『WEB MAGAZINE 朱紺番』
NZ留学制度『続・体験記~だ円の国まで行って球!~』
投稿日時:2013/06/02(日) 18:00
■NZ留学制度『続・体験記~だ円の国まで行って球!~』
約2ヶ月におよんだニュージーランドへのラグビー留学。参加したHO浅井佑輝(商3)とCTB水野敏輝(人福3)にとって、非日常な出来事の連続だった。それこそ海外ならではの〝お約束〟で幕を開けたのだから。
2月某日。日本からのフライトを経て、やってきたはニュージーランドの主要都市・クライストチャーチ。空港に降り立った二人は、さっそく立ち往生した。
浅井「コーディネーターのDods(ドッズィ)がいるって聞いてたんですけど、いなくて。『おいおい』って二人で言いながら、いきなりさまよって」
水野「二人でとりあえず、キョロキョロして」
およそ15分後、顔も知らずに対面したDodsコーチと合流し、まず二人はそれぞれのホームステイ先へと訪れた。
浅井「家が大きくて…来年の夏には庭がプールが出来るとか。音楽一家なのか…たぶん、お母さんが歌手で。週末はホームパーティーを開くような、まさに海外の」
もちろん海外留学とあって、ラグビーのフィールドのみならず日常生活から、英語でのコミュニケーションが必須となる。さて、浅井の英語力はいかに。
浅井「『なんとかなる』って言われていて、ボディランゲージでいけるやろうと。…全然、ダメでした。なので、ほとんど部屋にこもってました」
同じく、水野も留学が決まってからの期間が短かったあまりに「急すぎて…ある程度は勉強したけど、日常生活で使えるくらい」で臨んだ。こちらのステイ先の家族は。
水野「お父さんが仕事で週1で帰ってくるくらいでほぼいなくて、19歳の息子もサッカーで奨学金で大学の寮に入ってて。お母さんと16歳の娘が家に。その二人がまたラグビーが好きで、ラグビーの話をむっちゃしてくれました」
聞くところによると、その娘の部屋がラグビー一色。地元のプロ・チームであるクルセイダースのファンということもあって、ポスターが幾つも飾られていたという。
水野「ジャスティン・ビーバー(世界的人気歌手)とかのイケメンのアイドルの隣に、普通にラグビー選手の写真が貼ってあったりして。あ、ジェームズ・オコナー(オーストラリア代表FB)のポスターも」
いかにも、年頃の女の子。イケメン好みなのがうかがえる。日本でいうならば、ジャニーズJrと一緒に…サッカー日本代表DF内田篤人のポスターが、といったところだろうか。それでも、ラグビーへの関心がここまで高いのは、ニュージーランドならでは。浅井もステイ先との会話を振り返る。
浅井「ウチじゃありえないくらい、ラグビーに興味持ってて。一番下の息子がラグビーしてて。練習どうなの?って。単語でしか返せず、会話は成り立ってなかったですけど(笑)」
いち家族レベルで、にじみ出てくるだ円球の文化。そう、ここはニュージーランド。世界の頂点に君臨する黒衣の戦士たちが本拠に構える王国。
二人はプライベートの時間は主に買い物に費やしていたと話すが、そこでもお国柄を体感したという。
水野「日本だったら『ゼビオ』とかに当たる大型のスポーツショップの内装が、全部オールブラックス。サッカーも有名だけど、どのコーナー行ってもラグビー一色で。街もトレーニングジャージやユニフォームとかラグビーの服を着て歩いている人が多かったです」
ちなみに、浅井も買い物を息抜きとしながら、ステイ先と練習場の間にあるピザ屋で、こんな交流が。
浅井「ピザ屋が美味しくて。計7、8回行ってて、レシートに『ユーキ』って名前が書いてあるくらいになってました」
海外留学ならではの国際交流を介したのはラグビーの場面でも。スキル面を学んだクライストチャーチボーイズハイスクールのトレーニングでは、韓国やアルゼンチン、フランスからのプレーヤーたちもいた。
ゲームに参加したオールドボーイズの方では、チームメイトは初対面、しかもまわりは外国人という状況。最初の自己紹介では、英語のイントネーションで名前を名乗りつつも、次から次へと握手してくる顔ぶれを覚えるのにあくせくした。
浅井「誰なん!って(笑)。まぁ、でも大丈夫でしたよ」
