【緊張】
 開幕の4日前、藤原慎介(商2)は困惑と期待が混じる複雑な表情を浮かべていた。

 

 「まだ実感沸いてなくて。花園が初めてで、観客が多い大きい会場でやるのも初めて。のまれへんように


 そんな緊張するタイプやないんで、まだ。前日に緊張がすごくなるかも」


 いよいよ始まる関西大学リーグ。これから彼が幾度も立つであろう主戦場『聖地・花園』のピッチを、彼はまだ踏み入れたことがなかったのだ。加えて、藤原にとって2年生でむかえるリーグ開幕戦が、初の公式戦。着るのはもちろん朱紺のジャージ。本人の気持ちに覆いかぶさるようにプレッシャーの波は押し寄せてきていた。


 それは藤原だけの話ではない。初の公式戦、初の花園のピッチ、それらを初めて経験する選手は今年のレギュラーには数えるほどいる。とにかく『若い』のだ。


 そんなチーム状況を見た大崎監督は試合前日のミーティングでこう話した。


 「『固くなるな』と言っても固くなる。FWは新しいメンバーで、緊張すると思う。緊張をほぐすには、しゃべるとか、ビーバー(山本有輝=文4=)のように叫ぶとか」


 そして上級生、とりわけ公式戦経験者の役割は必然として大きくなる。WTB長野直樹(社4)は言う。


 「リーグの雰囲気自体が無知な選手が多い。知っている人間がどれだけ導けるか」


 むかえた緑川組の初陣。若き闘士はいかなる胸中でピッチに立ったのか。


【初陣】

 10月10日、近鉄花園ラグビー場。関西大学Aリーグが幕を開けた。近づく試合開始にむけ、選ばれし朱紺の闘士たちが戦闘態勢を整える。その顔ぶれは『花園経験組』と『花園初体験組』に分かれる。試合前、主将・緑川昌樹(商4)は「がむしゃらに楽しんでやれ!」とフレッシャーズに言ったという。そして藤原は周囲からこう言われて心が安らいだ。「グラウンドに立ってしまえば一緒やろ」。


 藤原の邂逅。「控え室が一番緊張した。入ったときに観客も多くてビックリして。試合前、緊張しました。でもグラウンド立ったら」。次第に落ち着きが顔をのぞかせてきた。だからこそ「はやくボール持って落ち着こうと。けっこう早めにボールもらえて、安心したんで。そのあとも何回かボール持って」


 藤原自身は平常心を取り戻していた。一方でチームは細かなミスから流れをつかめない。風下もあいまって、キックも上手くはまらない。そんな苦しい状況にも、スタンドからの歓声は飛ぶ。そのとき藤原は確かに耳にした。


 「走れッ!」


 誰が言ったかは分からない。けれどもそのゲキが聞こえたとき、藤原のスイッチは入った。走らなあかん


 ここ最近消極的なムードが続いた藤原だったが、先輩の「がんがんいけ」という喝に奮い立たされ、ゲーム中の声援に後押しされた。


 「積極的にいけた。いつもよりは体はれたかな。このゲームがバネになって、次につながるんじゃないかと」


 やがて勝利を収めた開幕戦を終え、プレッシャーをはねのける強さを手にした藤原がそこにはいた。


【抜擢】

 経験値をはじきだせば藤原はレギュラーのなかでも低い部類に入るだろう。高校はラグビー有名校ではない。「(関学で)やっていけるんかな」という不安もあった。しかしガタイの良さを買われ、2年目で抜擢された。関学の『5番・LO』に。


 緑川は期待もこめて(?)、藤原を茶化す。


 「関学の『5番』や言うたら、〝人間〟じゃない人がするポジションやで」


 ここ2年間で、そのポジションに座った面々を見れば言わずもがな。鵜川慎之介(経卒)、松川太郎(経卒)のビッグマンたち。そのラインナップに今シーズン、藤原慎介の名が新たに加わる。


(記事=朱紺番 坂口功将)