『WEB MAGAZINE 朱紺番』
森直哉/古城宙『チャンスを、掴め』
投稿日時:2013/05/03(金) 16:48
■森直哉/古城宙『チャンスを、掴め』
<左>=古城宙/<右>=森直哉
どれだけ意識してないように振る舞っても、にじみ出ていたのだろう。PR森直哉(文3)は試合前の様子を振り返る。
「昨日の夜から緊張していて。ロッカールームに着いて、緊張していないようにしてたんですけど、まわりから『しすぎや』って。そう言われて、気が楽になりました」
4月28日に花園ラグビー場で行われた第7回 関西ラグビーまつり。そのメインカードとして、関学は慶應大と対戦した。
そのビックゲームで、森はAチームのリザーブに選出された。自身にとって、初めてのトップチーム入り。だが、緊張感があらゆる感情を上回っていた。
同じくして、リザーブとして慶應大戦に臨んだのはLO古城宙(社3)。こちらはAチームとして2試合目。デビュー戦は1週間前の関関戦(4月21日。29-20で勝利)だった。そのときの出場時間は、わずか10分間。
慶應大戦で、森、古城の2人は後半からの出場が命じられた。「もうちょい後からと思ったんですけどね。森君と一緒に『よし、いったろう』と。緊張は…(笑)。良い感じで入れました」
前半の40分を終え、14-12の接戦。タイトなゲーム展開が予想されるなか、2人の出番がやってきた。
互いに、緊張はあった。森にとっては初めてのAチームでの出場、古城にとっては40分間という出場機会。だが、それもプレーのなかで次第に解けていった。鍵となったのは、自身が念頭におくタックル。森は一発目のタックルこそ、「飛んじゃいましたね」と返り討ちを喰らったが、前に出る姿勢は崩さず。まさに“アタックル”を実践し、本来の調子を取り戻した。「頭から体を当てに。僕が前で止めるつもりで。最初はフワフワしてたけど、タックル入れたところもあったので」
古城も同様に強みのタックルをぶち当てていく。Aチームの試合はまだ2試合目。「テンポも違うし、パワーも」と話すが、臆することなく体を当てていき、「落ち着いてみたら、上のチームも怖くなくなっていた」と度胸を見せた。
やがてゲームは取りつ取られつのシーソーゲームに。PGで点差を広げるも、2本のトライを許し、5点差をつけられる。試合時間も残すところ10分を切っていた。後半34分、関学にとって最後のワンチャンスが訪れる。敵陣深く、相手のペナルティでボールを獲得すると丁寧にボールを前に運んでいく。粘り強く攻める朱紺のジャージに対して、相手も前進を許すまいと必死に絡んでくる。ブレイクダウン、すなわち、ボール争奪局面が繰り広げられる。この場面、主将・畑中啓吾(商4)は話す。「ゴールまで、すぐのところ。けれど、取られていたら、おそらくトライまで一気につなげられていたと思います」。それほどまでのギリギリのアタックであったのだ。それでも、ボールを奪われなかったのは、チームが始動してから取り組んできた練習の賜物だろう。
そうして相手ゴールラインを目前にして、真っ先にポイントへ集まるFW陣のなかで、FL丸山充(社4)がコールした。出されたサインは、古城へのもの。
「オレか!って」と古城。粘り強く突き進んだ果てに、目の前のスペースが空いた。視界に広がるはインゴール。あとは、飛び込むだけだった。「そこだけを見ていました」。値千金の同点弾、それは彼にとって朱紺のジャージを着て決めた初のトライであった。
同点トライを挙げた瞬間、古城は泣きそうになったといいう。けれども、試合時間は残っていた。主将がコンバージョンキックを成功させ、逆転。最後はWTB金尚浩(総3)が決定打となるトライを挙げ、慶應大に勝利した。「無事に終わって良かったです」と古城は安堵の表情を見せた。
一方で、森はノーサイドの瞬間をむかえ、涙していた。「ゲーム終わった瞬間、泣いちゃいました。嬉しかった。勝てた嬉しさが」。彼のデビュー戦は、タフで劇的な展開で幕を閉じた。
春のオープン戦、それもビックゲームにおいてAチーム入りを果たし、出場機会を得られたことは、彼らにとって大きな意味合いを持つ。
レギュラーたちの怪我や代表への選出といった事情を背景に、古城にはチャンスが巡ってきている。「みんな応援してくれているんで。今年が勝負と思っている」と意気込む。彼にとってのモチベーションの一つに、出身校のアピールがあるという。県立芦屋高校出身の古城。「公立校なんで…それでもやれるということを見せつけてやりたい。テレビで名前の下に『県立芦屋』って出たいですね」
森は、努力が実を結んだ形だ。「自分は誰よりも下手くそなんで。その気持ちでやってきて、人一倍練習してきた」。彼は大学進学にあたって浪人を経験している。関西制覇を遂げたときの関学ラグビー部をテレビで見て、強い憧れを持った。あえて1年間を勉学に費やし、関学へ入学、入部に至った苦労人である。そうして、このたび憧れのジャージの袖に腕を通した。今後にむけて「体づくりを人一倍、頑張ります」と力強く述べる。
100人を超す大所帯の関学ラグビー部。チームとしての戦いはもちろん、その水面下で広げられるトップチームの座を巡っての競争は、毎年のことながら激しい。レギュラーへの道のりは部員それぞれで異なる。しかし、チャンスはどこで巡ってくるか分からないのも事実だ。そして、それをものにしてきた選手たちの姿もある。
昨年の藤原組の主将は、公立校出身ながら、どのポジションでも戦いうるプレーセンスを見出され、やがてはレギュラーを掴んだ。いま1列目に君臨するHO浅井佑輝(商3)も好例だろう。彼も、それまではジュニアチームにいたが、怪我人で空いたポジションを埋めるために昨年末の大学選手権でトップチームに抜擢され、今日現在に至る。
慶應大戦に出場した2人にとっても、絶好のアピール機会を得たとともに、同時にそれは競争の渦中にいることを意味する。
朱紺のジャージを着てプレーした経験を糧にして。今こそ、チャンスを掴み取るときだ。■(記事=朱紺番 坂口功将<広報担当>)