水野「いやいや。もーちゃん(浅井の愛称)、ハイスクールで練習してたときに、グラウンドにやってきた外国人見て『またフィットネスや!』って騒いで。大学のフィットネストレーナーが僕らについてたんですけど、その人が来たと。ただ、僕が見たら全然違う人やったんです(笑)」
二人が恐れおののくトレーナー。その背景にはハードなトレーニングメニューがある。これもまた、海外の水準を知れた絶好の機会であった。ただし、あまりのキツさに―
水野「日本では1時間半やけど、むこうは45分で組まれている。トレーナーが追い込んで…キツ過ぎて、吐きました。こう、酸素を吐き出すときに数値が上がるんですけど、『吐いて、吐いて~』と言われて、吐いた」
浅井「僕はスクワットをするたびに、片耳が聞こえなくなって。ポーっとね」
ともあれ、その対価として得られるものはとてつもなかった。浅井が話すに、日中ノースリーブを着て過ごしていた水野の上腕部は見るみるうちに大きくなっていたという。
水野「あれを続けていたら、ボディービルダーになりますよ(笑)」
そのハードさを標準レベルとして鍛え上げられた、現地のラガーマンたちの凄みも、グラウンドで実感することになる。
浅井「上半身はみんな強いです。ブレイクダウンとかの絡み方が強くて。僕より小さい選手でも腕力が半端なかったり」
ラグビースキルの面でも思い知らされた。ボールは両手で扱うように教わる日本と違い、オフロードパスなどは至って当たり前のもの。そして、ラグビーへの理解度が、体に染み付いているのだと。
水野「シーズンが始まってないこともあって、試合では自由な感じで。決まりごとは特になく…それでも連動している点が、みんなラグビーを理解しているのだと思いました」
ラグビー王国の裾野を体感できただけでも留学の価値は存分に感じられるが、二人はやはり世界最高峰を味わう機会を得た。南半球3カ国のクラブチームで行なわれる『スーパーラグビー』である。ニュージーランド、オーストラリア、南アフリカのそれぞれ5チームが戦うリーグ。最近ではジャパンの面々が初参戦したことで話題になった。
なかでも、前述のクルセーダースは優勝回数も多い強豪チーム。二人は留学期間中に、2試合を観戦した。
水野「スタジアムはほぼ満員。しかもチケット代も1000円ちょっとで。子どもは500円くらいだったんですけど、まわりがみんなデカくて、僕ら二人チャイルド料金で入場できたという(笑)。スタンドにはウェーブをやろうとする少年たちがいたりして、ラグビーでこんだけ盛り上がるって凄いなと」
浅井「ニュージーランド、やっぱりスーパーラグビーが面白い。観てて盛り上がるだけの要素がいっぱい。僕は元々全く興味がなくて…観てから、選手が履いてるスパイクが欲しくなったりして買ってしまいました」
ちなみに、スーパーラグビーのチーフスに所属するジャパンのマイケル・リーチ(東海大卒、現東芝)と交流する機会もあったとか。ハイスクールのトレーニングに参加していた日本人プレーヤーに誘われ、ニュージーランド内の日本人が集まる祭りに足を運んだのがきっかけだった。
水野「ラグビーの話はしなかったですね…。奥さんが話すに、家では静かみたいですよ。あ、アンガスのことは知ってました」
ひょんなことで出会いがあるから、面白いものである。ハイスクール出身で、偶然にも来訪したサントリーのSO小野晃征氏から直接アドバイスをもらえたことも、めぐり合わせであったに違いない。
―あらためて留学を振り返って
水野「終わってみれば、2ヶ月弱の期間もちょうどエエんかなって。はじめの1ヶ月は新しいことばかりで楽しめて。最後の3週間は、キツい事もあった。飛行機見ながら、もーちゃんとテンション上がってましたもん、『あれはオークランド行きかな~』なんて言って」
―また次の機会があれば行ってみたい?
浅井「僕は行きたいス!ラグビーやれるなら、やってみたい」
水野「観光でなら…(笑)。でも、機会があれば、何度でも挑戦したいですね!」
様々な出会いがあった。本場でしか味わえない空気が、そこにはあった。興奮も驚きも感動も、加えて苦い記憶も全部含めて。留学という機会で、一人のラガーマンとして貴重な体験をした。
それは聞けば聞くほど、ラグビーに携わる者なら、うらやましく感じられるもので満ちていた。■(記事=朱紺番 坂口功将<広報担当>)
参考:「心技体、極まる ~ニュージーランド留学体験記~」