『WEB MAGAZINE 朱紺番』
藤原慎介『2012年上半期 ~歩んできた道、歩む道』
投稿日時:2012/07/26(木) 02:24
「何とも言えない感覚になった。不思議な…」
春シーズン最後のゲーム、7月1日の同志社大戦。試合が終わりベンチ前に戻ると、藤原慎介(商4)は皆と抱き合った。そのときの感情は言葉で表そうにも、当の本人でさえ表現が見つからない様子。その答えはおそらく、この半年間を振り返れば見えてくる。
■藤原慎介『2012年上半期 ~歩んできた道、歩む道~』
同志社大戦を終え、数週間が経った7月某日。藤原は部室でビデオを見返していた。それは4月15日、京産大戦のもの。チームが始動してから、自分たちがやってきたことがしっかりと出せた開幕戦だった。そのときは。
「最後の試合と全然違う。いま見たら…走れてない。エエとは思ってたけど…」
苦笑いを浮かべる主将。しかし、それはチームがこの3ヶ月で確実に成長した証に他ならない。その確かなる実感が無ければ、このようにシーズン開幕戦を分析することも無かったはずだ。
2012年、藤原組は一貫したテーマのもと、スタートダッシュを切り、颯爽(さっそう)と春シーズンを駆け抜けた。それは〝充実〟と綴るにふさわしいものだった。
掲げたスタイルは『ディフェンス』ラグビー。守り続けて、ロースコアで試合を制する-その形を念頭に置き、普段の練習果ては試合に臨んできた。ディフェンスへの意識統一が早々から成されたことが、この上半期を充実したものにさせた要因の一つに挙げられるだろう。藤原は話す。
「ディフェンスは目に見えて成長が。C、Dチームが良くて。
単純に体張る意識…『オレがやる』という責任も、チームに浸透していた」
自分たちの目指すラグビーがはっきりしているからこそ、あとはそれを実践するのみ。そして、それが実現できていた。シーズン序盤からの被トライ数は、そのことを明確に表している。
加えて、ディフェンスと並行して、いやディフェンスの為にか、チームが励んできたことがある。フィットネスの向上、つまり『走る』ことだ。
上半期のなかでもとりわけ特筆すべきゲーム、「自信につながった」天理大戦は『走る』意識がノーサイドの瞬間まで保たれていた。振り返れば全く「走れていない」開幕戦も、チームが始動してからの3ヶ月間に走り込んできた成果は出ていた。
相手がどんな多彩な攻撃を繰り出そうとも、対処し防御すべく。はたまた相手が動けなくなったとしてもこちらは転じて攻撃を展開するべく。ディフェンスのための機動力とスタミナを養う。今年は1週間に休みを2日間設ける形を取っている。だが、休み多しと思う無かれ。朝練ではフィットネスに重きを置いたメニューを組んでいるのだ。
「練習は週休2日になったけど、火水金の朝練ではフィットネスをやってて。休み2日あって良かった。無かったら死んでます(笑)。
その分、毎回のフィットネスを頑張っているのもあるし。もう麻痺してます。苦しいメニュー組んでも、下の学年から『楽やな』って声も上がったり。それだけ文句言わずついてきてくれるのは、ありがたい。感謝したい」
藤原組の強みともいえる一枚岩の意識。信頼厚きマコーミックHCの存在もあるだろう。だが見逃せないのは、チームを牽引する立場である4回生たちが文字通り、部員たちを引っ張っていること。フィットネスの場面、主将は感心する。
「BKの4回生がとにかく速い! 悠太(春山=文4=)は意地でも下級生には負けんって。ノブ(松延=商4=)は文句言いながらも走ってますし(笑)。
4回生があれだけやってたら、ついてきてくれると。僕もLOで一番頑張らなと思います」
最高学年の男たちが全力で取り組む姿。それこそが一番のカンフル剤なのだ。走って、守る-「4回生が体張るのは当たり前」とは主将の言葉だが、上級生たちがその意志を強く持つ限り、チームの結束はそう簡単に揺らぐことはないはずだ。
