「緑川組~MOVE~」
『激情。』第2回
投稿日時:2011/06/12(日) 23:42
●連載『緑川昌樹 激情』第二回
男にとってのラストイヤーが幕を開けた。それは順風満帆とは言いがたい航海の始まりでもあった。続いた苦悩の日々。そのなかで番記者の目に映った、主将の姿とは。
目指したのは頂点。むしろ、この男がその場所以外を欲するわけがない。
「やるからにはトップ目指さんとね!」
勝ちに飢えたラガーマン。彼を充たせるのは、勝利を重ねた先にある栄光のみだ。
だが、それは簡単に手に入るものではない。彼を取り巻く環境、チーム事情は大きく変わっていた。
前年度、LO小原正(社卒)率いる超重量級FWは関西リーグで猛威を振るい、チームに2年連続の戴冠をもたらした。もとより主力となっていた4年生たちがサイズアップを果たし、FWラグビーを展開。100キロ超の巨漢たちが繰り出すドライビングモールは、代名詞ともなった。
そこから状況は一変。2010年度。主力選手はごっそりと抜け、かつてのFW陣でレギュラーを張っていたHO緑川のみが残る形になった。FW陣の一新、またチーム全体を見渡してもサイズダウンは明らかであり、前年度のラグビーからの様変わりは必然であった。
「去年ほど体デカくないし…。去年と同じことをしても勝たれへん思った。いまのメンバーを考えて、チームに合ってるラグビーが〝走り勝つ〟。デカくすることも大事やけど、走り勝つことを」
緑川組が打ち出したスタイルは、人もボールも動く―『MOVE』だった。
Kosuke Sakaguchi
【ジレンマに陥った初陣】
4月18日の京産大戦。主将として臨む初陣。「いままでやってきたことが出るかなと。楽しみ」と意気込んでシーズン開幕をむかえた。チームとして、ランニングスキル磨くなど『MOVE』ラグビーを実践するための練習を重ねてきた。いざ、緑川組のラグビーを見せん―。
だが、その初陣では一種のジレンマに陥ってしまう。理想は頭にありながらも、実現するのは全く別のもの。前半、フィフティーンが繰り出した、いや繰り出してしまったのは1年前の関学ラグビー。敵に真正面からぶつかっていっても、いまだ通用する感覚が体には残っていたから。ゲーム感を2010年度版に更新できず、また一新されたばかりのFW陣のミスもあいまって、前半はリードを許した。ハーフタイムでの軌道修正から後半は相手を圧倒、勝利を収めたが緑川組の初陣はどこかほろ苦いものに終わった。
露呈したFW陣の完成度の低さ、それは想定内。主将はにらんでいた。「伸びしろ…しかないっスね!」。一から作り上げることに、心をはずませているかのようであった。
船出としては、100点満点の出来ではない。しかし白星発進を飾ったことは男に安堵をもたらしたか。試合も終わり、グラウンドにもわずかの部員が残るのみとなったとき、緑川は声をあげた。
「あぁー、良かった!」
それは単純かつ純粋な思いを解き放った、咆哮(ほうこう)であった。
Kosuke Sakaguchi
【たたきあげたFW陣】
伸びしろがある。そう期待するからこそ、チームはFW陣をたたきあげた。練習試合のあとでも、スクラムマシーンに突進を繰り返した。他大学との合同練習でもパートごとに分かれ、そこでは相手スクラムとがっぷり組み合った。5月1日の同志社大との合同練習。ときに手応えを感じさせた濃密な時間ののちに、主将は話した。
「負ける気は無かったけど、押されてたかな…。全然出来てないし、それでも、やってない言い訳はしたくないし」
言葉の節々に負けん気の強さを感じさせながらも、現状に目を向ける。つまりは修練を積み重ねるしか、レベルアップの道は無いということ。春から夏にかけてFW陣にとっては、地道に歩みを進める時間となった。結果として、チームの屋台骨に成長を遂げるのは、まだ先の話である。
Kosuke Sakaguchi
【次第に影を落とすようになっていく】
課題と向き合いながらも春シーズンは白星で始まった。次の摂南大戦も主将自ら2トライをあげて勝利を飾る。しかし、続く天理大との練習試合では完敗に終わる結果に。それは、関西勢に実に2年ぶりに喫した黒星であった。
「負けた次の週の試合が大事。次の試合でどうするか」
そうチームに喝を入れた。だが、緑川組はここから荒波に飲み込まれていく。
翌週5月16日の近鉄ライナーズ(サテライト)に0-90の大差完封負けを喫すると、そこから続いた関東勢に連敗。
「失敗やなくて、経験に変えていきたい」
敗北が続くなかで、緑川は語気を強めたが、報われない日々が現実となって降りかかる。
迎えた6月5日、立命大戦。相手は関西大学リーグ開幕戦の相手。それだけに意識は高まり、「圧倒して勝てるように」と息巻いていた。
だが、結果は22-42。先制しながらも、ひとたび返されるとあっけなく失点を重ねた。やがて5連敗。そして試合後、主将は辛く重い台詞をチームへ告げることになる。
「オレらは、強くない」―。
(続く)
Kosuke Sakaguchi