「走って、走って、ディフェンスして、勝つ」(藤原)、それが今年の関学ラグビーのスタイル。その方向性は上半期、一貫していた。その結果が8勝1敗という数字である。
「僅差での勝ちも経験している。関東学院、同志社で。『こうやって勝つんや』ってイメージ像は出来た」
春シーズンとりわけ後半は6月10日の天理大戦を皮切りに、関東学院大戦、最後の同志社大戦と実力校とのカードが続いた。
天理大からの3年ぶりの勝利はチームにさらなる弾みと自信を生んだ。皮肉にも同時に慢心に蝕まれ、翌週の関関戦にて初黒星を喫することになったのだが。それでも、続く関東学院大戦ではタフなゲーム展開を制した。
「関大戦の負けを引きずらなかったことは大きいです。そこから関東学院に勝てたのはチームとしても自信にもなった」
この勝ちによって、失望感からの立て直しは成されたといえる。心折れることなく、チームは上半期のラストゲーム、同志社大戦に臨むことが出来た。
そうして、最後もやはり相手をロースコアの土俵に引き込んでの勝利を奪った。
「ディフェンスはやってきたことが出せた。BKもアタック力が上がっているし。FWでミスが増えて、セットプレーでプレッシャーかけられていたけど、そこをもっとしっかり固めていれば楽なゲーム展開になってた」
戦前から同志社大の攻撃力の高さは折込済みだっただけに、ロースコアの試合展開はすなわちタイトなゲームだったことを意味するが、試合後に萩井監督が話したように「いい形で締めくくれた」。
強敵を相手に自分たちのラグビーを実践出来たこと。加えて勝ちを重ねたことは、試合の度に主将が口にした台詞のとおり。「自信につながった」にこの上ない。
勝利に直結する、副将・安田尚矢(人福4)の言葉を借りるならば「勝つための根拠」=『藤原組のスタイル』は確立されつつある。そのなかで、これから必要なことは大きく2つ。一つは、この状況に決して慢心しないメンタリティーを持つこと。だが、それも杞憂だろう。この春で、一度屈辱を味わっている。
「1敗は余分やった。けど、1つ負けたことで得られるものも。それも含めて春シーズンを良かったと思えたら。あのときの負けがあったから、秋も頑張れたと思えたら良いと思います」
そして、もう一つは単純明快、さらなる成長の歩みを止めないことだ。武器である防御力の一方で、攻撃力を磨く必要がある。
「ディフェンスは1年通じてやっていきたい。ディフェンスは強みとして、アタック力の増加にもチャレンジをして。春シーズンはDF8:AT2の割合で練習をしてきたけど、アタックの量も増やして5:5くらいに」
今年の夏は-フィットネスの向上と並行して、取り組むことが多そうだ。はたまたU20日本代表組の戦列復帰もあり、チーム内の競争も激化することを考えれば、藤原組のパワーアップは想像するに難くない。
「U20組が帰ってくるのは良い刺激になると。最初の京産大戦くらいで、ほとんどいなかったですから。その空いたポジションを取ったる、という気持ちで成長した部員もいるし、一回あいつらが帰ってきたときに、成長しているという実感もあった。
(振り返って)この半年、例年より試合数少なかったと思うんスけど、あっというまでした。良い雰囲気で進んできた分、余計に。濃かったと思います」
言えるのは、この半年間でチームが描こうとする成長曲線が、合格点も反省点も踏まえたうえで、明確になったということ。それが〝充実〟と記すにふさわしい所以でもある。
シーズン最終戦で主将の胸中にあった「不思議な感覚」。その正体は、ひとまずは半年間を乗り切ったことへの安堵と、チームの進化に対する充足感だったのではなかろうか。
だとすれば、半年後には、その感覚をもう一度味わうことになる? いや、藤原組のもたらす栄光と歓喜がそれらを凌駕しているに違いない。■(記事=朱紺番 坂口功将)